_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 二話  ところで病院の名前は一体なに? _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 薄暗い部屋の中、ポツンと一つだけカプセルが置いてある。 中は培養液らしきもので満たされているようだ。 だが、中には何かが入っているようには見えない。 ……ダメ…… ……まだ…早い…… ……お願い…気づいて…… ……そして…私は…あなたを……………… 燃え盛る赤い炎、逃げ惑う数多の人々……。その人々の周りには血を流して倒れている物もいる。 いや、地面と思った物は倒れている人間だった。 逃げ惑う人間より倒れている人間のほうが多い。異様な光景だった。 俺たただその光景を見ているだけだ。……いや、見て楽しんでいる。 一体何が起こっているんだ? 俺は逃げる人間の一人に近づく。俺の姿を見てその人間は今以上に怯え出す。 何をそんなに怯えているんだ?俺は人間に手を伸ばす。 何があったか聞きたかった。だが………俺は、目の前の人間を……殺していた。 「うわぁぁぁぁぁぁ!」 ケインは体を跳ね起こす。顔だけではなく、体全体汗をかいていて、着ている服がぬれていた。 ケインは自分の両手を見る。いつもの自分の手だ。 「手、きれいですよ?きちんと消毒しましたから〜」 ケインの真横から聞いた事もない声がする。 ゆっくり首を回すと、白衣を着た少女が立っていた。 やはり声同様、見た事のない姿だった。 「ちょっとビックリしましたよ〜。悪い夢でも見てたんですか?」 夢……ケインはあたりを見まわす。見た事はないが今までとは違って白かった。 そして、着ている服も違っていた。体には包帯が巻かれているらしく、少し動きずらい。 ケインはもう一度自分の両手を見る。 「夢……だったのか?」 そうは思えなかった。今でも手に残る感触……。今にも血の匂いがしてきそうだった。 「あははははは〜〜〜」 ケインの辛気な雰囲気を吹き飛ばすかのような和やかな、というか思いっきり馬鹿にされたような笑いがした。 隣にいる少女だった。 「君暗いね〜〜。あはははは〜」 「……悪かったな。生まれつきだ」 「うん、もう大丈夫だね〜」 白衣を着た少女は、にこやかに微笑みながら、ケインの頭を優しくなでる。 きれいというより、かわいい感じがした。 年はわからないが、少なくともケインより下に見えた。 「なにがだ?」 そのままの状態でケインが問い返す。 「だって、さっきから一言も話してくれなかったでしょ?  なにも話さない人は病気だから。話してくれたから大丈夫だってことだよね」 少女は小さくガッツポーズをする。 ケインは、ふぅ、と深くため息をつく。 「ところでここはどこだ?」 冷静になって考えて見ると、おかしい事ばかりだ 少なくとも自分がいる場所はベッドだと思う。 「病院だよ〜。ちなみに私はお医者さんで〜す」 えっへん、とちょっと胸を張る。 (医者?看護婦じゃないのか?) 「ビックリしたよ〜?血だらけで浜辺に倒れてるって通報受けたんだからね」 「浜辺?ここはミランドルなのか?」 「違うよ〜。ここはなんと、私の病院だったので〜〜す」 またもえっへんと胸を張る。 「そういう事じゃなくて……」 「え?病院は病院だよ?靴屋じゃないよ?」 「誰もそんな事は聞いてない……」 「君はワガママだな〜。そんなこといってると嫌われちゃうぞ〜。暗いし〜」 ふにふにとケインの頬を突つく少女。 (ほっとけ) 「シェリア、私がお話しますから、別の患者さんを見てきてあげなさい」 もう一人、聞き覚えのない声がしたためそっちに目をむけると、見た事もない女の人がドアの前に立っていた。 「あれ?母様、今日お勉強は?」 「今日は半日で切り上げてきました。この方の事も気になりましたから」 そう言ってケインの方を見る。 少女はというと、元気良く返事をすると、とてとて走って部屋を出て行った。 やってきた女の人はベッドの側においてあった椅子の腰をかける。 そしてケインの体をまじまじと隅から隅まで見る。 「見た感じは大丈夫のようですね」 女の人は小さく息を吐いた。 