_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 八話 悪役も所詮脇役に過ぎない _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「っ、この数は、かなりヤバイな」 ケインは向かってくる相手にカウンターを叩きこむ。 が、ハデに飛ぶのだがすぐに起きあがってまたケインに向かってくる。まさに生きた屍…。 それが何人もいるので全てに手がまわらない。 「ぐっ」 それまで全ての攻撃を変わる事ができたケインだが、さすがの疲れから、受け止めるようになる。 「ケインさん、大丈夫ですか?」 「こっちの事はいいから、自分の方を心配しろ!」 ケインが同行者のティアリスに声を飛ばす。 彼女自身もケインを助ける余裕はない。 その姿を見ている二人の男たちがその光景に笑みを浮かべている。 正確には男の一人だけだが。もう一人は感情が全く現れてない。 「どうした。正義気取りで出てきた割には返り討ちか?」 「黙れ。自分がやってるわけじゃないのにデカイ口叩くな」 ケインとティアリスは背中越しに向き合う。 その間に操られている村人に取り囲まれる。総数十五〜二十人はいる。 「無事か?」 「ええ。でも、長引くとこちらが不利です。どうしますか?」 「さあな…。やれるだけの事をやるだけだ」 そう言うとケインは囲みを破るために飛びこむ。 「ティアリスさん、静かに」 ケインは歩くティアリスを手で制す。ケインはじっと耳を澄ます。 「声がする。男の声だ」 ケインがその方向に指を差す。この辺りは余計にわき道が多いため、一つ間違えば自分達も迷ってしまう。 「耳がいいんですね」 ティアリスには聞こえてはいたが、反響しているためどの方向かわからないらしい。 「ああ、そうでもなければ戦場でやっていけないからな。それより…」 二人は頷くと、極力足音を立てない様に声のするほうに向かって歩きだす。 少しほど歩いた先には二手に分かれているが、どっちが正解か確かめる必要はなかった。 片方の奥で光りが漏れているのが見えたからだ。 ケインとティアリスはゆっくりと、そして周りに注意しながら覗き込む。 ケイン達の目に映ったのは、二人の男を筆頭に、それに付き従うような大勢の男達だった。 「ケインさん」 小声でケインに話しかけるティアリス。 「もう少し様子を見てみよう。どう見てもあれは村人だ。心からしたがってるようにも見えない」 いやがっているとも見えない、と付け加える。 運がいいのか、男の声が大きいので、離れているケイン達にもその会話が聞こえてくる。 「ったく、もう何日経ってると思ってんだ。まだ実用段階まで進んでる奴がいないじゃねぇか。  うごかねぇ、動いても遅い、不安定。どうなってんだ、こいつ等はよぉ。そんな役回りだぜ、全く…」 「実用段階?やはり実験してるんでしょうね。まだうまい具合になってないみたいですけど」 「当たり前だ。一般市民と軍人と言えども、同じ人間だ。体に異物が入ってきているんだ。  体が拒否反応を起こしているんだ。さっきの奴がその例だ」 「しかし、実用段階とはどういうことでしょうか。彼等を何かに使うみたいですけど…」 「……今、世界を巻き込むような闘いになりそうなのは知ってるな?」 「まさか!」 「ただの憶測だ。最悪の場合そういう事になるだろうな」 「でも、ただの村人が…」 「数だ。どんなに強くても一人で勝てるほど楽な物じゃない。死ぬ事を恐れない兵士ほど恐ろしい物はない」 戦場で向かってくる相手は、祖国のためなら…。と言う気持ちでかかってくる者も少なくない。 死を恐れない一般市民と、死を恐れる軍人はどっちが手におえないかはすぐにわかる。 「でもなぜこんなところで?」 「多分、ラ=クルスだからだな。ラ=クルスは宗教国だ。人を引きこむにはうってつけなステータスだ。  なにもしなくても人は来るし、神だのなんだの言えば、なにも疑わずについてくる。  あの村人も何かあったんだろうな」 そんな会話をしているうちに男は更に声を出す。 「まあなんにしろ何も食わねぇっての楽だな。人形が物食うなんておかしいけどな。ガッハッハ」 「苛立つ笑いだな。なんにしろこのまま見ているわけにはいかない。タイミング……を?」 「あ、ケ、ケインさん。ご、ごめ……はくしょん!」 