_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 三章 四話 レヴァルス、陸に上がった海人 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ あっさりと兵士崩れのごろつきを殴り飛ばした後、男は今まで飲んでいた酒を一気に飲み、店から出ようとした。 が、フェンリースは店から出ていく男の腕を掴む。 先ほどのイライラがとれてないらしく、腕を掴んだ人物の顔をにらみつける。 しかしその顔も驚きに変わる。 「レヴァルス、一体ここで何をしてるの?」 先に話し出したのはフェンリースだった。 少しばかり状況が悪い一場面だった。 周りから見たら若い女がいい年の男を呼び止めた感じになっていたからだ。 「……ここじゃ場所が悪い。変えよう」 そういうと掴まれていた腕を振り払い、店から出る。 それについてフェンリースも出ていく。 店ではよからぬ噂が飛び交ったのは言うまでもない…… 店を出た二人は寂しい路地に入った。 路地に無造作に置いてあったバケツに腰をかける男。 その男の目の前にフェンリースは立つ。 「もう一度言うわ、レヴァルス。どうしてあなたがここにいるの?  あんないいところも一つもないようなバーで飲んで。それにあんな美味しくない飲み方なんかして」 レヴァルスと呼ばれた男は、うつむいたままなにも話そうとしない。 「てっきり今でもがんばってると思ったら、こんなところで油売って。……なんとか言いなさいよ」 「……………」 ぼそっとつぶやくがフェンリースの耳には届いていない。 「それと父様はどうしたの?一緒じゃないの?」 やはりなにもいわないレヴァルス。 苛立ったフェンリースはレヴァルスの胸倉を掴む。 「父様は?父様はどうしたのよ!」 だが、視線を合わせようとせず、横にそらす。 「ま、まさか……」 「いい加減、手を離してくれないか?」 「……よくもそんな事がいえるわね」 「放せって…言ってるだろ!」 強引に振り払うレヴァルス。 その反動で後ろに下がるフェンリース。 振り払ったレヴァルスをにらむフェンリース。 「そう、それがあなたの答えなのね。だったら尚更聞かないと引き下がれないわ。  レヴァルス。私と勝負しなさい。あなたが勝てばなにもいわなくてもいいけど  私が勝ったなら全てを話してもらうわ」 ゆっくりと立ちあがるレヴァルス。 バサっと黒いマントをひるがえすフェンリース。 本来フェンリースは改造した銃を使うのだが、相手が相手であり、 殺害が目的ではないので素手同士での戦いである。 が、レヴァルスがどのくらい強いかは、フェンリースがよく知っている。 「本当なら私が勝てるわけはないだろうけど、今のそのふ抜けたあなたにならなんとかなるわ」 言うやいなや一気に間を詰めるフェンリース。 レヴァルスの懐に入ると下から上に向かって肘を打ち上げる。 その動きを読んでたらしく、軸をずらしてかわす。 フェンリースの動きはそこで止まらず、その動きを利用して、そのまま後ろ回し蹴りを放つ。 しかしその動きを見てから後ろに大きく飛ぶレヴァルス。 止まらずその動きについていくフェンリース。 着地寸前を狙い、胴回し蹴りを打つ。普段なら受け止める事しかできない。 が、フェンリースの蹴りは空を切った。 「な!?」 レヴァルスが視界から消えた事に驚くフェンリース。 後ろから殺気を感じ前方に反転しながら飛ぶ。 そこには力強く構えたレヴァルスがいた。思わず銃に手をかけた。そうせざるを得なかった。 一流を超えたものにしか出せない気を発しながら。 思わず息を呑むフェンリース。フェンリースの記憶ではレヴァルスは今四〇歳である。 だが、レヴァルスには四〇歳という年を考えさせない感じがする。 昔のレヴァルスと全然変わっていない。 フッとレヴァルスの姿が消える。 (後ろ?)思うと同時に後ろに蹴りを出す。 視界に一瞬レヴァルスの姿が映ると同じに消える。恐ろしい速さで動いているのだ。 レヴァルスの気配が一瞬消える。