「どこも痛みはありませんか?」 「あ、ああ、特にそんな所はない」 「それは良かったですね」 やさしく笑う人だとケインは思った。 「ところで、ここはどこなんだ?」 さっき少女に聞いても答えが返ってこなかったため再度聞くことにした。 「病院ですよ」 今よりやさしく笑う。 「冗談ですよ、当然」 もっとやさしく笑う。 ケインは深くため息をついた。 「すみませんね、あの子の言った事は気にしなくてもいいですよ。  で、ここはラ=クルスです。まあここは東端ですけど」 「ラ=クルス?」 かなり遠いところに着たとケインは思った。目的地はミナレイン。ミランドルにからも遠い。 ラ=クルスはグラジアから西に着たところにあるが、グラジアとは別大陸にある。 ミナレインと同じ宗教国であるが、ミナレインと違い怪しい噂が良く流れてくるところだった。 その東端となるとラ=クルスの首都<ゴルゴダ>に行かなければ帰る手段はなかった。 「いくつかお聞きしてよろしいでしょうか?」 「あ、ああ構わない」 「名前はなんと言うのですか?カルテには名無しの権兵衛と書かれていますが、本名ではないでしょう?」 誰が聞いても本名ではないだろう。いるとしたら『えん○コ○チのとん○んか○』だけだ。 「ケイン…。ケイン=セイガードだ」 「ケインさんね。あら、申し送れました、私はティアリス=アドミラルと申します」 深深と頭を下げるティアリス。 アドミラル?どこかで聞いた事のある苗字だった。 「どうしました?」 そんなケインを見てティアリスは不思議な顔をする。 どことなく雰囲気が似ているんだが……誰だったかな? ……………そうだ! 「リースと同じだ」 「え?リース?フェンリースの事ですか?」 お互い意外な顔をする。 「ああ、フェンリース=アドミラル。たしかそんな名前だったはずだ」 付き合いは多少長いが、苗字なんて初めしか聞いた事なかったし、名前で十分だったから忘れていた。 フェンリースも自分の事をあまり話さなかったし。 「おやまあ、私はリースの母です。娘がお世話になってます」 またも深深と礼をするティアリス。 「じゃあ、さっきの子は……」 「ええ」 「リースの妹さん?」 『お姉さんです〜!』 部屋を覗いて言うと、また去っていった。 「あの子はリースより2つほど上で、シェリアといいます」 多分そう来るだろうと思ってたのだろうか、冷静に対応している。 多分、皆が同じ事言うんだろう。『お嬢ちゃん』と……。 もしかして俺と同じ年か?何行か上にある『少なくともケインより下に見えた』って嘘だな。 人は見掛けではわからないというが、ミークと同じくらいにしか思ってなかった。 「それからもう一つ聞いてもよろしいですか?」 「あ、ああ。構わないが」 「どうしてあんなところで倒れてていたんですか?」 「……よくわからない」 ケインは今に至る経緯をティアリスに話した。 「そんな事があったんですか?ここはホントに辺境といっていいような場所だから  全然気がつきませんでした。ラ=クルスが…ね」 少し思いつめた表情をしたが、ケインは気がつかなかった。 そして、その他治療に関する事をわずかにケインに聞くと、ティアリスは部屋を出ていった。 パタン、と静かに扉が閉まる。 それと同時にケインは体をベッドにたおす。 少しばかり体が痛むが、それを気にしている場合じゃなかった。 時が止まる事なんてない。別組は既に行動を取っているはずだ。 そう思うと、大人しく寝ているなんて出来なかった。 ケインのベッドのすぐ横には、ケインの来ていた服が丁寧にたたんであった。 来ていた白い病服を脱ぐと、元の服に着替える。 「さて、出かけるか……」 と思って部屋を出ようとした時、自分が開ける前に扉が開いた。 外から開けたのは、どう見ても幼い感じのする同い年、シェリアだった。 シェリアはケインの姿を見ると慌てだした。 「なにやってるんですか〜!まだ安静にしてないといけないんですよ〜!」 そう言ってケインをベッドの方に押し始める。といっても彼女の力ではケインの体は動かない。 「大人しくしている場合じゃないんだ。俺は早くミランドルに戻らないといけないんだ」 「ダメです〜。