_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 四章 三話  怪奇!海に浮かぶ緋の機体 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「ロキ……」 ある部屋で本を読んでいるロキの後ろから、ある人物が声をかける。 銀色の髪をしたマテリアルの一人、ハイペリオンだった。 ロキは本を棚に戻すとゆっくり振り向く。 「なにか?」 そして、側にあった椅子に腰掛ける。 「貴公には恩がある。だがそれを承知で一つだけ聞きたい」 「構いませんが」 ふう、と一息つくとハイペリオンは話し出した。 「一体いつ出撃するつもりだ。もういつでも出る準備はできてるのだろう。  だからあのような情報をわざと流したのではないのか?」 ハイペリオンの言う通り、レードとラ=クルスが連合したというあの情報は実はロキが漏れるようにしていた。 ハイペリオンはミナレインから主力兵士、つまりケイン達のことだ、を引き離す事だと思っていた。 だが、いつまで経ってもミナレインに攻め入る事をしないロキに不穏に思ったのである。 「楽に勝っては面白くないでしょう。…………冗談ですよ。  少しばかりやっておかない事がありましてね。そのために多少遅れる事もあります。」 ニヤリと、妖しく微笑むロキ。 「先ほどから、とてつもない力を感じている。コーデリアのいる辺りにだ。ただの偶然か?」 コーデリアはハイペリオンの娘である。子を思う親心である。 いくらコーデリアが並外れて強いといってもハイペリオンから見たらまだ子供である。 「偶然ですよ、全くのね……」 「…………」 数秒間静寂が辺りを包んだ。 「おっと、もうこんな時間ですか。まだやる事があるので、これで失礼してもいいですか?」 そう言って席を立つロキ。 「ああ、作業を止めて悪かったと思っている。だが、これだけは言っておきたい。  もし、コーデリアを何かのダシに使っていたというのなら、いくら貴公でも容赦はしない……」 ハイペリオンはロキに殺気を向け、腰につけてある剣に手をのばす。 ロキは少しも動揺することなく、微笑みながらハイペリオンの横を通る。 そしてロキは扉を開けると立ち止まる。 「私を信じてください…………」 パタンと扉を閉まると、次第に足音が遠くなっていった。 その場に一人残されたハイペリオンは手にした剣をおろす。 「コーデリア…………」 ハイペリオンは逆方向から部屋を飛び出した…… 「『今日こそは』思いっきり暴れてやるぜ……」 真っ赤なウェポンの背中には、真っ黒な羽根らしき物が六枚ほど見えた。 そのウェポンは空に浮いたままで、あの羽根の力であろうと予想された。 「手始めに、そこの奴だ。お前だよ、お前」 そう言ってルーカスを指差す。 「あ、あなたは何者なのですか!ケイン・セイガードではないのですか?」 「ふん、あんな弱い奴に興味ねぇよ。それより殺ろうぜ。俺は何よりお前等の叫び声が聞きてぇんだよ」 ルーカスは思わず数歩下がる。恐怖を感じたためである。 コーデリアは始めて恐怖というものを感じた。 それに近いものは幾度となく体験した事があるが、今回のような物は始めてだった。 「逃げても無駄だぜ。どうせお前等は全員死ぬんだからな」 その時母艦に搭載されていた兵器が動き出した。 『コーデリア様、お離れ下さい。あのような輩は主砲バベルキャノンでふっ飛ばします!』 標準が赤いウェポンに向けられる。 「おいおい、飛び道具は卑怯じゃねぇのか?」 『やかましい、コーデリア様に仇成すものはみな成敗するのだ!』 「待ちなさい、それを使う許可は出せません!」 コーデリアは、慌てて止める。 バベルキャノンはプロトタイプウェポンと同様の時代に作られたと思われる兵器の一つである。 実際先頭で使った事がなく、どこに対しても秘密にしていたものなのである。 秘密にしていた理由としては、破壊力がとんでもないからである。 一度試験的に使ったとき、島が分裂してしまうほどだった。 「俺は構わないぜ。卑怯モンはどこまで行っても卑怯だからな。どうせなら卑怯の限りをつくせよ」 「私達の…どこが卑怯なのですか!」 