_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 七話 ヤな客 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ チュチュン、チュン。 朝もすがすがしい鳥の声が耳に入る。その声だけで今日はいい天気だと思うことができた。 まだはっきりと覚めないようで、ボーっと天上を見ている。 六時半…。ファシーは時計を見ながらボーっとする。 ッ……、カシッ……。 この空家の裏の方から、何の音かわからないがなにかしら音がする。 ファシーは空家から出ると、音のする方に歩いていった。 その場には、長い黒髪、黒いロングコートを羽織った女性が立っていた。 その女性は壁に向かって何かを放っていた。さっきの音はその何かが壁に当たっている音だったらしい。 「リースだったんだ」 女性は動きを止めてファシーの方を向く。 「ファシーじゃないの。もう大丈夫なの?」 「そりゃほぼ三話分休んでたから。リースは何をしてるの?」 「別に。早めに目が覚めたから外をぶらぶらしてただけよ」 「それは?」 ファシーはフェンリースが持っている…銃を指差す。 「射撃の練習?」 「まさか。こんなおもちゃはなにもできないわ。  ただの気分転換よ。それにこんなに早く本物を撃つと迷惑でしょ」 ファシーはフェンリースがおもちゃの銃を撃っていた壁を見る。 壁には一点だけに何かの跡がついていた。 「まさか全部あそこに当たったの!?」 ファシーは驚きながら壁の痕を指差す。 「別に驚くほどでもないわ」 「いや驚くわよ。リースって凄い腕がいいのね。ねえ本物の銃見せて」 見せて見せてとねだるファシーに負け、フェンリースは懐から黒い銃を取り出す。 「へ〜、結構重いのね。弾でないかな?」 「きちんと安全装置つけてるから出やしないわ」 ファシーは壁に向かって銃を構える。 「構えるだけでもなんか雰囲気出るね。えいや、くらえ〜とかなんか言っちゃって」 などと自分だけの領域を作り出してるらしい。そう言ってトリガーを引く。 『バンッ!』 ファシーは余りの音の大きさと、反動に我を取り戻した。 黒い銃口からは白い硝煙が立ち昇っている。 壁には着弾点を中心にひび割れていた。 「………」 ファシーはゆっくりフェンリースの方を向く。 「……ごめん。安全装置つけるの忘れてたわ」 あくまでクールで通すフェンリースだった。 「ところでメソポタミアってなんなの?お城?」 ミークが用意された朝食を食べながら、正面で満足げに微笑むタンバに聞く。 あの音でミークも起きて来たが、他の人達は誰も起きてこなかった。 ここの人々は、七時半に起き、九時に仕事に出かけて、六時に帰ってきて、十時に寝るという 公務員様様な生活をしているらしい。今時の小学生でもそんな生活はしない。 タンバは職業がら早く起きて、なぜか朝食の準備をしていたらしいのだった。 「城…か。職業の違いで住むところも名前が違うからの。  そうだの、少し話しておくか……」 というわけで長話モードなため、簡略。 ミナレインは各国と全く違い、完全宗教国である。何度も言っているのでこの当たりの説明は省く。 体制としては、当主を頂点として当主を援護するような形で三人の補佐が存在する。 そしてその補佐の一人一人に副輔佐が三人ほどいる。普通の業務はその九人がメインで統制を取る。 なにか取次ぎがあった場合、下っ端から副輔佐へ、副輔佐から輔佐へ、補佐から当主へと引き継がれるが、 副輔佐、輔佐が取り次ぐに値しないと判断した場合は、そこで撃ち切られる。 で、上の四人は何をするかというと、そんな事は一般には公表されないのである。 もちろん副輔佐達にもだ。 そして驚く事にタンバはその九人の副補佐の中の一人だったのである。 「どうじゃ。おどろ……」 得意げに話すタンバの言葉は、そこで撃ち切られた。 