フェンリースの気もそれに釣られてそがれる。 ホンの一瞬の事だったが、レヴァルスにとってその一瞬で十分だった。 フェンリースの反応できない速度で拳が飛んでくる。 フェンリースに冷たい汗が流れる。 レヴァルスの拳がフェンリースの顔のすぐ手前で止まっていた。 寸止め、という奴である。それでもフェンリースの体には電気のような物が走っていた。 「文句、ないだろう……」 拳を出したまま言うレヴァルス。 「ないわ……」 完全なる敗北だった。 フェンリースのセリフを聞くと、横をすりぬけて路地を抜けていく。 レヴァルスは立ち止まると振りかえらずにこう言った。 「時が来たら、その時が来たらきちんと話してやるから待ってろ……」 今の動きで汗が出ていたフェンリースに比べて、レヴァルスは一つも汗を掻いてなかった。 それに気づいたフェンリースだが、素直にレヴァルスを信じることができなかった。 レヴァルスは元々海賊だった。古い言い方をすると義賊というのだろうか。 グラジアなどのような軍事国の輸送船を襲い、貧しい村や町にそれを配っていた。 フェンリースもレヴァルスに助けられた者の一人であった。 数年間共に行動したが、八年前味方の裏切りに合い、ラ=クルスに捕らえられた。 無事脱出するが、フェンリースとレヴァルスは別々になった。 フェンリースの父親、サンブックはレヴァルスと共に逃げたらしい。 がそれからは船のなくなったレヴァルスに何があったかは闇の中である………… フェンリースは夜もふけてから部屋に戻ってきた。 ケインはその姿を見て呼びとめる。 「遅かったな。何をしてたんだ……と、俺が言う意味はないな」 フェンリースはあまり自分の事を話さない。 自分に起こった事を他人に言っても意味はないと思っているからだ。 「……ちょっと古い知り合いと話し合ってただけよ」 「めずらしいな」 「たまには…ね。でケインの方は?」 「ああ、とりあえず手伝う事に決めた。それが俺にできる最善の事だからな」 今までとは違い、ケインの目には決意の光りがあった。 「明日、ミナレインに行くことに決まった。リース、お前はどうする?」 「暇だからついていくわ」 フェンリースらしい、思った通りの答えだった。 「そうか。…明日は早い。もう寝た方がいいな」 「そうね。じゃあまた明日……」 かるい挨拶をするとフェンリースは部屋に入っていった。 すぐ後にケインも部屋に入り、睡眠をとることにした。 場所は変わってレードのある作戦ルームにロキと他五人が座っていた。 五人はそろって同じ服だが、普通の兵士の格好ではない。 それなりの位置にいる者だろう。雰囲気が違う。 「急な召集で済まないな」 ロキが五人に対して言う。 「いえ、我々はロキ様の忠実なる部下です。そのような事をいうのはおやめください」 五人の中の一人、長い髪をポニーテールにしている、緑色の瞳、ライトブラウンの髪をしたをした女性がいう。 「それで、私達を呼んだのには理由が御有りだろう。その詳細を聞かせてもらえまいか?」 今度はオールバックのキレイな銀髪、銀の瞳を持つ、それなりに年を取っている男が言う。 「そうだったな。君達『極秘裏部隊マテリアル』を呼んだのは他でもない。  今レードはラ=クルスと協定を結んだ状態にある。  当然グラジア、ミランドルも同じように手を結ぶだろう。  そして先日ミランドルがミナレインとも協定を結ぼうとしているという情報が入った」 「あはははは。両方頭に『ミ』がつくね〜〜」 「真面目な話しでどうしてそういうこというかな〜、お前は……」 はじめによくわけのわからない事をいったのが、赤い瞳、ぼさぼさした赤い髪を持ち見た目は幼く見えた女性。 そこを突っ込んだのが青い瞳、セミロングの青い髪を持った女性であった。 一人静かに座っているのは黒い短髪、黒い瞳を持った青年である。 「君達にはそれを阻止して欲しい。まあそんなことに戦力をあまり注ぎ込みたくないので誰か一人に頼みたいのだが」 ガタンと率先して立ちあがったのは、はじめに言葉を発した女性だった。 