_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 十話 ラ=クルス閉店時間は十一時 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ いつもと変わらず部屋には明りをつけず、ただ人形のように豪華な玉座にクライクは座っていた。 部屋にはクライク以外に姿はなく、説明しなかったら誰もいない様に感じる。 (ロキ、あいつは何を考えているのだ。準備は整ったがラ=クルスに行ったきり戻ってこぬ) レードの国王という地位にいるクライクだが、その権限はロキにあるといってもおかしくはない。 実際に指示を出すのもロキに言われている事を代弁しているだけだ。 (何をしているか全く話そうとしない。ある意味あいつより恐ろしい……) クライクは玉座についてあるスイッチを押す。そして少しすると兵が一人部屋に入って来る。 「お呼びですか、クライク様」 少し間を置くと、低い声でクライクは兵に指令を出した。 「エピゴノスを一人呼べ……」 「着いたぞ」 キキッとブレーキ音を鳴らして車は神妙そうな門構えの前に止まった。 頑丈そうではなく、来る者を歓迎しているような鮮やかな作りだった。 その車から降りたケインは不思議な感じになる。 「噂では聞いていたが、ここまで来ると不気味というか、引くな…」 「そうなんですか?私は見慣れているからわかりませんけど、うちの病院に比べると着飾ってますね」 見上げた姿があまりに間抜けだったのか、運転手の男は笑い出す。 「兄ちゃん、凄腕みたいだが、見た目じゃわかんねぇな、わっはっは」 先日、とある事情で立ち寄った村の住人だった。 その村からラ=クルスまで距離があるため、仕事ついでに送ってもらってきたのである。 「と、とにかく、このまま見上げていてもしょうがない」 そう言って恥ずかしさを隠すようにラ=クルスの中に入っていった。 −−−昨日−−− とにかくコントロールされていた村の人は連れ戻す事は出来た。 洗脳期間が短かったため大した重症者はいなく、 ケインのエーテル波でチップに支障が現れたのか数時間して目が覚める者はいた。 たが、そうでないものは少なからずいた。 そういうものはチップの摘出から行わないと元に戻れない。 念のためティアリスが呼んでいたシェリアが役に立つわけだ。 特にシェリアはいつもどこで手術があってもいい様にそれに見合う物を持ってきているようですぐに取りかかる。 それは何時間にも及んだ。既に日が変わってしまうほどだった。 人数は少ないのだが、物自体が物騒な所にあるため、集中しなければならなかったためである。 全ての家を回り、気力も尽きたような感じでケインが宿変わりに止めてもらっているみちるの家に入ってきた。 「あ〜、もう手術なんてやりたくないよ〜」 それだけ難しい手術だったと思われる。 「ほら、しっかりしなさい」 二人ともすでに手術着を脱いでいて、後ろからシェリアを支える感じでティアリスも入ってくる。 「こんな時間に伺って申し訳ありません。ケインさんはいらっしゃいますか?」 「ああ、起きていた。それより全員終わったのか?」 奥の部屋から、扉をあける音がすると同時にケインが姿を現す。ケインもティアリス達を待っていた。 「ええ、ずいぶんと苦労しましたね。ほら、シェリアしっかりしなさい」 「ほぇ〜〜」 「お疲れでしょう。奥でゆっくり休んでください」 そういって出てきたのはみちるの母親である。みちるの父親はチップ摘出しなくても良い状態だった。 「あ〜、そいじゃねる〜〜」 すでに目を半分閉じているシェリアがよたよたとおぼつかない足取りだったため みちるの母親に支えられながら奥へと引っ込んでいった。 「ティアリスさんも寝たほうがいいんじゃないか?」 「私は大丈夫です。あの子をサポートしただけですから。それよりこれをみてください」 ティアリスはテーブルの上にあるモノを置く。一センチ四方をした機械だった。 「これがチップです」 「これが?」 ケインはチップを手にとってまじまじと見てみる。 これだけの中に、様々な物が乗っている。 「それにしても凄いな。これ一つでコンピュータ三台分の働きをするんじゃないか?」 「私は機械は得意ではないのでよくわかりませんが、それは見るだけで相当な物だとわかります」 「……これが命令を出す中枢なのか?」 そういってチップの中央に乗っている更に小さい黒い正方形の物を指差す。 「わかりません。ですが他にそれっぽい物が見当たらないようですから、多分そうなのでは?」 「……俺もそこまでわかる方じゃない。こういうのはオヤジが詳しそうだが。  とにかく設計がどこで行われているかはまだどっちともいえないが、  製造をしているのはラ=クルスの方らしいな。  