_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 四話 二日連続ぶっ倒れ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「母様、母様〜」 白い病院の中で、シェリアが母親のティアリスを探して走りまわっている。 シェリアが病院内を走るのはめずらしいわけでもなく、毎日走りまわっている。 いつもならティアリスが返事をしてそこでお終いなのだが、今日はいつまで経っても返事がない。 病室はすべて見た。食堂も見た。外には出た雰囲気もない。患者達に聞いても誰も見ていないと言う。 「母様〜、どこに行ったの〜」 涙目になりながらいつまで経っても走っている。 ふと後一つ見ていないところがあるのに気がついた。 そこは患者どころか、シェリアすら入った事のないプライベートな部屋であった。 シェリアはその部屋の前に立つ。ティアリスの部屋の前だ。 絶対に入ったらいけない、と言われていた。シェリアは正直に従っていたのだが。 部屋の中には全く人の気配はしない。 シェリア自身禁忌な事をしていると思いつつ、恐る恐るノブを回す。 「わぷっ」 すると部屋の中から風が吹きこんでいた。 正確には開け放たれた窓からの風だったのだが。 「あれ?いつも窓開けてるのかな〜?」 不思議に思いつつ、机に一枚の紙が置いてあるのが目に付いた。 飛ばないようにきちんと重りを載せていた。 『なんかケインさんが心配なのでちょっと出てきます。リースにも会いたいから。  病院の事は任せたわよ。それから授業は休みにしているからね』 「母様……」 手紙から目を離して窓の外を見る。 「なんでわざわざ窓から?」 シェリアにとっては一生謎のままだと思えた。 ティアリスはまだ日の傾きが浅い中、砂漠の木陰の中で一休みしていた。 持ってきた水筒の水を飲むと小さくため息をついた。 「シェリア、慌ててるでしょうね。ふふっ、もっと格好よく出てくればよかったわ」 そんな事ともいざ知らず、仕事に手のつかないシェリアだった。 (参った。完全に参った) 同じく砂漠をのた打ち回っているケインは参っていた。 クールに出てきたのだが、この大陸は半分以上が砂漠と化しているため、木陰なんてそう存在するわけではない。 ましてや始めての大陸に戸惑っている。 いつも被っている帽子のおかげで今の状態で済んでいるが、なかったら日射病で倒れていただろう。 (この辺りに影はないのか?) 病院を出てから数時間、休むことなく歩きつづけていたケインは体力的に参っていた。 いくら日の傾きが浅いと言っても直接太陽の日を浴びつづけているため、著しく体力を奪っていく。 普段は思わないが、車とはなんて便利な物だろうと思ってしまう。 (さすがに、これはキツイ。日が高くなったら脱水症状を起こしかねない) そうなる前に対策を練らなければならないが、途中モンスターとも遭遇していたためそんな事を考えるのも大変なくらいだった。 目の前には小さく山のようなものが見えるが、どのくらいしたらそこまで辿り着けるのかのわからない。 つかれている時に、辿り着きそうで辿り着けないというのは、精神的に非常に負荷をかける。 余り感情を外に出さないケインだが、少しずつ苛立ちが溜まってきている。 そして苛立ち以上に疲れもたまっている。 それから二時間。さらに日が高くなり、昼真っ只中。 体中から汗を流しすぎて、流れる汗もない。 体温調整のために汗は出るのだが、汗が出なくなると体温調整ができなくなり体の温度が高くなり、非常に危険である。 こういう場合は、汗を同じ成分に近い食塩水(1%)を取ればいいのだが、そんな物を持っているはずもない。 ドサッ……。 気がつくとケインの目の前に砂があった。 (……?) どうしてそんな物が目の前にあるのか全くわからないケインだった。 (ああ、そうか……) 数秒ほどたってやっと自分の状態を知る。倒れるまで自分に意識がなかったのに気がつく。 (な、さけな……) 既に声すら出せないほど疲労がたまっていた。 指一本動かせる力もなく、照りつける太陽を全て受け入れていた。 周りに吹く風は、外気と一緒に吹きつけるため、熱風としてケインを襲う。 (これ、ばっかりは、さすがに、ダメかもしれないな) こればっかりはどうしようもない。 (リース達、は、無事に、こなせて、いる、だろうか。これ、じゃあ、いい、笑い、も、のだ……………) そこでケインの意識は途切れた。 「はぁ、日も高くなってキツイ陽射しね。ケインさん大丈夫かしら」 病院から持ってきたテントの皮をかざしてくつろいでいる。 