「ちょっとミークちゃん。なに私のタコさんウインナー取ってんのよ」 「残してたから嫌いだと思ったんだよ」 「美味しいものは最後に食べるのが私の主義なのにー!ってリース。なにクールに私のベーコンエッグ取ってんの!」 「以下同文」 「なにおぉ。それならこうだ!」 「あ!ファシー!人のウインナー取らないでよ」 「人のこといえる立場かー!」 「しょうがないわね。ミークのもらうわよ」 「もらうなー!」 『くぬ〜〜』 三つ巴……。 誰もタンバの話を聞いていなかった……。 「ミナレインって武器が置いてない変わりに、こういうアクセサリーが充実してるわね〜」 店頭に並ぶ宝石などを見ながらファシーはつぶやく。 「こらお嬢、なにしとるか。先を急ぐんじゃろ?」 「しょうがないでしょ。私だけなにも見てないんだから!」 そう言うと、またファシーは物色し始めた。 「わしは引率の教師か?」 ついて行こうと思っていたタンバだが、ちょっと考えを変えそうだった。 それから幾度となくファシーの所為で足を止められたが、とりあえず日が落ちる前にメソポタミアについた。 メソポタミアは一般では教会と呼ばれる場所である。 参拝客がよく神様を祈りに、とやってきては勝手な解釈をして満足げに帰っていく。 タンバは神官という立場にいながら、その当たりはどうも納得できないらしいが。 「高いわね」 メソポタミアを見上げながらフェンリースがつぶやく。 フェンリースの言うとおり、メソポタミアはかなりの高さで世界一と言われているほどで、最上階に当主がいるらしい。 昔、天から糸が降りてきたが、途中で切れてしい、人間が未練がましく天に昇ろうとして作ったらしい。 メソポタミアの中は少しばかり薄くらい照明が照らし出されていて、 『神』と証される一体の大きな像が目の前にたたずんでいる。 その象の下には、飾り付けられたテーブルが置いていて、その回りには長いすが置いてあった。 俗に言う礼拝堂である。 一階は一般人が入れる唯一の場所であり、二階以降は聖職者以上のクラスの者のみ行く事ができる。 関係者以外立入禁止というわけである。 「さて、嬢達の言い分はなんじゃったか、もう一度言ってくれんか?」 神の像の前で立ち止まったタンバは、ファシー達に確認を踏まえて目的を聞く。 「えっと、ミランドルに協力してって事だったわよね?」 長くて忘れてしまっているだろうが、ファシー達がミナレインに来たのは RR(ラ=クルス、レード)連合に対抗するために、GM(グラジアとミランドル)連合が ミナレインに船の調達と、RR連合に協力をしないようにくぎ止めする事である。 「当主が会うか会わないかしらんが、とりあえずは言ってみる。いい返事が帰ってくるとは限らんがの」 そう言ってタンバは礼拝堂の右側にいる聖職者の方に近づいていく。 そこにいた聖職者はタンバの姿を見ると、背筋を伸ばして礼をする。 「これはタンバ様、お帰りですか?窓から降りると後が大変なのでお止め下さい……」 タンバの窓から飛び降りは有名だった。 「へー、タンバさんって有名なの?」 ファシーがタンバと聖職者に近づく。 「そうですよ。タンバ様は我々と違って神官で、しかも副輔佐なんですよ」 「ひゃ〜。そんな凄い人と一緒だったんだ」 感心したように頷くファシー。 「朝言ったじゃろうに……」 「そうだっけ?朝食争奪戦でそれ以外思い出せないんだけど」 「ところでこの方達は?」 聖職者がタンバに問う。 「嬢曰く、ミランドルの使者らしい。当主に取り次ごうと思ってな。さてワシは業務を全うするか」 そう言ってタンバは上に続く通路に入っていった。 「申し訳ありませんが、一般の方は入る事ができません。ご質問でしたら私に言ってください」 深深と礼をする聖職者。 ちなみに神に仕えるものとして、聖職者、神官、当主の順で位が高い。 聖職者は、なって少なくとも一年未満の者と、とりわけエーテル力の弱い者がなる。 