_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 三章 二話 レード、その狙いは? _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「それじゃあ、ゆっくりしてていいからね。カリスはちょっと出かけてて、今はいないんだ」 いつもと変わらない笑顔のまま、クレイは部屋から出ていった。 案内された部屋は、ミランドル国王に会いに来た客を待たせるための接客室だった。 シンプルな作りだが、気分を落ち着ける香りが立ちこめている。 出されたお茶もとても良い香りがして、実にいい感じになる。 すでにミークとファシーは落ち着き、寝息すら立てている。 「オイ……」 それは落ち着き過ぎだろうと思ったのだが、寝ている二人をわざわざ起こすのは忍びなかった。 というより、起こせば被害をこうむると感じた。 ゆっくりとお茶を飲むケイン。 ようやく取れた休養を、じっくりと堪能することにした。 「ク、クレイ。どうしてここが?」 目の前には、探そうと思っていたクレイが立っていた。 あまりにも思いがけなかったことだった。 そんなケインをよそにいつの通りの言葉使いで言い始めた。 「どうしてって。来るって聞いてたけど、一向に来ないから心配になって出てきたんだ。  リースさんが見てくるって言ったけど、怒って帰ってくるし」 バツが悪そうに笑う二人。二人とは当然ミークとファシーだ。 「ところでケイン君。そこの二人が例の恋人のファシーさんとミーク君かい?」 視線をファシーとミークに向ける。 「その事は何も言わないでくれ………」 嘆願という言葉が最も似合う瞬間であった。 ケイン達がマクレガーに案内されている途中、普通でないにぎやかさに気が付いた。 祭りでもあるのか、のれんを掛けていて、それを見ている子供達が騒いでいる。 クレイに聞くと、数日後にミランドル全体をまきこんだ祭りがあるらしい。 正確には、明日から二日ほど前夜祭もどきがあり、その後盛大にするらしい。 今年はミランドル建国百年紀らしく、村、町ごとで催し物をして、評判の良かった村、町には褒美が出るという。 その事を聞いたファシーは、近くにあった壁を一回殴った。 「あんのくそ親父め、この事知ってたなぁ!どうりで村を出るのをあっさり許したと思ったら!  もしもの時を考えて一人でも人数を少なくしようとしたんだなぁ!」 あの親父さんならやりかねない、そう思うケインだった。 もしかすると話に聞いた長老とグルだったのではないかとも思ったが、いまさらどうでもいい事だった。 そしてあのまま地団太を踏みながら部屋に通され、なんとか落ち着きを取り戻すのだが……… 「………今日もいろんなことがあったな。今までとは違う事だった分、新鮮だったかもしれないな」 当然新鮮過ぎて困った事も一つあった。 また一口お茶を飲み、腰を深く沈める。 (これからどうするか。もうグラジアには戻れないしな。成り行きでここに来たが、何もする事がない。  このまま軍人をやめてゆっくり過ごすのもいいかもしれないな。  普通の人として働き、貯めた金でロバンス達の墓を作ってやるのもいいかもしれないな。  ここいらが、決め時かもしれない。もうあんなのは見たくない……) さらにもう一口飲む。 ちょうど飲み終わった時だろうか。扉をノックし、人が入ってきた。 青色の軍服を着ていた。新兵だろう。おぼつかない足取りで近づいてくる。 「ケ、ケイン・セイガードさんですか?ク、ク、クレイさんがお呼びです。ど、ど、どうぞこちらへ」 そう言うと鋭く敬礼した、つもりだろうが、なんとなく間抜けに見えたのは失礼だっただろうか。 ケインはちらりとファシー達を見たが、起こせば起こしたで、何かしでかすような気がしたので起こさなかった。 なんとか、彼女らの扱いもなれてきたケインだった。触らぬ神にたたりなし、と。 昇降機を使い、地下に降りていくケイン。 ミランドルの真の姿は地下にある。その姿を見る事ができるいい機会だった。 