「う〜ん…」 ティアリスは懐中時計を見ながら唸っている。 「後二時間くらいはじっとしてないといけないわね」 砂漠の昼の気温は想像以上に高い。 昼間に行動するとあっさり汗で体の水分がなくなってしまうので、日が傾き始めた頃に動くのが丁度いいらしい。 その事を知っているティアリスは、そのとおりに行動しているだけである。 ケインがそんな事を知っているはずもなく、知っている事を前提に出る時に言わなかった。 「ケインさんがここから出るまでに追いつかないと……」 そういいながらミナレインの方を向く。 「リースは迷惑かけてないかしら……」 「う、うぅん……」 「あっ、目が覚めたかも」 ベッドの上で意識が戻った男を見た小さな女の子がに走っていく。 「ねぇねぇお母さん。お兄ちゃんが起きたよ」 「そうかい。じゃあ、ちょっと見てこようかね」 そう言うと母親はベッドで起きたばかりの男に近づく。それについて女の子もついて来る。 男はまだベッドに横たわったままだが。 「どうだい?気分は」 「ああ、頭がくらくらしている」 「そりゃ、こんな暑い日の真昼間から砂漠をうろついてたら倒れるに決まってるじゃないか」 横たわっていた男、ケインは体を起こそうとする、がそれを女の子が阻止する。 「お兄ちゃん、まだ無理しちゃダメだよ。今日はぐっすり寝てないと」 髪を左右で束ねた、まだ十にもなってないような子供だった。 動くたびに髪がぴこぴこ動いてケインは気になった。 「みちるに感謝するんだよ。倒れてたあんたを見つけたんだから」 そう言って女の子の頭をなでる母親。女の子の名前はみちるなんだろう。 いえぃ、と片手でVサインをして、もう片手は腰に当て、胸を張っている姿は妙にかわいらしかった。 「そうか、じゃあなんかお礼をしなきゃいけないな…っとそういえばなにも持ってないな」 ケインは頭を悩ませた。お礼をしようにもその品すらない。 「ううん、いいよそんな事。みちるが好きでやったことだから」 「そうか?」 「あ……。ううん。なんでもない…」 なにか寂しそうにうつむく女の子。 「どうした?俺にできる事だったらなんでもやるぞ」 そして意を決したように話し出す。 「お願い。みんなを…お父さんを助けて!」 「こらっ!」 母親が女の子を叱る。 びくっと震えるみちる。目には涙が浮かんでいた。そしてそのあと女の子は寝室から飛び出していった。 「どういう事だ?」 「…あんたには関係のないことだよ」 そう言って母親も寝室から出て、扉を閉めた。 一人残されたケインは全く理解できなかった。 あれから数時間が経過する。ふと外を見るとなにも映っていない。闇以外は。 ケインは疲れていたらしく、いつのまにか眠っていたらしい。 そしてさっきの女の子の話が非常に気になった。 といっても情報不足なので、あの一言が何度も頭を繰り返す。 「お父さんを助けて…か。一体何があったんだ?」 思ったことをつい口に出すケイン。 その時、家の扉が開く音がする。 「こんばんは。様子を見に来ました。起きてますか?」 「あ、先生。うんとね、起きてるかどうかわからないけど、もう大丈夫みたい」 なんか聞き覚えのある二つの声、みちると、明らかに年配の女性の声。 足音がどんどん近づいてくる。扉の前で止まるとノックする。 「ケインさん、起きてますか?」 やはり、とケインは思った。 「ああ、起きている。ティアリスさん」 その声を聞いて扉をあける女性。そして部屋の明りをつける。 その女性はケインの想像と何ら変わらない見知った顔だった。 「なんでここに?」 「それはこちらのセリフです。ラ=クルスに向かったあなたを追っていったら、  熱でやられた人がいるとみちるちゃんに聞いたので、来て見たらケインさん、あなたじゃないですか。  まあ、無事でなによりです。あ、みちるちゃん、ちょっと部屋を出てもらえるかしら?」 「あ、うん。それじゃあおにいちゃん、お大事にね」 みちるがパタンと扉を閉める。 ティアリスは近くにあった椅子に座る。 「その顔色を見ると本当に大丈夫のようですね」 そういいながら何かを書いている。 「何してるんだ?」 「カルテを書いてるんです。こう見えても私も医術を習ってたんですよ」 書き終えるとカルテをベッドの隅に置く。 「さて、聞きたいこともあるでしょうから、いいますね。  まず私がここにいる理由。久しぶりにリースの顔を見たくなったんです。もう八年会ってないですから。  で、都合よくここに来たな、と思いでしょうがそうじゃないんです。まあ偶然ケインさんがいたんですが。  最近この当たりで妙な事が起こっていると言う話を聞いたので、気になって来てみたんです」 「もしかして人が連れ去られるとか?」 