帰る時に一緒に調べておいた方がいいかもしれないな」 「内部に潜入するつもりですか?」 「ああ。もし現場を見つければそこを破壊する。あんな物が一般化されたら取りつけられた方が気の毒だ」 「でもケインさんも無事ではすまないと思いますが……」 「そこでティアリスさんにも協力をしてもらい。  ……まあ手伝ってくれなくてもいい。どちらかというと個人的に調べたいだけだからな」 「……どうしてですか?」 もちろんティアリスも手伝う気にはなっている。ただ、ケインが一体どういった気分なのかが聞きたいだけだ。 ただの偽善的行為であるなら、ティアリスはこのまま引き上げ、 自分だけでフェンリースに会いに行こうかと思っていた。 「戦争ってのはな、どんなに詭弁を並べても、正論をいってもタダの殺人に過ぎない。  それを好んでやる奴もいれば嫌がってやる奴もいる。軍人ならそれが仕事だから俺は何も言わない。  だがなんの関係のない、普通に暮らしている奴を、やる気もないのに狩り出し  挙句の果てには、何もわからないままに命を落とさせるのは心もとないだけだ」 その話を聞いたティアリスは安心したように肩をなでおろす。 「ふふ、やはりケインさんは他の人とは違いますね。  私も時々そんな事を聞きます。でもそんなことを言う人達の目は必ずといっていいほどそうは言ってません。  久しぶりに見ましたよ、言葉と瞳の意思が同じ人を。あの人以来です…………」 −−−ラ=クルス街内部−−− ケインはラ=クルスの中に入ってまで驚いた。 道から家から全てが真っ白。綺麗、清潔といえばそれだけなのだが。 家の門の上にはラ=クルスのマークや、店の種類を表す物が立て掛けてあるだけで それ以外の飾りはは全くなく、窓が飾り変わりになっていて、悪趣味以外の何者でもない。 それなりに賑わっていて、先日のような事がなかったらなんの気もなく通りすぎていたに違いない。 「ビックリしたでしょう。一説によるとこうして身も心も無垢にする、という意味らしいですよ。  また全てを同じにする事によって平等を現しているそうです」 「……平等か。そういう言葉は本当に平等なら使わない言葉なのにな……。  とにかく宿を見つけない事にはろくに話しも出来ない。ティアリスさんは宿の場所知ってるだろう?  俺はちょっと調べ物をして来たいんだが」 「ええ、構いませんよ。それではここで待ち合わせると言う事でいいですか?」 「ああ、一時間くらいしたら戻ってくる」 そう言ってお互い逆の方向に歩き出した。 大通りの裏道を歩いているケインは、表とは打って変わってその汚い光景に愕然とした。 酒の飲み終わった後の空の瓶、処理に困りそうな粗大ゴミ、 そして極めつけにゴミの日に出し忘れたと思われるゴミ袋の山。 「えらい杜撰(ずさん)な性格をしてんだな、ここの住人は……」 表がにぎやかであるほど裏は汚れているものだが、これは純粋に面倒くさがりなだけである。 ケインはゴミを避けながら人が集まりそうな場所を探し出すためまた歩き出した。 「世話になったな」 とりあえず人の集まるバーにいくつも立ち寄ったが、これといった情報はなかった。 ただ、最近妙にラ=クルス教祖の住んでいる正教塔が忙しいという。 が何がそう忙しいまでは住人には知った事ではない。 「そろそろ時間か。とりあえず戻った方がいいな」 「あ、そこのあなた。ちょっと待ちなさい!」 ケインがティアリスとの待ち合わせ場所に戻ろうと思った矢先、 一つ奥の路地に繋がっている、細い通路から走って来る少女に声をかけられる。 一昔前の諜報員が身につけていたようなスコープのついたメットを被っていた。 その少女はケインの後ろに身を隠すように隠れる。 何事かと思ったケインだが、すぐに原因がわかる。 「いやがった、あのアマ!」 三人のゴロツキが狭い路地を窮屈にケイン側に向かって進んできた。 そのスキに逃げれば良かったと思うのだが、少女はケインの後ろにぴたりとくっついている。 「こ、このアマ…逃げやがって…ゆるさねぇぞ……だぁ、つかれた」 三人とも大きく肩を上下させている。 その光景を黙って見ているケインと少女。 少ししてからケインは男たちに声をかける。 「で、落ちついたか?」 「あ、これはご丁寧に…じゃねぇ!その女を渡せ!」 「イヤよ。なんであなた達についていかないといけないのよ。バカじゃない?」 まさに虎の威を借る狐のように、ケインの後ろから威勢良く少女は罵声を浴びせている。 「誰がバカだ、誰が!…とにかくその女を渡してもらおうか兄ちゃん。でないといたい目にあうぜ」 「ほら、あなたも男でしょう。困っている女の子を助けなさいよ」 ほらほら、といいながらケインの背中を押す。 