_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 一話  霊の事はタンバにお任せ! _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「う〜む、これは夢かな?」 一人の少年が、いぶかしげな顔をしている。 「どう考えてもおかしいよな。はるか下に俺んちがあるし」 そんな中、少年は自分の背中に何か異物を感じた。今まではなかった感触だ。 少年は背中に自分の手を回してみる。そして同じく後ろを見る。 「…………これって、羽根だよな?やっぱり夢かな。現実だと威張れるんだけどな。  昨日夜、ドラ○もん見た所為かもしれない」 どことなく不安を感じる少年。しかし、夢に不安を持つ意味はほとんどない。 「よし、どうせ夢なら、とことん堪能しないと損だ!」 二度とない経験かもしれないため、空を飛ぶという事を楽しむことにした少年だった。 「む!」 とある部屋で数人が集まっている中、一人がただならぬ気配を感じた。 「またですか?タンバさん………」 タンバさんというのは、ミナレインの神官、テツロウ=タンバである。 そこにいる皆と同じ神官服を着ているが、緑の右目、赤の左目、青の髪というめずらしい姿だった。 年のころは三十過ぎ。見たところ普通に見える。見た目だけだが。 「またとはなんじゃ、またとは!」 「いや、言葉通りです…」 敬語を使っているところを見ると、それなりの地位にいる者だろう。 「どうせまた霊がどうのこうのという話でしょう。聞き飽きたんですが」 別の神官達はうんざりした顔になっている。 「む!おぬし達は霊をバカにしておる。そうだろう、いやそうに違いない、違わないモノか!」 「またはじまったよ、タンバさんのが…。ことあるごとに『霊』だの『呪い』だの……」 「無視無視。さ、話しを続けようか」 「はいは〜い、二人とも起きて〜。到着しましたよん」 ファシーに揺り動かされて、薄く目を開けるフェンリースとミーク。 よほど眠りが深かったのだろうか、ボーっとしている。 「ミナレインに着いたみたいなんだけどね」 「あ、そう……」(フェンリース) 「あ、そうって言われても困るんだけど……」(ファシー) 「んじゃ外いこ……」(ミーク) ボーっとしたまま、おぼつかない足取りでフェンリースとミークは部屋を出る。 「とりあえず起きてるわけね……。それにしてもなんだろ、体の調子が悪いなぁ」 そんな事は気にせずファシーも続いて部屋を出る。 この世界ではあまり他の大陸に行くようなことがないため、港のないところがあるのだが、 ミナレインには立派な物があった。 ミナレインはここ数年開拓されたばかりでどういった資源があるかわからないし、他に町がない事が理由だった。 そういったわけで船の量が一番多い。まあ、グラジア、ミランドルもそこに目をつけたのだが。 「じゃあ、がんばれよ三人とも。あんた等の働き次第だからな。せいぜい緊張でもなんでもしてくれ」 「励ますか、脅すかどっちかにしてよ」 がっくりと肩を落とすファシー。 「で、あそこに見えるバカみたいに高い建物がここの当主がいるメソポタミアだ。  なんとか話術で引きこむんだぞ。ところで顔色が悪いぞ。大丈夫か?」 「はい、大丈夫です。じゃ、行って来ます」 「んじゃな。俺達はここで待ってるからな」 「でもさ……」 船を下りて少し歩いた時、ミークが声をかける。 「なに?」 「このままストレートにいってもいいけど、ちょっとくらい色々見てまわってもいいよね?」 「そうね、新しい発見とかるかもしれないわね」 「ほらほらあの店構え、かなりかわいいと思うよね」 「重火器専門店はないのかしら」 二人してすでにお買い物モードに入っている。 その二人の後ろをとぼとぼ歩いてくるファシー。 「どうしたのファシー」 「うん…なんか寒気がして……」 「はっ!」 「今度はなんですか?タンバさん」 呆れ顔でタンバを見る一人。 「今どこかで寒気がという声がした気がしたのだが」 「誰かが風邪でもひいたんじゃないですか?」 