中心市街地すまい研究会(日本本建築学会東海支部都市計画委員会 住宅部会)
同窓会企画 東海地域のすまい・まちづくり交流会 [2002. 3.2]
 「中心市街地の活性化を居住の視点から考える」をテーマに平成11年度にスタートした本会の活動も、今年度末で3年を経過する。この間、東海エリアの11もの地域の方と意見交換をし、見学会を開催してきた。またこれを契機に、田原町で空民家を活用した施策実験「まちかど交流サロン」を実施した他、様々な地域で住民主体のすまい・まちづくり活動が展開されてきている。
 そこで今回、3年目の区切りとして、各地域の方に交流と意見交換を呼びかけた。
参加者:
○発表地区
【田原町】 【犬山市】 【豊田市】 【津島市】 【碧南市】 【多治見市】 【常滑市】 【西尾市】 【岡崎市】
○その他
13名


1.地域からの報告
(1) 田原町
 市街地の空き民家を利用して「来る間座」という交流サロンを開くとともに、サロンでの出来事などを掲載した機関誌『来る間座』を発行している。2001年12月までに18号まで発行。下段に地域の店舗の広告を載せているが、当初、一枠5000円だったものが、18号では枠が倍近くになり、広告料は3000円と大幅値下げをせざるを得なくなっている。家賃を払い続けるのも大変で、大家さんと交渉し、月3万円だったものを1万円にしてもらった。最近は、町役場の主力メンバーが多忙のため、あまり活動に関わることができず、パワー不足である。しかし、4月になれば少し余裕ができるはずなので、また活動も活発になると思う。
 一方、中心市街地の行政施策としては、市街地再開発がいよいよ年内にも着工の見込みである。また、渥美病院跡地では、特公賃とシルバーハウジングを一体的に建設する「福祉の里」整備事業が着工されている。さらに、隣接する職員住宅を若年世帯向け低家賃住宅として募集したところ、12戸の募集戸数に対して30件の応募と好評だった。また、循環バスを運行するなど、様々な施策がまさに進行中である。
(2) 犬山市
 平成12年度に中心市街地活性化基本計画「城下町新生計画」を策定した。「歩いて暮らせるまち・歩いて巡るまち」というビジョンを掲げ、都市計画道路の拡幅計画もやめるという方針を打ち出した。その代わりに、伝統的建造物群保存地区の指定をめざし、町並みを守っていくことに力を入れる。
 最近、街が変わってきたと感じている。空店舗にもすでに6軒が入店した。もとからあった店舗でも店の改装を行うところもあり、意識が変わってきたようだ。『広報いぬやま』最新号(2002/2月号)では、『まちの元気人にインタビュー』として、こうした人々を取り上げているが、これを読んでもらっても街の変化が伝わるのではないか。
 また現在、商工会議所が中心になり、TMO設立に向けての検討を行っている。明日(3/3)、「第2回TMO市民フォーラム」を開催するとともに、市民グループもミニFM局まちなか活性実験やスタンプラリーなどのイベントを計画している。
(3) 豊田市
 中心市街地活性化基本計画を2000年3月に策定した。しかしその後、9月に「そごう」が閉館。現在は、地権者である豊田市が、第3セクターに48億円を貸付け、それを原資に第3セクターが床を買い、昨年10月には松坂屋豊田店としてオープンした。しかし、5月位にサティが閉鎖するという話があり、状況は非常に厳しい。こちらの床は日本生命が所有している。
 こうした動きをにらみつつ、基本計画に基づき、新たな交流核として、2カ所の再開発事業を進めている。このうち南地区は、トヨタ自動車が準組合員として入り、社会貢献活動の一環としてアミューズメント施設をテナントとして出店する予定である。万博に合わせるため、6月を目途に事業計画をまとめ、秋には事業認可の上、平成16年工事着工をめざしている。建物は、4階建の商業棟に20階建ての業務・住宅棟を予定している。一方、北地区はまだ様子見の状況である。
