+ ダストシュート +





気休めなんて必要無い。
ハッキリ言ってくれれば良いんだ。

「お前はもう必要無い」と。

そう言ってくれれば、どんなに楽か。


あんたらに何が解るんだ。
俺の何が解るんだ。
見ろよ、この体を。
自分一人じゃ起き上がれない。
排泄だって看護婦任せだ。

…今だって、ほら。

そっちから近付いて来てくれなければ胸倉だって掴めやしない。
大佐、あんたには解んねえだろ。
俺はずっとあんたが羨ましかったんだ。
あんたは軍人として、1人の大人として、ちゃんと大将を支えてやれてる。
やり方に多少の問題があったとしても、あんたはあんたなりにエドワードを見守って、
最善を尽くしてきた。
それをずっと横で見てきた俺の気持ちが解るか?
ただ、眺めることしか出来なかった俺の気持ちが、あんたに解るか?
俺はアイツよりも年上で、体だってデカイのに…何もしてやれないんだ。
あんなに小さな体なのに、アイツを寄り掛からせてやる事だって出来ないんだ。
解んねえだろ、あんたには。
自分の足で立って歩けるあんたには、今の俺の気持ちなんて。

――畜生。

畜生、畜生。

追いついて来いなんて気軽に言うな。
立てないんだ。
歩けないんだ。
動けない軍人が、何の役に立つって言うんだ。
ふざけた話だ。
ふざけた話だけれど、今はその言葉が何よりも温かい。


『追いついて来い』


何よりきっと、アイツも同じ言葉を俺に言う筈だから。

「…ちく、しょ…ォ…ッ…」

誰も居なくなった病室で、誰にも遠慮せずに俺は泣いた。
ガキみたいに、両手で顔を覆って。
こんな弱い自分はもううんざりだ。
だから今だけ弱音を吐いたら、またいつもの俺に戻ってやる。

大丈夫。

まだ俺は大丈夫だ。

俺はまだ駄目になりはしない。

視線を移せば、ハンガーに掛けられている着慣れた軍服と、病室の床に置かれてある
軍靴が視界に入る。
あの上着を羽織って、あの重苦しい靴を履いて、俺は戦場を駆けていた。
立てないし、歩けないし。
自分の事すら自分で出来無い。
追いつけるのかさえ解りはしないけれど。


くだらない弱音はごみ箱に捨ててやろう。




靴紐はまだ、切れちゃいない。