迷い込んだ乙女達


最終章 新橋での決闘


 JR新橋駅付近は大混乱に陥っていた。セーラーチームは、隣の汐留にある日本テレビの屋上カメラが、降魔が次々と一般市民を襲っている光景がブラウン管に映っていることが信じられないという表情で、司令室のテレビをじっとのぞき込んでいた。
「麻布十番から新橋へ向かうには、近い交通機関を使っても、30分以上掛かるわ!!」亜美がすぐにポケコンで時間を割り出した。都営大江戸線麻布十番から一旦大門に出て、都営浅草線新橋までというルートが最短。30分以上掛かるのでは、一般市民にますます被害が広がってしまう。テレポートを使ってしまったら、エネルギーを無駄に使ってしまう。しかし、行かねばならない。セーラーチームはジレンマに陥っていた。
「なんで、あんなのが彼女たちと一緒に付いてきたんだ!?」
まことが叫ぶ。
「恐らく、彼女たちの霊力に共鳴して出現したんだと思うわ」
レイが冷静に現状を分析した。
「新橋や汐留は日本鉄道の発祥地だから、特殊な何かが働いたのかもしれないわね」
ルナがため息をつく。
「ねえ、何あれ??」
突然テレビの画面に大きなロボットが映し出された。
「光武だ!!!川崎からかっとんで来たんだ!!!」
アルテミスがギリギリの発言をしていた・・・。

 桜組の乙女達は、新橋に降魔が現れたと聞いたとき、すでに都心に向かって羽田空港周辺にいた。技術者の人が「何か役に立つかもしれない」と、いろいろな周波数に合わせられる無線機を、機械の強い紅蘭機に積み込んでいた。そしてこの時は、警視庁の周波数に紅蘭の無線機は合わされていた。
「警視庁各局、警視庁各局。西新橋で得体の知れない化け物が通行人を襲っているとの通報が多数寄せられている。付近のパトカーは至急急行せよ」
警視庁の緊急無線が紅蘭機にも響き渡った。
「えらいこっちゃ〜〜。降魔かな?」
紅蘭は降魔かもしれないと直感した。
「紅蘭どうしたの??」
アイリスが紅蘭に問いかける。
「新橋に化け物が出現したらしいんや。急ぐで〜」
「了解!!」
全機は一斉にスピードをあげ、新橋へと向かった。

 桜組の乙女達が新橋駅に着いたとき、降魔は暴れまくっていた。
「さくら、カンナは奴の後ろへ!!あとは私に付いてきて!!」
隊長代行を務めているマリアは、冷静に戦況を見極め、仲間達に指示を出した。
「でや〜〜〜!!!」
すみれのなぎなたが降魔に振られる。降魔は攻撃に驚き、一瞬たじろぐ。
「わっ!!!」
カンナに降魔から攻撃が仕掛けられた。どうやら相手も必死のようである。
「カンナさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ。あたいはそんなやわじゃないさ!」
カンナはさくらにそう言った。
「まさか、この世界に来てまで降魔とやり合うとは思わなかったわ」
マリアがやや残念そうに語った。
「食らえ!!ミサイル攻撃!!」
紅蘭機からミサイルが降魔に向かって発射される。全弾が命中する。
「なんやこいつ!!立ち向かってくるで!!」
紅蘭はタフな相手に苦戦を強いられた。
「相当タフな降魔だわ。これは骨ですわ!」
すみれが珍しく妙なことを言った。それだけ、桜組の彼女たちも、ある意味アウエーという状況の中、苦しい戦いをせざるを得ないのだ。
「マリアさん!状況は五分と五分。何とか降魔を新橋からどこか広い場所に・・・!!」
さくらはマリアに降魔をどこかへ誘い込むように頼んだ。
「無理ね。これだけ高層ビルが乱立している地域じゃ、降魔にうまく隠れられて、不意打ちを食らうのが落ちよ!」
マリアはどこまでも冷静に戦況を把握していた。新橋、汐留周辺は再開発が進み、超高層ビルが乱立しているところ。ビルの陰に隠れられてしまっては、横から不意打ちを食らいかねないのだ。
「しかし、どうしたものか・・・」
さすがにマリアもそこまでは読んでいるものの、21世紀の東京という不慣れな場所で、効率的な作戦が出来るかというと、答えは否。自分たちのいる帝都・東京であれば、隅から隅まで地図が入っているが、21世紀の首都・東京では、自分たちの知っている帝都とは比べものにならないくらい、風景が違う。練習でもしていれば別だろうが、光武が復元されたばかりでしかも、高層ビル群のど真ん中では、思うように戦えない。
「こんな大きなビルの真下で、こんな面倒なことになるとはな」
カンナが息を弾ませ始めた。みな今日はスタミナ勝負ができない。不慣れな環境の元で普段通り戦えなんて言うことは不可能だ。
「一体どうしたら・・・・」
マリアが考え始めたその時、都営浅草線新橋駅から10の輝く光が集まってきた。