 その他、中心市街地において色々な施策を掲げているが、なかなか進捗していない。住宅の共同化も、色々な手法を駆使しつつ進めていきたいと考えている。
(4) 津島市
 平成13年3月に中心市街地活性化基本計画を策定した。これに基づき、商工会議所では、活性化事業推進協議会を立ち上げ、市民活動実態調査や空き店舗調査等を内容とするまちづくり推進調査事業を行っている。
 また、津島市では、「歴史を活かしたまちづくり整備計画」を策定し、中心市街地の古い町並みを貫く幹線道路名古屋津島線の整備手法を検討している。
 市民によるまちづくり組織「天王文化塾」は、2年目の活動に入っている。月1回、歴史文化講座を開催するとともに、県の補助をもらって天王子ども塾を開催し、町並み探検や郷土料理体験、古井戸の飾り付けなどを行った。また、歴史と食文化を味わう事業として、ごず茶会や「食べリンピック」。秋のウォーキング「信長ゆめ街道膝栗毛」を開催した他、10月には津島の町並みを考える会が発足し、歴史的な街道に残る町家を活かす方策を考える活動もはじまった。
 しかし、活動メンバーは限られおり、これ以上なかなか活動内容が発展しない。現在はまだ助走期間「ホップ」の段階と考えており、これから「ステップ」「ジャンプ」とつないでいきたいと思っている。
(5) 碧南市
 ここ10年以上、愛知建築士会碧南支部として、大浜地区のまちづくりに関わってきた。大浜地区では「歩いて暮らせる街づくり推進委員会」がつくられ、これまでに、常滑の大野地区の見学や、市が主催するまちなみウォーキングの協力などを行ってきた。3部会で構成されており、寺町部会では路地が多く建て替えも困難な街区の整備モデル検討を進めている。
 しかし市のメンバーが4月で交代し、その度に1から勉強し直しという状況が続いており、なかなか前に進まない。
(6) 多治見市
 中心市街地活性化基本計画は平成11年3月に策定されており、全国で80番目だった。計画内容は大きくハード整備とソフト整備に分かれる。
 ハード整備としては、国の補助を活用し、市道のバリアフリー化、電線の地中化、土岐川の整備を進めている。またその他、県による県道改修や駐車場整備、第3セクターのまちづくり会社「華柳」の設立、地域振興整備公団によるたじみ創造館の整備が行われている。
 また、ソフト整備としては、オリベストリート構想、平成13年12月の株式会社によるTMOの設立、陶器まつりを始めとする各種のイベントを中心市街地活性化に結びつくように再検討、ビジネスインキュベーターの設置、空き店舗対策の各種融資・補助事業等を行っている。
 活性化に向けた新たな課題としては、市街地再開発事業の検討やまちなかへの公営住宅整備(借上含む)、税制面の取り組み、市やNPOによる空き店舗を活用した宅老所等の運営、土岐川の利用などをあげている。今後は、市が政策コーディネーターとしての役割を果たしていく必要があると考えている。また、今後事業を進めていく上では、行政と地権者の間に入るコーディネーターの重要性を感じている。
(7) 常滑市
 やきもの散歩道は、年々来訪者が増えてきており、年間 30万人程度は来ているのではないか。これに伴い、最近は、観光客相手の店が増えてきた。今後、観光客や店舗、住民との間のトラブルが懸念され、これを未然に防ぐため、「まちづくり協定」の作成を進めている。
 中心市街地活性化基本計画は昨年8月に策定され、9月には中心市街地活性化協議会が発足し、商業部会、TMO研究部会、散歩道部会の各部会で事業内容の検討を進めている。特にやきもの散歩道周辺については、空き家・空き工場の活用が緊急の課題となっている。また市では、平成14年度にやきもの散歩道の景観を構成する煙突ややきもの廃材を利用した道・擁壁などに景観構成要素に関する調査を行う予定である。
 やきもの散歩道は、小高い丘陵地にあり、高齢化が急速に進んでいる。しかし観光客と挨拶を交わしたり、道案内をしたりすることは、一人暮らしの高齢者等にとってはけっこう嬉しいもののようで、それがきっかけで絵手紙のやりとりに発展したという話も聞いた。
