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貴方と共有する蒼い時間とローズ・ピンク
キャメロット杯選抜試合が2週間後に迫っていた。 学園内の空気が変わる。 痛いほどの緊張感の中に彼らはいた。 しかし、2週間前といっても早朝マラソンには変わりが無く、 今日もまだ薄暗い中、苦痛とも言える早朝マラソンが始まる。 イギリスに固執するプラタリッサは、自分でも抑えきれないほどの感情の高ぶりが感じられた。 今年はなんとしても行かなければ・・・・。 そんな強迫観念のような意識は、常に彼女を支配していた。 土が剥き出しの道を、彼女は走る。 ある程度馴らされてるとはいえ、多少の窪みが無数にある茶色の小道を。 きっと、今いるプロゴルファーのうちの何人かが、この道を走っていたに違いない。 そんなことを考えていると。 「あッ・・・・!」 右足首に鈍い痛みを感じた。どうやら少しひねったらしい。 しかし、そんなにひどくもないので、彼女は少し歩いて様子を見てから また走り出した。 「いまは、ケガなんかしてる時じゃないのよ・・・・!」 無我夢中のプラタリッサは、自分の足首のわずかな腫れに気がつかなった。 午後になって、初等部のメンバーは退屈な授業から開放された。 特にガウェインやライザーは、退屈を通り越して苦痛だったに違いない。 キャメロット学院は単なるゴルフクラブではなく、小学校も兼ねている。 ただ単に、毎日ゴルフだけやっていればいい、という訳ではない。 その授業が終わり、彼らはやっとゴルフが出来る。 ガウェイン達は嬉しそうに外に飛び出していった。 「・・・足首が、ちょっと痛いわ・・・」 プラタリッサは朝のミスを思い出した。 しかし、選抜試合まであと2週間。1日も無駄にしたくはない。 彼女は何でもないふうをよそおり、ゆっくりと外に出た。 いつもは何でもないはずのゴルフバッグが、やけに重い。 暑くも無いのに汗がにじむ。 「・・・今日はパターの練習だけにしようかしら・・・ドライバーは、打てないわ・・・」 しかし、ホールまで、かなりの距離があり、さらにグリーンまでは 400メートル近くある。 意気消沈しかけた時、 「おい」 という低い声が聞こえた。 「王煉・・・・どうしたのよ。何か用?」 彼女を呼び止めたのは王煉だった。 「今日は休んだほうがいいんじゃないのか」 ドキリとした。 誰にも気付かれていないと思ったのに。 プラタリッサは彼から目を離した。目を合わせたら、すべて悟られてしまいそうだったから。 「何の事?」 「右足を庇っている」 「・・・・あなたには関係ないことよ」 突っ張ると、王煉は溜息をついた。 そして、彼女の隣を通り過ぎざま、プラタリッサのゴルフバッグを ひょいと取り上げた。 「なにするの?!返しなさい!」 ビックリして、つい声を荒げてしまったが、確実に足への負担は減った。 汗も引いていくのがわかる。 でも、彼女は練習を止める訳にはいかなかったのだ。 イギリスが目前に迫ってきているのだから。 「これ以上、やめろと言っても聞かんだろう」 彼はバッグを運んでくれるというのだ。 それは、単に善意からなのだろうか。それとも・・・・。 プラタリッサは顔が赤くなるのがわかった。 それとも・・・・? 「恩を売る気?私は頼んでないわ。感謝なんて、しないわよ」 赤い顔を悟られたくなくて、わざと怒ったような表情で彼女は、 ゆっくり歩いてくれている王煉の隣を歩いた。 「あのグリーンで練習する気だったんだろう」 「ちょっと、人の話を聞きなさい。私は・・・・」 「・・・このくらい、させてくれ。ケガ人をほっとくのは、目覚めが悪い」 その返答に少々力が抜けた。 しかし、彼らしい答えにふと笑いがこみあげた。 「そんなことしても、何の得も無いわよ」 「かまわん。何も期待していない」 自分より少し背が高い、年下の王煉を見て、 プラタリッサは一瞬でもイギリスを忘れた自分に驚いた。 落ち着いた彼は、焦っている自分の冷却剤のようだとプラタリッサは思った。 だが。 王煉の黄味がかった肌の腕が、彼女の、白く細い腕にあたるたびに体が熱くなる。 ・・・冷却剤じゃ、ないみたい・・・・ 長袖を着てこなくてよかったと思っている自分を戒めながら、 長いが短く感じられるグリーンまでの距離が恨めしく感じられた。 選抜試合まで、あと、2週間。 でも、今はこの時間を楽しみたいプラタリッサだった。 Fin
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