+ 甲斐性ナシと意地っ張りと思ひ出ライター +   紅鎧 成斗





色違いの四角いタイルと丸いタイルが敷き詰められた公園で、真っ赤なコートに金色の
三つ編みの小動物を見つけた。
ベンチに座り何かを食べているようだ。
「悪い、ちょっと休憩な」
部下を引き連れて巡回中だった青年は、足をブラブラさせて目の前を走り回る子供と
犬を眺めていた少年の愛称を呼ぶ。
「大将!!」
軽く手を上げ手首を揺らす。
程無く蜜色の視線がハボックのヒラヒラと動く手とヒヨコのような頭部を捉えた。
色彩鮮やかなその少年は、ジグザグと動き飛び跳ねながら高く蒼い塔を目指し前進
してくる。
ハボックはエドワードの魂胆を読み取り自分の足元を見てみる。
ちょうど丸いタイルの上に立っていた。移動してやるか、からかってやるか・・・白い歯を
出し笑った瞬間だった。

「しょーーい!!!」
「ぉわっっ!!大将!まった!」


―――― ボフッ ――――


エドワードはハボックに両手両足を絡めしがみ付いた。
結構な衝撃にさすがのハボックもよろめき丸いタイルの外へ出てしまった。
「少尉!退くの遅い!!」
エドワードは『ゴール』へ両足を置くと両手をそのままに膨れっ面をハボックに向けた。
「ったく!大体オレがこのタイル目指して来てるのくらい分かれっつーの!!それと!」
エドワードは背伸びをしてハボックの上着のポケットに手を突っ込んだ。
「なっ、なんだ?」
「これ!オデコに当たった!スッゲー痛かったんだけど!マッチにしろ、マッチ!」
エドワードの右手にあるのは昔々の思い出の品。
何てことは無い使いやすいから持っているだけのものだ。
「マッチはキツイなぁ・・・新しいのに替えるとしますかぁ」
「本気にすんなよ!!これまだ使えるんだろ?!」
眉を顰め困惑の表情のエドワードの頭をグシャグシャと撫でて義肢からライターを奪う。
「これ、初めて付き合った彼女に貰ったもんなんだよ。嫌だろ?そういうの」
ハボックは近くにあったゴミ箱へライターを放り投げた。
「何やってんだよ少尉!」
意外な一言だった。
普通昔の恋人からの贈り物を今でも使っていると嫌がるものなのだが・・・。
少年はゴミ箱に頭を突っ込み見事に納まってしまったライターを探している。
「大将!汚いだろ〜!」
両脇を抱えゴミ箱から引き剥がすとエドワードの手には『思い出の品』が握られていた。
「あんたがもったいない事するからだろーが!!」
振り向きざまに睨まれ、動揺するハボックは頭をかいて眉を八の字にした。
そんな青年をよそにエドワードはタイル張りの地面にライターを置き、両の手首を回した。
深く深呼吸をして・・・・
そしてパンッと両手を合わせた。


―――― バチバチバチッ ――――


長年使っていた傷や凹みだらけのライターが、エドワードの手によって真新しい姿に
変わった。
いつもハボックがそうしているように片手で蓋を開けると、オイルタンクを引っ張り出し
突きつけた。
「数年前に店で売ってたときまで戻してやったから、もうちょっと使っとけよ」
そこには元カノとハボックのイニシャルが入っていた筈だが、キレイさっぱり消えていた。
『新品同様』と言う訳だ。
「そのうちオレがもっとカッコイイの買ってやるから!それまで思い出に浸ってろ、
 甲斐性ナシ!!」
ハボックは渡されたライターをひとつに戻すと、胸ポケットにしまいながらこう言った。
「でも、コレ、捨てられなくなっちまったな〜」
エドワードはまた怪訝な顔をする。
「何でだよ!」
「このライターは、大将が錬成したもんだろ?」
「それがどうしたんだよ?」
ハボックの大きくて温かい手が柔らかな金糸に付いたゴミを優しく払う。
「俺の中では、大将が作ってくれたと一緒って事ッスよ」
「・・・・作ったんじゃない・・・再構築・・・だって!」
エドワードは眉を顰め口を尖らせはじめた。
そんな少年をあやす様に、ハボックはしゃがみ込んでコートに付いた汚れを払いながら
言う。
「俺の中ではって言ったろ?こいつがライター引退したら今度はお守りだな」
垂れた碧い空が細くなった。
青年の笑顔は何にも変えがたい少年の宝物のひとつ。
見せられたらお手上げなのだ。
「少尉、ライター貸して」
言われたままにポケットからライターを出すと、エドワードは義肢の人差し指を錬成し
指先を細く尖らせていた。
「何するんっすか、大将??」
エドワードはライターを左手に持つと表面になにやら書き出した。
2〜3分たっただろうか。
作業が終わりエドワードが自分の指を戻し、ハボックの上着のポケットに無理矢理
押し込んだ。
「少尉!後でゆっくり一人で見ろ!だから一人になるまでタバコ禁止!分かった?!」
「へいへい、分かったッス・・・我慢すんのもシンドイから、早いとこ司令部帰って
 いいっすかね?」
立ち上がってエドワードと共にすっかり待たせてしまった部下の待つ場所へと移動する。


(・・・・今日は通しだし、仮眠室でじっくり見ますかね〜)


胸ポケットに押し込められた言葉は
少年の精一杯の思い



――― あんたの笑顔は好きだぜ・・・・  割とな! ―――




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腹ペコ大将!の紅鎧成斗さんのサイトで
葛城が1,000hitを踏んだ記念にリクさせていただきましたv
ほのぼのハボエド〜v
最後にさりげなくライターに言葉を刻む豆が可愛いです。
ありがとうございました!








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