_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 五話 家庭的タンバ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「それではごゆっくり……」 ミークの通されたところは、どう考えても一般庶民が住むような部屋ではなかった。 床には鮮やかな絨毯。窓には薄く透き通るようなレースのついたカーテン。 ベッドはそれはもう見るからにふかふかで、飛び乗ってしまいたくなりそうなくらいだった。 「はぁ、それにしてもあの少年君がこんなお金持ちの子供だったなんて。  そりゃ身代金の為に誘拐されそうになるのもわかるよ」 ミークは大きな座りごこちのいい椅子に腰掛ける。 「なにが僕の家に来てください、だよ。そう言う時は普通控えめな家だろ〜。あいつ金持ちか〜〜!」 場所が場所でなければ暴れていただろう。 そんな事をしていると、ドアを叩く音がした。 「は、はい」 おもむろに緊張するミーク。今度はどんな人が来るのかちょっとビビっていた。 家に入る前、頑丈な鉄格子のベルを鳴らすと、礼儀正しい声がし、その後きりっとしたスーツに身を包んだ人が来て、 玄関まで徒歩で一分、仰々しい扉にはライオンの呼び鈴が設置していた。 スーツ姿の人が見事なまでに礼儀正しく呼び鈴を鳴らすと、 見た事もないフリフリのレースのついた服を着ている女の人が部屋に案内してくれた。 その間にも似たような女の人が沢山いて、スーツ姿の人も結構いた。よく言う執事、メイドと言う奴だろうか。 これ以上誰が来るのか…。こうなったら次は通称、旦那様ではなかろうか、と思うミークだった。 予想に反して入ってきたのはいかにも金持ちの坊ちゃんと言う風な格好だった。 黒の短い髪をした少年だった。執事らしき人物と一緒に来た。 「あ、どうも」 ついつい反応して礼をしてしまうミーク。よくいる貧乏人は金持ちと会うと緊張する状態である。 「セバスチャン、ちょっと外してもらえるかな?」 (ん?この声) 「はい」 セバスチャン(本名なのか職業名なのか定かではない)はミークと坊ちゃんに一礼をすると扉を閉めた。 「ど、どうも」 なんて声をかけていいかわからずとりあえずそれっぽい事を言う。 少年はミークの前にあった椅子に座ると笑い出した。 「なにそんなに硬くなってんの?」 「……そのなんとなく聞いているだけでむかつきそうな声。あの時の少年その一だ!」 ビシッと少年その一に指を指すミーク。 「その一と言われても…。きちんとハレッシュと言う名前がついてるって。ハレでいいよ」 「ジャングルに住んでて、こっちには母親に会いに来たとか?」 「出てくる話が違う。もちろんグゥという女の子もいないから」 「あれ?でもその髪は?僕が見たときは金髪だったけど」 「あ、これ?」 そう言いながら自分の髪を触る。そして思いっきり引っ張る。 すると黒い髪がハレの頭から外れる。そしてその下からはミークが知っている金色の髪が出てくる。 「これ、カツラなんだ。とりあえずいいとこの坊ちゃんって事になってるから家ではカツラをつけてるわけ。  ま、外にいる時が本当の自分だけど」 「家の人にはばれない?」 「大丈夫大丈夫。金持ちは馬鹿と言うのが相場だから誰も気がつかないよ」 「そ、そう。なんでわざわざそんな事をするの?」 事実、そんな事をしなくても金持ちの坊ちゃんでいればなんの苦労もなくほとんどのものが手に入る。 人の命でさえ金で買える。いずれはこの家のお金は全て自分の物になる。 「ボクは…世界に出てみたいんだ。こんな、ちっぽけなっていうと語弊があるかもしれないけど  ミナレインに留まりたくないんだ。もっと世界を知りたいし、世界の役に立ってみたい。  だからボクはできるだけこの家にカリを作りたくないんだ。  自分の食べる物も自分で稼いで、食事はこっそり隠れて調理場を使ってる。  付け焼刃かもしれないけど道場にも通っている」 「ふ〜ん。それだけやって何でまだ出てないの?外に出るといっても、この家からちょっと散歩程度出て行くのとは  全然わけが違うんだよ。相手も一対一じゃないし、武器も持っている。死ぬ時だってある。  さっきの状況と比べると一万倍以上違うよ。  食べ物だってそんな事しなくても自然と何か作れるようになるし、  お金は稼がないと生死に関わるからそんな事考えるまでもないし」 「そ、それは……」 ハレはバツが悪そうに俯く。 「まあ、そんな事はどうでもいいけど、両親が許さないと思うよ。それとも成人になるまで待つ?」 「それまで待ってられないよ…。親にはそのうち言うよ」 「その時になってダメだっていわれたらどうするの?」 「…………」 ミークは席を立つ。そしてドアの前までくる。 「少なくとも君が思うほど外は安全じゃない。それがわからないなら出ないほうがいいよ」 そう言って部屋を出ようとノブに手をかける。 「で、でも君もボクと同じ年じゃないか」 追いかけるように席を立つハレ。 「ボクは出るしかなかったんだ……。それがみんなの意思だったから……」 そう言ってミークは部屋を静かに去っていった。 ハレは、一人部屋に残されたままだった。 「……………………」 部屋全体が暗い。時刻はどのくらいか全く予想がつかないが、少なくとも昼間ではなさそうだった。 ボーっと見えるはずのない天井をじっと見つめるフェンリース。 部屋の角はよく悪霊が集まると言うが、全く関係のない話しだった。 「何してんのかしら、私……」 視界が悪く、自分が眼鏡をかけていない事に全く気がつかない。 