「少尉って、こんなの吹けるんだ?」 久しぶりに訪れたハボックのアパートで寛いでいたエドワードが、ふと呟いた。 「何が?」 「コレ」 キッチンでコーヒーを入れていたハボックが顔を出すと、エドワードは手にした物をハボックに 見せる。 鋼の掌の中に収まっているのは、鈍色に光るブルース・ハープ。 「少尉がこーゆーのやるなんて、意外」 エドワードがそう言うと、ハボックは『ああ』と小さな声をあげた。 「こう見えて結構上手いんだぜ?」 貸して、とエドワードの掌から銀色の楽器を受け取り、大きな掌で包み込んで口元に当てる。 彼が息を吐いたり吸い込んだりする度に、その楽器は豊かな音を奏でた。 実際、ハボックの演奏技術はその大柄な体に似合わず確かなもので、エドワードは自分の 恋人が持つ意外な一面を目の当たりにしたのだった。 カントリー調の曲からブルースに変わり、音が途切れるとハボックが唇から楽器を離す。 「……どんなもんでしょ?」 悪戯っぽく笑ったハボックに、エドワードは惜しみない拍手を送った。 「すっげー!少尉マジ上手いじゃんか!」 ベッドの上で足をバタつかせて興奮するエドワードの頭を撫で、ハボックもその隣に腰を下ろす。 「でも意外だった。少尉って芸術方面に疎いような気がしてたからさー」 「なんだと大将、こんにゃろー!」 エドワードの言葉にハボックは苦笑を浮かべながら傍らの小さな体をベッドに押し倒した。 腕の中でじたばたともがく子供の頬や額に口付けを繰り返すと、エドワードはくすぐったそうに 笑う。 「わわっ!やめろよー変態!!」 何度も軽いキスを繰り返すと、次第に腕の中の抵抗は治まって。 口付けの合間から濡れた音が零れる頃には、二人の吐息と衣擦れの音しか部屋の中には 存在しなくなった。 「ん、…ぁ…」 ハボックの熱が、エドワードの体を侵していく。 エドワードの肉壁も熱を帯びはじめ、互いの温度差が無くなると二人はゆっくりと溶け合う行為を 楽しんだ。 ハボックの唇がエドワードの体のどこかに触れる度に、鋼の肉体を持つ子供は音を奏でる。 どこに触ればどんな音を出すのか、まだ自分の知らない音色を奏でる場所があるのか、 ハボックは飽きる事無く探っていく。 「…ひ…ぃやぁぁ……っ!!」 一際上等な調べと共にハボックの背中に微かな痛みを残して、エドワードは高みへと 上り詰めた。 「…エドワード…」 それと同時にハボックも絶頂を迎え、部屋の中には静寂が訪れた。 「……でも、なんで今までオレの前で吹いてくんなかったんだよ」 ベッドの上から腕を伸ばしてブルースハープを手に取って、エドワードが不満そうに呟いた。 尖らせた唇に楽器を当てると、なんとも形容しがたい音が流れてくる。 「……なにが?」 不協和音を奏でるエドワードから楽器を取り上げ、ハボックが掌に握り直す。 「……なんか、隠し事されたみたいでムカつくっ」 そう言うと毛布を頭から被って不貞腐れてしまったエドワードを見て、ハボックは小さく笑った。 「隠し事って訳じゃねーけどさ」 毛布の上からエドワードの頭を撫で、空いている掌でブルースハープを口元に当てる。 息を吹き込み、奏でるのはハボックの故郷に伝わる御伽噺の中の子守歌。 優しい旋律と柔らかな音色が静かに部屋の中に広がっていく。 ある程度吹いた所で、ぴくりとも動かないエドワードを訝しってハボックがそっと毛布をめくると、 そこには。 「……寝ちまったのか」 確かに吹いていたのは子守歌だったけれど、本当に眠ってしまうとは。 ハボックは苦笑を浮かべると最後に1フレーズだけ子守歌の旋律を奏で、ブルースハープを サイドボードに転がした。 「隠してた訳じゃ無えけど……コイツよりも、お前とキスしてたいからな」 疲れてしまったのか、静かな寝息を立てているエドワードの唇にハボックはそっと口付け、 冗談とも本気とも取れる言葉を口にする。 「愛してるよ」 奏でる音色は、愛の旋律。 |