セーラーチームへの予告状
最終章 キッドVS連合捜査隊
警視庁捜査一課の目暮警部の元に、一本の直通電話が掛かってきたのは、怪盗キッドが桜田警視総監に犯行予告メールを送りつける1時間前のことだった。
「警部、工藤新一君からお電話です」
「おぉ、どうしたんだろうな?」
目暮警部は懐かしそうに電話口に出た。
「お久しぶりです、目暮警部」
「おお、工藤君、最近見ないんで心配したぞ」
目暮警部が新一をまるで自分の子供のように心配した声で話した。
「すみません、ご心配をおかけして。そうそう、コナン君から聞いたのですけど、警視庁や警察庁の方で、システム侵入事件があったそうで?」
「そうなんじゃよ。何者かが外から侵入してな。『幻の銀水晶は、公爵の乗った馬の下にある』なんていう内容の文章が送りつけられてきたわけじゃよ」
目暮警部もまだ、どういうことなのか見当が付いていないようだった。
「では警部。まだこの内容の文章の場所の特定は警察では把握していないと言うことですね?」
「そういうことだ」
目暮警部は新一にそう言った。
「でももう大丈夫です。僕にはもう分かりましたから」
「なに〜〜〜!?」
目暮警部は驚いて、新一に尋ねた。
「どこだね?場所はどこだね!?」
「警部、そう慌てないで下さいよ。まず一つはおそらくこの文章は少なくとも日本国内から送られてきたものでしょう。そして、馬の乗った公爵なんてのは日本には今はいない。恐らく第二次大戦前、当時の皇族や旧華族の人間達の姿だと推理しました。そして、一番有名なその像は都心のど真ん中にあります」
新一は淡々と目暮警部に語った。
「像?ということはブロンズ像・・・。第二次大戦前に血が絶えた華族、あるいは宮家・・・。まさか、工藤君!?」
「えぇ、そのまさかですよ」
新一はやっと分かったかという風に、目暮警部の話に耳を傾けていた。
「有栖川宮記念公園!?」
若木は桜田総監に呼ばれて、キッドの予告状を見せられてこう叫んだ。
「いまこの世の中に、公爵なんて人日本にはいないわ。ということは、ブロンズ像の事を指す。そして、都内でそのブロンズ像があるのは、有栖川宮さまを祀ったあの記念公園にあるブロンズ像しかないってわけ」
桜田総監は淡々と語った。
「しかし、あんな所に銀水晶があるわけが・・・」
「今回のシステム侵入事件はだれがやったと思ってるの??」
「まさか、彼女たち、キッドに餌を・・・」
若木は愕然とした。
「そうよ。けさ愛野さんから連絡があったのよ。これから、システムに侵入するってね」桜田総監はあっけなく、セーラーチームが関わっていることを認めた。
「このメールは、二時間後にマスコミに公開するわ。早く彼女たちに連絡して頂戴」
「分かりました」
若木は桜田総監からの指示を受けた。そこへ、秘書から連絡が入る。
「総監、捜査一課の目暮警部たちが、有栖川宮記念公園へと向かいました」
「OK。車を裏に回して。私たちも行くわよ」
「行く気ですか?桜田総監」
若木は驚嘆した。
「これ以上、セーラー戦士達にお世話になりっぱなしじゃ、警視庁のトップとして面目が立たないと言う事よ」
桜田総監はそういって、若木を連れ出した。秘書には何がなんだかさっぱりわからないという表情をしていた。
「どういうことですか目暮警部。どうして有栖川宮記念公園だって」
「工藤新一から垂れ込みがあった」
「工藤君からですか??信じられない」
車で公園に向かう途中、佐藤刑事と高木刑事は目暮警部の一言に驚いた。
「で、彼はなんと??」
「今の平成の世に、馬に乗った公爵なんているわけがない。ということは、第二次大戦前に有名であった旧華族や皇族の人間が銅像として残っているところではないかと言うことだ。そして、それが都内にたった一カ所、有栖川宮さまの記念像は宮様の馬に乗ったところが銅像になっておる。簡単に言えばそういうことじゃ」
目暮警部は淡々と話した。
「しかし警部。それは、都内だけとは限りませんよね?」
車を運転中の佐藤刑事が言った。
「確かにそうだ。しかし、第二次大戦中、全国各地の銅像が軍に供出された。もちろん、有栖川宮の銅像も例外ではない。しかし、有栖川宮は皇族だ。戦後、そういう勇ましい姿のものは、GHQによって禁止されたが、サンフランシスコ講和条約で日本の独立が回復され、有栖川宮像があのような姿に復元された。しかし、他の地域にあるあのような勇ましい銅像は、旧華族が中心であった。戦後、華族制度は廃止され、復元するメリットはなかったということじゃ」
