京都 先進事例調査
1999/12/ 3
西陣・町家倶楽部
参加者: 5名
日時:1999年12月3日 10時30分〜12時ぐらい
●応対:小針 剛氏、鏡 敏彦氏(ともに「町家倶楽部」のコアメンバー)
●場所:町家倶楽部ハウス
西陣・町家倶楽部

1 目的
     西陣の京町家を工房、住居等に活用したいアーティスト達と家主さんをつなぐシステムづくりとその実施を通じて相互の人間性及び地域を豊かにする。
2 活動内容
    (1) "京町家仲人"「町家倶楽部ネットワーク」
      西陣に"住みたい人"と"住んでほしい家主さん" との縁結びと応援
    (2) 西陣情報公開サロンとして「町家倶楽部ハウス」の運営
      町家倶楽部ハウス内にコンピュータ端末を配し、西陣を中心とした空き家調査と空き家情報の公開、新しい西陣の動きの公開、アーティストの紹介、作品の紹介、展示、販売協力、西陣の住民とのコミュニケーションの場の提供、西陣のできごと(イベント)の企画制作と情報発信等
    (3) インターネットを通じた外部への情報公開  町家倶楽部ホームページ
3 活動の経緯
  • 「町家倶楽部」につながる活動の発端は、カメラマン兼舞妓変身体験も手掛ける小針さんが円常院の住職佐野さんに勧められ、1995年8月、空いた町家に仕事場兼住宅を構えたこと。これが新聞にとりあげられ、問い合わせの電話が殺到。町家に住むことに関心を持つ人の多さに驚いた。そこで「町家入居体験談を話す会」を開催した。この会が「西陣活性化実顕地をつくる会」(通称「ネットワーク西陣」)となる。
  • 小針さんが借りる町家を探すのは大変なことだった。連日西陣を歩いて探し回り、100件の空家を見つけた。その間、不審者と思われて通報されたことも。苦労の後、近所の人の情報から40件の町家の家主を探し当て、うち3件が話合いのテーブルについてくれた。
  • 小針さんを見て、「私も入居したい」という人がたくさん来たため、小針さんが探した時の情報を使って家主を借り手の間をとりもった。アーティストを中心に30数件にもなった。
  • 町家に入居したアーティストで、「ネットワーク西陣」をつくっている。このネットワークでつながる人で何かしようと始まったのが「アートイン西陣」と呼ばれるイベント。アーティストがそれぞれ自分の作品を持ちよるといったもの。このイベントに絡んで、鏡さんが運営に加わることになった。
  • 個々への問い合わせが多いため、窓口を一本化するためもあって、1999年7月に、「町家倶楽部」を発足し、町家に住みたい人と家主とをつなぐ役割を果たしている。
  • マスコミにとりあげられたおかげで、いろんな人がやって来る。いやな思いもしてきた。善意には善意で応えてほしい。
  • 「まちの活性化のために」という言葉はここでは禁句。あくまでも個人個人が「自分のために」やるというスタンスをとっている。
4 町家の貸し借り
  • 町家倶楽部が仲介した町家の数は、1999年9月16日までで9件。現在は「お見合い」が成立して、オープン間近のお蕎麦屋さんがあるということ。
  • 京都の人は、自分の動きを制限するような「賛成」「反対」の意志表明をあまりしない。しかし、京都の人が賛同者として名前を連ねてくれたこともあり、次第に活動は市民権を得てきている。空き町家への入居実績が増えてきた最近は、「空き町家を貸してもいい」という「賛成」の表明をする人が出てきたのは大きな変化だと思う。
