「大人の定義」

大人になるっていうことはどういうことなんだろうか?

私は、高校生の時,早く大人になりたかった。なぜ?どうして?
それはきっと、高校の先輩がいつものように、「おまえもこどもだなあ。」って言うからだと思う。 私は,それがたまらなく悔しかった。

ある日私は、その先輩の家にお邪魔したことがあった。

そのとき先輩は、煙草を吸っていた。その姿は、とても大人っぽく見えた。
 
私も、煙草を吸えば大人になれるのかなあ?

だから私は、お酒を飲んでみたり、煙草を吸ってみたりした。
そのことを先輩に言うと、「やっぱりおまえは子供だよ」と微笑みながら軽くあしらうのだった。先輩のその口調はイジワルで言っているわけではない。それだけは感じられた。

それから、先輩は卒業してしまった。私の早く大人になれよ、と言い残して。
わたしは、最後までその先輩に大人として見てもらえなかったのだ。
 
私は,高校3年生になった。
そして、進学希望だった私にとって、人生を大きく変える出来事があった。
 
両親が、交通事故で亡くなったのだ。即死だったらしい。
私は、突然起こった出来事に、わけがわからず、ただ、呆然としていた。
そのかたわらで、数珠を持った親戚一同が、さめざめと泣いていた。
 
私は、就職することになった。仕事は、すぐに決まった。
しかし、仕事が決まった日、すでに一人暮らしをしていた私にとって、一緒に喜んでくれる人は、いなかった。
気がつくと、頬に熱い涙がつたっていた。両親の葬式でも泣かなかった私が、泣いたのだ。
そのとき、初めて私は両親の死を受け入れることが出来たのだ。

  その日の空は曇っていた・・・


           数日後・・・・・

 就職が決まり、とくに何もする事のなかった私は、街をぶらぶらしていた。そのとき、私は、その先輩と再会した。
とりあえず、立ち話もなんだということで、飲みに行くことにした。

久しぶりに見た先輩は少し痩せていた。どうやら貧乏大学生をやっているようだ。
酒を酌み交わしながら、私は、酔いに任せて今まであった事を先輩に話した。
両親のこと、一人ということ、初めて泣いたこと・・・・・
 
すると先輩は、"おまえは大人になったんだなあ」と、そう言って微笑んだ。
その言葉に、私は、再び涙がにじむのを感じた。
それを見た先輩は、私の肩を抱いて、「どうだ?おとなってのは?人は必ず大人になるんだ。あの頃のおまえは少し経験が足りなかっただけなんだよ。」
そう言って,先輩は私を慰めてくれたのだ。

そして、先輩と別れて帰る時、私は、明日から私は何かが変わる気がした。
今になって初めて大人になるという事が解かったのだろう。

       その日の空は、雲一つなく、丸い月が顔を覗かせていた。


大人になるってことは、どういうことなんだろうか。
喜び、痛み、哀しみ、夢……
いろんなものが重なりあって、ひとつの姿になる。

大人になるために生きるのではなくて、
自分の足で歩くうちに大人になっていくのかな。

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