+ あなたの情景 +





―――目の前は、あの日と同じ風景。



「あー、美味しかった!」

そう言いながら店を出て、オレは目を見張る。



空から静かに降り積もる、真っ白い塊。



「雪・・・・・・」

少尉の車に戻って、暫く二人で空を見つめる。
車のフロントガラスにどんどん積もってゆく、雪の粒。

「・・・あの日と同じだな」

ぽつりと少尉が呟いた。





―――あの日。

三年前の同じ日。

・・・初めて少尉とキスをした。


一緒に食事をした所まではいつもと同じだった。
店を出ると大粒な雪が降っていて、慌てて少尉の車に駆け込んだ。
車のエンジンが温まるまでの間、オレと少尉は今と同じようにフロントガラスに積もってゆく
白い塊をただぼんやりと見ていた。
オレは何となく運転席に座る少尉の肩に寄りかかる。

「・・・帰りたくないな」

オレはそう呟いた。
少尉といる時間は凄く楽しくて。
でも、このまま宿まで送ってもらったら、また暫く会えない。
突然それが寂しくなって、唇から自然に零れた言葉。

「・・・また、暫く会えないし」

顔を上げると、少尉と目が合った。
少尉の蒼い瞳が一瞬困ったように微笑う。

・・・刹那。

それはまるで雪のように降ってきた。


・・・雪のように淡くて柔らかな、キス。


寒いはずなのに、顔が熱く火照って。
ちらりと目線を上げた先に照れたように笑う少尉の顔があって、ああ、オレはこの人が
好きなんだと、思った。


・・・そして今また、あの日と同じ風景を少尉と見てる。





「少尉」

運転席に座る少尉の肩に、頭を寄せる。

「・・・帰りたくないな」

あの日と同じ言葉を囁いて、少尉を見上げる。

「・・・また、暫く会えないし?」

少尉はオレの言葉に柔らかく微笑うと、静かに顔を寄せた。


・・・あの日とは違う、深い、キス。


「・・・・・・んっ」

唇が離れると、オレは赤い頬のまま困ったように少尉を見上げる。
少尉は、そんなオレに悪戯っぽく目を細めて囁いた。

「あの時はちゃんと送ってったけどな。・・・今はもうそんな事言われたら、帰らせねぇぜ?」

「・・・オレだって今度は大人しく送られたりしないし?」

笑いながらオレは、ちゅ、と少尉の唇を軽く啄む。

・・・車が、ゆっくりと走り出した。





・・・あの日と同じ風景、同じ言葉。


―――でも二人の距離は、ずっと近い。