神官は、特異的にエーテルの力が強く、その力で人々に『加護』を与える事のできる者である。 加護というのは別に大いなる力という物でなく、疲れを取る、風邪を治すなどの医学的な物から タンバが使ったような状態不良を治す高度な物まである。総称して加護と呼ぶ。 「どうしよっか。タンバさん、いつ戻ってくるか言ってなかったし……」 「この最上階にいるんでしょ?結構時間かかるかもしれないね」 このままここで待っておくのはものすごく暇そうだった。 「あの、よろしければタンバ様になら私が事伝っておきましょうか?」 「あ、そうしてもらえると嬉しいな。…で、どこ行くの?」 「さっき可愛いお店見つけたんだ。なんか喫茶店みたいだったけど、そこに行こう」 「まあ他にアテはないし。ファシー、その場所どこにあるの?…って」 既にファシーの姿はそこになかった。一足早く出ていったらしい。 「そうね…この辺りにある可愛らしそうな喫茶店もどきにいるって言っておいて」 フェンリースは聖職者にそう言うとファシーを追って外へ出た。 その姿を目で追っていたが、ミークはまだその場にいるのを見つけた。正確には神の像の前に。 聖職者はミークに近づいていった。 「どうしました?お連れ様はもう出ていかれましたよ」 「うん……」 じっと神の像を見るミーク。なにやら寂しげに。 「この像ですか?これはメソポタミアができる直前に世界を覆う戦のときに先陣を切って闘った勇者といわれています。  神でありながら、我々人間のの力となった勇敢な神なんですよ。戦には負けてしまいましたが」 相変わらず寂しげに聖職者に尋ねるミーク。 「あのさ、神様ってホントにいると思う?」 「そうですね。少なくとも私はいらっしゃると思いますよ。大地深くから我々を見守ってくれていると」 「でも、見た事もないものをなんで信じる事ができるの?」 「難しい質問ですね。でも、見守っている者がいると思うだけで、楽になれることもあるでしょう」 「でも……ボクはとても辛い思いをしてきたんだ。神様が見守っているのになんで辛いの?」 「それは…神があなたに与えた試練ではないですか?あなたがより強くなるための」 「そう…なんだ……」 突然ミークが聖職者の方を振り向く。 「ボクの試練のためにみんなが死ぬのはいい事なの!?試練の一言で済むものなの!?  ………そんな試練だったらボクいらないよ。強くなくていいよ。弱くたっていい。  お父さん、お母さんと一緒にいたかったよ………」 「…………………」 聖職者はなにも言う事ができなかった。 逆に自分のいった言葉がミークを傷つけてしまった事に後悔をした。 ミークは目をごしごし拭った。そしていつものように笑顔になる。 「あははは。今言った事、気にしなくてもいいよ。なんかボクおかしくなってたみたいだから」 寂しさを全く感じさせない顔をして去っていく。 「あ、お嬢さん!」 「ほえ?」 聖職者がミークの足を止める。 「たとえ神がいなくても、今のあなたには見守ってくれている人がいると言う事を忘れないで下さい」 それはファシーやフェンリースの事だろう。 「……うん!ありがと。そんじゃね〜」 ミークは大手を振ってメソポタミアを跡にした。 ミークの姿が見えなくなっても聖職者、ケビン二十三歳はメソポタミア入り口を見つづけた。 「どんな腕のいい神官でも、人の心だけは治す事ができないんだろうな。……ってちょっとクサかったかな?」 確かにクサかった……。 カランカラーン。 ドアを開けると鈴が揺れて音を出す。 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」 とりあえず外見のいい喫茶店もどきにファシー、フェンリース、ミークの三人は入ると 若いウエイトレスが笑顔で出迎えてくれた。老年のウエイトレスに出迎えられてもイヤだが。 