「ぜひその任務、私にやらせていただけないでしょうか」 彼女の瞳には確固たる自信があった。 「コーちゃんだったら確実だからいいんじゃないかな〜〜」(赤髪) 「お前は自分からやろうとは思わないのかよ……」(青髪) 「私に依存はない」(銀髪) 「……」(黒髪) 「わかった。お願いする。頼んだぞ、コーデリア」 「はい!ぜひよい結果をご期待下さい」 鋭くロキに向かって敬礼をするコーデリア。 「それでは来てすぐだが、今日はおしまいだ。各自ゆっくり休むように」 そういうとロキは立ちあがり、作戦ルームから出る。 続いて銀髪の男が、ガタンと席を立つとコーデリアの席の前に来る。 コーデリアは男を見上げる。 「父様」 父様と呼ばれた銀髪の男は軽くコーデリアの肩を叩く。 「お前なら心配ないだろう。だがあまり肩に力を入れずにやったほうがよりよい結果が得られるぞ」 「心得ております、父様」 席を立ち、トッテッテと赤髪の子がコーデリアのほうに向かってくる。 性格には銀髪の男の方にだが。 「ひどいやひどいや、それってラリサがやったら失敗するっていってるみたいだよ〜〜」 滝のような涙を流しながら抗議する。というよりいじけているだけだが。 「いや、実際そうだろ」 ツカツカとゆっくり青髪の女性が歩いて来る。 「あう〜〜〜〜」 「ラ、ラリサもそう泣かなくてもいいと思うが。ラリサにはラリサのいいところがある」 ちょっと苦笑気味の男。 「そう言ってくれるのはハーちゃんだけだよう〜〜」 そういって抱きつくラリサ。 そして気にしないかのように黒髪の男が立ちあがり、部屋から出ていった。 それを見て銀髪の男は、私達もそろそろでよう。コーデリアは明日があるから今日はすぐに寝るように。 というと、特に反対する意味がないので四人はそろって出ていった。 ラリサと青髪の女性は最後の最後までボケとツッコミを繰り返していた。 銀髪の男は自分の部屋の前に立ち、カードキーを取り出す。 ソケットに通すとピッと機械音がして扉が開く。 部屋に入ると自動で扉が閉まる。 銀髪の男は入ると立ったまま動こうとしなかった。 「お前は今の俺を見たらどう思うんだろうな………」 テーブルの上の写真を見ながらそうつぶやく。 部屋に戻ったコーデリアは、室内のシャワールームにいた。 シャワーから勢いよく出ているお湯を、体に打ちつけたままである。 (父様は私を見てない。もっと他の、誰かを見ている…。今回で私だけを見てもらう!父様は私だけの物……) そして夜は明ける……… いつも以上に気合いを入れて身支度を整えているケインがいる。 しかし朝一番に聞きたくもない足音を耳が捉え、せっかく入れた気合いが抜け落ちそうだった。 逃げ場がないわけで、あっさり観念するケイン。 思った通り勢いよく扉が開く。 「朝の挨拶は!?」 「……」 あからさまに無視をしたい気分だった。 「ノッてくれないのね、お姉さんは悲しいわよ」 「俺の方が年は上だろう」 そうは思っても口が勝手に動く自分がなんとなく悲しかった。 「ヤッホー、ケイン〜。今日も一日がんばろう!」 ファシーの後ろから聴きなれた声が聞こえる。 ホントは女なのにボクというミークだった。 「ミーク?」 ひょっこり扉から顔を出すミーク。 「そう、ミーク。人探ししてたんだけど見つからなくてねぇ。お金もないから宿に止まれなくて、  ここに止めてもらおうと思ったら面白そうな事をしてるから協力する事に決めたんだ」 軍に宿をもらうなんて普通の神経ではないが、さすがに普通ではなかったらしい。 ケインは大きくため息をつきながら、首を左右に振る。 これから起こる事は、なにより困った事になりそうだった。 協力した事を心底後悔したケインだった。 「おやぁ、いい年青年が朝からため息とはこれいかに?」 「あ、イカで思い出したけど、昨日食べたイカ、美味しかった〜」 「え〜、ミークちゃんイカ食べたの?いいなぁ。昨日は…………」 付き合いきれなくなりさっさと部屋を出るケイン。 そんなケインをよそに祭りのイカの話しでミークとファシーは盛り上がった。 ミランドルの北にある海岸には大きな船があった。