一歩前に出るルーカス。卑怯と言う言葉がコーデリアを刺激したらしい。 目の前の物に対する恐怖も、そこにはなかった。 「一対一の闘いにそんなモンを取り出すからに決まってるだろ。  そもそもお前等は自分達じゃなんにもできないのさ。だから別の手を借りたんだろ?」 「な、何を言ってるんです?」 「…………言いすぎたな。まあ冥土の土産と言う事にしとくか。さて、ショーでも始めるか」 赤いウェポンはそのままの状態でルーカスに近づいてくる。 ルーカスは再びエーテルのブレードを手にし、構える。 今度のはケインとやったときより太く大きかった。 「我が父に習いしこの剣技、特とその体に刻むがいい!」 「そう来なくては俺が楽しくない」 ルーカスも赤いウェポンにダッシュする。 そして手にしたブレードを力強く振り下ろす。 ルーカスはもとより、母艦の中にいた乗組員もその一撃で終わると思った。 だが、ルーカスのブレードは相手のウェポンに届く事すらなかった。 「そ、そんな馬鹿な……」 ルーカスのブレードは軍でも上位に位置するほどの威力がある。 それが相手にすら届かないと言う事は、ウェポンが何かに守られているとしか考えられなかった。 先ほどからウェポンの周りに何かがあるという事は感覚的にわかっていた。 それがまさかエーテルの障壁であると知らされた時は、皆さらに信じられなかった。 前回も言ったかもしれないが、エーテルはそのままでは存在できない。 使用者がそれの存在を物質界に許す事で始めて具現化できる。 この場合、エーテルその物がウェポンを包んでいるため、 全く異なった物同士が次元をそれぞれが越えるはずなく、ウェポンに届かなかったというわけである。 ちなみにこんな事ができるのは、ウェポン自体がエーテルでできているか、 もしくはとんでもないエーテルの干渉力を持っていると言う事である。 「頼むぜ、まさか今ので終りじゃないだろうな」 平然とたたずむ赤いウェポン。さすがに搭乗者の表情はわからないが少なくとも馬鹿にしているだろう。 はっきり言ってコーデリア達には絶望的だった。普通に攻撃のしようがないからだ。 あるとしたら、相手が攻撃に移る時に障壁がなくなったスキを狙うしかない。 もちろん物理攻撃をしてきたらの話しだが。 ところが手はない事はない。まさにリーサルウェポンが残っている。 『コーデリア様、バベルキャノンを使う以外方法はありません!』 バベルキャノンはエーテルの力を乗せてあるため、理論的には大丈夫だが、破壊力に問題がある。 「しかし、そんな事をしたら余波でとんでもない事が起こります!」 『この辺りは海一体ですから大丈夫です。もう手段はありません。このままだと世界が終わってしまいます』 「その案には俺達も同じだ」 いつのまにかルーカスの後ろにファーガ達がいた。 「迷ってるヒマはないと思うんだがな、コーデリアさんよ」 「もしかしたら余波で死んでしまうかもしてませんがいいですか?」 「嫌なら始めから協力しようなんて言わないさ」 「……わかりました。それでは協力していただきます。あのウェポンは必ずエーテル障壁を消してきます。  自分の手でカタをつけたいと思っているはずですから。  だから私達でもなんとかダメージを与える事ができます。  そこを狙い、相手の動きが鈍くなってきた時に私達で相手の動きを止めます。  ですから打つ時は合図をください」 相手一人に、自分達は七体。それでも動きを止められるか不安だった。 それほどの力の差を感じている。 「それでは行きます!」 七体のウェポンは一斉に赤いウェポンに向かっていった。 それを待っていたかのように、そしてコーデリアの予想通りエーテル障壁を消した。 そこへすかさずファーガの部下が相手を襲う。 だが、やはり脇役、あっさり攻撃を避けての回し蹴りであっけなく大破。 「一人ずつ行っても駄目です。一斉に行かないと!」 それから数分、七体いたウェポンも立っているのは コーデリアのルーカスと、ファーガのライプニッツだけになっていた。 手も足も出ない状態で、何をするにも効果がなかった。 二人ともバベルキャノンの準備を待つまで持ちこたえる事ができるのかという思い出一杯だった。 