_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 三章 三話 新たな決意 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「あ、見てよ、ケイン。あれなんか美味しそうよ」 バタバタと店にある食べ物に向かっていった。 ケインはファシーの行くところについていく。 「ちょっと、あれなんか面白そうじゃない?」 バタバタと遊技場を駆けまわる。 それについていくケイン。 その繰り返しであった。 気がつくと、ある店の前でファシーはケインを待っていた。 「おっそいわよ。女の子を待たせるなんて最低の男ね。ま、そんな事は置いといて、これやってみない?」 そう言って手前の射撃の店を指差す。 「ケインの射撃の腕、見たいんだけどなぁ」 ケインにとっても断わる理由がないわけなので、二人は店に入る。 「おじさん、一回ね〜」 店の中央で、店主であろう親父に声かけるファシー。 「あいよ、やるのはそっちの兄ちゃんかい?」 ファシーがうなずくと、遊戯でやる射撃銃とコルク弾五つがケインに手渡される。 「兄ちゃん、兄ちゃん。彼女の前だからって肩に力入れたら余計あたんないよ」 「いやだ、おじさんったら。私とケインはそんなんじゃないわよ〜。女王と奴隷って関係かしら?  それに私とケインだと全然つりあわないでしょ〜」 「お、そいつは失礼だったなぁ。確かに女王さまには不釣合いですな〜」 あっはっはっは。と笑うファシーと店の親父。 どうやったら初対面でこんな会話ができるのか不思議だが、ファシーはもう慣れ親しんでいる。 「ケイン、あれ取りなさい」 ファシーは景品台に乗っている箱を指差す。多分中身はお菓子類だろう。 ケインは言われたとおりの物を狙い打つ。 元軍人だったとはいえ、二日前まで軍人であったわけで当然の如く用意された玉は対象物に命中する。 「お、やるねぇ」 店の親父が賞賛の声をかける。 「じゃあ、今度はあれ」 同じように言われた物を落とすケイン。 面白くないのは店の親父である。 「兄ちゃん、プロかなにかかい?もしかして伝説のピッチマンだったら驚くぜ。  さて、最後の一発は俺が指定してもいいかい?女王さま」 「いいわよ。……がんばってね」 今度はファシーから励ましの声を貰う。 かなりの自信があるのだろう。態度が大きくなる店の親父。 「こいつを落としてみろ!」 ビシィ、と指を差した先には他の景品より一回り大きな物があった。 多分それに加えて落ちにくくしてあるのだろう。 腕を組み、ふんぞり返っている。 ケインは対象物をじっと見る。 すべての物には重心がある。普通はそれを叩くとあっさりと崩れるのだが。 しかし、いくら倒れにくくしているといっても、固定されているわけではない。 その一点を見極め、打ちぬけば理論的には倒せる。 だが、どこを固定されているかわからないのだから、狙い様がない。 ケインは今まで打っていた場所から移動し始める。 「おい、兄ちゃん。逃げるのかい?」 絶対に不可能だろうという自信からか、あおる店の主人。 店の一番端に来るとケインは標準をあわせる。 狙いはもちろん店の親父が指定した物だった。 驚いたのは店の主人だった。いままで何人も客を見てきたが、こんな打ち方をする人はいなかったからだ。 ケインの狙いはただ一つ。対象物の頭部分である。 店には客はケイン達だけではない。目の前をコルク弾が飛び交っている。 その中で対象に当てるのは至難の技だ。 パスン!ケインの銃からコルク弾が飛ぶ……… 「ありがとやンした……………」 初めとは妙に気合いの減った挨拶だった。 当然である。自信持って倒れないと思っていた物が倒されてしまったのだから。 店の親父の盲点は、正面から打ってくると思い込んでいた所為で、前にしか重りをつけてなかったらしい。 