目暮警部はここでも淡々と話した。
「確かに、仙台にある伊達政宗の像は侍ですし、上野の西郷さんの像は、犬の散歩のシーンですもんね。ああいう、軍服を着た銅像というのは、あそこ以外にないのかも」
佐藤刑事は納得したように目暮警部の話を聞いていた。
「急げよ、佐藤君。キッドを捕まえる絶好のチャンスじゃ!!」
「了解!!」
佐藤刑事は車のスピードを上げた。
コナンは一足早く、有栖川宮記念公園に来ていた。そして、有栖川宮の銅像がある方向へ歩いていくと、一人の制服警官がなにやら、銅像の周辺を探していた。
「お巡りさん、こんな所でなにしてるの??」
コナンは冷ややかにその警官に聞いた。
「い、いやちょっと捜し物を・・・」
「そんなところを探しても、きっと幻の銀水晶なんて無いと思うけどな」
「っ・・・!!」
コナンの答えに警官がたじろぐ。
「大体、ここに幻の銀水晶があるという怪文書が流れたのは警視庁本庁と警察庁の庁舎だけだよ?お巡りさんみたいな、どこにでもいる普通の人じゃ、わからない話じゃないのかな??」
「やだな〜。本庁から署に連絡があって・・・」
「それはないな」
遅れてやってきた目暮警部が、その警官に話し始めた。
「まだこの場所は、どこの所轄にも連絡していない。もちろん、他の警察の捜査員にも話していない。知っているのは、私たちだけなんでね」
「いいえ、私たちもいるわよ」
木陰から一組の男女が顔を出した。
「さ、桜田警視総監!!」
目暮警部は驚いた。
「キッドが送ったこのメール、まだ警視庁の職員にも知らせてないの。まぁ、目暮警部の場合は優秀な探偵さんが知り合いの中にいるから情報源はそこからでしょうが、まだ、警視庁本庁の人間にも言っていないことを、所轄の一巡査がなぜ知っているのか、聞きたいものね」
桜田総監は冷静に答えた。
「さすがは、警視庁初の女性警視総監。こうも見破られるとは思わなかったぜ」
警官はいきなり服を脱いだ。そこに現れたのはまさしく、いま世間を騒がせている怪盗キッドだった。
「ということは、俺は最初から、警視庁に潜り込んでいるのを見破られていたというわけか?」
キッドは桜田総監に話しかけた。
「幻の銀水晶の話を知っているのは私とここにいる若木君だけ。ただいくら内緒にしているとはいえ、こういう情報が漏れるのは宿命よ。ただ、漏れたところでその組織の中で止まってしまう。組織の外へこんな話が漏れてもなんのメリットがないもの」
「ということは、若木巡査部長と桜田総監は、幻の銀水晶のありかを知っているのですか??」
佐藤刑事が驚くように質問した。
「詳しいことは言えないけどね」
桜田総監は事実上ありかの場所を知っていることを認めた。
「しかしキッド、われわれ警察だけならまだしも、幻の銀水晶を狙ったのは、そもそもの間違いだったわね。あなたは強力な相手を敵に回したんだから」
桜田総監は強気であった。
「ふ・・・。強力な相手??それは誰だ・・・?」
キッドもやや強気である。
「それは、私たち、セーラー戦士の事よ!!」
「誰だ!?」
コナンが異常な事態に気づく。そして・・・。
「ムーンティアラ、アクション!!」
空中から見慣れぬティアラが飛んできて、キッドを直撃する。さすがのキッドもまともに食らってしまい、かなりのダメージを受けたようだ。
「ファイアーソウル!!」
「シャボンスプレー!!」
「シュープリームサンダー!!」
「クレッセントビーム!!」
「ワールドシェイキング!!」
「ディープサブマージ!!」
「デッドスクリーム!!!」
「サイレンスグレイブサプライズ!!」
立て続けに見慣れない攻撃を食らい、キッドは完全にほとんどの体力を失ってしまった。「なんだね、君たちは??」
目暮警部は呆気に取られながら、彼女たちに話しかけた。
「愛と正義の、セーラー服美少女戦士!セーラームーン!!」
「同じく、セーラーマーキュリー!」
「同じく、セーラーマーズ!」
「同じく、セーラージュピター!」
「同じく、セーラーヴィーナス!」
「同じく、セーラーウラヌス!」
「同じく、セーラーネプチューン!」
「同じく、セーラープルート!」
「そして、セーラーサターン!」
「月に変わって、このセーラー戦士九戦士が、徹底的におしおきよ!!」
(あれが、セーラー戦士・・・・!?)
