1.サンゴは動物か,植物か
一応の答えは動物です。サンゴは,イソギンチャクの仲間(腔腸動物)に属し,これが沢山集まったものがテーブル状になったり,木の枝のように枝分かれした形をしたり,様々な形をした大きな集合体(群体)をつくっています。ただし,「一応」と言ったのは,サンゴ虫の体内に,褐虫藻とよばれる植物が入っており,褐虫藻はもちろん光合成をしていますので,それも含めると,植物でもあると言えます。
褐虫藻が光合成によってつくった有機物は,サンゴ虫の栄養分になりますが,通常,使い切れないほどの量なので,サンゴからはかなりの量の栄養分が排出されています。この栄養分はサンゴ礁の周辺にすむ魚などの栄養分になっています。サンゴは,魚たちに隠れ家を提供しているだけでなく,栄養分も与えているのです。
えっ?サンゴ虫が使い切れないほどの栄養分をもらっているのに,なぜ夜などはサンゴ虫は触手を伸ばしてプランクトンなどを食べているのかって?とてもいい質問です。褐虫藻がサンゴ虫にくれる栄養分は,グリセリンなどの形の炭素化合物で,これはエネルギー源にはなりますが,これだけでは体をつくるタンパク質などはできません。タンパク質をつくるために必要な窒素などを得るために,プランクトンなどを食べる必要があるのです。
その窒素はどこから来たの?確かに海水中には窒素分はあまり多く含まれていません。サンゴ礁が陸に近い沿岸などによく発達していることが多いのは,浅いところの方が光合成に必要な光が得やすいことと共に,陸上から窒素栄養分が流れてくることが多いことも関係しているでしょう。また,流れて来た海水がサンゴ礁の縁に沿って上昇し,栄養分を供給するというように,サンゴ礁地形そのものが窒素を得やすくしているという面もあります。そのほか,サンゴ礁の周辺には,窒素固定という特殊な反応を行うことのできるラン藻などのソウ類がいて,空気中の窒素をアンモニアに変えてくれているのです。
ダイバーの体にも窒素固定生物がいてくれたら,窒素病など気にしないですむのに,残念ですね。もっとも,窒素固定に関係するニトロゲナーゼという酵素がはたらく条件は,すごく特殊なので,ちょっと人体ではたらかせるのは無理でしょうが。それ以前に,我々の体にも,褐虫藻のような藻類がいてくれたら,光が当たれば栄養分をつくってくれるのでよかったのに。そうすると,服などはうっかり着られない,まあ,それでも食うのに困らないからいいか‥。
話がだいぶそれてしまいました。ともあれ,褐虫藻はサンゴ虫に栄養分を与える代わりに,サンゴの体内で魚などから守られ,サンゴ虫の老廃物を受け取っています。このように動物と植物がお互いに利益を受け合って生活しているのがサンゴの大きな特徴なのです。