昇降機が止まり扉が開く。その情景にケインは驚いた。 上は鮮やかな石造り。しかし、ここはどうだろうか。しっかりとした鉄造りである。 しかし、何か別な物に見えた。 じっと鉄壁を目を凝らしてみる。 すると新兵が答え出した。 「新兵新兵言わないで下さい。これでも自分は十年勤めてます。  ………で、ですね、これは思っている通り鉄じゃないです。ミスリルですよ」 先ほどのおぼつかない口調が嘘のようである。 ミスリル……銅、鉄に続く鉱物の一つである。 見た目は鉄にそっくりだが、触った感じが鉄のように冷たく感じない。 鉄より耐熱性が良く、延性、展性も優れているのだが、 その反面、純ミスリルは非常にもろく、高質化させるには途方もない手間と技術がいる。 今のところそれを可能にできるのはミランドルのみらしい。 エーテル伝導性が非常に高く、なおかつエーテル不伝導性でもあるという不思議な鉱物である。 武器には伝導性を高く、ウェポン装甲には不伝導性を高くしている。 原産地がファシーのいたマリン村だから驚きである。 「これがミスリルか。はじめてみたな」 「そうでしょうそうでしょう。ミスリルはミランドルが世界に誇る物ですからね」 妙に自信満々で、ふんぞり返っている。 ここぞとばかりミスリルについて話だした兵士は、苛立ったケインの平手打ち一発で正気に戻る。 「さあここです!」 先ほどの平手打ちが効いたのか、怒って帰っていった。 自業自得だと思うのだが。 扉の奥にはクレイとカリスがいた。ケインを待っていたようだ。 「ようこそ、世界随一のウェポン製作場へ」 さすが地下のミランドル。かなり広い造りになっている。 左右にはいろいろな型のウェポンが置いてある。 そこにはラグーン遺跡で発見したウェポンもあった。 「カリス、帰ってきてたんだな」 ケインはカリスの前だとおやじとは言わない。 別に抵抗があるわけではないが、実際本人を目の前にすると恥ずかしいからである。 「リースに事の次第を聞いて、お前とわかれた後、気になったからレードに行ってきた」 「レードに?」 「ああ。で、そこでちょっと放ってはおけない情報を聞いたんで、早めに戻ったんだ。  っと、その前に招かれざる客が来てるようだぞ」 そういってケインの後ろに視線を向ける。 入ってきた扉の隅に人影が映っている。 ケインが振り向いたのを見ると慌てて隠れる。 思いっきりバレバレだった。 「いるのはわかっている。でてきたらどうなんだ?」 人影がゆっくりと姿をあらわす。 緑の髪、瞳を持つ少女、ファスレーン・サシリーズだった。 「あ、あのね、別に悪気があったわけじゃないのよ。ケインがどっか行ってたから、何かあるな〜って思って……」 「それなら普通について来ればいいだろう。別に隠れなくても」 「ケイン君。もうそれくらいで…。彼女もああ言ってることだし」 「…………」 「クレイさん、ありがと。………………ところでなんの話してたの?」 早くも話に加わってくるファシー。彼女の反省時間は十秒なのだと思うケインだった。 「でもいいのか?今から話す事を聞いたら、嫌でも手伝ってもらうぞ」 大丈夫、まかせなさい。そう言ってドンと胸を叩く。 どこからそんな自信が来るのかはしらないが。 カリスの話はこうだ。 数年前、ウェポンがはじめに発掘されてから、今の今でもレードはミランドルのウェポンを頼っている。 実際はレードができたのがウェポンが発掘されてから後だが。 そのおかげで、レードは滅亡せずに今に至るわけだが。 だが、最近ウェポン開発をレードが手を付けたらしい。しかもミスリルを使ってである。 技法がばれたのかどうかは知らないが、順調に製作にかかっているという話だ。 その責任者がロキ・ファラウという人物だと、カリスは告げる。 そして、新型ウェポンができあがり次第、ミランドル、グラジアに全面宣戦布告するらしい。 つまりこの大陸の覇者になろうとしているのだろう。 戦闘慣れしていないミランドルにとって、レードの猛攻は防ぐ事ができるかできないかの問題ではなく、 滅ぶか、滅びないかの状態になっている。