_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 三章 一話 到着、ミランドル _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「ロキ、失敗したな……」 必要以上の明かりはつけないのか、黒マントの男と、ロキと呼ばれた者が映っているだけだ。 ロキは黙ったまま、動く気配もない。 黒マントの男はロキが言うのを待っているようで、それ以上何も話さない。 「申し訳ありません、クライク様。あの男があの場所に居るとは思ってもみませんでした」 その言葉を聞いてクライクは突然怯え出した。 「あ、あの男だと!?や、や、や、奴が……」 怯え方は尋常ではない。さっきまでの威圧した雰囲気が嘘だったかのようだ。 「ロ、ロキ。その男を先に殺せ!その男の首をここに持って来い!それまでここに戻ってくるな!」 「御意に……」 ロキは立ち上がると、部屋を後にした。 また一人になったクライクは、体を小さく縮めた。まるで子供が親に怒られたように。 「こ、殺せ。あいつが居るとワ、ワシは…  クハハハ…殺せ。奴を殺せぇぇ!」 部屋を出たロキはクライクの言葉をじっと聞いていた。 「いつまでも怯えてろ、生き人形が……。誰が奴を殺すか。俺にとってもあいつにとっても奴は大事なのさ」 どちらかと言うと、ケインは静かな方が好きだ。 発掘屋として活動していない時は、クラシックなど清楚な感じのある曲を聞いていた。 軍人らしくない、と言われてもその曲をやめる事ができなかった。 しかし、その頃はまだよかったのだ…… 「……でね、うちのお父さんは……なのよ。村長ときたら……」 「あ、わかるわかる。ボクも……な事があってね……」 黙る事を知らないかのように、ファシーとミークは会話し続ける。 ファシーは、昨日とある事情でいっしょに行動する事になった。 ある事情というより、強引に巻きこまれた、と言った方が正しい。 元々解けこみやすい性格なようで、すでにミークと数年前から友人だったように会話している。 あまりにやかましさに、ケインは数メートル後ろを歩いているのだった。 それでも話しをケインに振ってきて、さらに会話を弾ませる。 もう少し静かに歩けないのか。そう聞いた事もあったが、旅は楽しく行こう、と言われ、 ミークもそれに賛成したらしく、余計に騒がしくなってしまった。 「ところでファシー、あとどのくらいでミランドル内に入る?」 ファシーの居た村を出て、一つの町を通過したが、まだ目的地には着いてない。 地図上で見るとそろそろ見える頃なのだが。 「焦っちゃダメよ。大丈夫。迷っただけだから」 「そうか、迷っただけか……」 ケインの足が止まる。続いてミークが。そして二人を見るとファシーも止まった。 「どうしたの?二人とも。そんな顔して」 「どうしたもこうしたもない!迷った?」 「うん」 元気よく、さわやかに返事するファシー。 ケインはファシーの肩を掴む。 「ダメよ、ケイン。こんな真昼間から…」 ちなみに今は夕暮れだ。 顔に手を当てて、恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむく。 「誰がそんな事をするか!」 力いっぱい否定するケイン。 「そうきっぱり言われると傷つくわねぇ。それに冗談なのに……」 プゥと頬を膨らますファシー。 冗談だったらしい。見た目は演技に見えなかったが。 「どこのあたりから迷った……そして、ここはどのあたりだ」 迷ったあたりがわかったら、そこまで戻る事ができ、正しいルートの戻る事ができる。 この場所がどこかわかると、どうやって進むのかもわかる。 「迷ったところがわかったら苦労しないわよ。それに迷ったといっても遠回りしてるだけだから大丈夫」 あの後、私について来れば大丈夫よ、そう言って構わず進み出した。 あれから結構時間がかかり、すでに日が暮れようとしていた。 「もうすぐもうすぐ……」 「その言葉、もう十三回目だ……」 「失礼ね、十二回よ!」 どっちにしろ変わらないと思うのだが。 歩いているだけなのに、いつもの三倍は疲労しているケインだった。 