_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 十一話 別れ、そして…… _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「ん〜ふふ〜ふ〜ん♪」 一人ミスリル製の通路を、鼻歌混じりに歩いている一人の整備士。 特別いい事があったわけでもないのだが、 こんな通路一人で黙って歩いていると気が滅入るからである。 今日はクレイに言われてウェポンの点検をしに来た。 「それにしてもこんな状態でな〜んにも起こらないってのは逆に不気味だよ。  その分いつ何が起こってもいい様にがんばるべ!」 と気合いを入れてドッグに向かう整備士が目にしたのは…。 「あれ?クレイさんだ。っつーか隣の人は誰?」 クレイとミランドルの軍服ではない服を着ている一人の青年が何やら会話をしていた。 クレイはいつもとは変わらない顔をしているが、どことなく困った感じを漂わせている。 「とんでもない昔の服着てるなぁ。結構親しげに話してるみたいだし、邪魔しちゃ悪いか」 そういって整備士は一つ奥のドッグに向かった。 「…という訳で来ていただけないでしょうか」 「ここ最近全く音沙汰なしだったのに、今になって…とはね」 青年は申し訳なさそうに頭を下げる。 「急に伺って申し訳ないとは思っています。ですが是非に会いたいとのことでして」 クレイはあきれたようにため息をつく。 「全くあのお嬢さんと来たらいつになってもワガママな所は変わらないなぁ。  その様子だとこの件だというのはただの口実かな?」 「いや、お恥ずかしい。  ですがあの子も我々の上に立つ場にいる以上、安易に他の者と接触するわけには……」 その姿を見たクレイは少し頭をひねると、こう答える。 「まあいいですよ。今はまだ何も起こらないし。いつ帰ってもかまわないなら……」 そしてその言葉を聞くと青年の顔は明るくなった。 「ありがとうございますっ!」 「次から来る時は前もって言ってもらわないと、万が一カリスに見つかった時は何されるかわからないからね」 「わかりました。ではまいりましょうか」 そして整備を終えた整備士がクレイのいたドッグに目を向ける。 「あれ?クレイさん、いない。どこか行ったのかな?」 クレイとその友人と思われる二人がいないのを確認して、ドッグの整備をし始めた。 「全くすごい所ね、ここは」 「ボクにとっては居心地がいいよ」 朝の木漏れ日を浴びたフェンリースとミークの二人は、両手に果物を抱えて歩いている。 その側らにはシフォンをはじめ、小動物が取り巻いている。 小動物はミークの方に偏っているが。 「ところでファシーはまだ寝てるの?」 「そうみたい。なんか幸せそうな顔をしてたけど」 「なんか食べ物の夢でも見てんじゃないの?」 「あははっ、確かにそんな感じに見えたよ」 (おわーっ、これも、あれも、それも私の大好物!  なんと、次から次へと運ばれてくる。どんどん置いて!) お約束の夢だった。 (さて、食べようかしら。………?なんか肌がふさふさしてる?  この手触り、感触は一体?) そしてファシーの目の前に覆う茶色の毛皮を目にする。 「…………」 思考停止中…………。 ふとファシーは目線を上に上げる。するとその前には巨大なクマの顔があった。 そしてそのクマと目線が合う。 「き……」 「?」(クマ) 「きょえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 洞窟内にファシーの甲高い声が鳴り響く。 その響いた声がエコーとなって洞窟の外に出てフェンリース達の耳にも届く。 「な、なに今の!」 「なんかファシーさんの声だったよ」 シフォンは一足先に駆け出していた。それに続いてフェンリース達も走る。 とりあえず両手に果物を持って。 洞窟に辿り着いた三人が見た光景は。 「こら、ちょっと離れてよ。