「これはまさに霊の仕業だ!どぉぉぉりゃぁぁぁ!」 ガシャァン! タンバは開ければいいのに、わざわざ閉まっている窓をブチ破り外へ飛び出した。 「今行くぞぉぉぉぉ……」 「…………ここってさ、二十階だったよな…」 「熱があるんじゃない?」 そう言うとファシーの額に手を当てるフェンリース。 「…………うん、それなりに本物」 それなりって一体、と言おうと思ったがそんな元気はなかった。 さっきは少しだるいだけだったのに、急激に体が思うように動かなくなっているからだ。 「え?じゃあ早くどこかに宿探して休めないと!」 ミークはうろちょろして宿屋を探す。 どう考えても船に戻った方が早いのだが。 そんな中、前方から何やら砂煙が立ち上がっている。 そしてそれは明らかにこっちに向かってきている。叫び声を上げながら……。 「霊はどこじゃぁぁ!こっちから感じるぞぉぉぉ!」 その何者かは、ファシー達を見ると急ブレーキをかけた。 慣性の法則で、そのまま十数メートルほど過ぎ去ったが。 「どうかしたのか、お嬢さん達」 ファシーを含め、いまいち状況の飲みこめないでいた。 「……この子がちょっと熱があるようだから、どこかで休ませようと思って」 一番始めに言葉を発したのはやはりフェンリースだった。 どれどれ、といいながらファシーを覗き込む人物。っていうかタンバだが。 「ん?この子は……」 「どうしたの?早くして欲しいんだけど」 「あ、ああ。すまぬ。じゃあそこの家に寝かせよう」 そう言って目の前の家を指差す。 「ここ、民家じゃないの?」 『ここは空家だぞ』と書かれた板が揺れてたりする。 何も言わず入っていくことにした。 家に入るとファシーをベッドに寝かせる。 タンバは寝ているファシーをまじまじと見始める。 「ちょっと、何してるの?スケベな目で若い女の子を見てると撃つわよ……」 「誰がスケベな目じゃ。わしは神官のタンバだ。  ……それに気にするでない。神官になるための条件は去勢する事だからのう」 「去勢って何?」 ミークがフェンリースに聞く。 「男のアレを取る事」 「じゃあ、トイレとかどうするの?」 「………………」 ミークとフェンリースが、今度はタンバのほうをまじまじと見る。 「……ほうほう、これはここの強い逆性に当てられたようだの」 ミークの疑問を無視することにしたタンバだった。思いっきりわざとらしいが。 「逆性?当てられた?」 「なんなの、それ」 二人とも聞き覚えのない言葉だった。 「そんな事も知らないのか?少し待て。この子の方が先じゃ」 タンバは両手を自分の胸の前で合わせると、何やらぶつぶつ言い始める。 ミークとフェンリースにはこれまた聞き覚えのないものだった。 数秒後、タンバの体が淡く輝き出す。そしてその輝きがタンバの両手に集い出す。 光が全て手に集まると、その手をファシーにかざし、その光りがファシーに向かい出した。 光りがファシーを包むと、苦しそうな顔をしていたファシーの顔が穏やかになっていった。 「これでいいじゃろう」 ふう、と深く息を吐くタンバ。 その技に二人は思わず拍手してしまった。 「おじさん、カッコイイ!」 「不思議なものね」 「そうか?ここいらじゃこういった事はよくある事じゃが、お前さん達は違う所から来たんかの?」 ファシーとミークはいきさつを話した。 「ふむ、レードがのう。ここにはそういった話しは全く入ってこんからの」 「タンバさんは神官だって言ってたよね。だったら当主様に取り入ってもらえるように言ってもらえないかな?」 ミークのおねだりモード発動。男っぽい子にやられても困ると思うが。 「…………そうだのう」 頭を傾けて悩むタンバ。 「減るもんじゃないでしょ」 「そりゃ減るものじゃないが……。一つほど願いがあるんじゃが」 「却下」 フェンリースの一秒却下。グラジアでは有名な技だ。 「まだ何も言ってなかろう…。それで頼みというのはな、わしも連れていって欲しいのじゃ」 『は?』 