一体どこにそんな元気が、と思うくらいミークとファシーは、いまだはりきっていた。 その事を二人に言ったら、ケインっておじさんくさい、と言われたのだった。 ケイン二十才。夏の暑い日の出来事だった。 そんな時だった。 ケイン達の頭上を何かが通りすぎた。一つではない。いくつもその気配を感じたが、目に映る事はない。 「ね、ねぇ、なんかさっきから変だよ。ボク達の周りに何かが居るよ」 ミークもファシーもそれに気がつく。 しかし目に見えない物が何かを確かめる事はできない。 「あ、まいったわね、これは……」 ファシーは正体が何か知っているようだった。 「知っているのか?ファシー」 「このあたりに生息するゴーストワーム。ゴーストといっても死霊じゃなくて、姿が見えないという意味ね」 何かと対峙した時、姿が見えないのが一番つらい。 行動のしようがないからだ。 「何とかできないか?」 「そんなに強くはないし、何があっても突進するしか脳のない奴だけど、捉えるのが難しいわ。  もしくは、相手があきらめるまで待つか。まあ、あきらめるのがいつかわからないから却下ね」 「じゃあ、どうしよう。このあたりに街ないし……」 こう言う時には冷静に考えるのが一番である。慌てるといい考えが浮かばないのだ。 「そう言えば、動いている物に敏感に反応するわよ」 しかし、その場合誰かが囮にならなければならない。それでは根本的な解決にならない。 動くもの動くもの動くもの……… 「そうだ、この場合ケインに身代わりになってもらうってのはどう?」 「それがいいわね。というわけでお願いね、ケイン」 ミークとファシーは同じ結論に達したようだ。当然そんなアイデアは却下である。 「女の子を守るのは男の仕事でしょ!」 「俺はどうなる」 「決まってるじゃない」 死ぬ気でがんばってね、期待してるわよ、だった。 「だからお願い、ケイン……」 流し目で色っぽい目つきでケインを見るファシーとミーク。 「色目使ってもダメだ。全員が無事が絶対条件だ。それとミーク。お前がやると怖いぞ」 「なんだよそれ。それじゃあボクが男みたいじゃないか!」 ある意味その通りだと思うケインだった。 「そこ、じゃれ付いている暇はないようよ」 ファシーが冷ややかな言葉を出す。 確かにその通りだが、一緒になってやってた奴に言われたくなかった。 ゴーストワームはいきなり戦闘をしかけてくるようなモンスターではない。 こちらが攻撃しなければ襲ってこないが、威嚇はする。 自分達の行動範囲に入ってきたものは、容赦なく包囲する。 そこで何か行動したら、いきなり襲ってくる。 ある意味いやなモンスターである。 打破する術がなかったら、相手が飽きるまでじっとするしかない。 飽きる時間が長いから問題なのである。 「このままいてもしょうがない。走るぞ」 「無駄よ。速度が違いすぎるわ」 「じゃあどうすればいいんだ!」 <<伏せないと死ぬわよ!>> どこからともなく声がする。ケインには聞き覚えがある声だった。 というか、反射的に行動していた。 ケインの予想があたっていれば、伏せないと本当に死んでしまうだろう。 なんとなく伏せても結果は同じのようにも思ったが、気にしていたら余計に被害が大きくなるだけだ。 「伏せろ!」 ケインはファシーとミークを抑えこみ、耳を塞ぐ。 ケイン達が伏せたその瞬間、爆風があたりを襲った。 ケインは伏せていてよかったと思った。 もし伏せてなかったら、爆風で自分達はとんでもない威力の風で吹き飛ばされていただろう。 しかし、その爆風のおかげでゴーストワームはどこかへ飛ばされたようだ。 爆風が止む頃にはゴーストワームの気配はひとつもなくなっていた。 完全に爆風が止んだのを確認して、ケインはゆっくり立ち上がる。 「相変わらずとんでもない威力だな、リース……」 案の定ケインの目に映っていたのは他でもない、破壊工作員フェンリース・アドミラルだった。 フェンリースは縁なし眼鏡を上げると、ケインに近づいてきた。 そして見下すようにケインを見る。実際見下していたのかもしれないが。 「何をこんなところでグズグズしてるの?どうして後から出た私達のほうが早く着くのよ」 達?