ケインはやれやれといった感じで仕方なく一歩前に出る。 「なんだ、やる気か?いいのか、俺の後ろには正教塔がついているんだぜ。これが証拠だ!」 そう言って男は懐から、ラ=クルス正教塔管理者の印をケインに見せる。 まさにゼノ2版水戸黄門であった。 (偽物、って訳じゃないみたいだな。思わぬところで思いがけない事が起こるもんだ。  オヤジだったらまたこ難しい諺でも言うだろうが……) 「なに黙ってんだコラァ!」 男達三人はケインに飛びかかった。バキッ、ゴスッ、ゲシッ…………。 「す、すみません、なんでもするから許してください……」 ケインのボコボコにされてかろうじて意識を保っている状態な三人だった。戦意はゼロだが。 「あなた、強かったのね……」 少女は全く驚いたようにケインをみる。 「助けてほしかったんじゃなかったのか?」 「いや〜、ダメだったら他の人に助けを求めようと思ったんだけど」 なんの照れもなく、堂々とかます少女。どことなくフェンリース似ていた。 「………」 「まあそんな事はどうでも良くって、助けてくれてありがとう。ついでだからもう一つ聞いてくれない?」 「………なんだ?」 「私、探し物してるんだけど。ゲートホルダーっていって、これこれこう言った形をした物見なかった?」 少女は紙に花の形をしたスティックを描いてケインに見せる。 「……悪いな、見た事がない」 ケインは今までの事をできるだけ思い出しながら、結論を出す。 「そう……。迷惑かけたわね。そうだ。お礼といっちゃなんだけどこれあげるわ」 少女はバッグから金色に輝く腕輪を取りだし、ケインに差し出す。 「なんて顔してるの。ほらほら、人があげるといったものはイヤでも受け取りなさい」 少女は強引にケインにその腕輪を渡す。 その金の腕輪には何かの文字が書いてあったが、昔の文字らしくケインには読めなかった。 どこかで見た事がある文字だったが、思い出す事はできなかった。 「それじゃあね。もしさっきの見つけたら大事に取っといて。また会うかもしれないから」 「ああ。覚えておく」 そして少女は何事もなかったかのようにケインから離れていった。 「で、聞きたい事がいくつかある……。こら、逃げるな!」 ケインと少女のやり取りのスキに逃げ出そうと思った三人組だったが、無駄に終わった。 「さて、見た感じお前達が正教塔の者だとは思えない。アレはどこで手に入れた?」 別にその気はなかったが、質問する上で優位に立つため、睨みを利かせる。 「あ、あれは正教塔に忍び込んで盗んできた物なんです。進入ルートをある奴から教えてもらったんです」 「ある奴?」 「深いローブを着てたから顔まではわかりませんでしたが……」 (……どう言う事だ?どこにでもレジスタンスは存在するが、  こう言うやつらに教えたらどうするか、すぐに見当がつきそうなものだが。  そんな事より、今そのルートが使えるかどうかだな。  ………まあどうせ暴れるつもりだからいいか) 「おい」 「は、はいぃ!」 三人は仲良く肩を抱き寄せて震えている。 別にそこまで怯えなくても…などと思いつつ。 「そのルート、覚えているか?」 ------宿屋------ 「かくかくしかじか…と言うわけなんだが……」 「そうですねぇ……」 あの後、そのルートの場所に行ったが、お世辞にも隠し通路という物ではなかった。 堂々と壁に穴が開いていて、内部の人間が誰も気がつかないほうがおかしい。 あまりのバカでなければ、罠だと初めに思いそうなほどだった。 「そのマントの人も気になりますね。もしレジスタンスだとしても姿を現さないのはおかしいですし」 「見た感じではまだ使えそうだった。入ってみないとわからないが。  それでティアリスさんに一つ頼みたい事がある。まずはこれを見てくれ」 そう言ってケインは先ほど、男たちが持っていた正教塔管理者の印を見せる。 「これってもしかして……」 「ああ、その通りだ。なぜかゴロツキが持っていた。  話しによるとそのルートから進入した時に盗んだといっている。  嘘かホントか知らないが本物みたいだ。  こんな物がなくなってしまったらそれは持ち主本人だけの責任ではないはずだ。  こう言っちゃなんだが、管理者ってのはどうも性格的に暗く、臆病!」 ケインは自信持って話す。半分ほど個人的思いが強いが。 「………あのもしかして、その印を取られたけど処置が恐くて報告せず、出勤もしてないだろうから  その管理者に成りすましたら、いざと言う時にそれで回避できるとか思ってます?」 「ああ。そのため正教塔教員がどういう格好か調べてきてほしいんだが」 「……………」 ちなみにグラジアの管理者はクリッシュ。 忘れていそうだから説明するけど、ケインと同じカリスの養子である。第一幕二章一話参照。 