  • 町家の貸し借りは、普通の賃貸住宅の場合と異なり、貸し手が借り手の顔を見て、「この人なら」と納得して初めて成立する。空き町家があっても、所有者は通常貸したがらない。それは、相続・財産分与が発生した時に入居者がいると立ち退きを払わなくてはならないなど面倒になるためだ。そのため、空き町家の賃貸契約を結ぶ時に最も重視されるのは、退去の条件である。そのため、学生や老夫婦の入居希望も多いが、いったん入居すると退去が難しい条件の人は話がまとまらない。
  • 仲介している町家は、相当手を入れないと使用できないものも多く、それが民間賃貸住宅業者との住み分けになっている。町家倶楽部では、仲介時に手数料はとっていないが、運営協力金として500円もらっている。
  • 町家の賃貸料は3〜40万円と様々。
  • 町家の修繕はすべて借り手の負担である。壁塗りなど、借り手が自分の手で修理する場合が多い。町家の中には、土間に板を敷くなど現代的に修理されたものも多いが、空き町家への入居者の傾向としては、その板をはがして土間に戻すなど、昔の姿を再現している。
  • 入居者の近所づきあいはおおむね良好。
  • 町家への入居者はアーティストが多いが、それは、最も町家が活かされる貸し手だから。広い土間のあるつくりは製作の場として適しており、日中家に居れば、地域の人達との付き合いも生まれる。陶芸作家など、普通のマンションで窯を入れようとしても絶対無理。
5 町家倶楽部の運営
  • 古い織物工場を借りた「町家倶楽部ハウス」を拠点にしている。この一角を貸し出すことで、運営費を補っている。ハウス内には古い織機などが残っている。
  • 町家倶楽部の運営は、完全にボランティアで成り立っている。卒論を書くための研究材料としている学生ボランティアも貢献している。持ち出しも多いが、ネットワークをうまくつかって格安に備品を調達するなど工夫している。
6 行政との関係
  • 京都府や京都市が「西陣活性化実顕地をつくる会(町家倶楽部の前身組織)」の活動を、あたかも行政の活動の一環のように大々的に宣伝したため、一時は行政に対する不信感が募った。しかし今は、町家に住みたいという気にさせるのが府、その実践部隊が町家倶楽部という整理ができ、ホームページでもリンクを貼るなど協力関係ができてきた。
インタビューをして一番印象に残った言葉が「現役性」ということ。西陣という京都の町中に近い地域にある、屋根が高く土間が中庭まで抜けた町家の空間こそが。アーティスト等にとって作業性や仕事上も使いやすく便利であったことが、この町家の仲介という活動を成立させている。と同時にその活動が借り手側のネットワークづくりから発展していった点にも留意すべきだ。けっして行政等の空き家対策からスタートしたわけではない。だから彼らは「我々はまちづくりや地域活性化などを考えて活動などしていない。自分の為にやっているのだ」と言う。田原を始めとする空き家の活用を考えるときに大変重要な視点だ。西陣という立地条件があり、京町家に住んで、仕事場にしたい需要が高い中でこそうまくいっているようなところがあり、このままを愛知県の地方都市にあてはめても成功するはずはないが、貸し手と住み手の顔が見える関係を作りだすことの重要性という点では一致しているような気がした。