 今後、来場者がますます増えれば色々な問題もでてくるだろう。特に駐車場不足の問題は深刻である。一方で先日まで駐車場だったところに建物が建つなど、最近めきめき土地利用が変化しつつある。
(8) 西尾市
 中心市街地活性化基本計画は策定されているが、あまり重視されていない。むしろ、市民活動を重視しようという雰囲気がある。商工会議所の会頭がまちづくりに関わっていた人なので理解があり、中心市街地活性化に前向きである。
 商工会議所が昨年9月から、本町通の空き店舗・旧大黒屋ノワールを活用して、「ほんちゃん工房」を開設している。喫茶室があり、ギャラリーとして、また紙ひも細工や味噌づくりなどの体験教室、会合の場として利用されている。
 また、旧井桁屋は大学生が代表となって「旧井桁屋を考える会」が組織され、清掃ボランティアに始まり、見学会やコンサート、ギャラリーとして利用されている。また、旧井桁屋の所有者である吉見家の旧宅も近くにあり、こちらは高校生が代表となって「吉見家を活用する会」が組織され、約1ヶ月の清掃活動の後、植木屋さん、電気屋さん、水道屋さん等の手で整備が行われ、ギャラリーやセミナーの場として利用されている。最近、中京女子大の谷岡学長から、大学の分校として使用したいという話があった。
(9) 岡崎市
 岡崎の中心市街地は、昭和40〜50年代に先駆的に再開発事業が進められたが、最近はジャスコとダイエーが閉鎖するなど、地盤沈下が進んでいる。また、税務署や郵便局が移転した跡地が中心部にあるが、市長の交代もあり、現在、再検討中である。
 商工会議所が中心となって「未来城下町連合」という組織がつくられ、中心市街地の姿について議論しているが、まだ将来の姿が描けていない。
 住宅マスタープランのまとめ中であるが、基本理念として「協働・共生の住まいづくり」を掲げ、市民協働・環境共生をめざしている。また、住宅マスタープランの次は、土地利用の整序を目的とするまちづくり条例の制定をめざしている。これから、市民参加の仕組みづくり、土地利用の方向性、環境問題などについて考えていきたいと思っている。


2.全体交流・意見交換
【中心市街地】
中心市街地は楽しい。犬山市や碧南市で取り組んでいるように、「歩いて暮らせる」ことを目指すとよいのではないか。
いきつくところはコミュニティだと思う。現在「防災」を担当しているが、中心市街地を考えた時、相互扶助が最も大切であると感じる。
幸田町では、中心市街地活性化基本計画に基づき、駅前1.2haの先行事業に向けて地権者同意のヒアリングをし共同化ビル建設の調整をしている。行政としては、駅のホームから出て目視できる範囲だけは、なんとか整備したいという姿勢である。以下、私見ではあるが、町全体としては新駅の誘致や企業誘致など、他に優先すべきことも多く、十分に力と予算を割ける状況ではない。駅前活性化のためには"荒療治"が必要であるが、実行のためには町の年間予算以上が必要になる。今のままでは店舗もどんどんなくなるので、もっとなくなって広い土地が空いた時に何か大きいものをつくるといいのではないか。

【市民参加】
市民がまちづくりにどのように関わるかということが重要であるが、その姿が見えないのに「市民参加」と言っても効果がない。バリアフリーを考える時も、障害者と一緒に考えることが重要である。
市民の関わり方が重要である。ワークショップへの参加も、積極的なところとそうでないところがある。
「市民」という実体はなく、安易に「市民参加」というべきではない。個人が、行政と同等に権限と責任を持つということはない。個別具体的な市民参加しかないのではないか。
建築士会では、会員が地域のために活動することを目的とし、助成事業を行っている(地域貢献活動基金助成事業)。中心市街地においても、建築士会の会員をうまく利用してもらえるといい。

【TMO】
