ボディの空力を科学するぺえじ

ボディの空力を科学する

現実の世界ではどんな運動にも絶対に損失摩擦といった抵抗が生じる。 自動車の場合でももちろん抵抗が生じており、 エンジンで言えば、空気とガソリンの混合気を燃焼した時に得られる全熱エネルギーうち70%近くが 失われる熱損失や、 駆動系ではギアとギアが噛み合っているところ(ミッション、デファレンシャル)等の機械的損失、 外から見えるところでは、今回説明する空気抵抗を受ける。 余談になるが、自動車が走行する時はこの空気抵抗以外に、車輪の転がり抵抗も受ける。 スピードが遅い時は転がり抵抗の割合が大きく、スピードが出るにしたがって空気抵抗の割合が大きくなっていく。
その空気抵抗 "D" は次式のように表される。

D = CD×ρ×U^2×S/2

ここで
CD:抗力係数
ρ:流体の密度
U^2:速度の2乗
S:前面投影面積
である。

各パラメータについて簡単に説明しよう。 流体は空気なのでどのような条件下でもほぼ同じ (もちろん高所にいけば空気は薄くなるので若干の違いは出てくる)であると考えれば、 面積が大きくなればなるほど、またスピードが出れば出るほど空気抵抗は大きくなる。 トラックやワンボックス等の全高、全幅が大きい車種ほど面積が大きくなるので、 より大きな空気抵抗を受けることになる。
また、式を見ればわかるとおり速度の2乗に比例していることから、 速度が上がるにつれて急激に空気による抵抗は大きくなっていくことがわかる。 時速80Kmを超えると空気抵抗が無視できない値になると言われており、 時速200Kmぐらいになるとエンジンパワーのほとんどが空気抵抗に 打ち勝つために使われている。 ちなみに今流行りのでっかいリアウィングはドリキンこと土屋圭一によれば、 時速150Kmぐらいでやっとあるかないかの違いがわかる程度であるらしい。
空気抵抗を減らすためには、CD値をおさえたり、 前面投影面積を小さくすればよいことがわかる。 そのためスポーツカーのボディーは全高が低く、流線型をした形状で設計される。


抗力係数CD

最近はカタログなどにも記載されるようになった値で知っている方もいるだろう。 CD値とは Coefficient of Drag の略で 抗力係数と呼ばれ周りの流体によって受ける抵抗の度合いを表す。 CD値はもちろん小さい方が空気抵抗は小さくなり スポーツカーで大体0.3〜0.4、セダンで0.5前後、 トラックやワンボックスなどは0.5以上といったところである。 流線型をしたスポーツカーのボディーはイメージ的にも CD値が低いことがわかるだろう。 ちなみに F1 などのフォーミュラカーはタイヤが剥き出しなため、 以外にCD値が高く、1.0前後だが 前面投影面積が極端に小さいためこれを補っている。 また飛行機の翼はCD値を極めて低くするように考えられており、 0.1前後である。


揚力係数CL

の話題が出たので揚力係数 CL(Coefficient of List) についても少し説明しておこう。 揚力とは読んで字のごとく、浮き上がる力のことである。 この浮き上がる力は、飛行機など空を飛ぶには必要な力だが、 自動車においては揚力をいかに低くするかを考えられている。 揚力が発生すると、タイヤと地面の接地性が悪くなり、グリップが得られなくなる。 そのため、車の操縦が不安定になったりコーナーリングスピードが落ちたりする。 F1などのフォーミュラカーでは前後にウィングを装備し、 ダウンフォース(車を路面に押さえつける力)を発生させている。
ちなみに揚力 "L" は次式のように表される。

L = CL×ρ×U^2×S/2

ここで
CL:揚力係数
ρ:流体の密度
U^2:速度の2乗
S:前面投影面積
である。

空気抵抗 "D" とほとんど同じなので説明するまでもないが、 速度が上がれば上がるほど揚力は大きくなっていく。
更に詳しい説明

抗力係数CDの値というのはどのように決まるのだろうか? この値を低くすることによって、空気抵抗を減らす事ができ エンジンパワーが少なくてすむことになり、当然燃費もよくなるため、 ボディを設計する時はこの値を低くすることも1つの制約である。 この値を低くしようと思ったらどのようにすればいいのか? これは容易に想像がつくだろう。 今走っているスポーツカーのボディを思い出してもらいたい。 ではなぜあのような形になればCD値が小さくなるのか、 簡単に説明してみよう。

それは空気の流れが車のボディに沿って流れなくなり、 はく離と呼ばれる現象が発生するからである。
以下の図を見てもらいたい。(下手ですが・・・)



風を受けるボディ前面部は空気の流れはボディに沿っているが、 リアウィンドウから後ではきちんとボディに沿って流れておらず、 はく離が見られる。なぜこのはく離が起こると空気抵抗はより大きくなるか? それははく離を起こした流れの下流域では渦を巻く領域があり、 この領域は死水域と呼ばれ、ほとんど空気が運動しておらず負圧となる。 ボディ前面は正圧であるから、(高いところから低いところに物が落ちるように) 前から後に力を受ける。(圧力勾配)
こうして見るとハッチバックの方が空力的(エアロダイナミクス)に良い形状であるこがわかる。 では、はく離を起こさないようなボディ形状はどのようなものかというと、 そう、さっきでてきたである。 図にするとこのようになる。



こうして見るとどのような形状にすれば空気抵抗をなるべく受けずにすむかが 感覚的にわかってくるのではないだろうか? かといって、まるっきり翼の形状をしたボディにすると 今度は揚力が発生してしまうので駄目なのだが・・・。


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