銀ノ夜




「雪、もう降ってきましたね・・・」
主の部屋に向かう廊下から外を見れば、空からはひらりひらりと微かに
白い物が舞い降りてきていた。
「・・・・・・寒い」
荀いくはそう小さく呟いて、主の部屋へ向かう足を速めた。


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「失礼します」
声を掛けて、部屋に入る。
「主公、雪が降っておりますよ」
しかし奥の部屋からは返事が無い。
「主公?」
不思議に思い、部屋の入り口から顔をそっと覗かせると、そこに主の姿は無かった。
「あ、文若・・・」
代わりに何故か主のいない部屋で一人榻に座っていた郭嘉が少し困った様に微笑む。
「奉孝・・・主公はどちらへ?」
「さぁ・・・さっきまではいたんだけどね」
苦笑した郭嘉の表情を見て、荀いくは主が何故不在なのかを何となく悟る。
外は朝から雪が降りそうな曇空。
きっと窓の外を見て雪が降ってきた事に気づき、大方それを理由に郭嘉と仕事を置いて
出掛けようとでもしていたに違いない。
そこに荀いくがやってきた。
荀いくがここを訪れる理由は一つ。
仕事に関する事のみ、だ。
だから、不在のふりをしてやり過ごそうと。
そんな所だろう。
到底あの「曹孟徳」とは思えない子供の様なその発想に、思わず荀いくは溜息をついた。
そして、わざと部屋の奥にでも隠れている曹操に聞こえる様なよく通る声で、
荀いくは郭嘉に話し掛ける。
「そうですか・・・それは残念ですね。
 せっかくの雪ですから、雪見酒にでもお誘いしようと思いましたのに。
 いらっしゃらないのでは仕方ありません。奉孝と飲みましょうか」
・・・・・・がたり。
奥の部屋から音がした。
親に悪戯を見つかった子供の様にそっと、曹操が顔を出す。
「お前が誘いに来たのは、俺だろうが」
「でも、いらっしゃないのでは誘えないじゃないですか」
「いるだろう、ここに」
「やはり・・・仕事が嫌で隠れてらっしゃいましたね?」
やっと出てきた曹操に、荀いくは極上の笑みを添えて手にしていた竹簡を渡す。
「いらっしゃるなら、これ、目を通していただけますよね?」
その言葉に、曹操は苦々しげに低く呟く。
「文若・・・謀ったな」
「言った事は本当です。
 ・・・ただし、このお仕事が終わってから、です」
にっこりと微笑んだその笑顔に、曹操は逆らえなかった。
「本当に仕方の無い・・・」
「だからといって騙す事はないだろう」
文句を言いながらも曹操は文机に向かい、竹簡に目を通し始めた。
「雪見酒、いいですねぇ・・・。俺も行こうかな」
郭嘉が楽しげに荀いくに言う。
「お前は来るなよ、奉孝」
竹簡から顔を上げて曹操が郭嘉に釘を刺す。
「主公、そんな事言っていていいんですか?
 早く終わらせないと、雪、止んでしまいますよ?」
「わかっている」
くすくすと笑いながらそう言った荀いくを曹操は拗ねた様にちらりと見上げ、
また竹簡に視線を戻す。
「じゃ、邪魔者はここらで退散しましょうか」
郭嘉はそう言って榻から立ち上がった。
「俺も別の人と雪見酒、する事にしますよ」
ひらひらと手を振って、郭嘉は去っていった。
「では、終わるまで私はここで待っていますから」
荀いくは、静かに榻に腰掛けた。


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「・・・・これで全部、だな」
やっと全ての竹簡に目を通し終わると、外はすっかり日が暮れてしまっていた。
夕闇に、積もった雪が淡く映える。
「文若、終わったぞ・・・」
榻に座っていた荀いくに声を掛けるが、返事は、無い。
不思議に思った曹操は、榻に歩み寄る。
「文若・・・?」
荀いくは、眠っていた。
頬に艶やかな黒髪が幾筋かかかっているのを、そっと曹操は指で払う。
「文若・・・?」
閉じられた瞼に唇を寄せて軽く口付けてから、小さく耳元で字を囁く。
起こすのが忍びない気もしたが、せっかく仕事を終わらせたのだから約束を果たしてほしい。
そう、思ったのだ。
「・・・・・・」
呼ばれて、荀いくは瞼を開く。
近くに曹操の顔があって驚いたのか、長い睫をしばたたかせている。
「起きたか?」
「私・・・すいません、主公には仕事をさせておいて転寝など・・・」
「気にするな。可愛い寝顔も見れた事だしな」
曹操のからかう様な言葉に、荀いくの頬にほんのりと朱がさす。
「仕事は終わった。約束通り、雪見酒だ」
「はい」
しかし曹操は荀いくの身体に回した腕を解く気配がない。
「主公・・・?」
「でも、少し楽しんでから、な」
そしてそのまま荀いくの上に覆い被さる。
「主公・・・!」
荀いくは諌めるが、曹操はそれを無視してその身体を引き寄せ、そして囁く。
「雪が止むまで、まだ時間は沢山あるからな。
 さっきの礼をたっぷりさせてもらおうじゃないか」
「主・・・・・・」
反論の言葉は曹操の唇に塞がれた。
暫く深い口付けが続く。
唇を離すと、荀いくは仕方無さそうに呟いた。
「本当に、仕方の無い・・・。
 ・・・でも、思ったより早く仕事を終わらせて下さったので、御褒美、です」
荀いくは曹操の首に腕を回す。
「ただし、あちらで」
曹操は頷くと荀いくを抱え上げた。

外の雪は、まだ静かに降り続いていた。




<終>




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あまりにもお約束の操いくです。(苦笑)
前半部分は冬コミで発行した操いく本のゲスト様、高梨さんが
描いて下さったマンガをウチ風味で小説にしたものです。
以前この本のゲストをお願いした時に、いつかサイトでもいいので
小説にしてみてよ〜と言われていたので今回使わせてもらいました。
後半(「これで全部〜」から)は勝手に付け足させていただきました。(笑)
この辺りは完璧にウチの操いくカラーですよね〜。
前半、高梨さんのマンガとはイメージ全然違っちゃって・・・反省。
師匠、すいません!!(滝汗)
元ネタの素敵なマンガが見たい方は「Sweet Vanilla」を読んで下さい。(笑)