まあ、普通は横から打つような奴はいないが。 後日談だが、同じような仕掛けを施した景品が、跳弾で『前に倒した』という話しがあったらしい。 その本人がフェンリースだというのは秘密である。 近くにあった椅子に腰掛けるケイン。 ファシーは飲み物を買いに行っている。 (本当ににぎやかな国だ。こんな時世にやるなんてな) 空を見ながら思うケイン。 そこで飲み物を買ってきたファシーがケインの横に座る。 「あのねぇ、本当はこういう事は男がやらないといけない事なんだからね」 そういって持ってきた飲み物を渡し、ケインの横に座る。 周りの騒がしさをよそに、ケイン達は何も話さない。 ファシーは持ってきた飲み物を一気に飲む。 ケインは一つも手をつけてない。 「一つだけ聞いてもいいか?」 ボソッとつぶやく。 「スリーサイズとかはダメよ」 「誰もそんな事は聞かないから安心しろ。興味もないからな」 「なんか引っかかるわね、その言い方……」 「なぜこんなに俺に構う」 ケインはファシーにとってホンの一日、それも特に理由があってついて来ているわけではない。 丁度いいときに居合わしただけの存在である。 「祭りに一人できても面白くないもの」 「それだけだったらミークに言えばいいだろう」 ファシーは首を振る。 「ミークちゃんは私達より早く出ていったわよ。探したい人がいるからといって。  ケインにここまでつれてきてくれてありがとう、って言っておいてって言ってたわ」 ミークも所詮ミランドルに来るまでの付き合いである事はわかっていた。 「それだけのために俺をつれてきたのか?」 だとしたらこれ以上ない迷惑だ。もう俺はここにいたくはない。 なにもしない俺にとって、ここはただの戦場でしかない。 俺はもう軍人ではない。一般人が戦場に出るのはただの邪魔でしかない。 だが…………… 「迷ってるでしょ、ケイン」 ケインは今の自分の心の奥底を見ぬかれた気がして驚いた。 「なにがだ?」 それでも平静を装う。 「バレバレよ。隠し事できない性格でしょ」 そういうとファシーは立ち上がり、ケインの目の前に立つ。 「今の心の内を簡単に言ってあげようか。あなたは今この瞬間にでもここから出ていきたい。  なぜか。あなたは知ってるから。ここが戦場になるという事が。  そして、あなたは自分自身をこの場所で遊んでいる普通の人であると思っている。  だから、争いには関わりたくない。……そうでしょ」 ニヤリと妖しく笑う。 そして、ビシっとケインを指差す。 「そうは思っても、気になって気になってしょうがない。その理由は自分でも分からない。  だからこそ余計に気になってしまう。理由なく気になってしまう事に」 すでに何を言っているのかよくわからない。が、当たってはいる。 逃げ出したいが、逃げ出したくない。そういう思いだった。 その二つの思いが交差して、答えが出ないままであった。 「ケイン、あなたの心はキレイ過ぎるよ。少しは自分の事だけを考えてみないと……」 うつむくファシー。 ドン! その時はしゃいでいた子供がファシーの背中にぶつかる。 「あ、あの………」 ちょっと怯えている子供。 ファシーはしゃがむと子供に言った。 「お祭りは楽しい?」 「うん!もちろんだよ。それにお祭りは楽しくしないといけないってお母さんも言ってたもん」 「そうね」 優しく笑うと子供の頭をなでだす。 「いい?このお兄ちゃんみたいにお祭りに来て楽しまなくなったら人生おしまいよ」 といってケインを指差す。 そうすると子供はケインの前に行く。 そして、精一杯背伸びしてケインの頭をなでる。 「よしよし」 驚いたのはケインである。 「お母さんがね、つらい時にこうするとつらいのがどっかいくって」 その光景を見て微笑むファシー。 「そう……だな」 「つらくない?だいじょうぶ?」 