あ〜、顔が唾液で〜」 大きな、胸に白い三日月色の毛のあるクマがファシーとじゃれあって?いるところだった。 「何やってんの、ファシー……」 「あ、リース、いいところに〜。助けて〜」 「いや、助けてと言われても……」 どう対処していいかわからないフェンリース。 「にゃにゃにゃにゃ〜」 そんなフェンリースをよそに、シフォンが慌てて近寄る。 一人と一匹は何やら会話らしきものをすると、クマの方は残念そうに離れる。 「あ、ありがと」 ハンカチで顔を拭き拭きファシー。 「うにっ」 頭をなでてやると、嬉しそうに微笑んだ。 「そういえばあなたの名前は?」 「……」 ファシーの問いに黙る少女。 「ん?どうしたの?」 (名前…。じぃじとばぁばはなんて呼んでたっけ。確か…そう、たしか…) 「シフォン。……シフォン!」 自分で確認をするように『シフォン』という言葉を出す。 「シフォンって言うんだ。いい名前だね」 「うにっ」 「あの〜、そこでほほえましい会話するのはいいんだけど、これ持ってるのつらいだけど…」 「あ……」 しゃくしゃくしゃくしゃく……。 ファシーの知らぬところで調達してきた果物をみんな…ファシー達三人から森の小動物達が 洞窟の外での〜んびり食べていた。 「それにしてもよくこんなに集めたね」 「シフォンがついて来いみたいなこといってるからついていったら、  そりゃあもう目を回すほどの動物動物動物…」 「リースさんにはあんまり近寄らなかったけどね」 「リースはなんか近寄りがたい雰囲気を滲み出しているからね〜」 「ほっといてよ……」 ファシー達の会話をじっとうらやましそうに見つめるシフォン。 そしてその姿をまた心配そうに見る狼と熊。二匹だけでなく全ての動物がシフォンを見る。 その視線に気がついたシフォンは、とっさに作り笑いをする。 そしてシフォンは立ちあがるとひっそりと洞窟の中に入っていった。 「ここに来た理由を忘れそうだけど、確か洞窟の中にあるって言ってたけど、ここがそうなのかな?」 「そうねぇ。この辺りの事はシフォンに聞いた方が早いんじゃないの?」 ファシーはシフォンを探す。 「あれ?シフォンはどこ行ったの?」 きょろきょろと辺りを見回すがシフォンの姿はない。 「ねえねえそこのクマさん、シフォン知らない?」 隣で寝ている(さっきファシーにじゃれていた)クマに話しかける。 クマはゆっくりと目を開けると洞窟の方に鼻を指す。 「洞窟の中?ありがとね」 颯爽と洞窟の方にファシーは走っていった。 「……ファシーって会話の相手選ばないのかしら」 「いいんじゃないの?あ、それ頂きっ」 「こらっ、それは私のものよっ!」 洞窟の中に入ったファシーだが、シフォンが見当たらないため奥へと進んだ。 すこしすると何かに向かって座っているシフォンの背中が見えた。 シフォンの前には、二つの小さな山があった。寂しそうにシフォンはそれを眺めていた。 ファシーの気配に気がついたシフォンはゆっくりと振りかえる。 「シフォン、それは?」 「…………………」 シフォンはファシーと目を合わそうとせずに視線を小さな山に送る。 「別に無理していわなくてもいいわよ。……隣、いい?」 小さく頷いたシフォンの横にファシーは座って、一緒にその山を見る。 山にはそれぞれ一本ずつ花が刺してあった。 どういう物かはファシーもおおよそ見当がついたが、しばらく二人は黙ったままだった。 「……じぃじ、ばぁば」 シフォンはそれぞれを指差していった。 「そっか、この中にはシフォンのおじいちゃんとおばあちゃんがいるんだ」 コクンと小さくシフォンは頷いた。 「シフォンはこのお墓をずっと見守ってるの?」 またもコクンと頷いた。 「一人で?」 ふるふると首を横に振る。 「そっか、友達が沢山いるもんね」 今度は首を縦に振る。シフォンにとっての友達と言うのはこの森にいる動物すべてのことだろう。 二人は何を会話するわけでもなし、しばらく沈黙が続く。 (な、なんかこういう雰囲気って苦手だわ…。  