2.ハーモニーとは


まずは「ハーモニー」とは

 "Harmony"という英単語は一般的には「調和」と訳しますが、合唱におけるハーモニーは物理的には一種の共鳴ということができます。2人の出す音に共鳴が起こると、単に音が2人分出ている以上の響きの充実が得られます。

 それではどういう時に共鳴が起こるかというと、同じ周波数の音が空間的に近接して存在すればOKです。最も簡単な例としては、合唱ならば同じパートの人は同じ高さの音を同じ母音で発声しますから、パートの中では(音の高さや質がよほどバラ付かない限り)共鳴が起きています。しかし同じパートの中でハモる、という言い方はあまりしませんね。

 それでは更に、異なるパート−つまり異なる音の間での共鳴とはどのようなものでしょうか。「音の種類」で説明したように、人の声も基本周波数とその整数倍音という成分からできていますが、その倍音同士の共鳴がハーモニーと言うことができます。例えばバスが基本周波数faの音を出していて、テノールがその5度上の基本周波数fbの音を出していたとすると、fb = 1.5 × faとなり(つまりfaの3倍音のオクターヴ下の高さ、「音の種類」の倍音列表参照)、右図の赤点線で関連付けた倍音同士−3 × N × faと2 × N × fb (Nは正の整数)が共鳴します。もしfbがfaの3度上だとしたら、fb = 1.25 × faとなり、共鳴する倍音は5 × N × faと4 × N × fbとなります。

12平均律

 音階の始まりが倍音列からなることは「音の種類」の項で軽く触れましたが、この考え方による調律が純正調です。詳しい説明を始めると長くなるのでそれは専門書に譲りますが、純正調音階は調性に依存するので、調性が変わると音程関係の再調性が必要になります。幸いオーケストラの大部分の楽器は音の高さの微調整が可能ですが、オルガン、チェンバロ、ピアノなどの鍵盤楽器は、曲の途中で調性が変わったからといって、そこから異なる調律に一瞬のうちに変更することは出来ません。そこで、特に鍵盤楽器での転調時のハーモニーの均一化の為に考え出されたのが「12平均律」です。

 今日、ピアノや電子鍵盤楽器で、基本周波数成分が強い音色の高音域(C4以上くらい)で密集した和音を発音させると低い方に濁った響きが出ますが、これが12平均律を採用したことによる弊害です。もし和音の構成音が純性調律であれば各音の周波数比は調和関係(整数比)となるため(12平均律の場合でも完全5度は整数比からの誤差が少ないので)差音とも調和関係となり気になりません。しかし12平均律の場合(特に3度)は差音が整数比から大きく外れたところに出て、更に高音域になるとそれが可聴域となるため、このような一種の雑音として聴こえます。

 この差音のズレは12平均律を使っている限りは自然楽器でも電子楽器でも発生しますが、まず第一に電子楽器は電子回路内で音がきっちりと加算されるため、音が空気という緩衝材を経由して加算される自然楽器よりは差音がはっきりと出ます。この差音のズレを解消するには調律を純性調にする、というのが根本的な解決策で、電子鍵盤楽器なら将来的には転調に応じて音程間隔がその調性の純正調音階に自動調性されるようなものが出来るかもしれません。