そして自分がベッドに寝ている事に気がつくのにもう少し時間がかかった。 カチャリ。 店頭から寝室に続くドアがゆっくり開かれる。 出てくるのはもちろんフェンリースだ。 眼鏡をかけていなかったが、ただ単に眼鏡が見つからなかっただけだ。 フェンリースはものすごい近眼で、眼鏡がないと片方は全く見えないと言ってもいい。 見ると足元がふらふらしている。 「おい、もういいのか?」 相変わらず店の品物を布で拭いている。 「眼鏡ならあいつが持ってるよ。多分奥の部屋にいるんじゃないのか?」 「そう……」 「ふ〜ん……」 フェンリースには見えないがおやっさんが自分の方を見ているのがわかる。 「なに?」 「別に。あんた眼鏡かけてるとインテリっぽく見えるが、どうしてどうして、結構キレイな顔してるじゃないか。  あいつが気にかけるのもわかるな。あいつは面食いだからな、はっはっは」 「そりゃどうも……」 そう言って奥の部屋に進む。 「もちっと愛想よくしろよ。女の第一印象はスタイルより顔だからな」 聞こえているが無視したフェンリースだった。 レイはベッドに横たわってフェンリースの眼鏡を見ている。 どうやっても自分には合わない。像がものすごく小さく、逆に見える。 そしてその眼鏡を通してレイの目にフェンリースの姿が映る。 ハッとレイはベッドから飛び降りる。 「あ、あの…、これは、いや別になんの下心もあるわけでもなく……」 「どうでもいいからまず落ちつきなさいよ。別に何も言いやしないから」 フェンリースはすたすたとベッドに歩み寄り腰掛ける。 レイは無造作に置いてあった物に越しかける。 「あ、あの、すみませんでした」 「何が?」 「えっと、エーテルガンの事です。先に言うべきだったのに忘れてて」 「別にいいわ。扱えなかった私が悪いだけ。それより…」 フェンリースは手をレイに差し出す。 「あ、すみません」 そう言って持っていた眼鏡をフェンリースに渡す。 そしてフェンリースは眼鏡をスッとかける。 「ずいぶん目が悪いんですね」 「まあね。ところであのエーテルガン、売ってもらえるのかしら?」 「いえ、あの銃は普通の人が扱える代物じゃないからあなたに譲りますよ」 そう言って椅子と対になっているのであろうテーブルの引き出しの中からエーテルガンを取り出す。 「いいの?それは親父さんの物でしょう?」 「大丈夫ですよ。武器は使ってこそ役に立つって言ってますから」 「そう。それじゃあありがたくもらうわ」 レイからエーテルガンを受け取る。一緒に腕輪も受け取る。 フェンリースはも一度詳しく様々な角度から銃を見る。 「ホントどういう理論で作ってんのかしら。人知を超えているといっても過言じゃないわね。…さて」 フェンリースはベッドから腰をあげる。 「そろそろ帰るわ。人を置いてきたままにしてるから」 「え?その人、男の人ですか?」 「何言ってるの?相方の一人が熱出してて、外出られないから私が出てきただけ。そろそろ帰ろうと思ってるだけよ」 「そうなんですか」 意味ありげにほっとするレイ。 「?」 「それじゃあ世話になったわ。これ、大事に使わせてもらうわ」 エーテルガンを取り出して言う。外はもう真っ暗だった。 「同じのはつくらねぇからな」 「がんばってくださいね。一人で大丈夫ですか?」 「当たり前よ。私を誰だと思ってるの?」 そう言うとフェンリースは振りかえってファシーが寝ている家へと向かって歩き出した。 フェンリースの姿が見えなくなるとおやっさんがポツリと言葉を出す。 「レイ、いいのか?本当は行きたいんだろう」 レイは首を横に振る。 「いいです。僕は勉強不足で足手まといになるでしょうから…」 そう言ってレイは店に引きこんだ。 「……お前はもう十分一人前だと思うがな。っつーか俺の作ったウェポン使える奴が半人前なわけあるか……」 夏の夜風を受けて思わず口から出た言葉だった。 「あ、これ美味しい」 お皿に盛られた食べ物、熱を出した人に出てくる食べ物度100%のおかゆだった。 ホカホカと湯気が立つおかゆには卵はもとより、様々な野菜が入っていた。 これは食べたら元気になるぜ、といわんばかりのおかゆだった。 年甲斐もなくお腹の音を鳴らせてしまったファシーに タンバがなぜか存在していた食材をもとにおかゆを作ってくれたのだ。 よく考えたら朝ミランドルを出てから何も食べていなかったのである。 やはり年甲斐もなくおかゆをがつくファシー。恥じらいというのがないのであろうか。 「おかわり!」 タンバに皿を差し出すファシー。 「よく食べる娘じゃのう」 といいつつ、お皿におかゆを盛るタンバ。 タンバの作ったおかゆを全て食べ尽くし、幸せそうにベッドに横たわるファシー。 「よく食べたのう」 「育ち盛りだもん。しょうがないの」 そして何かふと思い出したかのようにファシーがベッドを飛び起きる。 「タンバさん、一つ聞いていい?」 「なんじゃ?」 ファシーが重い口を開く。 「……私の出番、これで終わり?」 「……多分。気にするでない。明日になるとメソポタミアに連れていくからのう」 「う〜、明日から暴れるわよ。三話ほど動けなかった腹いせに!」 ファシーが天に向かって拳を高く突き上げていると、ミークとフェンリースが帰ってきた。 そしてそのままファシー、ミーク、フェンリースはそれそれの思いを胸に床につくのだった。 (人助けって奥が深い………)ミーク (あ、母様からの手紙の事話すの忘れてたわ。明日にしよう。って眠たくならない………)フェンリース (ヒロインなのにこっちに来てから扱いが酷い………)ファシー ケインの方がもっと扱いが酷かったのは全く気がつくはずもなかった……………。