住宅施策を考える/日本建築学会東海支部都市計画委員会 住宅部会

第32回部会 「尾西市の中心市街地について」    [2005. 1.25]

参加者:16名

1 尾西市の中心市街地について
1 尾西市の概要

●尾西市制50周年記念ビデオの放映(2004年秋)

●尾西市の中心市街地のスライドと説明

(1) 尾西市の現況
    人 口2000年国勢調査57,956人
    平成16年12月現在59,128人
    昭和30年10月44,286人
    人口増加率1995〜2000年1.5%増
    世 帯 数2000年国勢調査18,112世帯
    平成16年12月現在20,109世帯
    高齢化率約15%
    市域面積22km2 (木曽川を除くと18km2)
    位 置愛知県北西部

  • 昭和30年に起町と朝日村が合併して尾西市になった。
  • 市全域が旧尾張藩。市内に美濃路が通っている。
  • 明治時代から織物の生産が発展。その後、ガチャ万の普及により、毛織物の生産地として知られるようになる。一時は2000社以上の毛織物業者がいた。現在でも全国の毛織物の35%のシェアを占めている。
  • 今年の4月に一宮市、木曽川町と合併して新市(一宮市)になる。

(2) 新市の概要
    人 口363,000人程度
    世帯数118,000世帯程度
    面 積113km2
    中核市の要件を満たす。
    新市の基本理念安心、元気、協働

  • 冨田一里塚:東塚と西塚がペアであるのは、美濃路ではここだけ。
  • 三岸節子記念美術館:地元出身画家の美術館。
  • 歴史民俗資料館

  • 古くは木曽川沿いの起宿として賑わう。
  • 1956年(昭和31年)に美濃大橋が完成し、岐阜の羽島市とつながる。
  • 1998年(平成10年)に東海北陸自動車道のインターチェンジが完成。

  • 現在でも起宿の街並みや脇本陣(旧林家)が残っている(ただし、脇本陣は大部分が建て替えられている)。また、木曽川の渡船場も残っており、現在も渡し舟を利用できる。
  • 木曽三川により地下水が豊富なため、繊維工場が多く建てられた。ただし、現在は繊維業の衰退により、工場跡地の利用が行政課題となってきている。跡地利用としては、物流業が増えてきている。
  • 染色工場から排出される汚水処理のために昭和36年特定公共下水道も整備されている。
  • 工業専用地域は45haあり、41haが利用されている。

  • 木曽川に面しており、国営公園では日本一の面積を有する木曽三川公園の一角を占めている。また、サイクリングロードも整備されており、名古屋市西部の大治町に繋がる名古屋市上水道の上部がサイクリングロードとして整備されている。木曽川の川幅は900m位あり、木曽川に3つある渡しの一つである「中野の渡し」が現在も続いている。また、河岸にはアスレチック施設を持つ冨田山公園や県が管轄の宿泊施設「グリーンプラザ」もある。また、平成4年より10億円を投じて尾西緑道(1km強)を整備しており、東屋やトイレも付設している。
  • 平成10年には東海北陸自動車道の尾西インターが開通した。

  • 一宮市から起町に続く起街道には、昭和28年5月まで路面電車(名鉄起線)が走っていたが、廃線に伴い名鉄バスの起線に変わった。そのため、バスの運行便数も多く、市役所から名古屋駅まで最短30分程度の通勤範囲内にあるが、その利便さがあまり知られていない。起街道には、以前は映画館が3つあり活気があったが、現在は空き店舗が増えてきており、シャッター通りとなりつつある。

  • その他には、人にやさしい街づくり条例に基づいて整備された遊歩道がある。また、市の新庁舎が昨年の3月に完成した。合併して新市となった後も尾西庁舎として使われる。なお、本庁舎は市の産業であるテキスタイルのT型をモチーフとして外観がデザインされている。また、平成2年にゴミ焼却場の近くに公共版のスーパー銭湯である「ゆうゆうのやかた」が整備された。ただし、その後に民間の類似施設ができたたため、現在は利用者が減少している。
  • 日光川から木曽川へショートカットして強制排水用の3号4号放水路のポンプ場があり、日光川下流域の浸水災害を防いでいる。放水路の途中に、中継点として広口池があり、親水公園として利用されている。地元高校のデザイン科がポンプ場外観のデザインを行った。

(3) 尾西市の住宅政策
    市営住宅14団地657戸
    県営住宅1団地461戸
    公団住宅1団地267戸
    雇用促進住宅4団地680戸
    分譲住宅10団地613戸

  • 分譲住宅は、繊維産業がピークに達した昭和41〜55年頃に住宅需要が増大したのに伴い、県住宅供給公社からの業務受託の形式で建てられた。

  • 民間分譲住宅(一反開発)
  • 尾西市は耕地整理地区が多い。なかなか区画整理が進まないので、一反開発が行われた。一反は10間×30間でそこに5〜6戸の住宅が建てられた。


    昭和40年代現在
    工場数約2,000約1,000
    従業員数約20,000人約5,000人

  • 工場跡地の活用が課題。市にも跡地の買い取りを持ちかけられることが多い。繊維工場の跡地に、県住宅供給公社が去年と今年で新たに59区画の分譲住宅を予定している。当初は福祉施設を建設する予定であったが頓挫したので、計画を分譲住宅に変更して公社に買い取って貰った。過去県公社分譲住宅の供給は約23年前で、公社分譲住宅の信頼性により好評である。