ティアリスは事もあろうか、くしゃみをしてしまった。 その音は、大きくはなかったが、洞窟内に響くには十分だった。 「だれだ!」 男はこっちの方を向く。 「…………はぁ」 ケインは頭を抱える。 「ごめんなさい。緊張するとくしゃみが出る体質でして……」 ケインはその場を立ち上がると、姿を現す。 「何もんだ、てめぇ」 大柄な、多分それしか取り柄がないような男が睨み付けて言う。 「バレてはしょうがないな……」 「いや、どちらかというと自分からバラしたように見えるんだが……」 『………………』 とりあえずケインは冷静を装って、立ちすくしている村人を見る。 突然の未知な者の訪問に全く動じた様子はない。 掲げられている明りによって、非常に不気味に見えた。 その顔にはヒゲが伸び切っていて、全く手入れをしていたようにも見えない。 「俺が何者なのかは問題じゃない。お前達こそ一体何をしてるんだ?」 「聞いてどうするんだ?」 「無論……連れ戻す。穏便に事は済ませたい」 「イヤだ、と言ったら?」 「力ずくでやるさ」 ケインはゆっくりと構えを取る。 「おいおい、そんなに睨むなよ。それになやるのは俺じゃない。こいつらさ」 心底腹の立つ笑みをしながら、男は数歩後ろに下がる。 そして男の前に出てきたのは、村人だった。 「こいつ等はいい人形だぜ。あれをつければどんなやつでも思いのままだ」 洞窟内にうるさいほど響く笑い声が轟く。 「やはりな。なにかあると思ったら何か埋め込んでいたんだな」 「多分あの首筋の跡から見ると神経に直接つけてるんですね」 その笑いの中冷静に分析するケインとティアリス。 よくいる自分が有利に立つとなにかしらヒントを出す悪役の一人だったらしい。 「…ま、まあここでお前達を殺せば何の心配もなくなるさ」 内心ちょっとヤバかったかな?といわんばかりの声でケイン達に言う。 なんとなく自分に言い聞かせていたかに見えた。 そんなどうでもいい事をよそに、少しずつケイン達に近づいてくる 「どうするんですか、ケインさん。彼等のタフさはさっきの通りですよ。  数が少なかったらなんとかなるんですが」 「…言ってもしょうがないだろう。今やれる事をやるだけだ」 ケインは勇敢にも村人の中に飛び込んでいく。 襲いかかってくる村人の攻撃をかわしつつ、向かってくる村人をはじき出す。 しかしいくらやってもまた立ちあがってくる。 痛覚を感じないため止まることなくまた襲ってくる。 だが、鎮痛剤を打ったからといってケガが治るわけではない。 受けたダメージは少しずつ体に蓄積していく。 だが、それとケインの体力のどちらが勝っているかは楽に予想がつく。 「いくらお前でもそれだけを相手にしては体力が持たないだろ」 男は完全に自分の勝利を確信している。 「あなたさえ潰せば後はなんとかなりますよ」 男の後ろでティアリスが声をかける。 「な!?」 ケインが村人を相手にしている間に、ティアリスが男に向かっていった。 あれだけ目の前で暴れていたら誰だってそっちに目が向く。 そのスキを作るためにわざわざ飛びこんでいった。 おかげで気がつかれる事もなく接近できたわけだ。 ティアリスの刀が男に襲いかかる。 もし相手が一人ならここで終わっていた。 だが、ケインもティアリスももう一人いる事をすっかり忘れていた。 この男と一緒にいた物静かな青年の事を。 「そ、そんな……」 ティアリスの振り下ろした刀は、その青年の腕の中に収まっていた。 真剣の刃の部分を掴み取っている。 普通なら手が切れてもおかしくないが血が流れているようにも見えない。 「た、助かったぜフォルス」 フォルスと呼ばれた男は、感情のない瞳でティアリスを見る。 「フ…ン……ス……」 フォルスはぼそぼそっと途切れた声で何かを言っていた。 「このアマがぁ!」 フォルスに刀を取られたままで動く事ができないティアリスに男のパンチが襲いかかる。 とっさに柄から手を放したが、多少遅かったらしく男のパンチを食らってしまうティアリス。 「ティアリスさん!」 それに気がついたケインだが、まだ周りには村人で囲まれていたままだった。 「くっ、どけ」 といってどけば何も問題はなかった。 「フォルス、刀を貸せ」 男がフォルスに命令する。どう見てもフォルスのほうが強そうである。 彼もまた男の言う『あれ』という物をつけられた一人だった。 「おい、フォルス。刀を貸せ!」 