「さあ、急ぎましょう!!」
ほたるが浅草線新橋駅の改札を飛び越え、ちびうさが自動改札機の下の部分をスライディングで通り、まことが自動改札機をぶっ壊し・・・など、不正乗車ギリギリの行為をセーラーチームはしながら、地下ホームから地上へと駆け上がる。そんな光景を、東京都交通局の駅員は呆然としながら、彼女たちを見送っていった。
 新橋駅周辺はまさに、地下鉄サリン事件やあのニューヨークの世界貿易センターが崩壊したときのような惨状となっていた。救急車が走り回り、消防隊員がかけずり回り、路上に広げられたシートの上で、たくさんの人々が血を流して手当てを受けていた。警察官は手を拳銃に回しながら、被害者の情報収集にあたり、女性は悲鳴を上げながら血だらけになって、助けを求めている。まさに戦場に来たのかと錯覚させるような状況であった。
「ひどすぎる・・・」
ほたるが思わずそんな言葉を漏らした。
「みんな変身よ!!」
ルナの一言で、全員変身した。そして、降魔のいる方向へと走っていった。

 桜組の面々は慣れない戦闘ながらも何とか持ちこたえていた。しかし、すでに全員の霊力は下降していた。力尽きるのは時間の問題であった。
「最悪の展開だわ・・・」
マリアがつぶやいた。
「マリアさん、あの光は・・・!?」
さくらが唐突に光の方角に目を向けた。
「スペースソードブレスター!!!」
ウラヌスの必殺技が降魔に直撃する。
「21世紀の東京をずいぶん引っかき回してくれたわね!!」
ヴィーナスが降魔に捨てぜりふを吐く。
「あんたの名前は知らないけど、こんな事をするなんてテロリスト並だわ!」
ネプチューンが珍しく怒る。
「21世紀の東京を守る乙女!!愛と正義のセーラー服美少女戦士!!セーラームーン!!」
「そしてセーラーちびムーン!!!」
「月と全日本国民に変わって徹底的におしおきよ!!」
「私たちセーラー戦士も許さないわよ!!」
「セーラー戦士・・・?」
さくらはキョトンとした。
セーラーチームは次々と必殺技を出し、降魔をへとへとにさせた。
「皆さん今です!!」
マーキュリーが桜組にトドメを指すよう促した。
「アイリス!!」
さくらがアイリスに何かを伝えた。
「うん!!エ〜〜〜〜イ!!!」
アイリスの念力でさくら機が投げ飛ばされる。降魔に向かって一直線、そして・・・。
「うぉ〜〜〜〜〜〜!!!!」
さくら機の刀が降魔を貫く。降魔は雄叫びをあげて、爆発した。

 光武全機は、霊力が尽きてしまい、動かなくなってしまった。セーラームーンの力で町は元に戻ったものの、けがをした通行人などは相変わらず救急車で都内各地の病院に搬送されていった。桜組の五人の乙女達も救急車でそのまま東京警察病院に搬送された。
「まるで、あの9.11ね。こんなこと、二度と起こしちゃいけないわね」
マーズがたくさんのけが人を見てふとそんなことを漏らした。
「そうだな。もう起こしちゃいけない」
「うん!!」
ジュピターとセーラームーンも同調した。こうして、新橋での戦いは奇跡的にも死者ゼロという結果になったものの、800人がけがをするという、日本の犯罪史上まれにみる数となった。

