「鋼の」
3ヶ月ぶりに東方司令部に顔を出したエドワードが帰ろうとするのを、上官であるロイ・マスタングは
悠然とした笑みを浮かべて呼び止めた。
「私の実験に少々付き合ってくれないか?」
この上司からの頼まれごとはきっとロクな事じゃ無い。
そう思ったエドワードは断ろうと思った。
「頼まれてくれれば、持ち出し禁止の書類を特別に見せてあげよう」
その言葉を、何故怪しいと思わなかったのか。
** 人体実験 **
ロイがエドワードと一緒に訪れたのは、司令部の中でも一番古い第7倉庫。
その第7倉庫の地下室へと続く階段を下りると、扉の前でロイは止まる。
指を弾いてカンテラの中に火種を灯した。
ぼうとした光に照らし出された扉には、薄汚れた赤色でこう書かれてあった。
―――立ち入り禁止。
「…立ち入り禁止って書いてあるぜ?」
「ここは私の管轄だからな。問題無い」
腰のポケットから古い錆付いた鍵を取り出し、ロイはそれを鍵穴の中に差し込む。
朽ち果てた音を地下通路に響かせながら、扉はゆっくりと開いた。
その瞬間、闇の中に紛れて生き物が動く気配がしたのをエドワードは察知した。
「…何かいる」
何かが床を這うような、ズルズルとした摩擦音が微かに聞き取れる。
「…そうなんだ。『何か』が『いる』んだ」
答えになっていないロイの言葉に、エドワードは顔に疑問符を浮かべた。
「アンタの管轄なんだろ?何が居るんだよ?」
この男に限って、自分の管轄内に居るものが一体何なのか解らないと言う事は有り得ないとエドワードも解っていた。
顔を覗きこんでくるエドワードに、少しだけ困ったような笑みを浮かべてロイは人差し指をエドワードの胸にとん、と当てる。
「…実験だと言っただろう?君がこの部屋の中に入ることで、それが何なのかが解る」
ほんの少し開いている扉の奥。
薄暗闇の中に、何者かが蠢く気配。
エドワードは気付かれぬ様に唾を飲んだ。
得体の知れないモノに対して恐怖を覚えるのは、幼さゆえだけでは無い筈だ。
一瞬、エドワードの唇が『やっぱり…』と開こうとした。
しかしエドワードが言葉を発するよりも先に、ロイの声がエドワードを挑発する。
「…怖いか?鋼の錬金術師」
普段呼んでいる『鋼の』ではなく、二つ名を全て読み上げることでエドワードに対してプレッシャーを与えた。
それと同時に、負けず嫌いの性格を持つエドワードが挑発に乗ってこない筈は無いと見越した上での発言だった。
案の定、エドワードは一瞬眉をきりきりと吊り上げてから、ロイを睨むような表情を作る。
「怖いワケねーだろ!…入れば良いんだろ?入れば!」
エドワードはロイを押しのけ、大股で扉の前まで歩み寄る。
「…入って、何か見つけたらソッコーで出るからな」
ロイがエドワードにカンテラを渡しながら、ゆっくりと扉を開いていく。
エドワードのブーツが扉の中へと一歩足を踏み入れた、その瞬間。
『何か』がエドワードの足に巻き付き、身体の自由を奪った。
足だけではなく、両手や首にもその『何か』は巻きついてエドワードの手足を拘束する。
「…うわッ!?」
持っていたカンテラが掌から落ちて、けたたましい音を立てて床に転がった。
床に落ちたカンテラの灯りが、ぼんやりと部屋の中を映し出す。
「…な、ん…ッ…」
薄明かりの中でエドワードの視界に映ったのは、無数に伸びた数本の触手。
天井に張り付いた本体と思われる塊には、古代の怪物を彷彿とさせるような大きな一つ目が中心でぎょろりと
文字通り、目を見張っていた。
中心の塊から手足のように伸びている触手はエドワードの身体に絡みつき、侵入者をチェックするかのように
ざわざわと蠢く。
その感覚に、エドワードの身体から一瞬で血の気は引いた。
「…ッ、大佐!なんだよこの化け物!?」
必死で巻きついてくる触手を外そうともがけばもがくほど、締め付けてくる力は強くなっていく。
「…君の事を気に入ったみたいだよ」
扉の僅か向こうから、やけに落ち付き払ったロイの声が部屋に響いた。
しゅるる…と音を立てて触手の1本がエドワードの頬から首筋を辿って胸元へと降りていく。
「…なに、言って…う、グッ!」
また別の1本がエドワードの口の中に無理矢理押し入り、口腔内の粘膜を自分の身体に擦りつける様に動いた。
『水分を、欲しがってる?』
その動きだけで、エドワードには化け物の求めているモノが解ってしまう。
他の触手たちも、それぞれ思い思いの方向に動き始めたからだ。
少しでも湿っている部分、潤っている部分を求めて、まるで触手の先にも目が付いているかのようにスムーズに
動いていく。
「ウ…うぅ…ッ」
口内を弄んでいた触手の先から何か苦い液体が吐き出され、エドワードは思わず呻いた。
それでも首元を確りと締め付けられている所為で、顔を背けることも首を振って逃げることも出来なかった。
ごぽごぽと粘度の高い液体は後から後から溢れ出し、咽るうちに嫌でも体内に飲み込んでしまう羽目になった。
咳き込んで吐き出した粘液が顎や首を伝い、その後を追うように触手がエドワードの身体にまとわり付く。
ぬるぬるとした触手が胸元や首筋を這い回る感覚は、エドワードに取って耐えられるものでは無かった。