「コーデリア、大丈夫か?」 「なんとか。そっちはどうです?」 「大丈夫だ、といいたいがかなりヤバイ。そろそろ限界かもしれん」 「同じく……」 先ほどのケインとコーデリアの闘いのような状態だった。 もちろんこっち側がケインだが。 『コーデリア様、準備できました!』 二人にとってこの声は救いの声だったに違いない。 しかし、最後の問題にさしかかっていた。どうやって動きを止めるか、という事である。 さっきの七体だったらできたかもしれないが、今はニ体に減っている。 「………いいですか?私が撃て、といったら迷わず撃ちなさい。いいですね?」 『わかりました』 「やるか……」 「そうですね……」 父様、これで最後かもしれません………… ルーカスとライプニッツは同時に逆に動く。 ルーカスは左方向から接近する。赤いウェポンがアームを降りまわすがかわして懐に入る。 そして同時に降りまわして伸び切ったアームを固める。 搭乗者とウェポンはお互いにエーテルリンクされているため、 ウェポンに関節技を決めると搭乗者にも同様に決まった状態になる。 というわけでもし乗ることがあったら機械だからといって軽視しない方が無難である。 ライプニッツは右側から突進する。ほんの少しでも母艦から離す為である。 「あなたの思い通りにはさせません!」 「これが意地ってモンよ!」 ルーカスとライプニッツ、両ウェポンは赤いウェポンをニ体がかりで動きを止める。 「ぐがっ!」 赤いウェポンは強引に力で外そうと機体を暴れさせる。 しかし油断をしていたのか、完全に決まっているため振りほどけない。 そうはいっても二人にはかなりキツイ状態だった。 「しっかし、なんて力してやがるんだ。気を抜いたらお終いだぜ」 「今です!撃ちなさい!」 驚いたのはブリッジにいる者達である。 今撃てというのは、ルーカスごと撃てといってるのと同じだからである。 もちろんコーデリアとファーガはそのつもりだった。 そうでもしないと相手の動きを止める事が不可能だったからだ。 「何をしてるのです、早くしなさい!」 こう言ってるうちに相手の力はどんどん強くなっていっていた。 『しかし………』 「迷ってるヒマがあるなら撃ちなさい。もう私達では抑え切れません!」 「がぁぁぁぁぁ!」 さらに力を強くしていく赤いウェポン。 「な、なに!?大気が振動している!こいつは一体……」 「早く!」 「貴様等……邪魔だぁぁぁぁ!」 「駄目、もう抑え切れない……」 「こっちが、引き裂かれそうだ……」 「バベルキャノンを撃て!」 母艦のブリッジでは、副官と思われる人物がとうとう命令を出す。 「そんな事をしてはコーデリア様が」 「……わかっている。だがこれこそコーデリア様の命令なんだ。あのウェポンに誰が乗っているか知らない。  だが、コーデリア様で抑え切れないとなるともう我々だけでは止める事ができない。  これしか……方法がないんだ」 『コーデリア様…すみません!』 コーデリアにとって最後の通信だった。 そしてそのすぐ後、赤いウェポンに向かってバベルキャノンが放たれた。 エーテルの力を乗せたエネルギー弾が標的に接触すると同時に大爆発を起こす。 辺りでは強風が吹き荒れ、波が立ち、キノコ雲が立ち上っていた。 (あ、光が消えた……) 先ほどまで淡く輝いていた宝石は落ち着きを取り戻した。 「ん?なんだ、それ」 艦長が手にした宝石をものめずらしそうに覗き込む。 「よくわからないけど気がついたら手の中に入ってて。これ何かわかります?」 ちょっと貸してみ、といってファシーからその宝石を受け取る。 そしてじっくり見始める。が、軽いため息をつきながら首を横に振る。 「だめだ、わからん。まあ、何かの欠片みたいだな?」 「欠片?」 「ああ、これは元々ひとつだった物がいくつかに分断されたんだろうな。見たところ四つだと思うが」 そらよ、といってファシーにその宝石を渡す。 「嬢の手の中にあったんだから嬢のだろ。大事にしまっとけ」 そういうと艦長はドッグを出ていった。 ファシーはじっとその宝石を見つめる。 「どうでもいいけど、どこからやってきたのかな?」 ………気がつけよ。