だがフォルスは一行に刀を男に渡す気配はない。 それどころか、何かを口走っているように見えた。 普段なら感情は出てこないはずなのに、それが入り混じっているように見えた。 「もういい、俺がやる!」 フォルスを手で押しのけるとティアリスに向かって歩き出す。 なんてことがあるなんて全く知らない男(今だ名前なし)は優越感に浸っていた。 はっきり言って武器のないティアリスはどうすることもできなかった。 体制は立て直したが、不用意に動くと捕まる範囲にいることには変わらない。 「がはは、よく見ればキレイな顔してるじゃねぇか」 (どっかの変態親父か……)とティアリスは思った。 (それにしても彼、とんでもないわ。まさか真剣を素手で受けとめるなんて。  でも……どうしてかしら。何かの装置をつけた村人を監視する役と見たけど不安定みたい。  いえ、不安定になったという感じ……) こんな状況でもティアリスはフォルスと呼ばれた男に興味が向いていた。 「おい、どっちを見てるんだ。お前の相手は俺だぞ」 無視されたのがよほどむかついたのか、言葉に怒気が含まれている。 だが、ティアリスは全くこの男を相手と見てはいなかった。 (フォルス……フォルス!?まさか、あのフォルスだと言うの?) フォルス…その名前に聞き覚えがあった。文字通り聞いた事のあるだけの名前だが。 「一つだけ、聞いてもいいですか?」 ティアリスは疑問を解決するために目の前の取るに足らない男に放しかける。 「命乞いは認めねぇぜ」 「そんな物はしません。その人のフルネームを知りたいんです」 そう言ってティアリスはフォルスに視線を送る。 「フォルスか?フォルス・ハネストらしいな。詳しい事はしらねぇ」 「……それでは『あれ』というのはなんでしょうか」 「チップの事か?」 「チップというですか?」 「ああ。なんでもうちとレードが共同開発した……はっ!」 そこまで言ってやっと気がついたらしい。 「あの、続きをお願いします」 「てめぇ、俺をハメたな」 心外である。ティアリスはただ聞いただけである。それを自分の立場を考えないでべらべら口に出した方が悪い。 と言っても答えると言う確証があったからティアリスも聞いたのだが。 「どれだけ俺をコケにしたら気がすむんだ。生きて帰れると思うなよ」 男がティアリスに飛びかかろうとした時だった。 「はぁぁぁぁぁ!」 ケインの声と同時に、洞窟内が光り輝く。 ティアリスも男も余りの眩しさに目をつむる。 光が収まったあと、ティアリスと男の目に映ったのは、ケインと周りに倒れた村人の姿だった。 ケインはその場にうずくまって大きく呼吸している。 「はぁはぁ……」 ケインはゆっくりと立ちあがると、男のほうを睨みつける。 男の注意がケインに向いた時、ティアリスも我に帰り急いでその場を離れ、ケインの方に走る。 男は動く事すらできなかった。ケインの眼光はそれほどのモノだった。 「無事…か?」 「ええ。私は大丈夫です。でもケインさん、一体何を?」 「そういう話しは後だ。相手がまだ残っている」 しかし、ティアリスが男を見たとき、男は震えていた。 「お、お前、まさかケイン・セイガードか?」 「だからなんだ」 「な、なんでお前がここにいるんだ。お、お、お、おれがかなうわけないじゃないか……」 震えていると言うより、怯えている。 「なんだ、あいつ?」 眉間にしわを寄せるケインとティアリス。 「聞いた事がある。ケインと言えば残虐非道。出会った者は見るも無残な姿で市中を引きずりまわされ、  数体のウェポンだと物の五分で返り討ちにし、コクピットを地の海にするという…」 いねぇって、そんな奴。 「そうなんですか?」 「そんなわけないだろ…。噂ってのは発祥から遠くになればなるほど肥大化するからな」 「頼む。知ってることを全て話すから俺を助けてくれ」 泣きながらその場で土下座をする。軍人のプライドのカケラもない。 「どうします?」 「ついでだ。その噂を利用させてもらうか」 ケインはありったけの眼光を男に向ける。 「言え。お前の知っている全てを…」 「話す話す。なんでも話す。と、と、と、とりあえずチップの事話す。だから許してくれ」 「内容次第だな」 「チップってのは……え?」 男の言葉が中断された。 そして、男は自分の横で血の滴る音がした時、やっと事の次第を理解した。 