勝ち目は万に一つしかない。 「しかし、いきなりどうしたんだ?いくら新型でもレードはグラジアほど兵力があるわけじゃない。  両方を相手するなんて器用な事ができるとは思わないが」 一番兵力が多いのは、グラジアと宗教国のラ・クルスである。 グラジアとミランドルを合わせると、レードの二倍近くになるはずなのである。 逆を言うと、それだけ新型ウェポンの性能がいいのだろうか。 「よくわからんが、そうらしいな。ラ・クルスと手を結んだという話もあったぞ」 「ラ・クルスが?」 現時点では、グラジアとラ・クルスは協定を結んでいる。共に不可侵協定だが。 兵力の多いこの二つが互いにやり合うと、両方が大きな痛手を受ける事がわかっているからである。 もし、ラ・クルスがレードと手を結んだのなら、わかる話である。 「だから、こっちも同じように手を結ばないといけないと思ってるんだよ」 「グラジア、ミランドル連合だけでは五分になるかならないかの状態だ。  そのためにミナレインとも連合を組む必要がある」 ミナレインもラ・クルスと同じ宗教国である。ただ、ミナレインが頼りになるかわからないが。 「………つまり、俺達にその役目を負わせようってことか?」 「物分りが良くて嬉しいよ。こっちの対策としてもどうにかしようと軍連をしているけど  所詮つけ焼き刃だよ。だから君達に暗躍して欲しいんだ。どうだろうか……」 確かにミランドルの者がミナレインに言ってこんな話をしても、 いつの間にか国を上げての宴会になるのは目に見えている。(小田原評定のようなものだ。厳密には違うが) (わかっている。それはわかっている。……だが) 「…………私は構わないわ。レードの奴らに好き勝手させたくないから。だよね、ケイン」 一人気合いを入れるファシー。 「…………」 乗り気でないのが一目でわかる。その証拠に聞き終わると大きくため息をつく。 「俺はもう疲れたんだ。悪いが俺を抜きにしてくれ」 「それは無理な相談だよ。君を選ぶ意味はあれにもある」 クレイはそういうと、ルシェイフを指差す。 「知ってるだろう。ウェポンと搭乗者には相性がある。いくら技術があってもそれだけではできない何かがある。  ミランドル兵士では動かす事ができなかった。もちろん俺もクレイもまともに動かす事ができなかった」 近くにあったテーブルに腰を掛ける。 カリスや、クレイに動かせない物だという事は、相当な物である事はケインにはわかる。 「………あの、ウェポン、使うのか?」 ケインが乗り気でないのはあのウェポンが気になるのも一つである。 あのウェポンにはあまりいい印象を受けない。別にあのウェポンが悪いわけではないが、なぜか嫌でしょうがない。 初めて乗ったときも得体の知れない衝動に狩られてしまった。 その衝動がなくなった後の光景を自分自信が驚いたのだから。 「ケイン君ならわかるだろう。そのウェポンはプロトタイプだよ」 「プロトタイプって?」 プロトタイプ(PT)……簡単に言うと原版である。今製造されているウェポンは、そのプロトタイプを元に作られている。 当然レプリカである今のウェポンより性能は上だが、如何せん扱いが難しい。 それにウェポンによって相性って言うのがあり、相性と悪いウェポンはいくらうまい人でも動かせない。 リースが一番いい例で、彼女は普通のウェポンは動かせないが、自分用にカスタマイズすると操作できる。 「で、プロトタイプがどうしたの?」 がっくりとうなだれるケイン。 「……あのなぁ、だから俺以外の奴には満足に動かせないんだ。そしてレードと戦うにはあの力がいる」 「そこまでわかってるなら手を貸してくれないだろうか」 ケインに歩み寄るクレイ。 「今一番危険なのがレードなんだ。もしあのニ連合が世界を手にいれたらとんでもないことになる。  君も軍人だから、いやレードを知ってるんだからそれがわかるだろう?」 ファシーもカリスもケインに集中する。 (わかっているさ。そのくらい俺にも簡単に想像がつく。だが、それでも俺は……) 「………俺は、もう軍人をやめたんだ。