コナンも心の中で動揺していた。
「そうか、君たちが銀水晶の持ち主か・・・」
キッドは力無く答えた。
「言ったでしょ?大変な敵を回したわねって」
桜田総監は改めてキッドに言った。
「確かに彼女たちだったら、警察のシステムに入り込んで、俺をはめることは可能だったというわけか・・・。俺にしちゃ珍しいミスをやっちまったもんだ・・・」
キッドは悔しがる。
「一つだけ答えて。なんで銀水晶が欲しかったの??」
マーキュリーがキッドに質問をする。
「ただ、ヨーロッパの物語に書かれていたその銀水晶の輝きを見たかっただけさ。そして、いつも通りすぐに返す予定だったが、俺はとんでもないパンドラの箱をあけちまったようだ」
キッドはそう答えた。
「だったら見せてあげる。銀水晶の力を」
セーラームーンは目を閉じ、力を集中させた。そして、胸のコンパクトから眩い光が放たれた。
「これが、幻の銀水晶の輝き・・・」
その場にいた一同が口を揃えて、銀水晶の輝きに目を奪われた。
「こんなもの、俺には盗めねえ。お嬢ちゃん達に一番ふさわしい光だ。俺は、消えるとしよう・・・」
「待て、キッド!!!」
キッドはコナンの止める声も聞かずに、背中の羽を広げて大空へと消えていった。
「くそ、また取り逃がしたか!!」
目暮警部は悔しそうに言葉を口にした。
「あんな体で空を飛ぶなんて自殺行為だわ・・・!」
佐藤刑事は叫んだ。
「きっと、大丈夫よ」
桜田総監がそう話した。きっと、セーラー戦士達は多少の手加減をしているに違いない。桜田総監にはそう感じていた。
「おい、ところでコナン君とセーラー戦士達は??」
目暮警部はコナンとセーラーチームがいなくなっていることに気づいた。
「あれ?どこへ行ったんでしょう??」
高木刑事もおろおろしていた。
「待ってよ〜、お姉さん達!!」
コナンは、セーラーチームを追っていた。
「あぁ、君はさっきキッドに見事な推理を披露していた・・・」
セーラームーンはコナンを見るなり立ち止まった。
「一つだけ聞いてもいい?」
コナンは走ってきたため息を切らして、セーラームーンに話をした。
「なに、ぼく?」
「今回の事件は、警察関係者の中に協力者がいないと、いくら当事者であるお姉さん達はあまり動けない。一体どうやって、警察関係者の中に協力者なんか作れたの??」
「ぼく、この世の中には聞かない方がいいこともあるわよ」
ヴィーナスが答えた。
「じゃあ、警察のシステムに侵入したのは、お姉さん達??」
「正確に言うと私一人でやったんだけどね」
今度はマーキュリーが答えた。
「あなたはもうこの事に首を突っ込まない方がいいわ。興味本位で事件を調べるとけがをするって言うこともあるからね」
セーラームーンが優しくコナンに行った。
「でも、あなたも、あの一言の文章だけでこの場所が分かった。あなたは一体誰なの?」
セーラーマーズはコナンに逆に質問した。
「江戸川コナン。探偵さ!」
「そっか。では今後の活躍を楽しみにしてるわね!小さな探偵さん」
セーラームーンはそう答え、他のセーラー戦士と共に公園を後にした。コナンは二度と彼女たちと会えないだろうと直感していた。
「いてててて!!!青子、もうちょっと優しく湿布を貼ってくれよ!!」
黒羽快斗は自宅で中森青子の治療を受けていた。
「全く、歩道橋の階段から滑って転げてけがするなんて、よく生きてたわね??」
青子は皮肉たっぷりに快斗に言った。
「面目ない・・・」
快斗は青子の皮肉に反論することはできなかった。
「はい、これで終わり!!!」
青子が快斗の体をパンとはたく。
「ぎゃぁ!!だから、やめろって!!」
快斗が悲鳴をあげた。
「もう、今何か夜食でも作ってあげるから、ちょっとまってて」
「悪いな、青子」
そういって青子は黒羽家の台所へと向かっていった。
「ぼっちゃま。痛みの方は??」
執事は快斗がキッドと言うことを知っている。そして、今日何が起こったかと言うことも。「まあ、大したけがじゃない。ただ、少々食らいすぎた。死んだかと思ったぜ」
