*ガンガン1月号ネタバレSSです。
未読の方はご注意下さい。





























―――足が動かない。

それは軍人として終わりを意味する。
そして何より。
それを知ったらあの子供がどんな顔をするのか。
それが怖い。

俺は1日1本と決められた煙草をぼんやりと吸っていた。
こんなに煙草が味気無いなんて、知らなかった。

「女に刺されて退役、か・・・」

思わず唇から乾いた笑いが零れる。
まぁ、それもある意味自分らしい。

あの女を殺した事は、赤い石の秘密を少しだけでも上官が掴めた事は、
あの子の為になっただろうか。

―――あの子は、今、何処で何をしているだろうか。

「ハボ、灰」

暫く顔を見ていない恋人に想いを馳せていると、目の前にぬっと灰皿が差し出される。
落ちそうになった灰を慌てて灰皿に落とすと、俺はそれを差し出した手の主を見た。

手の主は、久し振りに会う同僚の物。

「あー・・・、せっかく1日1本だけ許可もらったのに」

勿体無い事しちまったな、と小さく呟く。
本当は美味くも無い煙草に未練は無かったのだけど。

「ちゃんと逃がしてやったか?」

同僚の任務は、自分が上官と共に逃がした女性の身柄を国外へと無事渡す事。
ぬかり無い、と言った同僚の言葉に、少し安堵する。
この同僚がそう言うなら、彼女は無事逃げる事が出来たのだろう。

「足、動かないのか」

同僚の問いに、俺はああ、と短く答える。
今更隠す必要は無かった。

「鋼の大将みたいに機械鎧にはできないのか?」

「下半身丸々神経信号が途切れてるから無理だとよ」

俺は大分短くなった煙草を咥えたまま、端的にそう告げた。
同僚は憮然とした表情のままベッドの横に突っ立っている。

「・・・ねェよ」

不意に、同僚が何かを呟いた。

「あ?」

その言葉がよく聞き取れず、俺は問い返す。

「おめえに隠居生活なんて似合わねぇよ!」

乱暴にそう言ってドアを蹴りながら出てった『親友』の背を見て、俺は小さく笑った。

短くなった煙草を指で摘んで灰皿に押し付ける。

多分、あの子は親友と同じ事を言うのだろう。

琥珀の瞳に涙を溜めて。
でも、決して泣いたりはせずに。
真っ直ぐ前を向いて。

『アンタが軍人辞めるなんて、許さない』

・・・きっと、そう言って俺を睨むんだ。

「やっぱまだ、・・・諦められねぇよな」

自分の力を必要としてくれる人がいる。
怒鳴りつけてくれる親友がいる。

・・・前を歩く、お前がいる。

どんな小さな可能性だって諦めない。
それは決して振り向かないお前の背中が俺に教えてくれた事。


―――だから、いつかきっとまた。