最後の調整中であるらしく、作業士がいろいろいじっている。 その中にフェンリースがいるのを見ると、なんともいえない気がした…。 そしてその船の姿を見るカリスとクレイを見つけ。声をかける。 「やあ、おはようケイン君。よく眠れたかい?」 「ああ。…これで行くのか?」 「そうだよ。とりあえずミランドル自信作を用意したよ。  運搬船だけどリースさんのおかげでそれなりに武装化できたけどね。  ウェポンも三体、君のとファシーさんのとリースさんの」 ファシーのウェポンと聞いて、首をひねるケイン。 「ファシーは持っていたのか?」 ファシーは軍人でもなく、ただの一般人である。普通は持っていない。 「なぜか使えるようだからね。戦力はあるに越した事はないしね」 そんな事をいっていると後ろからファシーとミークの声が聞こえる。 今度は焼きどうもろこしの話しで盛り上がっていた。 本当に人を探していたのか疑わしいものである。 ファシーとミークがくると、クレイはミランドルにいく主力の四人を呼ぶ。 呼ぶと言っても、実際はフェンリースだけだが。 「君達にこんな事を頼んで申し訳ないけどね。よろしく頼むよ」 まかしとき!OK、OK!と妙に気を貼るファシーとミーク。 「自分はミランドルから離れる事はできないけど、応援してるよ」 「あれ?カリスさんは?」 一緒に行く中にカリスが入ってないことに気がつくファシー。 「俺か?俺はもう一度レードに行く。こういう事は情報が命だからな」 そっちもがんばってね。というファシー。 「そろそろ出た方がいいね」 時間をチェックすると、乗りこむようにクレイは言った。 船に乗ったファシーとミークは妙にはしゃいでいた。 艦長に頼むよ、というとカリスとクレイは船を下りる。 船を起動させる音が大きく鳴り響く。 ゆっくりと進んでいく船を見送る中、カリスとクレイは険しい顔をした。 二人はうなずきあうと、浜辺から去っていった。 ミランドルを出て十数分。ファシーとミークは過ぎ去る風にノッていた。 看板を騒がしく走りまわっている。 風を感じているのはケインも同じだが。 ミナレインにつくのは数時間後である。ここガリア大陸から他の大陸にはかなりの距離がある。 特にミナレインは大陸の逆面に位置しているため余計に時間がかかる。 ミナレインに他の手がまわらないのは地形的に有利という事もあった。 ケインの側にフェンリースが寄ってくる。 同じように風に感じている。 「久しぶりに受ける船の風だわ」 つぶやくフェンリース。 ケインはフェンリースの過去を全く知らない。聞こうともしなかったが。 まあお互いそうだが。 「昨日ね、知り合いに会った、そういったわよね。その知り合い、海賊だったの。  今では美味しくもないバーで酒を飲んでいるだけの男だった。陸に上がった河童ほど笑えるものはないわ」 苦笑した感じでいうフェンリース。 「……」 「ホントおかしいわよね」 「……周りから見ればそうかもしれないが、その河童にだって理由があるはずだ。  自分の住処を捨て、陸に上がって来なければならない理由というのがな。違うか?」 フェンリースはハッとした。 昔のレヴァルスは一体どういう奴だったか。 自分のことだけしか考えないような奴だったか。 いや、そんな奴なんかじゃなかった。 昨日去り際に言ったせりふ『時がくれば教えてやる』 その言葉を信じなければならないことを思い知った。 父親の次にレヴァルスの気持ちは知っているはずだ。 「そうね……」 フェンリースはそのまま風を感じつづけた。 ミランドルから丁度一時間ほど離れた時、ブリッジから放送が流れた。 「ケインさん、1-9-0の方向に少数の艦隊反応があります!」 ケインは急いで南の方を見る。 確かに小さいが船団である事は間違いなさそうだった。 「どこの物かわかるか?」 「おそらくラ=クルスのと思われます!」 情報が漏れていたのだろうか。丁度いい場所に現れたところを見ると待ち伏せしていたと思われる。 「緊急自体!全員戦闘配置に付け!全ての船員は船の中に入るんだ。急げ!」