ティアリスは意外そうな顔をする。 「知っているんですか?…………そう、みちるちゃんがね。聞いてのとおり彼女の父様もその一人なんです。  ただの誘拐事件なら普通に警備隊がきて解決できるんですが、そんな物じゃないらしいんです」 「どういう事だ?」 ケインの眉がピクリとあがる。 「その、連れ去ったのは人ではない、という事らしいんです」 「モンスターか?」 「そういう候補はなかったわけではないんですが、姿形は人なんです。ただ心がこもってないらしいんです」 「アサシンじゃないのか?」 「いえ。なんていうか、グールみたいだったと……」 グール…不死生物で、全く知力はないが、耐久力が高く、ちょっとやそっとでは死なない。というか死んでるが。 死は、肉体でなくエーテルがなくなった状態を言う。人間の体にあるエーテルはエーテル体と呼ばれ、 肉体と全く瓜二つなため、エーテル複体とも呼ばれる。 エーテル体が体から分離したのが死であるが、普通は肉体の死とエーテル体の分離が一度に行われる。 だが、不死系はエーテル体が分離せずに、肉体だけが死んでしまい、存在の九割がエーテル体となってしまうので、 普通の打撃では肉体的ダメージは与えられても、本体のエーテルまで傷をつけることができない。 それでもただの村人には恐ろしいモンスターだが、こちらがエーテルで本体を攻撃すれば簡単に倒せる相手ではある。 脳が死んでいるため、生きる意思というのが全くない。 「生きてる感じがしない、という意味か。もしくは文字通りかだな。で、ティアリスさんはどうするつもりなんだ?」 「決まってます。原因究明ですよ。そういった意味ではケインさんがいて助かります」 「俺はいいが、ティアリスさんは大丈夫なのか?」 「私もサンブックの妻ですから、その点は大丈夫ですよ。さて、ちょっとのはずが結構時間がかかったみたいですね。  今日はもう寝てください。その事についてはまた明日話す事にしましょう」 そう言って席を立つティアリス。忘れずにカルテを手に取る。 そして扉の前でティアリスは振りかえる。 「ケインさん。一度流れ出した川は、簡単には止めらません。それではおやすみなさい」 意味不明な事をいうとティアリスは部屋を出ていった。 「?」 寝つくまでずっとその事について考えるケインだった。 天井から滴り落ちる水滴の音が響き渡る薄くらい洞窟の中に数人の人影が見えた。 体つきからして全て男のようである。 マスクを深く被っているため顔は見えない。なにやら集まって話をしているようだった。 「今日の収穫はこれだけか?」 ひときわ大きな体をした男が、ひときわ低い声で問いただす。 男の前には気絶させられた人間が数人倒れていた。 それを黙って頷くほかの男たち。その目には、生気が感じられず、言うがままに行動している。 「まあいい。今日はこれまでだ」 そういうと男は気絶している人間をすべて担いで洞窟の奥に歩いていった。 生気のない男たちは、なす術もなく立ちすくんでいた…………………。 ゆさゆさ…。ゆさゆさ…。ケインは自分の体が揺らされている事に気がつく。 が、どうしても目をあける事ができない。 「お兄ちゃん、起きてよ〜」 しばらく同じようの揺らされていたが、起こす方は疲れたのだろうか、部屋から出ていった。 そして入れ替わり他の人物が入ってくる気配を感じた。 そう思った瞬間! 自分の体が回転している事がなんとなくわかった。そして床に体が叩きつけられて自分が中に浮いていた事もわかった。 「っつ…」 体の痛みで目を開けるケイン。その前にはつい先日、思わぬ出来事で助けられた女のこの母親が立っていた。 「いつまで寝ているんだい?さあ、朝ご飯だからさっさと起きな」 そういうと母親は部屋を後にする。 寝起きは最悪だが、最近立て続けで見ていたよくわからない夢を見なかった事もあって精神的には気持ちのいい朝になった ケインが寝室から出ると、テーブルにはいくつかの食べ物があった。 その周りにある椅子には、みちるとその母親と、なぜかティアリスがいた。 「おはようございます、ケインさん」 「おはようお兄ちゃん。やっと起きたね」 「起きるんだったら手間かけさせないでおくれよ」 口々に別の事を話す。ケインはとりあえず開いている席に座る。 「お兄ちゃんはいつ頃ここを出るの?」 食事がとりあえず無事に済んで、くつろいでいると、みちるが近づいてくる。 「そうだな……、やる事ができたからな。少しの間はいると思う」 「やる事?」 みちるは首をひねる。ケインはティアリスの方を見る。ティアリスはその視線に気がつくと軽く頷く。 