「まあ、どこでもそんな話はあるけどね」 タンバから理由を聞いたフェンリースとミークはそろってうなずいている。 何の事はない。毎日変わらない事に嫌気が差したから逃げ出したいといってだけである。 「別にいいよね。減ったら困るけど増えて困る事は敵くらいのものだしね」 「そう言ってくれるとありがたい。じゃが、今日はまだこの子が本調子じゃないから、明日にしよう」 「そうそう、さっき言ってた逆性とか、当てられたとかなんなの?」 先ほど気になった事を思い出したミーク。 するとコホンと、タンバは小さくせきこむ。まさに説明モードに入ったのだ。 二人とも、長い話になるだろうと一瞬で理解した。 「逆性とは逆天属性の略語じゃ。そもそも先天属性は知っておるか?」」 二人ともそろって首を振る。 「文字通り、生まれ持ったエーテルの属性の事じゃ。使える能力とはあまり関係ないのじゃが、  先天属性の力は、他の属性より強い力を扱えるのじゃよ。  ちなみにワシは特別でな。先天属性が三つ存在しとる。普通は一人一つじゃ。  誤解がない様に言っとくが、良い属性、悪い属性があるわけじゃないからの。  一般に先天属性と逆の属性、つまり逆天属性と先天属性は相性が悪いとなっとる。  全てにおいてそうとは言い切れはせんが。  火と水のような関係と思ってもらえばわかりやすかろう。  例えば先天属性が火の者は暑さに強いが、泳げぬかそこまで達者でない者が多い。    それから当てられるといことじゃが、  エーテルというものは、ある場所に同じ属性のものが集まるという性質を持っておる。  もちろん集まれば集まるほどエーテルの収密度は高くなる。  そして、その収密度が高くなった状態で、その逆天属性の者がきたらどうなるかわかるじゃろう。  つまり当てられるというのは、極度に強い逆天属性に体が馴染めず、不調になるということじゃ。  スピードボールに当ると痛いじゃろ。そんな感じじゃ」 ふんふんとうなずくフェンリースとミーク。 ミークにいたってはホントに理解しているのかしてないのかわからないが。 「今エーテルは同じ属性が集まるって言ってたけど、ここにはどんな属性が集まっているの?」 「うむ、それなんじゃがの………」 タンバはまたもいぶかしげな顔をした。 「今まで他国の者がやってきても、当てられた事は一度もなかったのじゃ。  それが今日に限って始めて当る者が来た。何やらいやな予感がするのじゃが……」 しん、と静まり返る。 「予感は、あくまで予感でしょう」 フェンリースがその静かさを打ち消すように話す。 「すまんすまん。悪気があって言ったのではない。ワシの予感ほど当てにならんものはない」 「とにかく、これからどうしようか」 「そうね…」 「少なくとも今日はメソポタミアに行きはしないから、何か見てくるといいじゃろう。  この子はワシが責任持って見ておいてやる」 「ファシーが目が覚めたら何かお土産買ってくるって言っておいて」 そう言うと、フェンリースとミークは外に出ていった。 一人残ったタンバは、そばにあった椅子に腰掛けた。 「……まさか、こんな子が来るなんてな。と言う事は前のあれも奴の仕業だな。  小さいが大きく動き出すか……。どうする?」 あれから外に出た二人はいろいろと店を回っていた。 他の国と違って完全宗教国なので、他の国にはない独特なモノがある。 ありたいていに言えば武器の類がほとんどなく、政に使うようなものが多い。 これはこれでフェンリースにとってはつまらない事だった。 「ミーク、私は適当にうろつくから、適当な時間になったら帰ってくるのよ」 「うん」 ミークは元気よく走り去っていった。 「ホントに子供ね。…さて、どうしようかしら?」 そう思ってあたりを見まわしたフェンリースの目に気になるものが映った。 どことなく怪しい雰囲気のある裏道だった。 「周りがきれいだったからぜんぜん気がつかなかったけど、所々に薄汚れたわき道があるわね。  ……きれいだから余計にそう思うのね。ま、ヒマだし行って見ましょうか」 フェンリースはゆっくりとそのわき道へと入っていった。