「兄さん、ハボックさんとこお見舞いに行かなくていいの?」 ホテルを出る準備を始めたオレを見て、アルが心配そうな声でそう尋ねる。 「ん、あー・・・行かない」 そう答えると、アルは不思議そうな表情をした。 「・・・心配じゃ、ないの?」 心配してない訳、ないだろ。 ・・・でもさ。 「んー・・・今会いに行くと、お互いそこから動けなくなりそうだから」 苦笑いを浮かべて、オレはアルを振り返る。 「少尉、オレにケガして入院してる姿なんてカッコ悪くて見せられないとか思ってそうだし、 オレも・・・実際に少尉が入院してるの見ちゃったら、どんな小さなケガだったとしても、 ・・・離れられなくなりそうだから」 ずっと傍にいて、もう二度とこんなケガしないようにオレが守りたい。 少尉はそんな事望んでないのにそう言って困らせてしまいそうで。 「今はまだ、少尉には会わない。可能性は見つけたけど、でも今のオレはまだこの手に 何も掴んじゃいない。もう少しで今まで追いつきたかったモノに手が届く。オレとアルが ずっと叶えたかった夢を叶えられる。それが終わって・・・まだあのヘタレ少尉が入院 してたら、・・・その時は仕方無いから見舞いに行ってやるよ」 オレはそう言ってちょっと微笑う。 アルは、兄さんらしいや、と言って笑った。 「・・・あ、そうだ。兄さん、ボクちょっと電話する用事思い出したから先行ってて」 オレが歩き出そうとすると、アルは不意にそう言って走っていってしまう。 仕方無くオレは一人ホテルの玄関をくぐって外に出ると、良く晴れた蒼い空を真っ直ぐに 見上げた。 少尉、もうちょっとだけ、待っててくれよな。 やらなきゃいけない事を終えたら、胸を張って『オレに甘えろよ』って言えるから。 もう子供扱いすんなよ、って言えるから。 今まで少尉はずっとオレの事見守ってくれたり、励ましたりしてくれたりしたから、 今度はオレの番だよ、って言えるから。 ・・・これからは、ずっと少尉の傍にいるよ、って、言えるから。 だから、アンタも何があっても諦めんなよ? 弱気になんてなってたら、承知しないかんな? オレが行き詰まって動けなかった時に、みっともなくてもいい、足掻けるだけ足掻けと 言ってくれたのは、アンタなんだから。 なぁ、少尉。 ・・・だから、 次にアンタに会った、その時は。 空みたいな一面の蒼とくたびれた煙草を咥えた唇で、オレを迎えて。 |