そういえば、何でこんな洞窟の奥のほうにお墓があるんだろう。人間なら墓地ってのがあるけど…。  まあどっちにしろここはシフォンにとってとても大事なところみたい) ファシーはゆっくりと立ち上がると、シフォンのほうを向く。 「ねぇ、シフォン。私達帰るわ」 そういうとシフォンは初めてファシーと目をあわした。 何か言いたそうな目だったが、再び視線を元に戻す。 「あのさ、まだ出会って一日もたってないし、こんな事いうのはおかしいかもしれないけど言うね。  シフォン、私達と一緒に来ない?」 突然の思わぬ申し出にシフォンは驚いてファシーに向き直る。 「シフォンがいま幸せなのは見ててわかる。でも時々さびしそうな顔をするよね?  毎日楽しい?きちんと笑ってる?  シフォンが強くてしっかりしてるのはわかるけど、もっと沢山の人に会うのが大事だと思うよ。  だから一緒にいこうよ」 ファシーはシフォンに手を差し伸べる。 (……お姉ちゃんの言ってることはうれしい。  でも…でもシフォンはじぃじとばぁばを守らないと…。  シフォンからじぃじとばぁばを取った敵から…) シフォンは残念そうに、そして少し殺気の篭った瞳でファシーを見つめた。 シフォンはすぐに我に返って殺気も消えたが、 その目からファシーはシフォンがどういう生活を送っているのが少なからずわかった。 ファシーはニッコリと笑うと手を引いてシフォンと同じ高さになるようにしゃがむ。 「シフォンには私達と同じでやることがあるんだね。  そうシフォンが決めてるんなら無理強いはしないよ。  でもさびしくなったらいつでも会いきたらいいよ」 ファシーはシフォンの頭を優しくなでる。シフォンはそれを満面の笑みで返す。 「よし、いい笑顔。それを忘れちゃだめよ」 そういうとファシーは立ち上がって裾についた泥を叩き落とすと墓に一礼して洞窟から出た。 シフォンはその姿をじっと見つめていた。 外に出たファシーは外の明るい日差しに目を隠す。 ファシーの横を駆け抜けるような涼しい風になびく髪を手で抑える。 「なに気取ってんの?」 洞窟から出てきたのを見つけたフェンリースがポーズをとっているファシーに声をかける。 ミークは小動物が見守る中、クマの背中の上にのっかかって遊んでいた。 「ふふ、ちょっとキメてみました」 「わけわからんことを…。で、どうだったの?ある場所わかった?」 「ん?…ああ、その事ね。あれ、なかったことにしない?」 「はぁ?何言ってるのよ」 ファシーはばつが悪そうにうつむく。 「だって、こっちが悪いことしてるみたいなんだもん………」 「ふぅ……」 フェンリースは腕を組んでため息を吐く。 そして振り返ってミークを呼びにいった。 「あれ、リース?」 声をかけられたフェンリースは歩きながら答える。 「なにぼ〜っとしてるの、ファシー。帰るんでしょ?」 「怒ってないの?」 「ほら、ミーク。いつまで遊んでるの?帰るわよ」 「え〜、もう帰るの?まだいようよ〜」 「のんびりできる状況じゃないのは知ってるでしょ」 「は〜い……」 残念そうにクマから降りるミーク。 フェンリースは置いておいた荷物を持ち、ミークは名残惜しそうに動物達に別れを告げた。 ファシーは相変わらずぼ〜っと突っ立っている。 「いや、勝手なことして怒ってないのかな〜と……」 「自分でそう決めたんでしょ?  ファシーは一度言い始めたら動かないんだから、まともに対応するだけ無駄じゃない」 「………」 「その代わり何かあったらファシーが全部責任とるのよ!」 「…うん。ありがとうリース」 「べ、別にお礼なんていらないわよ」 ファシーから顔をそむけるフェンリース。 「よ〜し、そんじゃ帰ろ〜」 三人は意気揚揚と短い間の楽園を後にした。 ファシー達が出発してから二時間後のミナレイン港。ミランドルの船のブリッジ。 「ヒマだなぁオイ」 「いいんじゃないですか?」 「よくねぇ……」 艦長はブリッジの自分専用の椅子に座ってだれていた。 