親父も来ているのか? 「ケホケホ…。なんだったの、今の…」 ファシーもミークもゆっくり立ち上がる。 そして、フェンリースのほうを見る。二人とも薄気味悪い微笑をしたが、ケインは気づかなかった。 それに気がつきはしなかったが、ケインにはいやな予感があった。このいやな予感はかなりの確率であたる。 「紹介する……」 「あ、私ケインの『彼女』のファシーっていうの。よろしくね」 「ボクはケインの『彼氏』だよ。ミークって言うんだ」 ファシーとミークはケインの腕にしがみつく。 フェンリースは一層冷たい眼差しでケインを見つめる。 「ケイン、いつの間に彼氏、彼女作ったの?モテモテじゃない」 「ち、ちが……誤解だ」 くるりと背を向けると、フェンリースは歩き出した。ケインを見捨てて。 「末永く仲良くね……」 そう言うと、フェンリースは自分が乗ってきた軍用バギーに乗って去っていった。 ………後に残された三人、いや一人は呆然としていた。 『よし!成功!』 ケインの腕から離れたファシーとミークはガッツポーズをした。 本当にそれはもう嬉しそうだった。 その時ケインは、はじめて仲間に殺意を抱いたのだった……… その後、お仕置きと言う事で、一回ずつ二人とも叩いておいた。 「まだズキズキするよ。手加減してよ、ホンの冗談なのに」 頭をさすりながら愚痴を足れるミーク。 「自業自得だ。おかげでまた歩く羽目になっただろ。リースにはきちんと言っておけよ」 もはやケインは振り向かない。 「軍人さんってみんなこうなのかな?ねえ、ファシーさん」 つまらなそうにファシーに問う。 「そうねぇ。人にもよるだろうけど、大抵あんなのじゃないの?  あ、それから私のことは『さん』付けしなくてもいいわよ。ミークちゃん」 「ちゃん、だなんて、言われた事ないからはずかしいなぁ」 ケインをよそに、華やかな会話が弾む二人。さっきことを待ったく気にしてないようである。 もしかして、この二人によって途方もない迷惑をこうむるのではないか、そう思うケインだった……… あれから、休まず歩きとおしていた。日も完全に沈み、ミランドルのネオンの輝きがケイン達の目に入った。 赤、青など様々な色が飛び交っている。ケインもミークも見るのははじめてなようで、それに見入っている。 レードはどうか知らないが、グラジアで光輝くのはバーくらいの物である。 ファシーは見なれてるようで、さしたる感動もしてないらしい。 慣れというものは恐ろしい物であったりする。 とりあえず軍事国家とされているミランドルだが、グラジア、レードと違い、戦には無関心である。 レードにウェポンを送ってはいるが、それは軍部でも上の方が頼まれてやっていることであるので、 一般ではあまり知れ渡っていない。それでも知っているものは知っているが、根がおおらか、 というか無頓着なので『ああ、そうか』程度にしか思っていない。 世界ののんびり者が集まった国といえよう。国王でさえのんびりしている。 実際はそんな事ではいけないのだろうが、それでさえまあいいか、で済ましてしまうところが グラジア、レードと別の意味で怖い。何をしでかすかわからないことも兼ねて。 「さて、ケイン。今からどこに行くの?」 ミランドルの中に入ったが行き先を知っているのはケインだけだ。 振り向いたケインは、何やら浮かぬ顔をしている。 「そういえば、どこにクレイがいるのか知らないな。マクレガーのどこかにいるのはわかるんだが」 首都マクレガー、ミランドルの中心に位置している。ミランドル全体が見渡せるようにその位置にある。 目に見える部分はホンの氷山の一角で、マクレガーの本体は地下に眠っている。 ウェポン開発もそこで行われている。が、本当はどうなっているのかは、内部の者でないとわからない。 「………クレイさんに会いたかったの?それじゃあ心配ないわよ」 何食わぬ顔で言うファシー。 「顔なじみなのか?」 ファシーは大人しく首を振る。そしてスッと指を指す。 その方向はケインの後ろであった。 「やあ」 振り向いた先には、いつもと変わらずにこやかな顔で、手を振っているクークレイ・ロイドがいた。 「遅かったね。待ってたよ、ケイン君」