入院して考えていたこと

あなたへの出せないメール

 未配信メール その1

 痛みの中で、何を考えるでもなく、手足さえも思うようには動かせず、

 ただ幾日もひたすらに仰向けに体を横たえる。こんな日々がいつまで続くのかしら。

 治療は順調に効果をあげたのでしょう。

 一週間と待たずに痛みは薄らぎ、それと共に、気分の悪さは消えていき頭は冴えていきます。

 けれど、頭が冴え判断力が回復していくほどに、悲しみ・寂しさ・やるせなさ・そして後悔と、

 回復には不必要なはずの負の思いばかりが増していきます。

 怒りたい、叫びたい、なじりたい、怨みたい。

 でも、本当は解っているのです。一言で言うなら「身から出た錆」私がそうさせた。

 一緒に旅行しよう。一緒に食べに行こう。一緒に観に行こう。やっと私はそう思い始めたんだよ。

 いろんな意味で、やっと実行できそうな気がして来てたんだよ。

 ふいに・・・あなたにとっては以前から考えていた事で、

 たまたま私が入院してしまっただけなのかもしれないけれど、

 そう、それは私にとっては逃げ場の無い状態で訪れた出来事だったのです。

 今、私は思っています。

 一度殴らせてよ。けしてそれで気が済むとは思えないんだけどさ。

 未配信メールその2

 私は一人でいたかった。一人で生きて行きたかった。そして一人を選んだんです。

 ある時、それが寂しさからだったのか、ただの気まぐれなのか、私の隣にはあなたがいました。

 自分では思っていたんです。軽く考えていたんですね。「またいつか、私は一人になる」

 一度目、退院した私はそう自分自身に言い聞かせていたんだよ。

 でもね、二度目の入院で改めて思い知ることになってしまったんです。「もう一人には戻れない」

 これから私は幾つかの選択を迫られる事になるでしょう。

 そして私はどんな選択をするのでしょう。私の思いは、想いはあの日から変わっていないのにね。

 月日が流れたということですか?選択肢が想定外へと変わってしまいました。

 私はいつからこんなに弱くなってしまったのでしょう。女々しくなってしまったのでしょう。

 ずるくなってしまったのでしょう。

 未だに私は救いの手が差し伸べられるという淡い希望を捨てられずにいるのです。

 あなたの何気ない一言に、何気ない行動に何度も何度も傷付いて来たというのにね。

 今、私は思っています。

 パンドラが犯した最大の罪は、最後に希望の光を解き放ったことなんだよね。

  未配信メールその3

 さすがに治療は効果をあげているようです。日,一日と良くなっています。

 今日で治療薬の点滴は終わりです。後は飲み薬に代わります。

 栄養剤の点滴は明日で終わりです。後は食事で栄養を取る事になります。

 喜ばしいことです。でも、不安は大きいです。なぜなら前回も退院に向けては好調で、

 いざ退院したとたんに不調になり、一月もしないで、再発、重症になってしまったからです。

 「病は気から」というけれど、退院が近づけば近づくほどに切実な思い強まっていきます。

 「私は一人ぼっち?」「仕事は出来るのですか?」

 今は病気を治すことに専念したいです。

 でも、快方に向かえば向かう程に不安は増していきます。

 これまで私は好き勝手に生きてきました。

 経済的には苦しく我慢の毎日です。性別すらも偽って生きたことさえありました。

 でも、精神的に私は自由な毎日を過ごしてきました。

 私はこの毎日がずっと続くと思っていました。そのはずでした。でも突然変わってしまったんです。

 あな他との出会いと共に。私はその急激な変化にただ流されているだけでした。

 いずれは訪れるであろう一人ぼっちが、まさか病気で精神的にも弱っている時に

 追い討ちをかけるがごとく現実になろうとは考えてもみませんでした。

 今、私は思っています。

 今なら恋人がストーカーに変貌する心理、解りそうだよ。ある意味、私もそんな気になりたいな。

 歳末に詠んだ歌

 外泊の我を我もを横目で見迫る年の瀬病間が時 

 未配信メールその4

 「必要無い」「邪魔」「うざい」「消えてほしい」もはやそんな存在なのですね。

 「ここへ来るのが億劫だ」そんな感じがありありですよ。

