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ひとつめの言葉は夢
眠りの中から
神様の腕の中へ 翼を仰ぐ





ぼんやりと傘のかかった月を眺めながら小さく小さく口ずさむ。
昔、彼が歌ってくれた御伽噺の中の名も無い歌を。

「俺に解る言葉で歌えよ」

その言葉にエドワードは振り返る。
さっきまでベッドで一緒に寝ていた筈の男が、後ろに立っていた。
この世界での、新しい恋人。
いや、恋人と言うには語弊がある。

「…解らないなら、別に良いじゃん」

向こうの世界に残してきた恋人と、同じ顔をした男。
懐かしさと恋しさに、手を伸ばした。
まるで子供が、手に入らない玩具を欲しがるように。

「お前の事をスパイじゃないかって疑ってる上層部の奴だって居る。
 誰に聞かれているか解らない場所で、違う国の言葉を話すな」

ハボックと良く似た風貌をしたこの男は、中身は似ても似つかなかった。
どこか人を見下しているように見える、冷たいブルーの瞳。
それでも、エドワードは男を手放せずにいる。
どんなに酷く身体を扱われようとも。

「アンタってさ」

カーテンを引いて窓から差し込む月明かりを遮ってエドワードが呟く。

「ホント、嫌な奴だよね」

口元に微かな笑みを浮かべて、エドワードは男に口付けをせがんた。
男はエドワードの腰を抱いて引き寄せ、その唇に噛み付くような口付けを与える。
吐息が十分に混ざり合ってから、男の唇が離れていった。
エドワードの腕を引いて乱暴にベッドに押し倒し、そのまま上から覆い被さる。


「…お前も十分、ムカつく餓鬼だよ」


その声が。
その指が。
泣きたくなるほどに、エドワードの胸を締め付けた。


「……愛してるって言ってよ」


男の舌が、エドワードの身体を這い回る。


「………嘘でも良いから、言って」


涙の混ざった小さな声は、ベッドの軋む音に掻き消された。






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夜の帳 月の雫
いつか逢える 予感だけ