ショーウィンドウに飾られていたアンティークの人形を見て、ふと、思い出す。 俺の実家は東部の片田舎で雑貨屋を営んでいた。 生活雑貨に埋もれてしまう小さな店のレジの隣に看板のように置かれていた、 アンティーク・ドール。 いつからあったのか俺はそれを知らなかったけど、たしかこんな人形だったように思う。 『アンタ、本当にこの店に不似合いな程大きく育っちゃって!』 小さな店にあるのは細々した小さな雑貨と看板娘の小さなアンティーク・ドール、 女性の好みそうな生花やドライフラワーのバスケット、そして小柄な俺の母親。 この言葉はある日たまたま店番をしていたまだ若かりし頃の俺に、三番目の姉貴が 言った物だ。 全体的に小ぢんまりした店内で、座ってても目立つ程ににょっきりと飛び出した俺の頭が 相当可笑しかったらしい。 『アンタ、結婚するならこの店に似合う小さくて可愛い子見つけてらっしゃいよ。 そうねぇ・・・、ホラ、この子みたいなさ』 笑いながら姉貴が指差したのは、看板娘のアンティーク・ドール。 ―――白い肌に桜色の唇、蜂蜜色の、長い髪。 「恋人、見つけるには見つけたけど、なぁ・・・。 ・・・そりゃ俺だって出来るもんならいっそ攫って嫁さんにでもしちまいたいけど」 俺はそう呟いて苦笑いを浮かべる。 きっと、アイツなら似合うだろう。 細々とした物に覆われた少し古ぼけた店内も、色とりどりの可憐なブーケも、 ドライフラワーのバスケットも、・・・アイツに良く似た愛らしいアンティーク・ドールも。 「・・・いつか、アイツの願いが叶ったら」 その時は一度位あの店に連れてってやるのも、いいかもしれない。 俺は今は何処か遠くを旅している可愛い恋人の背中を思い出すと、小さく微笑って再び 雑踏を歩き出した。 |