まだ体も調子を取り戻してないんだから逆に危険です〜!」 怒っているというより、むしろ駄々をこねているような感じだった。 「治療してくれた事は礼を言う。だが急がないといけないんだ」 「………わかりました。じゃあ……治療代払ってください!」 「…………」 何も口から出てくる言葉はなかった。 いつもなら多少の金は持っているが、ウェポンに乗る時まで持つなんて事はない。 一言で言えば、一文無しなのである。 「大人しく安静にするんならただでもいいですけど、  中途半端な病人を退院させるのはお医者様として絶対しちゃいけない事です!」 この辺りはフェンリースと似ていると思った。 ガンコと言うか、無茶な事を言い出すところがそっくりだった。 こうなるとどうがんばっても無理とわかっているため、ケインはあきらめた。 「わかった。また世話になる。だが一つ聞くが、明日には出られるか?」 う〜ん、と首を傾げるシェリア。 「君がじっとしてたら大丈夫だと思うよ」 その言葉を聞くとケインは再びベッドに向かって歩き出した。 そして、また病服を着て、ベッドに横たわる。 「いい子いい子。あ、ところでご飯食べる?今日は母様が作ったから特別美味しいよ〜」 多分それを言いに来たんだろう。 「そう言えば、俺が来て、何日経ったんだ?」 少なくともそんなに寝ていたようではなかった。そこまで空腹を感じないからだ。 「うんとね、今日の朝早くに通報受けてから、ここに来てから一日も経ってないよ。  浜辺に打ち上げられる前にどれだけいたか知らないけど」 ケインは部屋のカーテンを開ける。 辺りは真っ暗で何も見えない。この病院から漏れている光以外、別の光りもない。 「今日は何日だ?」 「さあ?」 「………………」 「そんな事あんまり考えた事ないよ。患者さんが入院した日にちくらいしか必要ないから」 とりあえず、あとからティアリスに聞いてみようと思ったケインだった。 「……食べるものは食べるか」 そこまで空腹を感じなかったが、まるっきりいらないほどでもなかった。 シェリアに通された部屋は、かなり大きく、同じ入院患者も沢山いた。 彼等は既に食べている最中だった。 テーブルはほとんど埋まっているが、丁度二人分空いているところをシェリアが見つけて移動する。 その席の横には、ティアリスが又隣と向かいの患者と話していた。 ケインが隣に座ると、ティアリスがそれに気づき、話していた者と会話を中断した。 「来たようですね」 まるで待っていたような口ぶりだった。 「まあ、話しは後でします。先に食べてください。冷めると美味しさが半減しますから」 元々そのつもりだったからケインは食事に手を付ける。 その横ではシェリアが元気よく目の前の物を口に入れていた。 一通り食べ終わると、ティアリスが声をかけてきた。 シェリアはまだ食べつづけていたが。 「先ほどケインさんの話を聞いて気になったので、リースに連絡を取るようにしました」 「取るようにした?」 こんなところに無線機などないだろうし、フェンリース自体そういった物を持っているとは考えにくい。 いや、フェンリースならその場で作りそうだが……。 「ええ、チョット古いですが伝書鳩を使いました。ここからミナレインまで半日で往復できるでしょう。  明日の早朝には返事が来ると思います。出るのはその後でもいいでしょう」 ケインの行動はお見通しだった。 多分あそこでシェリアを説得してもその後にティアリスが待ってただろう。 「私が思うに、なにやら少しおかしく感じるのですが」 「おかしい?」 「はい。ミランドルがミナレインに応援を要請するのは、間違ってないと思います。  ですが、腑に落ちないのは、妨害するための戦力が少ないという事です。  こう言っては失礼ですが、ミランドルの方達は和平に向かない性格をしています。  そこで目をつけられたのがケインさんやリース達です。  いまのところ一番力をもっているのが、あなた達だとおもいます。  つまり相手にとって一番邪魔な存在とイコールです。  多分そのためにミナレインは利用される可能性があります」 「利用?」 「はい。今言った通り主力の皆さんがミナレインに集結するようになります。  そして、戦力の増強となるミナレイン。