「三人です」 「それではこちらへ」 ウエイトレスは丁度三人用のテーブルに案内する。 そして一人一人にメニューを渡す。 「ご注文があれば……」 「水」(ファシー) 「お茶」(フェンリース) 「氷」(ミーク) ウエイトレスはあくまで笑顔を崩さない。冷や汗は出ているが。 「……ご注文を繰り返します。水、お茶、氷でよろしいですか?」 『はい』 三人とも声がはもる。 「そ、それでは……オーダー。水、お茶、氷でーす」 終始表情を崩さなかったウエイトレスは奥に戻っていった。 「…あのウエイトレス。かなりのプロね」 その姿を目で追いながら三人は感想を言う。どう考えてもヤな客である。 ほとんど間もなく注文?したものが来る。当然である。客に真っ先に出す物だから。 「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」 同じウエイトレスが来ている。 「私はコーヒーをブラックで」(フェンリース) 「それじゃボクはオレンジジュース」(ミーク) 「私は……」(ファシー) ウエイトレスにはその間がとても恐ろしかったに違いない。 「グレープフルーツジュースお願い」 「かしこまりました!」 注文らしい物を受けて妙に嬉しがるウエイトレス。 オーダーを叫ぶと営業用でない本当の笑顔で下がっていった。 それからしばらくして頼んだ物が出された。 「それにしても私達のやる事ってもう終わりなのかな?」 グレープフルーツを飲みながら、ファシーがふと疑問に思った事をいう。 協力するかしないかは、当主が決定し、タンバにその旨が伝えられる。 はっきりいってわざわざファシー達が来る必要はない。 「そうそう、忘れてたわ。昨日母様から手紙がきたわ」 「母様ってリースさんの?」 「それ以外、誰がいるのよ。で、ケイン、ラ=クルスにいるそうよ。  なんかあったらしく、ラ=クルスに流れ着いた所を拾われたらしいわ。ホントバカよね」 「うんバカ」 「それ以外、言いようがないわね」 ぼろくそに言われているケインだった。そのケイン、今ごろ日射病でベッドで倒れているが。 「で、ケインはラ=クルスから船でミランドルに戻ってくるそうよ」 「ふーん。…でどうやって?」 「さあ?」 ラ=クルスが敵であるミランドルに行く船を出すわけがない。 その辺りはケインもわかっていると思うのだが。 カランカラーン。 ドアを開けた時の鈴が鳴る。つまり誰かが入ってきたと言う事だ。 客は、店の中をぐるりと見渡すと、何かを見つけたように歩いてくる。 「こんなところにいたのか、嬢達」 当主に取り次ぎに行ったタンバだった。 「あ、タンバさん。結構早かったね」 「そりゃな。一言だったからの」 「一言?」 「ああ、『イヤ』の一言」 『え?』 関係ないけどタンバはパインジュースを頼んだ。 「どう言う事?」 「当主曰く、ミナレインは完全中立としているため、他の協力をする事はできない。  当然ミナレインの船は使用禁止。その他ミナレインにかかわる事は一切禁ず、とな」 「しょうがないっか……」 がっくりうなだれるファシー。 「そう悲観する事でもないぞ」 タンバはパインジュースを一気に飲み干す。 「ミナレインは唯一未開発大陸に位置しておるには知っとるな。  だから、このミナレインの外の未開発の土地にある物は何を使ってもいいと言っておった」 ミナレインはほぼ半分くらいしか開拓されていない。未開の土地というものは存在する。 遠く昔神と人の戦いの時に使用されていた物もあるかもしれない。つまりウェポンである。 「でも、時間もないんだし、でたらめに動くより、戻った方がいいと思うんだけど……」 「なんだ、お嬢ちゃん達。ウェポン探してんのか?」 タンバを含め、四人が声のするほうに振り向く。 その先には煙草を口にくわえながらファシー達の方に近づいてくる男だった。 「で、どうなんだ?ウェポンの情報ならあるぜ」