 警視庁は今回の降魔出現事件を「新橋破壊生物襲撃事件」と命名し、後始末に追われた。若木も後始末に駆り出され、新橋で他の捜査員に指示を出していた。
「よく死人が出なかったな・・・」
新橋駅前や、JRと都営地下鉄の改札口やホームには、現場から血だらけになって逃げてきた人が多数いたためか、おびただしい血のりがべっとりと付いて、事件から一日以上経っているのに、あたり一面血の匂いがまだ漂っていた。今日は新橋駅前は閑散としている。JRと浅草線の新橋駅は一日閉鎖され、ゆりかもめも汐留で折り返し運転を行っているため、誰もここに来る人はいないのだ。
「あ、若木さん」
「やあ、美奈子くん」
美奈子が若木を心配して、新橋にやってきたのだ。
「凄い光景・・・。新橋じゃないみたい」
「全くだ」
新橋駅前に広がる血の海に、美奈子も動揺した。
「これが、戦争というものなのかもしれないな、美奈子くん」
「そうね・・・。まるでニューヨークのあの現場にいるみたいよ」
美奈子は耐えきれなくなり、そろそろ休憩に入る若木と一緒に、汐留の日本テレビに向かった。
「それにしても、彼女たちは向こうの世界であんな化け物と戦っているわけだ。すごいよ」若木は桜組の乙女達に感心した。
「そうね。もうあんなのと二度と戦いたくない」
美奈子もそう言った。

 東京警察病院に搬送された桜組の面々は、2日ほど入院した後、無事に退院した。そして、面々を亜美が迎えにいった。
「みなさん、元の世界に帰られる目処がたちました」
「本当ですか??」
桜組の面々は喜んだ。

「せつなさん、準備OK?」
「OKよ」
芝公園内でせつなは時空の扉を開き、桜組の面々を待っていた。
「あ、来た来た」
ちびうさが桜組の面々がくるのを見つけた。
「私たちが元の世界に帰れるのですか??」
マリアが聞いた。
「この扉の向こうはあなた達の元の世界です。すでに光武はこの扉の向こう側に移しました。さあ、速く元の世界へ!!」
「水野さんでしたね??」
さくらが亜美に聞いた。
「はい?なんでしょう??」
「あのセーラー戦士達は何者なのでしょう??あなたも警察官なら分かるでしょ?」
「いえ、全然・・・。上の方の人は知っているかもしれませんがね」
亜美は質問をかわした。
「そうですか・・・。またお会いしたいです」
「私もですよ」
さくらと亜美は談笑した。
「お二人さんはいつ仲良くなったんですか??」
ほたるが聞いた。
「内緒よ」
亜美がほたるに言った。
「ではみなさん、お元気で!!」
桜組の乙女達は自分たちの世界へと帰っていった。そして静かに時空の扉が閉められた。

 大帝国劇場では大混乱になっていた。帝都の守りもそうだが、舞台が休演に追い込まれるという前代未聞の状況となっていた。東大寺副指令は米田指令に辞表を出しに支配人室に入った。
「失礼します」
やつれた表情で副指令は米田に会った。
「なんだい??」
米田は副指令に優しく問いかけた。
「これを・・・」
「なんだいこれは??」
「辞表です・・・」
米田は仰天した。
「おいおい、あれは不幸な事故だぞ。君が責任を取ったところで、桜組が戻ってくるわけではないぜ」
「分かっています」
「ん〜〜・・・」
その時、支配人室に電話が鳴った。米田は電話を切ると副指令に言った。
「どうやら、おまえさんが辞める必要はなくなったようだ」

「は〜、疲れた・・・。タイムスリップなんかするもんじゃない・・・」
マリアは疲れ切った表情で、劇場の寮にいた。
「結局なんで私たちは飛ばされたんでしょうね??」
「光武が暴走したんでしょう・・・」
すみれとさくらがそう話したが、もうみな疲れ切っていた。副指令に散々怒られたのは省略しよう。
「にしても、あのきれいなお姉さんなんだったんだろう・・・」
アイリスが言った。
「さあね・・・」
「さくら〜、おまえ知ってるんじゃねえか??」
カンナがさくらに聞いた。
「ナ・イ・ショ」

(完)
あとがき


どうも〜。三作目は大変でした。ありとあらゆる知識をフル活用しました。その間に夏風邪でダウンしてしまい執筆は止まるし・・・。次回作は全くの未定です。長編か短編かわかりません・・・。


戻る