<01>


―――小鳥や小鳥 籠の小鳥 紅い籠から空見ては

                 あの人恋しと さえずり嘆く―――



今日も道端から聞こえる、子供達の歌声。



―――小鳥や小鳥 籠の小鳥 紅いべべ着てさえずれば

                 あの人追い掛け 空へと還る―――



「エドワード、いつもの客が来たよ」
ぼんやりと格子越しに子供達を見つめていたエドワードは、背後から掛けられた声に
振り返る。
「今行くよ」
そう返事をして立ち上がろうとすると、ふと格子の外に人影があるのを見付け、
エドワードは足を止めた。

自分を囲っている上客と同じ軍服を身に纏った男。

肩の階級章で、彼が少尉である事が分かる。
「少尉さん、そんなトコで何してんの?」


それは、ほんの気まぐれ。
見慣れない顔だったから、からかってみたかっただけ。


……本当に、たったそれだけ。


エドワードが声を掛けると、男がこちらを振り向く。
だが格子越しに声を掛けられた事に気付かず、辺りを伺う。
「少尉さん、ここだよ、ここ」
二度目でエドワードの存在に気付いた男は、格子の傍に歩み寄った。
「アンタも一時の夢を買いに来たの?」
エドワードは紅い袖でくすりと笑った口元を押さえる。
「そうだと言ったら、お前が遊んでくれる訳?」
男はからかうように笑ってみせる。
「…オレは、駄目。遊ぶんなら、他の子にしなよ」
男の人懐っこそうな笑顔に、エドワードは一瞬瞳をしばたたかせるが、意地悪く
紅い唇を吊り上げて目を細める。
「何で?」
「オレはね、上客が付いてんの。
 …この身体は、もうその人の物だからさ」
そう言ってエドワードは緩く編んで肩に垂らされた金糸をそっとかき上げる。


白い首筋に落とされた、所有の朱印。


それを見た男は、不意に小さく笑った。
「…悪いけど、生憎ここに来たのは仕事なんでね」
男は懐から煙草を取り出してくわえると、にっ、と悪戯っぽく口端を上げた。
「……ッ」
きゅっと、エドワードの形の良い眉が吊り上がる。
「上官がここの馴染みで…、俺の仕事はその護衛。最近物騒だからな」
「…だったらこんな所じゃ無くて、別の所で待てよッ」
「そんな事言われても俺だって…」
男が子供の我儘にはうんざりだと言わんばかりの表情をした、その時。
「エドワード!いつまで支度に手間取っているんだい!あの方がお待ちだよ!」
エドワードの背後から女の声がした。
「今行くッ!」
エドワードはそう答えてから男の顔を一睨みして小さく舌を出し、ひらりと
紅い裾を翻しながら格子の奥に姿を消した。
その歳より幼い仕草に男は苦笑を零す。


その視界の端を、エドワードの紅い着物と自分の上官の珍しく柔和な笑みが
掠めていった。