  • 名古屋へは公共交通機関を使って40分で行ける。
  • ここ数年は人口がわずかに増加。市内および周辺市町村からの流入による。
  • 海抜が3〜7mあり、過去に大きな水害に遭ったことはない。
  • 土地改良事業は進んでいるが、都市計画事業は進んでいない。市街化調整区域の面積も広い。はじめに工場があり、その立地をみて用途地域が指定された。

(4) 中心市街地活性化の取り組み
  • 住民・商業者主体での取り組みがあったが、結局、解散してしまった。
    平成14年まちづくり協議会が発足した。一宮女子短期大学の先生や商店街の商店主を含む17名で構成。
    平成15年商店街再生への道をテーマに検討。
    平成16年報告書が作られたが、協議会は解散してしまった。


2 質疑応答・意見交換
Q:質問、A:答え、C:コメント)
Q 大型スーパーの進出が商店街の衰退に与えている影響は?
    A 昭和40年代にユニーが出店。また、最近はジャスコが木曽川町に出店した。尾西市から行く人も多い。商店街の衰退は、繊維産業の衰退による影響が大きいと考えられる。
     昭和35年には約5万1千人の人口が暮らしていた。繊維産業に従事する女工さんが多かったので、男が2万人に対して女が3万人を占め、特異な人口構成を形成していた。繊維産業の衰退とともに人口も減少していたが、ここ最近は人口が横ばいで維持されている。
Q マンションの建設状況は?
    A 工場跡地に結構建てられている。準工地域にマンションが建つので日照問題が生じている。用途地域の分類が12地域に増やされた時にも、用途地域の変更が行われなかった。起町の辺りは密集住宅市街地として、市は取り組みを考えている段階にある。
Q 織物散歩道のような感じでノコギリ屋根の工場を街並みとして残すことは検討されていないのか?
    A 現実的には難しい。名古屋芸大の先生がノコギリ屋根の工場を製作場として活用しているという事例はある。できれば、工場を取り壊さずにコンバージョンできたら良いのだが。
Q 尾西市出身の有名人のネームバリューを利用してまちづくりに繋げられないか?
    A 地域の著名人としては、山内(プロ野球の選手)、三岸節子(画家)、市川房枝(女性政治家)が挙げられる。市川さんには児童図書館を寄付して頂いた。政治家は市民に受け入れられる人と受け入れられない人がいる。また、「ドクタースランプアラレちゃん」で有名な鳥山明は、尾西市にある起工業高校の出身である。
Q 美術館は誰が設計したのか?
    A コンペを行い、浦野設計が設計を担当した。美術館の立地が悪く、アクセスしにくいのが難点。
Q 合併後は何か変わるのか?
    A 一宮市の方式でいくしかない。28万人都市のやり方の合理性は認めざるをえない。これからの合併は何を目指したら良いのかが見えない。単に財政的な面しかないのでは。
Q 大型スーパーの出店計画はないのか?
    A 3〜4haないとスーパーは出店できない。繊維工場はそれほど大きくはない。紡績は広い面積を必要とするが、テキスタイルはそれほど大きくなくて良い。
Q 合併に伴う職員の削減などはあるのか?
    A 職員数が3,400人程度になる。将来的には1割削減を予定している。首切りはなく、自然減による削減。
Q 福祉をからめた居住政策は話題にならないのか?
    A 市営住宅と特別養護老人ホームの併設を一時検討したが、実現しなかった。市営住宅で1階の住戸が空いたときに、バリアフリー化を図っている程度。
Q 中心市街地の暮らしの面での課題は何か出ているのか?
    A 市街地でなく、調整区域に市営住宅が多い。市に相談に来た人への対応、市営住宅の斡旋、高齢者世帯向けに住戸規模の小さい間取りを用意するなどの取り組みは行っている。
Q コミュニティ形成のための独自施策は行われているか?
    A 小学校区ごとに「つどいの里」という施設を整備している。現在4箇所あり、類似の施設を合わせて7箇所ある。高齢者が集まり、食事会、ヨガなどの体操を行っている。建物の大きさは200m2弱。高齢者が自由に使える形式をとっており、ボランティアも活動しているようである。古い集落のコミュニティは調整区域で残っている。
Q デイサービスセンターの整備状況は?
    A 5〜6件程度。運営に対する補助金などの行政支援は行っていない。
Q 現市長はどのような方?
    A 元市議会議員。43歳。
Q 耕地整理はいつ頃行われたのか?
    A 昭和30年代前半に行われた。
Q 合併して何か劇的に変わることはあるか?
    A 地形的には、現在、一宮市と尾西市の境界が入り組んでいる部分もあるのだが、合併により市域が卵形に整理される。
Q 中心市街地が機能していたのは合併して尾西市になってからか?
    A 尾西市になる前から起町は賑わっていた。起宿は木曽川沿いの宿の中でも宿高が大きかった。

<主な意見>
  • 現在、市営住宅の多くは調整区域に立地しているとのことだが、今後の高齢化の進展を考えると、市街地にある民間借家ストックを活用していくことも検討するべきではないか。
  • 景観法の活用を合併後で良いから考えて欲しい。美濃路の街並みを生かして町おこしに展開できないか。景観区域を指定していければ良いのではないか。新一宮市の売りになるのではないか。一宮市はまちづくり交付金を使ったことがないので、合併してから活用を考えて欲しい。