町家倶楽部

町家倶楽部外壁にあるまっぷ

倶楽部会員の町家に掲示

チャイ屋「ぷーら」

そば屋を予定、改修前は結構ぼろい

町中のお地蔵さん

骨董「龍華堂」

立派な銭湯/営業休止中

屋根に鎮座する鍾馗様

表出の豊かな町家

左:輸入雑貨「心呼吸」/右:石材店

陶芸「結工房」(普通の民家です)
日時:1999年12月3日 16時〜17時30分ぐらい
●応対:西新道錦会商店街事務局長 原田 完氏
●場所:西新道錦会商店街内ウェスティホール
西新道錦会商店街

1 商店街の概要
     西新道錦会商店街がある京都市壬生地区は、四条通りを西へ約1q行ったあたりに、150の店舗が軒を並べている。商圏となっている半径1qくらいの地域は、京都の町中では最も人口密度が高いが、5年間で人口が1割も減少する高齢地帯でもある。客層は50代以上が多い。
     周辺に大型店の出店が多いが、地域に密着した商業展開で対抗し、年間売上高は50億。組合員120人。原田さんは、商店街振興組合の専従職員である。商店主は、多くは店舗の2階に住んでおり、緊密なコミュニティができている。アーケードはないが、テントを設置している。上に伸びていくアーケード風のテントは珍しく、特許をとっている。
     平成6年、近くに大型店の出店計画が持ち上がった時は、当初は賛成する住民が多かったが、「治安が悪くなる」など原田さんの説得の結果、無条件の出店には反対という住民が増え、意見書提出の結果売り場面積が縮小された。この出店騒動で、商店街のアイデンティティが深まったという。
2 商店街の取り組み
     「ものを売るだけの商店街」から「地域の暮らしを支える情報の発信基地」へ。「地域の護民官」としての商店街をめざす。
    (1) エプロンカード事業(1992年〜)
       日本初の電子マネー。ICカード。現在6,300人の利用があり、商店街の売り上げ(50億)の1割がカード利用。客にとっては小銭のわずらわしさから解放されるというメリットがあり、商店街側も集計・換金業務の合理化がはかれた。将来は、コミュニティ・カードとして、行政サービスでも共通して使えるカードを目指す。初期投資は1億5000万円と大規模なものになったが、中小企業庁の補助金、京都府の活性化資金、組合出資金・助成金の活用と、知的所有権を開発元の沖電気に譲ることで5000万円の持ち出しに抑えた。
       ヒアリングの前の週、2000年問題への対応などのため、システムアップが行われ、新規格カードへの切り替えが行われた。通産省の補助1億8千万円で開発し、今回は商店街の持ち出しはゼロとした。
    (2) ファックスネット(1997年〜)
       足腰の弱った高齢者が多くなる時代を意識して、ファックスにより商品情報やコミュニティ情報を提供し、魚の切り身1枚から宅配を行っている。ファックスのレンタルもしている。
       売り上げは年400万円で、5%が事務局の取り分となる。現在、700世帯の会員を確保しており、高齢者だけでなく共働き家庭にも好評。商品情報を流すのは、週1日程度。利用は日に2〜3件。宅配時に高齢者の体調を尋ねるなど、物を売るだけでないサービスを提供する。買い物情報だけでなく、行政・医療機関の情報も発信しており、コミュニティ・ネットとしての機能をめざしている。
    (3) インターネットによる情報提供(2000年秋にHP立ち上げ予定)
       将来は、インターネットによるネットワーク化を構想している。各家庭のTVに接続できるICカード用端末をレンタルで貸し出し、家庭にいながらカードで買い物できるシステムをつくる。ファックスネットと併用していく予定。病院情報なども盛り込み、赤ちゃんの健康診断や高齢者のデイサービス情報も提供していきたい考えだ。
       開発費1億4千万円には通産省の補助を導入し、商店街の持ち出しはゼロにした。
    (4) 空店舗活用による高齢者に対する食事サービス
       4軒ある空店舗の1つ(元布団店)を利用し、一人暮らしの高齢者が食事をできる場所にしている。高齢者のための憩いの場づくりで、地域に貢献しようと始められた。11月中旬から週に1回の開催で、ヒアリングの時点までに3回行われた。弁当と吸い物で1食600円。今は20食くらい出ているが、将来は50食くらいまで伸ばしたい。
       市に働きかけ、高齢者支援商店街活性化事業を創設し、その補助をもらっている。
    (5) その他の取り組み
       商店街の中には、外出が億劫な高齢者などに対し洋服の訪問販売をする店や、住宅内の段差解消など高齢化対応に積極的に取り組む工務店もでてきている。
       また、商店街の入り口に流れている川の再生にも取り組んでおり、魚のつかみどりのイベントなどを行っている。

周辺住宅地

高齢者給食サービスサロン

商店街入り口の河川