すまない」 そういうと、カリス達に背を向けて出ていった。 「あ、ケイン!」 ファシーは追いかけようとする。が、カリスがそれを止める。クレイも同じである。 「どうして止めるの?ケインだけなんでしょ、あれが動かせるの。だったら!」 首を振るクレイ。 「彼には彼なりに考えてる事があるんだとおもうよ。こっちが無理強いする事はできないし。  それにその気もないのにすると、逆にやられる可能性が高くなる………」 出ていくケインにカリスが声を掛ける 「おい、馬鹿。そうすぐ答えを出さなくてもいいだろ。一日二日考えておけ」 一瞬脚を止めたが、すぐに去っていった。 「こういう事があったんだ。まあ無理はないだろう」 あの後、ケインに起こった出来事をファシーに話した。 「そうだったの…。そんなそぶり全然しなかったから気が付かなかったわ」 ファシー、カリス、クレイは三人まとまって座っている。 ケインの心のうちは誰にでもわかる。 いきなりその場に立ち上がるファシー。 「でも、やっぱりそれはおかしいわよ。  そりゃケインにとって悲しい事だろうけど、放っておいたら同じような人がどんどん増えるだけでしょ!?  一番の方法は戦争自体を無くさないといけないという事じゃないの。だったらやっぱり!」 その言葉を待っていたかのように、クレイは話し出す。 「ファシーさん。だったらお願いしてもいいかな。ケインの説得を。  実を言うと、彼しかルシェイフが動かせないからだ、というわけだけではないんだよ。  なんていうかな。期待、というのとはちょっと違うんだけどね」 「まっかせなさい!私にかかったらケインなんてイチコロよ!」 善は急げ、といいながら走り去っていくファシー。どりゃぁ、と叫びながら。 「元気な子だね。そう思わないかい?」 「あれを元気以外のなんだというんだ?……ところで気が付いたか?ケインがほんの少し変わったということが」 「ああ。ほんの少しだけ外に興味が出てきたように見えるよ。今まで自分しか見なかったからね」 ケインは子供のころから軍人として生きてきた。戦っている事が普通と思っている。 他に視点を向けると死んでしまうような世界が当たり前だったのだ。 ところがグラジアを出たことにより、外に興味を持つ事ができるようになった。 ケインを一回り大きくするためには、今回の事はまさにうってつけなのである。 などと真面目な話をしていると、どこからともなく『どりゃぁ』という声が聞こえる。 二人とも誰が来たか一瞬で気が付く。そして思った通りファシーがやってくる。 息を切らせてやってきた。 「そ、そういえば、さっきから気になってたんですけど、あのウェポンってなに?」 そういうと、右の奥においてあるウェポンを指す。 白と青の色を持ったウェポンだった。 「あれは、先日見つけたウェポンだ。さっき言ったプロトタイプウェポン(PTW)だよ。あれがどうかしたの?」 「いや、別にたいした事はないんだけど、ちょっと懐かしい気がしてたな〜と思って」 『!』 「へ、へぇ。おかしなこともあるもんだね」 「そうでしょ?おかしいわよね、あはははは。まあ、それだけ。じゃ、行ってきます!」 また同じように叫びながら去っていった。 その去っていくファシーをじっと見ていたカリスとクレイ。 「………まだ早くないか?カリス。まさかもう………動き出したというのか?」 さっきまでの柔軟さが嘘のような口調になる。 「そんなはずはない。いや、しかし………………」 朝、明るい陽射しで目が覚めるケイン。 昨日あれから考え事をしていた時、うっかり寝てしまったらしく、体に布団を掛けていない。 ケインはベッドから降りると、持ってきた物をカバンに詰める。 (やはり俺はだめだ。おやじには悪いが。いや、もうおやじじゃないな) カバンをかるい、出ようとしたとたん、すさましい勢いで扉が開く。 「どこに行くつもりなのぉ?」 「お前こそ何しに来たんだ?」 「問答無用!」 ケインの、かるっていたカバンをベッドに投げつけ、手を引いて歩き出した。というより引っ張っていった……