 心細さや寂しさは時と共に薄れていくのだけれど、

 これから退院しようとしている私には言いようの無い底知れぬ不安をもたらす物でしかありません。

 甘かったのか幼かったのか、この歳になっても夢を見ていました。

 叶わ無いという点からすると、それは夢というより妄想かもしれません。

 きっと気が付いてはいたんです。でも、私は何年も目を瞑って来たんですね。今がその結果です。

 私は若いつもりでした。まだまだ若いという人もいるでしょうけれど、

 何も無い、ただただ何も無い人が何か始めるには遅いと思います。

 後十年、いろんな意味で後十年若かったとしたら、私の人生は変わっていたでしょう。

 今、私は思っています。

 こんな事考えている様では遅かれ早かれ、私は同じ道を辿るんだよね。

 未配信メールその5

 ただただ思います。一人を思います。考えずに済めば良いのだけれど、

 何も無い、何も出来ないではあれこれ思うしかないじゃないですか。

 いつもなら、すぐに、明るく楽観的に「なるようになるさ」と思考は終わりです。

 だけど、一日をベッドで過ごす身なんだから、

 暗く悪い方へと考えてしまうのは仕方ないじゃないですか。

 ましてや、ただの思い過ごしじゃないんだから。

 私は言ったよね。「最後の場所が私の隣ならすきにしてなよ」って。

 強がりだとか、やせ我慢なんかじゃないんだよ。

 でもね、私から完全に離れてられたら平気でいられる訳なんかないじゃない。

 独占欲だとかを初めとして、もろもろの欲望というものをまったく持ち合わせていない

 という訳じゃ無いんだよ。ただ単に、少なかったり、見せなかったりしてるだけなんだよ。

 嬉しい、新鮮、無我夢中。

 私になんか構っていられない。あなたの姿からはそんな気持ちが滲み出てる。

 頭で理解するのと、心で割り切るのは別物だよ。

 あの日から、理解し、割り切ろうと努めてる。でも、まだなんだ。

 今、私は思っています。

 私ってそれほどまでに心を奪われていたの?

 未配信メールその6

 好きとか嫌いとか恋人かという問題は別にして、たとえ単なる同情だったとしても、 

 今の私にはあなたしかいないのが事実です。

 確かに、退院し、自分で行動できる様になったなら接する人が皆無な訳じゃないよ。

 でも、きっと私はこれまで通り、あなた以外の人には自分を見せないでしょう。

 あなたが好む好まざるは別だよ。

 でも、たとえそれが一方的な思いだと言われたとしても、

 今、入院している私はあなたをあてにするしかない。

 私にだって、今のあなたの気持ちを察することなど出来るんだよ。

 でもね、今の私にはあなたという選択肢しか存在していないんだよ。

 今の私に出来ること。そして唯一の手段。それが携帯メールです。

 別に一杯の返事なんか期待してない。

 空でも良いから、その時の気持ちを返信してよ。

 返信が無いと、届いてるのか、無視なのかわからないじゃない。

 悲しく、寂しかったことがどれだけ有ったか。

 情けないとか、女々しいだとか、どんな風に思われようとも、

 入院してる私には、あなたしかいないんです。

 今、私は思っています。

 いつから私は、こんなに弱くなったの?

 未配信メール7

 恋愛は本人同士が好きであれば良い。

 でも、結婚は本人同士だけじゃなく、

 それ以上に、親、兄弟、親戚、友人、知人、過去、生い立ち、考え方、等々

 相手にまつわるもの、ありとあらゆる物を受け入れる必要がある。

 多少、目を瞑って結婚することも出来るんだけど、そういう人も多いけど、

 でも、そういう人って、遅かれ早かれ離婚するんだよね。

 私は本人以外を受け入れることは出来ずに来たから結婚はしていない。

 別れる事のわかってる結婚などは趣味じゃなかったから。

 あなたはどうですか?

 私との暮らしと過去、病気と入院。完全に切るだけの踏ん切りがつかないだけなんだよね。

 「私を見捨てる」受け入れるべき事柄。

 「困ってる、悩んでる」今のあなた。

 「今は動けない。帰れない。」そんな私。

 今、私は思っています。

 私って何がしたいのかしら?どうしたいのかしら?

  sound by MACHI no.62 Out of Memory