「助けてくれた礼をするといっただろう。みちるのオヤジを助けに行く」 『え!?』 みちると母親の両方が同時に声を出す。 「ほんと?」 「ああ、約束は守る主義だ」 「わぁ、ありがとうお兄ちゃん」 そう言ってケインに抱きついてくるみちる。ケインはみちるの頭をなでる。 「よし。じゃあこれからその事の話合いするから外に出ていてくれるか?」 「うん!」 嬉しそうに頷くとみちるは家から出ていった。 「あんた本気で言ってるのかい?」 みちるが出て静かになった部屋で母親が飽きれたように言う。 「悪いか?世話になった礼でもあるしな。黙って見過ごしたくはない」 「……それならなにも言わないよ。好きにおし」 「それにな、あんな小さな頃から父親がいないのは寂しすぎる。父親の存在は思った以上に大きいものだ。  聞かせてもらえるか?事の詳細を」 「他の地域ではいつからかわからないんだけど、この辺りでそう言った失踪事件が起こったのは六日前だよ。  向かいの家のヌンサという亜人が家を出た後帰ってこなかった。  早速家族は捜索願を出したけど、その警備隊すら帰ってこなくなった。  そして四日前、村の男どもが仕事に行ったきり帰って来なかった。その時あの人も……。  三日前、満月の日。隣の家の奥さんが深夜に物音がするから外に出て見ると、  その家の隣、この家の二つ隣の家に誰かが侵入していたらしいんだよ。  姿を見たのもその奥さんただ一人だけどね。奥さんの話では、体を隠すように黒い服を着ていたみたい。  その時、その怪しい人物が奥さんの方に気がついたのか、振り向いたみたい。  そこで唯一肌をさらけ出していた目を見ると、それが生きている感じがしなかったみたいよ。  で、怖くなった奥さんはすぐに家に戻ったらしいわ。そして次の日隣の家の旦那さんがいなくなってた……」 「ん?その怪しい男はその奥さんを見たときに襲って来たりはしなかったのか?」 黒い服というと、アサシンがケインの心に浮かんだが、任務中に姿を見られた物はなんであろうと消すのが彼らだ。 「どうもしなかったらしいよ。すぐに元の作業に戻ったみたいだよ」 「……」 どうも釈然としなかった。黒い服であるのは姿を見られにくくするため。 …いや、もう一つあった。見られたら困るからだ。そして生きている感じがしない。 まだ推測に過ぎないが、なんとなく思いたくなかった。 ティアリスも同じ結論に達したようで、うつむいている。 「わかった。じゃあ後は隣の奥さんに聞いてくる。ティアリスさん、行こう」 そう言ってケインはティアリスを連れて外に出た。 そしてそのまま誰にも見つからない様に家の裏側にくる。 「そう見るとティアリスさんも同じ結論に辿り着いたみたいだな。どうする?正直に話すか?」 ティアリスは力なく首を左右に振る。 「それは…だめです。みちるちゃんは父様が生きていると信じてます。もしものことを考えると………」 「そうだな……。まあどっちにしろ相手の居場所は簡単に予想がつく。多分警備隊もそこにいるだろう。  どうする?今日、このまま行くか?」 「………行きましょう」 しばらく考えた末、ティアリスが決意する。 「いまならもしかしたら助かる可能性があるかもしれません」 「わかった。じゃあ行くか」 「あ、ちょっと待ってください。準備してきますので。適当にうろついててください」 そう言ってティアリスは走ってどこかへ行った。 といっても何もする事のないケインは、ぼーっとしていた。 するとみちると数人の声が聞こえた。友達同士なのだろう。なにやら楽しそうな話をしている。 ケインは近づいていって声をかける。 「楽しそうだな、みちる。なんの話しをしているんだ?」 子供たちの視線がケインに集中する。 「あ、お兄ちゃん!えっとね、ヴァル○リープ○ファ○ルってゲームの話でね。  身売りに出されそうになった女の子を助けるために連れ去った男の子がね、逆に毒の花のあるところに連れていって、  その女の子を毒で死んでしまう、ものすごく残酷なゲームの話」 「あ、ああ。そうか…」 「どうしたの、お兄ちゃん」 「いや、別に。そうそう、これから約束を守りに行こうと思ってな」 「え?本当!?」 「ああ、だから期待して待っておけ」 『うわーい!』 ケインがそこにいた子供たちにまとわりつかれたのは言うまでもなかった。 「場所は、ここか」 ケインとティアリスは、村から歩いて三十分くらいの洞窟の目の前にいた。 あの日、村の男たちが仕事にきていた洞窟である。ここでは良質の金属が取れるらしく、それを生業としているらしい。 「さて、行くか」 「行きましょう」 ケインとティアリスは暗い洞窟の中に入っていった。