多治見市からコーディネーターの重要性の話があったが、イギリスのTCM(Town Center Manegement)が参考になる。TMOがコーディネート役を果たせるといい。
既存の商店街ではこれ以上やっていけないという時に、「まちづくり」を権限と責任を持って進めていける組織がTMOであると思う。とりまとめ役が期待されている。
日本でもTMOがたくさんつくられているが、何をするのかが見えない。何を目的に、どういう事業をやるのかということが見えてこない。今の状態では、これまでの商店街組織が看板を掛け替えただけという印象だ。どこも同じような状況である。
田原町でも再開発ビルの管理を中心業務に、TMOを設立した。資本金は1億円で町が1/2を出資している。TMOに対する補助要件は非常に有利である。再開発ビルは、1・2階がテナントビルで、3階は健康増進施設、いわゆるスポーツセンターを予定している。1日500〜600人の利用を想定しており、TMOが経営主体となってほしいと考えている。
半田市のTMOでは、西武百貨店での勤務経験がある市野さんという人が中心的な活動メンバーに入っているが、いい人材を起用していると思う。
常滑市でもTMOについて議論を行っている。やきもの散歩道では、駐車場の整備や空き工場の活用などが課題であるが、それらの管理・運営をTMOでできないかと考えている。散歩道の保存・活用を組織としてできるといい。また、駅ビル株式会社を定款変更してTMOで運営することも検討している。中心市街地の中に公共施設が4つあり、現在は管理協会に委託して管理しているが、TMOが一括管理できるとよい。
TMOの役割について、どこもあまり理解していないのではないか。役割もわからずにつくるだけつくり、後で何をするかを考えるというのはおかしい。TMOの役割が、商業活性化ではないという割切りは、正しいと思う。市民が自主的に活動しているところは元気な印象がある。中心市街地の衰退は中心市街地だけの問題ではなく、都市トータルで考える視点が重要。犬山市は、市民が一本化していない印象がある。豊田市も再開発ビルを補完する施策を考える必要があるのではないか。

【住宅】
多治見市では郊外に「ホワイトタウン」という住宅団地があり、8000人が住んでいる。ここが一斉に高齢化するのではないかと心配されている。現在、郊外と中心をいかにつなぐかを検討中である。住宅マスタープランに基づき、昨年5月頃から住まい・まちづくり研究会を開催している。また1月からは、事業者向けセミナーを月1回開催している。
多治見市の住まい・まちづくり研究会に参加しているが、毎回「苦しい」会議である。参加者は知識は多いが噛み合っておらず、先行きが見えない状況である。多治見市でも愛知県でつくっている「知って良かった−住まいの知識」のような住まいに関する手引き書をつくろうとしている。
多摩ニュータウンでも、人口が増加している時は年に5つも6つも学校を新築していたのが、今は廃校になるところがあるという。20年もたたないうちに子供がいなくなっており、建物の使い途がない。管理の問題も発生してくる。

【戦後の豊橋の人口構造と都市発展】(三宅先生)
 戦後の豊橋市の人口構造と都市の変化に関する様々なデータを学生がまとめた。これを見ると、色々と面白いことが見えてくる。大正生まれの世代は多くは戦死し、昭和一桁生まれの世代は戦争に行かずに生き残った。この昭和一桁世代とベビーブームの団塊世代の住宅遍歴の物語をつくってみると面白い。
 また、大型商業店舗の出店状況を見ると、75年までは都心に多く、それ以降は郊外に立地していることがわかる。商店主の人達は、高度成長時代の売り上げ増が忘れられない人もいるが、ああいう時代を再び期待しても無理というものである。
 豊橋市内を市街化区域、調整区域、境界域で8地区に分けて人口構造予測を行った。国勢調査のデータだけでは、肝心なところでわからない部分もあるが、大枠は見えてきた。こういう調査をもっと色々な地域でやると面白い。ただし豊橋の場合は、外国人を除外して考える必要がある。