アクセス解析
渋谷・時空探求

第四話 プロレスの殿堂・リキパレス(1)〜渋谷の丘の殿堂〜



<力道山の夢の跡>
リキパレス跡地
渋谷駅南口を西側に出て、東急プラザ右の飲食街を抜ける。
急な坂を上りながら突きあたりを左、右と進むと、やがて右手に鮮やかな黒一色のビルが見えてくる。
ヒューマックス渋谷という、IT関連の企業などが入ったビジネスビルである。
(右写真手前のビル)

往時を偲ぶものは何も残っていないが、かつてこの場所には地上9階、地下1階、建坪二千坪の巨大なスポーツ娯楽施設が存在した。
「リキ・スポーツパレス」略称「リキパレス」と呼ばれたこの建物は、
天皇の次に有名な男と呼ばれた力道山が築いた「プロレスの殿堂」である。

昭和36年に当時の金額で約15億円をかけて建てられたこのビルは、
1階がボウリング場とスナックバー、
2階はスチームバス、レストラン、喫茶店、ボクシングとレスリングのジム。
そして3階から5階は収容人員三千人の円形プロレス常設会場。
同じ3階にはプロレスのオフィス、4階には社長室とボディービル・ジム。
6階、7階は女性向けのチャーム・スクール(花嫁学校)、
8階は女性向けのボディービル・ジム。
ドーム型の屋根の上には、燦然と輝く王冠のモニュメント。
平成の現在から見ても相当大きな規模であり、当時は渋谷の名物として、その威容を誇っていた。
リキパレス跡へ至る道
駅からリキパレスに至る道のりには立ち飲み屋が軒を連ね、そこで一杯やってから会場入りするファンも多かった。
右はその界隈の現在であるが、立ち飲み屋こそ無いものの相変わらず飲食店で賑わっている。
奥にうっすらと見える大きなビルがヒューマックスビル。かつてはちょうど同じ位置にリキパレスが建っていた。

リキパレスの切符売り場や入り口は、駅を背にした左側にあった。一番上に挙げた写真の、坂に面した中央あたりである。
料金は「プロレスは庶民の楽しみ」という力道山の考え方を反映し、安価に設定されていた。

3階から5階に吹き抜けで作られたホールは円形のすり鉢型。
3階中央に据えられたリングを同フロア、さらにその上の二層のフロアから見下ろすというスタイルになっていた。
これは力道山が修行時代にハワイで戦った、ホノルルのシビック・オーディトリアムを模したものである。

あらゆる箇所に力道山の思いが込められたこの施設は、彼の念願であったプロレスの常設会場という夢を実現させたものである。
しかし、ここに至るまでの道のりは、決して順風満帆なものではなかった。

<少年時代>

力道山は大正13年(別の有力な説では11年)、朝鮮半島の威鏡南道、洪原群の生まれである。半島東側のほぼ付け根にあたる位置で、現在は北朝鮮の領内になっている。
生まれたときの名は金信洛(キム・シンラク)。三男三女の末っ子であった。
父親はもと風水師であったが、病に倒れてしまう。一家の暮らしは母親や兄姉が農業に従事して支えていた。
一番下の信洛少年は家で父の面倒を看る役割で、儒教の伝統が色濃く残る朝鮮の農家で、親兄弟に従順な子として育つ。

昭和13年、14歳の時、地元のシルム(韓国相撲)大会に出場、三位に入賞する。
このとき少年に目をとめたのが、見物していた長崎の実業家、百田已之吉と、同じ長崎出身の朝鮮駐在の警察官、小方寅一であった。

明治43年(1910)の韓国併合以来、日本列島は内地、朝鮮半島は外地と位置付けられ、人や物の往来が盛んになった。
百田と小方は大相撲の二所ノ関部屋と親交があったので、信洛少年の素質を見込むと、内地に来て一旗上げてはどうかと少年や家族の説得にあたる。
実際当時の相撲界には朝鮮や台湾出身の力士も何人かいたのである。

その頃の朝鮮には反日感情もある一方で、豊かな内地に憧れを抱く人々も大勢いた。十代の信洛少年もその一人であった。
海を渡って一旗あげたいと熱望するが、父の面倒を誰が看るのかと家族の反対を受け、一度はあきらめる。
しかしその後父が亡くなる。信洛はそれでも反対する家族を押し切り、逃げるように故郷を飛び出した。昭和15年、16歳の時である。

この間、息子を引き止めるために、母は近所の年頃の娘と信洛とを結婚させている。嫁をもらえば日本へ行く気もなくなるだろうという考えがあったようだ。それでも、信洛の意思は固かった。

釜山から連絡船で下関へ渡り、一路東京へ。
その年の2月に二所ノ関部屋に入門を果たした。

右の写真は現在の二所ノ関部屋。右手の大きな白いビルである。当時と同じ住所にあるのかは不明。

5月に初土俵を踏む。
部屋の稽古場に掲げられていた後援会名誉会長近衛文麿揮毫の
「力心一道」の額からとって、「力道山」の四股名がつけられた。
玄界灘を越え、大望を抱いての力士生活のスタートである。



〔前後のページ:プロレスの殿堂・リキパレス|1||〕

〔ホームへ〕