「あんまり青子様を悲しませるような無茶は慎んで下され。青子様は血相を変えて、ここに来たのですから」
「あぁ、二度とあんな危ないものには手をださねーよ」
「それを聞いて安心しました」
「おれはもう二度と、彼女たちに会えないかもな・・・」
快斗は寂しそうにつぶやいた。
「まったくこのガキは、一人であんなあぶねーまねしやがって!」
小五郎は不機嫌そうにコナンに言った。
「まあ、お父さん被害がなかったんだからいいじゃないの」
蘭が小五郎をいさめる。
「でもよかったね。キッドどころか、セーラー戦士にまで会えたんでしょ?」
「う、うん・・・」
コナンは元気なく頷いた。
「どうしたの?元気ないわね?」
「もう、あのお姉さん達にはあえなそうな気がしてね」
「きっと、どこかでまた会えるわよ」
蘭はコナンを励ました。
「だね。きっとまた会えるよね」
コナンはとっさに答えたが内心は、もう期待などしていなかった。
「はー。ながい3日間だったわ。疲れがどっと出た・・・」
うさぎは疲れた声で、自宅の自室でベッドに倒れ込んだ。
「しかし、銀水晶を狙われるなんて、夢にも思わなかったわ」
「まあ、万事事件は解決したわけだし、明日みんなで焼き肉でもいきましょ?」
ルナがうさぎに提案した。
「ねえ、もちろん私とダイアナもいっしょよね?」
ちびうさはルナに訪ねた。
「もちろんよ。打ち上げを一緒にやりましょ!!」
ルナはちびうさにこう答えちびうさは大喜びでうさぎの部屋から出ていった。
「もう、あの子に会うことはないでしょうね・・・」
うさぎはルナに言った。
「でしょうね・・・。また何か狙われたら別でしょうけど」
ルナもこう答えた。
その後、警視庁と警察庁はあのシステム侵入事件を隠蔽すると共に、桜田総監へのキッドからの予告状も表に出さなかった。あれを出してしまうと、セーラーチームに迷惑が掛かると桜田総監が考えた末の決断だった。そして、ニッポン放送への予告状事件も、第三者によるイタズラと言うことで片づけてしまった。
「しかし、セーラームーンのあの銀水晶の輝きは一生忘れられませんね。また見てみたいわ」
佐藤刑事が高木刑事に言った。
「もう、みれないと思いますが・・・。しかし、今回の事件はなんだったんでしょうね」
高木刑事は目暮警部に質問した。
「わしの警察官人生で、いちばん疲れた事件だったよ。もうこんな事件はたくさんだ」
目暮警部はやつれた声でそう話した。
「総監、2番に外線です」
「OK、すぐ出るわ」
警視庁警視総監室。こんな時に電話をする人は、一人しかいない。
「こんにちわ。桜田総監」
「愛野さん、この前はご苦労様」
「なんか、いろいろと今回のことをうやむやにしてくれたそうで・・・」
美奈子は桜田総監に感謝した。
「そうね、あなたたちの正体が万が一ばれるようなことがあったら逆に大変ですもの。ごまかすのが大変だったわ」
「また、何かありましたら電話しますね」
「えぇ。今度はプライベートで会いましょうね」
そういって、桜田総監は電話を切った。
「ほ〜、セーラー戦士??そりゃまた大変やったな・・・」
平次がコナンに電話をかけた。
「結局警察はうやむやにしちゃったけどな」
「そりゃそうやろ。たちの悪いいたずらにした方がメリットは高いからな」
平次が妙に納得する。
「セーラー戦士が警察とつながっていると言うことが分かっただけでもよしとするか」
「そうやな。ほなまた何かあったら、連絡くれな」
「あぁ、わかった」
そう言って、コナンは電話を切った。三者の長い3日間は終わりを告げた。
(完)
セーラーチームへの予告状あとがき みなさま、こんにちわ。今回の作品はいかがでしたか??警察とセーラーチームの連合軍とキッドとの駆け引き、いかがだったでしょうか??さて次回作ですが、今度はサクラ大戦のメンバーが、時空のゆがみで平成の今の世に飛ばされたら?という風な作品を考えてます。すこし時間が掛かるでしょうが楽しみにしていてください。では・・・。
train
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