ミナレインに来てから数日。な〜んにもないことに艦長は苛立ちを感じていた。 (娯楽が全くないんだよな、ミナレインってのは……。そういえばこういうことを想定していいものもってきてたんだっけか) 何かを思いついたように胸のポケットに手を入れて何かを取り出した。 「おぉ、偶然こんなところにカードがあるぜ」 全くをもって必然だった。 「誰か勝負しようぜ」 ブリッジにいたオペレーター、クルーは見ないやな顔をする。 「なんだぁ?元気ないぞおまえら。メシ食ってるか?」 「だって艦長平気でイカサマ使うんですから。うちのクルー達じゃあ誰も勝てませんよ」 「ただ弱いだけじゃねぇか。んじゃこうしよう……」 艦長が何かを言いかけたそのときだった。 緊急を告げる警報がなり、赤いランプが激しく点滅する。 それを気に、いままで和んでいた空気が一気に変わる。 「何があった。報告しろ!」 艦長の声がブリッジに響き渡る。 「は、はい。センサーが何かを捕らえているようです」 少し戸惑いながら目の前のモニタに映し出されている文を読む。 「こ、この反応は魚雷です。  距離2000、ベクタ2-5-7からパッシヴホーミングのようですが、発射元がどこか判断できません!」 「そんなことよりノイズメーカー用意、発射後全エンジン停止。敵の詮索を急げ!」 「ノイズメーカー用意、発射。エンジン停止します」 「こっちから相手の確認はどうだ?」 「センサーには何の反応も見られません。センサー外から打ってきたとしか…なわけないかも」 「待てよ、ウチのセンサーの範囲は3500だったはずだ。2000から反応があったはずだろ。  確認できないってどういうことだ?潜水艦だとしても反応くらいはするだろ」 「え?あっ!」 「どうした!?」 モニタを見ていたオペレーターの一人がすっとんきょうな声をあげる。 「いま魚雷の迎撃が成功しました」 「それがどうした」 「そこから敵機反応です。距離1000!浮上音あり」 「なんだと!?なぜわからなかった!」 「いままでそこには何も反応がなかったんです。爆発と同時に反応が現れました」 「んな馬鹿な!って驚いてる場合じゃない。全エンジン急速起動、敵の身元を即刻判明させろ!」 「急速起動はじめます。揺れに気をつけてください」 複数のオペレーターがあわただしく動き、次の瞬間には激しい揺れが船を襲い、 また次には船全体が命を吹き込まれたように動き出す。 「敵身元確認。ラ=クルス初期型潜水第八艦です」 ラ=クルス初期型潜水第八艦  ラ=クルスが宗教国として確立したとき(30年前)に作り出された潜水艦の八番目のものである。  初期型潜水の中で最大の大きさであり、内部にさらに数艦の潜水艦を保持できる。  大きさゆえ速度は出ない。潜水艦というより潜水母艦といったほうが正しいものであった。 「なんでそんな化石みたいなもんがソナーに反応しないんだ。  とにかくいつでも出れるようにしとけ。中にあるのはおそらくウェポン。こっちも用意だ」 「艦長、こっちにあるのは……」 「んげ、そういえば……。嬢ちゃん達はまだか?」 「報告はありません。先日向かったそうですが、まだ帰ってきた様子もないです」 「まいったなぁ。こっちの装備じゃウェポンの数の攻撃きたら対処のしようがないぞ……」 ちなみにそのころファシー達はファースの車に乗ってのんきに雑談しながら、 余計な寄り道したりして、無駄に時間を使いながらミナレインに戻っている最中であった。 そのころ何が起こっているかなんて全く気にできるわけもなく……。 ケインが遺跡で体験した出来事から、ミナレインが他国に侵略されたこの日までの数日。 これから起こる長い出来事の始まりだと理解できていたものは、この時点では地上に存在していなかった。 その出来事の中心にいるのがケインとファシーであるということ、 そしてこの二人は出会うべくして出会ったということ、偶然ではないということも……………………。