+ sweet devil +





我が東方司令部には数ヶ月に一度、悪魔がやって来る。

―――悪魔の名は、エドワード・エルリック。

まだ子供のくせに、俺より地位は上の国家錬金術師。
上等の琥珀みたいな瞳と、同じ色の、揺れる三つ編み。
口は悪いし、態度もデカい。
どうやら俺の身長がお気に召さないらしく、何を食べたらそんなに大きくなるんだとの
問いに素直に牛乳だと答えたら自慢の機械鎧で殴られそうになったのはつい最近の話。
お気に入りの紅茶は、中尉の淹れるロブノール。
大人ぶっている割には、エビフライやハンバーグが好きだったり、食後に好んで甘い物を
食べたり。

それが今俺の目の前で暢気にケーキをパクついているお子様、エドワード・エルリックに
ついて知っている、ほとんどの事。

勿論その他にも、コイツの弟がどうして鎧姿なのかとか、何故国家錬金術師になったのか
とか、詳しくではないが少しはそんな事も知っているけれど。
それはエドワードの後見人であるロイ・マスタング大佐の近しい部下であれば皆知って
いる事だ。
気紛れな悪魔は何故か最近東方司令部に顔を出す度に俺に食事を奢らせる。
特定の恋人もいない今現在確かに一人で食事をするよりはマシではあるが、薄給の俺に
成長期の子供の食費はそこそこ痛い出費だった。
しかし十以上も歳の離れた子供と割り勘というのも変な話だし、勿論奢られるなんて
以ての外だ。
そんなこんなでいつの間にかエドワードがこっちに来る度俺の奢りで食事を共にするのが
何となく習慣になっていた。

エドワードは食後のデザートに甘ったるそうなショートケーキを突付いていた。

・・・見てるこっちが胸焼けしそうだ。

「おい、クリーム付いてんぞ」
エドワードの唇の端にクリームが付いたままなのが気になって、俺はテーブル越しに
手を伸ばして指先でそれを拭う。
「・・・・・・ッ!」
不意にエドワードが唇を押さえて目をぱちぱちと瞬かせた。
「・・・・・・どうした?」
「なっ、何でもないッ」
エドワードはまたケーキを突付き始める。
・・・その頬が妙に赤いのは、俺の気のせいか?

それから俺はエドワードの事をもっと色々知った。
何度も足を組みかえるのは、退屈な上司の話に飽きた時。
ロブノールの他に、クィーンズホープも気に入ったらしい事。
チョコレートよりはクッキーが好きな事。
金色の髪は意外と柔らかくて、撫でると心地良い事。
その唇は、ケーキのクリームのように甘い事。

・・・・・・エドワードが、俺を好きだという事。
そして俺もいつしかこの子供を特別視するようになっていた事。

腕の中で大人しくキスを受け止めるエドワードを見て、俺は苦笑を零す。

まだ子供のくせに、俺より地位は上の国家錬金術師。
上等の琥珀みたいな瞳と、同じ色の、揺れる三つ編み。
口は悪いし、態度もデカい。

・・・それは相変わらずなのに。


いつしか悪魔は俺を惑わす愛しい小悪魔に変わっていたなんて。


―――冗談みたいな、ホントの話。