「デートしようよー」 穏やかな午後の昼下がり、ぬくぬくとベッドで毛布に包まれながら非番の日を堪能 していたハボックは、自分の頬をぺたぺたと叩いて外出を迫る子供に、ほとほと困り 果てていた。 「…お前、どっから入った」 「ドアから」 「…鍵掛けてただろ」 「鍵無しドアに錬成した」 「…俺のアパートの住所、どっから聞いた」 「ヒューズ中佐に」 「………あの髭、ブッ殺す……」 「なぁー、デートしようよー」 「……俺は眠いんだ。帰れ」 ハボックは手の甲で『しっしっ』とジェスチャーをしてから、頭からすっぽりと毛布を被り、 現実に引き戻そうとする小悪魔の囁きをシャットアウトする。 『遊ぼうよー』だの『デートしようよー』だの言いながら毛布をぐいぐい引っ張る子供に 負けじと、亀のように自分の身体に毛布を巻き付けて再び眠りを貪ろうとするハボック。 ぱちん、と何かを弾くような音がした。 あ、やばいなとハボックが思った瞬間に青白い錬成反応が毛布に広がり、今まで 『毛布』と呼ばれていたモノは膨大な量の毛玉へと姿を変える。 安眠するための道具を奪われ、不機嫌そうな顔をしたまま仕方無く身体を起こした ハボックは、じとっとした視線を恨めしげにエドワードに向けた。 「…遊ぼうよぅ…」 エドワードは仔猫が甘えるように、じっと上目使いでハボックの顔を見上げる。 「断る。大体明日デートする約束してたじゃねーか」 そんな顔したって無駄だ、と巨大な毛玉と戯れながら、ハボックは気の無い返事を 返した。 「やだ、今日も」 頬を膨らませ、ベッドをぱむぱむ!と叩いて抗議するエドワードの頭を大きな掌で 鷲掴みにしたハボックは、そのまま握力を生かしてギリギリと締め付けて行く。 「調べる文献があるって言ってたな、確か」 「いたたたた!少尉、痛い痛い!」 締め付けていた掌の力を緩め、今度はそのままエドワードの頭をぽん、と撫でた。 「我儘言わずに、今日は大人しく読書に専念しろ」 ハボックは何か言いたそうに自分を見上げるエドワードの身体を無理矢理担いで 部屋の外へと放り出す。 「…優しくない!」 地面にべたーっと腰を付いたエドワードが、構ってもらえずに機嫌を損ねた子犬のように ギャンギャン吠える。 そんなエドワードに喧しいと目線で訴え、郵便受けに入っていた新聞を手に取りながら、 ハボックが鼻で笑った。 「俺は別にそんなに優しい男じゃねーよ」 ハボックはエドワードの腕を取って立たせると、今にも泣きそうな顔をしたその頬に 小さなキスを落とす。 「…でも、お前にしか見せてない。こんな俺は、な」 そう言ってアイスブルーの瞳が微笑う。 「また明日な。エド」 小さい少年の頭を何度か撫でると、相手の反応を待たずに扉を閉めた。 本当の俺は優しくも何とも無いさ。 司令部の奴らや、町の人達には、ただ『優しい振り』をしているだけで。 だけどお前だけには見せてやる。 お前が本当に好きだから。 それが嫌なら、離れて行けば良いさ。 「あー…俺って本当…」 ヤサシクナイ? |