+ 君のとなり-1 +





五月にしては、陽射しの強い日だった。
「暑ぃー…」
軍司令部からやや離れた場所に、見渡しの良い、小高い丘がある。
丘の上は緑地が広がっていて、ハボックは此の場所を絶好のサボり場所にしていた。
シャツの襟ぐりに手を引っ掛け、ぱたぱたと中に空気を送り込む。
木陰に避難してからいつものように煙草に火を点けた。
煙を吐き出すと、青空に雲が溶け込んで行くように見える。
「閑かだねぇ…」
ごろん、と草が背中に付くのも構わずに草の上に寝転がった。
ずっと、こんな日が続けば良い。
戦争も内乱もテロも革命も起こらないまま、毎日こんな青空を眺めながら暮らしていたい。
そして、隣には……。
「うわ。何考えてんだ…俺。……変態か…」
隣には、三つ編みのあの子さえ居てくれたら、それで良い。
そんな事をうっかり考えてしまい、照れ隠しに両手で顔を覆ってから前髪を掻き上げる。
ふと丘の麓に目を向けると、指の間から金髪の誰かが、割りと急な坂道を登ってくるのが
見えた。
「…誰だ…?」
むくりと体を起こし、立ち上がって坂の頂上まで移動する。
えっちらおっちら登って来るのは金色の三つ編みをした可愛いあの子で。
「よーお。大将どうしたー?」
遠く声を掛けると、三つ編みの子は声のした方角に顔を向けた。
「やっぱ、ここに居たぁ…」
エドワードは、ぜは、と肩で息をしながら手を貸してくれと腕を差し出す。
その掌を掴んで引っ張り上げると自分の胸に引き寄せた。
「あー…結構しんどかった…」
ぺたん、と草の上に腰を下ろしぱたぱたと自分の掌で風を作る。
「大将はリーチ短いからな。大変だったろう」
「うっさい、少尉。此処でサボッてたの、大佐に言い付けるぞ」
「…それは勘弁」
苦笑を浮かべて、エドワードの隣に腰を下ろす。
頬を膨らませて拗ねた顔で自分を見上げる金色の瞳。
まるで上等な蜂蜜のようだ。
「今日はどうした?」
額に滲む汗を指先で掬い、軽く音を立てて額に接吻を落とす。
彼は一瞬くすぐったそうに瞼を閉じて、くすりと笑った。
「別に…会いたくなっただけ。
 こんな良い天気だから、きっと此処でサボッてんだろうなーって思ってさ」
「あー…。当たりってワケだ。良く解ったな」
思わず苦笑を浮かべ、エドワードの頭を撫でる。
全く、この子は何て可愛い事を言ってくれるのだろう。
『会いたくなったから』だなんて。
「此処、良い場所だしね。人も少ないし…今度、弁当持ってピクニックでもする?」
何とも可愛い提案をするエドワードに、ハボックは微笑を浮かべてその愛らしい唇に
キスをした。
「…良いね。次の日曜にでもするか?」
エドワードはにこっと笑って、ハボックの肩にこつん、と額を当てて嬉しそうに腕を掴む。
そのまま二人は暫らく青い空と流れる雲を眺めていた。



―来週の日曜日、俺は待ち合わせより30分早く来よう。

  そして煙草を吸いながら、少し急な坂道をえっちらおっちら

  登ってくる君を見つけて、そっと笑う―



そんな日が、ずっと続けば良い。








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