「・・・準備出来たよ」 エドワードが奥から姿を現す。 男は煙草を地へ落とすと、格子の中へ目を向けた。 曼珠沙華のように鮮やかな紅色をした、丈の短い着物。 ふわり結ばれた金魚の尾のような帯。 いつもは緩く編まれている豊かな金糸は頭の高い位置で一つに括られ、頂には涼しげな 紅い硝子玉で出来た簪が刺されていた。 常と違うエドワードの姿に、男は微かに眩しそうに目を細める。 「似合う?」 エドワードは艶っぽく微笑うと、帯をはためかせてくるりとその場で回ってみせた。 「・・・ああ、似合う」 男はそう言うと柔らかく微笑う。 その表情にエドワードは僅かに頬を紅色に染めた。 「さぁ、行こうか」 「うん・・・」 エドワードは格子まで歩み寄るが、ふと躊躇うように言葉を濁らせる。 情人の許しがあるのだとはいえ、やはり一人で女将のいる入口を堂々と出てゆくのは 気が引けるのだろう。 男はエドワードの態度に小さく笑うとこつりと拳で格子を叩いた。 「じゃあ・・・お前の錬金術でこれ、壊しちまえば?」 男の言葉にエドワードは驚いたように琥珀の瞳を瞬かせる。 エドワードが錬金術を使えるという事は自分の情人以外に誰も知らない筈だった。 ・・・いやしかし、あの人が信頼を置いている部下であるこの男ならもしかして自分の事を 聞いているのかもしれない。 エドワードは表情の読めない男の顔を見つめて暫し思案する。 「あの人の許可もあるんだし、格子は元通り戻しとけばいいだろ。・・・いいじゃないか、 今日は祭りなんだし」 男は何でも無い事のようにそう言って、やや高い位置にいるエドワードを見上げた。 「降りて来いよ。・・・受け止めてやるから」 エドワードはその言葉に心を決めたのか、唇を結んだままぱちりと両手を合わせる。 長い袖に隠れて見えなかった鋼の義肢と白い生身の手が格子に触れると、眩い薄蒼の 光が辺りを照らした。 エドワードが手を解くと光が止み、格子は跡形も無く姿を消す。 「・・・行こうぜ」 エドワードは紅い着物をひらりとはためかせると、ふわりと男の腕に飛び込んだ。 |