心配そうに顔を覗き込む子供。 「ああ、おかげでつらくなくなった。ありがとうな」 そういってお返しに子供の頭をなでる。 「さあ、精一杯遊んで来い。今日は祭りだからな」 「うん!」 元気よく返事する子供。 「でもいくら楽しくてももうぶつかっちゃダメよ」 「は〜い!」 そう言いながら子供は走っていった。 子供の姿が見えなくなると、ケインの横にファシーは座る。 「慰めてもらってよかったわね、ケイン」 「ああ。……………ファシー、俺は今からどうしたらいい?」 「難しく考えなくてもいいんじゃないの?できる事を精一杯すれば」 「できる事……か」 空を見上げるケイン。 ケインの上を白い雲が川を流れていくように横切っていく。 汚れを洗い流すかのように……… 「カリス、ファシーさんの事どう思う?」 クレイはベッドに横たわっているカリスに声をかける。 めんどくさそうに体を起こすカリス。 「別にどうもこうも無いだろう。彼女は彼女だ」 「そうじゃないよ。さっきの事といい、ちょっと引っかかるんだけど」 クレイとカリスの会話はそこでとぎられた。扉を叩く音がしたからだ。 入ってきたのはケインだった。 「どうした?ケイン」 カリスはベッドから飛び起きる。 「どうしたんだい?ケイン君」 とは言いながら、実は何しに来たかはおおよそ見当はついていた。 「クレイ、昨日の件、やっぱり引き受けることにする」 「あれ?一体なんの心変わりが……?いや、素直に喜ぶよ。よろしく頼むよ」 「ああ。それでだが、どうするのか詳しく教えて欲しい」 「よろこんで」 そして三人は一つのテーブルに向かった。 そのころフェンリースは…… 日も落ち、さすがにいささか騒がしさも収まり始めていた。 フェンリースは一番落ち着いてみえる雰囲気のあるバーに入った。 近くにあった空いている席に座ると、奥からなにやら一番いやな笑い声がする。 静かなバーであったが、ある二人がその雰囲気を完全に壊している。 「おいおい、聞いたか?レードがミランドルに襲って来るんだそうだぜ」 「マジかマジか?でも俺達がいれば一捻りだぜ。ガーッハッハッハ!!」 どこで聞いていたか知らないが、どこかの流れの兵士崩れであろう。 できないことを、さもできるかのように言うのは彼等にしかできないことである。 甘く見ているからこそ、クビにされたんだろう。 「イーッヒッヒッヒ、まあなんだ。ミランドルのウェポンさえあればレードも赤子同然だ」 「違いねぇ。ガーッハッハッハ」 いい加減鬱陶しくなったので止めに入ろうとするため、席を立とうとする。 が、席を立つ前に誰かがうるさい二人組に声をかける。 「やかましい。黙って飲めとは言わんがもう少し大人しく飲めねぇのか。  それに、大きなことを言うのはいいが、返り討ちにあわないように気をつけるんだな」 静かに酒が注がれたグラスを傾けながら、銀髪の男が二人組に言う。 その言葉にむっときたのか、酒くさい息を出しながら立ちあがり、男に近づいていく二人組。 「よぉ、兄ちゃん。だぁれにむかっていってんのかわかってんのか?」 「そうだぜ、俺達は兵士なんだぜ」 「崩れが大きなことを言ってると死ぬぜ」 完全に頭にきたらしい。テーブルをバンっと殴りつける。 「てめぇ、ぶっ殺す」 「やれるものならやってみろ。俺はできもしないことを、できると言う奴が大嫌いなんだよ!」 男も勢いよく席を立つ。 あっさりと決着はついた。二人組は酒が入っていたのも原因の一つだが、男の強さがけた違いだった。 「お、おぼえてろ」 去り際まで三流のやられキャラはむざむざと店を出て行った。 「くそが……」 その後何もなかったかのようにもとの席に座り、酒を飲み始める男。 その姿を見たフェンリースは目を疑った。その男に見覚えがあったからだ。 「レ、レヴァルス=カインシーカー?どうしてこんなところに………」