「…ひ…ッ!」
水分を求めて彷徨う触手達には、小柄なエドワードの身体を包む洋服が邪魔だったのか、足元や袖口から
侵入して激しく身体をうねらせる。
エドワードの服が悲鳴を上げて裂けると触手達は幾らか動く易くなったようで、それぞれが思い思いの場所を
思う存分に這い回り始めた。
「うあぁッ!」
太腿の内側を伝ってエドワードの身体に絡み付くモノ。
自分で分泌した液体を体中に擦りつけながら、エドワードの胸元を滑り降りていくモノ。
…浅ましく中心で反応を見せ始めたエドワード自身に巻きついて、先端から滲み出る液体を摂取しようとするモノ。
「…や、め…ッ」
こんな不気味な物体に身体を良いように弄ばれているにも関わらず、やはり直接的な刺激を受けてしまえば
そう言った事に敏感な少年の身体は素直に反応を示してしまう。
堪らずにエドワードは目を瞑って歯を食いしばる。
「…なん、…だよ…ッ…、これ…!」
目尻に薄っすらと浮かんだ涙も、すぐに触手の絨毛の部分に掠め取られて行った。
どんなに足掻いても、両手足に絡み付いている触手は簡単には振り解けそうに無い。
直接受ける刺激にエドワードの足はガクガクと震え、終には立っている事も出来ずに両膝を床に付いて崩れ落ちたた。
「…ふ、ぅ…ッ、あァ…!」
床に両膝を付き、まるで神に祈りを捧げる信徒のように顔だけを上げる。
するとそこには満足そうな笑みを浮かべたロイの姿があった。
「鋼の、気分はどうだ?」
男は扉の外で膝を付き、エドワードを観察するかのような眼差しで静かに問いかけた。
「ふざけ…、うあ、ァ!」
思わずロイに殴りかかろうと身を乗り出したエドワードを、触手達が強い力で引っ張り返す。
3本くらいの触手が、一斉にエドワードの一番潤っている箇所を攻め立てた。
先走りの蜜を漏らす肉茎に触手が絡まり、もっと水分が欲しいと触手の先から更に細い弁のようなモノを出して
エドワードの尿道へと狭い路を押し分けて侵入していく。
「…痛…ッ!嫌だ…イヤ…だぁぁ…!」
腰だけ高く突き上げた状態で頬をコンクリートの床に押し付け、エドワードは泣いて懇願した。
言葉など通じる筈が無いと解っていても、言わずには居られなかった。
尿道を圧迫する痛みと、外側から与えられる柔らかな快感。
相反する二つの要素が、エドワードの身体を苛んで行く。
耐え切れなくなった体が、大きく戦慄いた。
「…あ、ァ…ッ、ん、んうーーーーッ!」
幼い体から放たれた精液が床に飛び散るより早く、触手達が我先に争って水分を求めて身体を擦らせあう。
「うあッ、あッ…!」
達したあとの余韻に浸る暇も無く、次の開放を求めて尚も責め立てる動きにエドワードの身体は翻弄された。
「…たい、さッ…」
思わず目の前に居る男に助けを求めた。
もう自分一人の力だけではどうにもならなかった。
ロイは小さな溜息を一つ吐くと、ゆっくりと視線を部屋の中に彷徨わせる。
天井に巣食う1匹の化物。
大きな一つ目を見開いて、この地下室への侵入者を見下ろしている。
化物の視界に映らないように扉の中には決して入らず、ロイはエドワードの痴態を眺めていた。
「…鋼の」
その唇が、悠然と三日月を象る。
「…見られて感じているのかい?」
クスクスと笑いながら、男は天井を指差した。
エドワードは呼吸を乱しながら、声のする方向に虚ろ気な視線を彷徨わせる。
大きな瞳が、まっすぐに自分を見下ろしていた。
「…あ、…ッ違…う…!うあ…ァ…」
ゆるゆると再び自身を触手に扱かれて、エドワードの身体は敏感に跳ね上がる。
跳ね上がった視界が映し出す先には、大きな大きな、一つ目。
その瞳の中に、自分の醜態が映し出されている。
自分の体液と、化物の分泌液とでぐちゃぐちゃに汚された体。
その自分の身体を今もなお取り巻いて蠢いている触手達。
どくん、と身体の奥が熱く疼くのが解った。
「ん…ッ、あ…ッ」
ぞくぞくとエドワードの身体を熱が走り抜ける。
「…ほらね、やっぱりそうだ」
ロイはゆっくりと胸ポケットから煙草を取り出し、自分の指先で小さな焔を起こして火を点けた。
「…ッ、…」
この男が煙草を吸うところを見たことが無かった。
今までの3年近くの間、一度も見たことが無かったその仕草。
全然知らない人間に見えた。
「エドワード」
知らない人間から、不意に名前を呼ばれたような錯覚を覚える。
「…実験をしようと思ったんだ」
煙をゆったりと吐き出して、何か考え事をするかのように男は呟いた。
漆黒の瞳に映る少年の姿を見て、心の底から愉しいと思える自分が居ることに気付く。
これは実験。
キミという身体を使った人体実験。
「君のそんな姿を見て、興奮するかなと考えていてね」
…実験、成功。
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*HISAG様が我が家にいらした際に無理矢理強奪しました(笑)
滅多にロイを書かないHISAG様の貴重なロイエドです。
うちのロイとは正反対の黒い大佐に萌えです!
ありがとうございました!!
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