I Wish…You



二階のベランダで大きなこっちの月を見ながら、最後のタバコに火を点ける。
教えられた通り、深く息と共に煙を肺に…。

「…けほっ…けほっ…」

言われた通りやってんのに何時までたっても馴れない。
やっとの思いであんたの吸ってたのと似たヤツを見つけたってのに、まともに吸えない
うちに一箱終わってしまった。
…また…『父さん』に頼まなきゃ。
結局吸えなかったタバコは灰皿に置いて部屋の中に入れる。
オレだけの空間にあんたを染み込ませる為に。

『タバコは無理に吸うもんじゃねーよ。』

付き合い始めた頃、タバコに興味を持ったオレにあんたは緩い顔で言った。
…オレに吸って欲しくないのは分ってたけど、あんたと一緒に仕事サボって屋上に
寝転んで同じタバコふかしたかったんだよ…。

今はあんたの事を忘れない様に吸ってる。

忘れられる筈が無い。

…だけどあんたと肌をすり寄せて、抱き合って過ごした時間があんまりにも短すぎて
…不安なんだ。


今オレの手のひらの中にあるのは、あんたにあげるはずだったライター。
オレのかわりに持ってて欲しくて、刻み込んだオレの言葉。
あんたに届く日は来るんだろうか…。


『大将…俺はここで待ってっから。ちゃんと帰って来いよ。』


「…あぁ。帰ったらこいつを叩き付けてやるさ…。
 あんな恥ずかしい思いして彫らせたんだから…。
 少尉に思い知らせてやんなきゃ割に合わないぜ。」

ライターのオイルタンクを引き出し月光にかざす。
少尉もあっちの月を眺めてると良いなと思いながら…。



―ジャン・ハボックに出会えたことに感謝する。
このまま同じ瞬間(とき)を重ねていけるように…願う。―




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紅鎧さんからのコメント。
「エドが彫った言葉は、一番下の部分にものすごーくちっちゃーく
彫られています。照れ屋さんですから(笑)」
だそうです(笑)