DISK3 END

『星とひとつになるだけ。さみしくなんかない。
……ほら、きこえるもの。みんなの、声。
がんばってる。解放、してくれようとしてる。
だから。』

うねりがあった。
いのちの輝きの流れ。星の血液。
かすかに、しかし確実に脈打ちながら、うねりの片隅で、想う。

『がんばって。だいじょぶ。絶対、つたわる』

見える。彼らの姿。
戦っている。命を賭けている。輝いている。

『もうすこし。断ち切って。できるよ。みんななら』

閃光が走った。

『あ……』

感じる。うねりが脈打つ。動き出す。
……白い魔法。

『なに? まだ、居る?』

強烈な光の中にひとつの影。
銀色の影がある。笑っている。
そのに引き寄せられるもう一つの影に気がついた。
不思議な輝き。蒼い色。
この輝きを知っている。ぶっきらぼうだけれど、優しかった。
誰よりも、優しかった。

『……』

輝きは決意に満ちている。だから、迷わないように、たどりつけるように、導いた。
輝きを抱くように。

決着をつけた。
自由になった。しかし、なぜか淋しさを憶えたそのとき、気づいた。

「ライフストリーム?」

淡い緑の光が、幾筋もまとわりついてくる。
いたわるように、抱き締めるように。
一度集束した光は、ふいに弾けた。

手だ。
頭上から、彼女の手がさしのべられる。
引き寄せようと腕をのばした刹那、彼は我に帰った。

大空洞が崩壊しようとしている。
くずれかけた足場を逃れ、彼は仲間のまつ岩棚に移ろうとした。
彼に付着していた魔晄の一部が、溢れんばかりの奔流に落下した。
彼はそれを追うように振り返った。

『幸せに、ね?』

そんな声を聞いたように思った瞬間、彼はライフストリームの火口に向かって走った。

「まって、どこいくの、クラウド!?」

仲間たちが必死に叫んでいるのはわかっていた。
自分が気狂いじみたまねをしていることも。
だが、とめられなかった。

水でもない、溶岩でもない、不思議に暖かな精神エネルギーに腰までつかりながら、彼は叫んだ。

「どこだ、どこにいる! エアリス!」

光の渦に触れたところから、怒濤のような知識が流れ込む。
一度は克服したことだが、このままでは負けてしまいそうだ。

「エアリス! エアリス!!」

『……だめ。はやく、逃げて』

「エアリス、なのか?」

かすかな空気の震え。彼はそれにすがった。

「帰ってきてくれ。……たのむ」

『……クラウド……』

突如、穏やかに静まり返った火口の中心に、光の柱が音もなく立った。
それは波紋を描きながらくびれ、ふくらみ、色を加えて人のかたちをとった。

「エアリス」

『クラウド……』

どこか哀し気に光の水に立つ彼女に、彼はゆっくり歩み寄った。
流れ込む知識に狂わされそうなのにも構わず、彼は彼女を見上げて笑った。

「一緒に、帰ろう」

『だめ。わたし、もうじき……星とひとるになるの。
はやく逃げて。ここ、崩れるから』

彼を押し戻そうと屈んだ瞬間を見計らって、彼は彼女の華奢なからだを抱きしめた。
光の塊であっても、感触はやわらかであたたかかった。

『クラウド……だめ。逃げて。みんな、待ってる』

「行かない」

『え?』

彼女の細い腰をしっかり抱いて、彼は言った。

「行かない。やっと意味がわかったんだ。あのとき、エアリスが言ってくれたこと」

彼から逃れることはたやすい。
このまま姿をうねりに戻してしまえばいい。
はやく戻らなくては。彼を地上にゆかせなければ。
わかってはいても、彼女は彼のぬくもりを感じていたかった。

「あいたい、と言った。だから来た。……俺もさがしていた。
ようやく会えたんだ。
もう冷たい水の中には置いていかない」

あせりと、当惑と、嬉しさと悲しみに同時に襲われて、彼女は混乱して視線をさまよわせた。

目が、あってしまった。
彼女と同じように彼に恋している娘。
彼女にとって、大切な友人でもある仲間。
その娘の目が、不安でいっぱいになっていた。

罪悪感を感じた。
彼は彼女を選んだ。生ける娘ではなく、死した彼女を。

「失いたくないんだ……」

彼の腕の強さを感じて、彼女は決心した。
友の悲しむ姿は見たくなかったが、それでも、震えるくちびるで、言葉をつたえた。

ユ ル シ テ

そして彼の金髪を胸にだきしめた。

『やっとあえた、ね』

白の魔法が発動する。
波動は祈りとなって、ちからとなって、約束の地を包み込んでゆく。
憎悪を抱いて、慈しみとなし、悲しみを浄化して、愛となす。
黒の魔法をしりぞけ、空から降ってきた災厄を消滅させたとき、
星はなにを思うか。
無か、闇か。
完全なる命の環か。

一輪の花がのこした奇跡であったろうか……

END


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