政治方面にその実力を発揮しているが、それと同時にグラジアのあらゆる管理をも任されている。 エリートといえばカッコイイが、若くして頭が硬く、融通が利かず、根が臆病で夜にトイレに行った事はなく 何か失敗するとニ、三日出勤してこない。当然夜に自分が動く事は全くない。 五人くらいで肝試しをしたら、その真ん中辺りに陣取って、『早く行けよ』と言いそうな奴である。 多分、ケインに逃げられてしまって、今ごろ家で怯えているのではないだろうか。 「まあ確かあそこの管理者はずいぶんと臆病との噂ですが……。ケインさんだと一発でバレるのでは?」 「バレてもいい。少しでも時間が稼げればそれでいい」 「別にいいですけど、その管理者……女の人ですよ?」 「……………まあ、一、ニ秒くらいならなんとかなるかも?」 『……………………』 しばしの沈黙……。 「ま、まあこの事は後回しとして……」 わざとらしく話しを変えるケイン。 「ラ=クルスからの脱出方法ですね」 「ああ。俺が潜入している間になんとかならないか?」 「そうですね。ちょっと難しいですね」 ラ=クルスから出ている船は今現在レードだけである。 昔はグラジア、ミランドルともあったのだが、ウェポンによって戦争が激しくなって以来、変わっていった。 それはラ=クルスだけでなく、他の国もそうである。 ウェポンという神の遺産と崇められたものが、逆に戦争を拡大させる要因となったのである。 「別にミランドルでなくてもミナレインなら多少距離が近いはずだ。…いや、だめか」 ケインは言ってからすぐに欠点に気がついた。 「ええ。仮に船が入手できたとしても、他の大型船で追われたらどうなるか結果は見えてます」 元々ケインがラ=クルス領土に来てしまった時点で、帰ることは不可能に近かったのである。 実はこう言うケースは少なくない。レードに家を持っている者がひょんな事でグラジアに立ちより 戦争が激しくなった所為で、そのままグラジアで生活する事を余儀なくされたりする。 「だが…」 ケインがふと声を出す。 「だが、このままじっとしていてもなんにもならない。  やれば『もしかして』いけるかもしれない。だが、やらなければ『絶対』にできない。  『もしかして』と『絶対』は天と地の差がある。結果は後からついてくる。その経過が道を分ける。  無理だと思ってもやるしかない」 「…………そうですね。いつも子供たちに言ってますが、自分がいざやる時には忘れてますね。  結果より、過程を大事に。忘れてました。……わかりました。移動手段は何とかします。  ケインさんは、騒ぎを大きくしてください。その分楽になりますから」 「わかった」 それまでに沈んだ空気が手のひらを返したように活気ついてくる。 今の二人には、失敗するなんて言葉は一切なかった。 行動は午後十時三十分。バー閉店時間三十分前なら少し出歩いても不思議に思われないだろうとの事だ。 (いつも困った時はオヤジの言葉が浮かんでくる。  一番イヤな奴だが一番頼りになる……。こんな言葉、本人の前で言えないが) ----------午後十時三十分---------- 世も更け、ちらほら明りが消え始める時間に、動き出すケインとティアリス。 「ティアリスさん、そっちの方頼む」 「はい。ケインさんも。港の場所は覚えましたね。  どの船かはその時にならないとわかりません。直接的な連絡はできませんから」 「わかった」 はやる気を押さえつつ、不自然さを感じさせない様に店の主人に言って二人は外へ出た。 夏はとはいえ、この辺りはずいぶんと涼しかった……。 ----------正教塔メインルーム---------- およそ宗教国家とは思えないハイテクな作りをした部屋に人はいた。 華奢そうだが、れっきとしたレード参謀長官のロキだった。 一人で椅子に座ったまま、時が止まっているかのように動かない。 だが、頭の中は様々な思いが早送りをしていた。 その邪魔をするかのように、ドアを叩く音がする。 「入ってもいいですよ」 ロキは特に気にした様子もなく返事する。それと同時にラ=クルスの標準教衣を着た教徒が入ってくる。 「ロキ様。言われたとおりにしておきました。時間の問題だと思います」 「ご苦労様。今日は疲れたでしょう。帰って十分休養をとって下さい」 「お心使い感謝します。ですが、いいのですか?あのままにしておいて」 ロキは女のような顔で微笑む。 「大丈夫ですよ。なにかあったら私が責任を持ちますから」 「は、はい。それでは失礼します」 教徒は静かにドアを閉めた。 また一人になったロキは先ほどの笑みを崩さずに呟く 「大丈夫ですよ。あの人は絶対にここに来ます。もう、ドミノは倒れ始めたんですから。  私は、あなたに早く会いたい。私の大事な人……………」