「フォルス……」 フォルスはティアリスから奪った刀で、男の首を切り落としていた。 その姿はまさに何百年も前の処刑のようだった。 首から血がまさに噴水のように飛び散る。 「貴様!」 本当の眼光がフォルスに向けられる。 やはりフォルスの瞳には何の感情もなかった。 しばらくの間緊張した空気が流れる。 ケインはフォルスがかかってくると思っていた。 今のつかれ切った体で相手ができるか不安だった。 だがフォルスの取った行動は持っていた刀をケイン達に投げ捨てた事だった。 「!?」 ケイン達はいまいち理解できなかった。 そんなケイン達をよそにフォルスは洞窟の出口に向かって歩き出した。 すれ違う時もケインに目もくれず。 完全に姿と気配が消えるまでケインはフォルスの向かった方向を見ていた。 「一体どうしたんでしょうか……」 「……わからない。ただ助かったと言う事だけだ……」 ケインはどっと地面に倒れこむ。 「ケインさん!?」 「気にするな。少しめまいがしただけだ。それよりここは場所が悪い。少し戻ろう」 ゆっくり立つと壁にかけてあった明りを手に取る。 死体の転がっている所でゆっくり休むなんてできる筈がない。 「この人達はどうしたんですか?」 全員を一気につれて戻る事はできないので、少し道を戻った。 村人は先ほどから少しも動かない。が鼓動はしているので生きてはいるらしい。 「多分気絶しているだけだ」 「それにしても一体どうしたんですか?あの光りは?」 「あの光りはエーテルと気が混ざる時に出る化学反応みたいな物だ」 あの時出した光は、カリスがケインに教えた技の一つである。 気にエーテルを直接乗せる事で出てくる衝撃波である。 「エーテルは火には火の、水には水の律が存在する。律は違うが元は同じエーテル体だ。  それが物質として具現化する時に律を成して存在する。  人の体も個人個人で構成されている律が違う。耐性や先天属性って言うのはその物質にどれだけ近いかによって違う。  俺がやったのは俺を構成しているエーテルの律を相手の内部に直接流したんだ。  自分の体を構成している律と俺の律が合わないため体がショックを起こしたというわけだ」 「でもなぜはじめからそうしなかったんですか?」 「この技は諸刃の剣なんだ。自分の律と言っても言って見れば自分のエーテルを開放するという行為だ。  エーテルと言うのは人の体その物といっても過言じゃない。  それを自分からとはいえ取り除くと言う事は医師を娘に持つティアリスさんにはわかるだろう」 「ええ」 「それに俺自身あの力を使いこなせてないから、必要以上の効果が出るかもしれないから、  鍛えてもない一般人に使ってどうなるかわからなかった。まあ結果的にはチップと言うもののおかげだな」 チップ。殺された男が言っていた単語だ。 村人もフォルスもそのチップによって人格を変えられた。 ラ=クルスとレードの共同開発と言っていたという事は、この闘いの切り札として用意したのだろう。 「そうなるとレードもラ=クルスも相当前からこういった世界状況になる事を予想していたと言う事だな」 物の開発はまず企画書がはじめにある。 実験などを繰り返す事を考えると、かなり以前から事が準備されていたことになる。 「全くとんでもない物を作り出したな」 やれやれといった感じで天井を仰ぐケイン。 「ええ……」 心なしかティアリスの様子がおかしいが、ケインは全く気がつかなかった。 (フォルス・ハネスト……私の記憶が確かなら……) 「母様ぁーーーーー」 その時、洞窟内に幼さの残った声が響く。ケインも聞いた事のある声だ。 「あ、シェリアだわ」 ティアリスは立ちあがるとシェリアを呼ぶ。 「シェリア、暗いから気をつけなさいよ」 「あ、母様。わかってますよー。私もいつまでも…イタ!」 どうやらこけたらしい。多分『子供じゃない』と言おうとしたんだろうが…。 「どうしてシェリアがいるんだ?」 「村を出る前に連絡してたんですよ。半日経ったらここに来るように」 「と言う事は始めからこうなる事がわかってたんだな…」 「ええ、長期に渡る事はないと思いましたから。それにケガしてたら誰が治療するんですか?」 シェリアは村の人も連れてきたらしく、倒れている人を見ると誰もが駆け寄っていった。 息がある事がわかるとみな安心して家に連れて帰ったのだった。 ティアリスは自分の記憶が間違っている事を祈りながら……。