一度に無くすためにはまさに打ってつけな状態です。  つまり妨害とその後のにだん構えに行動できるようにしてるはずです」 「……………」 かなり驚いた。各国の特徴を実によく捉えている。そして今の状況を把握している。 うまい事情報が入ってきていると思ったら、そう言う事を考えていたからか。 確かにミナレインのウェポン技術は凄い。だが所詮動かすのは人間だ。 その動かす人間がいなかったらただの邪魔にしかならない。 特にプロトタイプウェポンは波長があった物でないと動かせない。 「まあ、予想ですけどね。ところで、もう食事は良いですか?」 「ああ、十分貰った。リースとは格別だ……」 以前野宿した時、フェンリースに食事当番がまわってきた時、 フェンリースを除く全員が寝こんだ事があった。そこで一番の被害者がケインだったのだが。 「あの子は食事に関しては不器用ですから……」 そう言って深くため息をつくティアリス。 ティアリスが何度も同じ事を教えても、フェンリースが何度も同じ物しか作れない(もちろん味は最悪)光景が 目の前で起こっているかのように思い描くことができた。 「ケインさん、ケインさん」 横からシェリアが話しかけてくる。 シェリアの目の前には、ケインが食べた量の三倍くらいの皿が山積みされていた。 「な、なんだ?」 「ただ呼んでみただけ〜〜」 「…………………」 「わっはっは、坊主もシェリアちゃんにだまされたなぁ」 ケインの正面に座っていた中年の男が笑い出す。 「俺もやられたよ。でもシェリアちゃんみたいに可愛い子にやられても腹はたたねぇよな」 「え〜、おじさん、そんな可愛くて清楚で器量よしって言ってもなにも出ないよ〜」 そこまで誰も言ってない。 よく見るとその場にいる人全てが頷いている。 もしかして、全員にやったのだろうか、と思うケインだった。 その後、ケインを中心に話しが盛り上がった。ケインは終始嫌そうな顔をしていたが。 やっとの事で開放されたケインはベッドに倒れこむ。 「だめだ、ここのヤツらにはついていけない……」 数日徹夜した時よりつかれているようだった。 ふとケインはここで目が覚めたときのことを思い出した。 体を半回転させて仰向けになる。 夢というものは昔の事や、己の欲望が表れるものと親父に聞いた事があったな。 あれが俺の欲望だというのか? しかし、あの時の俺の横に誰かがいたような気がしたんだが……。 「………ふぅ、夢の事をいくら考えてもしかたがない。明日は早めに出ないといけないからな」 ケインは近くにあった枕を手に取り、自分の頭の下に置く。 さっきのこともあって自然に目が閉じた。 「お一人で大丈夫ですか?」 「ああ、一人のほうが動きやすくて逆にいい」 まだ日も上がらない病院の前、ティアリスとケインが立っていた。 「まだ体が治ったわけではないですから、あまり無理はしないで下さいね」 「前向きに検討する」 「それから、これを」 そう言ってティアリスは重箱をケインに手渡す。 それはずっしりと重かった。 「これは?」 「ここからゴルゴダまで相当な距離があります。空腹で倒れないように作っておきました」 「ありがたく受け取っておく」 「あ、先ほどリースから返事が着ました。昨日はファシーさんと言う方が熱を出したようなので、  一日ほど休養する事になったそうです」 「ファシーがか。………お互い先に進めずか」 「ケインさん。いくら事が事でも焦ってはダメですよ。急いては事を仕損じる、昔の人はよく言ったものですね」 「わかっている。じゃあそろそろ行く」 「はい、いってらっしゃい。気をつけてね」 ケインは振りかえらず手を振る。 「あ、ケインさん!」 ティアリスがケインを呼びとめる。 「なんだ?」 今度は振りかえるケイン。 「ラ=クルスには気をつけてください。あそこは宗教国と言っていますが、  グラジアに劣らない軍事国でもあります。レードよりも気をつけなければならないかもしれません」 「…………わかった。心得ておく」 周りが暗かったためすぐケインの姿が見えなくなる。 そしてティアリスも病院の中に戻るため振りかえる。 「運命というものがあるなら、これこそまさに運命ですね、ケインさん……」