_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 十二話 潜入、レード! _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「いたぞ、多分あれだ!」 「あ、マジいたっぽい!」 「それなりに捕獲いっとけ〜」 バインドガンを持った三人の下級僧が、廊下を走る者を発見し、それを追いかけている。 廊下には侵入者ありの警報が延々と流れている。 逃げているほうは足が早いわけでなく、僧達との距離が見る見るうちに狭まる。 侵入者はちらりと後ろを見ると、廊下を右に曲がるが、目の前にあるのは無常にも壁であった。 「とうとう追い詰めたぞ。逃げ道はない!」 妙に威張って銃を向け、じりじりと白マントで体全体を覆った者との距離を縮める。 「こんなに夜遅くに手間を取らせるとはけしからん。俺達が休みのときにこいよ!」 そういう問題ではない。 「おとなしくついてくれば何もしない。だが抵抗すればどうなるかわかってるだろう」 僧達はバインドガンを構えなおす。三つのバインドガンは確実に侵入者を捉えている。 「…………んだ?」 追い詰められた侵入者はぼそっとつぶやく 「なんだって?もっとはっきりいわないと伝わらないぞ」 僧の一人が近づいて顔を覗き込む。 「どうなるんだ、と聞いたんだ!」 侵入者が吼えた瞬間、近づいてきていた僧が後ろに飛ぶ。 飛ぶというより飛ばされたという表現が合っていた。 「な、何をする!」 後ろにいた僧達がトリガーに手をかける。 「遅ぇよ……」 すでに僧の前にいた侵入者の右回し蹴りが僧の一人を吹き飛ばし、気絶させる。 残った一人の僧はあわてて胸に標準を当ててトリガーを引く。 「んな馬鹿な……」 僧はバインドガンを落とすと数歩後ずさる。 バインドガンはスタンガンのように、 相手の動きを止めるために体を麻痺させる光線が出るのだが それを、直撃した侵入者は何ともなかったかのように向かってきていたからだ。 「い、威力は通常の倍以上にしてるんだぞ」 「……そんなおもちゃじゃ役不足だな。まあ安心しろ。別に殺すつもりはない。  ……一つ聞くが、俺を探している途中でチェキ、いや瑠璃蜥蜴を見なかったか?」 「み、見てない見てない。全然見てない」 「……ちっ。じゃあおとなしく寝とけ」 男は僧の後頭部を強くたたくと、僧はぴくりとも動かなくなった。 「まったくどこに行ったんだあいつは……。まさか捕まってはいないだろうな……」 男は自分の周りに倒れている僧に目もくれずどこに向かうわけでもなく歩いていった。 そんな事が同じ正教塔で起こっているとは全く知らないケインは そこら辺に歩いていた運の悪い残業後の一人の下級僧の服を奪って着替えていた。 「悪いな。少しばかり借りる。運が悪いと返せないかもしれないが気にしないでくれ」 この運の悪い僧の事だから多分返せないだろう、と少しばかりケインの頭を横切った。 「しかしほとんどノリで来たようなものだから厳密に場所がわからんな。  確か正教塔は三階建てになってたはずだが…………地下か?」 正教塔は使える僧の位によって作業場所が異なる。 当然上に行くほど位が高く、仕事も重要なものになっている。 平等とかいいながら、位分けが存在するという奇妙なものである。 同じ宗教国であるミナレインと区別するために誰かが神官、僧と名づけたらしい。 あまりうろつくと不審に思われるため派手に行動できないため、 視界に入るものすべての情報を目を動かさずに取得していく。 (……特に何もないな。まあ下級僧が歩き回るような場所に何かあるとは思えないが。  人がいれば何かしら聞けると思うが、時間が時間だし誰もいない可能性が高い…ん?) 思考している途中、足元に何かふさふさした感触を感じたケインは視線を落としてみる。 「キュゥーン」 「…………ん?」 足元でうろついていたのは全身を赤い毛で覆われていて尻尾が長く、瑠璃色の眩しい瞳を持っていた。 「なんだ、瑠璃蜥蜴じゃないか。何でこんなところにいるんだ?」 瑠璃蜥蜴…蜥蜴という名前を持つが種としては蜥蜴ではない。主な生息場所は砂漠である。 尻尾が蜥蜴に似ていて、蜥蜴と同居状態なので蜥蜴の名前を与えられている。 体は真っ赤な毛で覆われていて、その毛自体に熱を持っていて興奮すると高熱を発するらしい。 つぶらな瞳にふさわしい瑠璃色の瞳が好まれて大人気ペットである。ちなみに種族は犬。 「で、その大人気ペットがマスターもつけずに何してんだ。迷子か?」 あたりを見回してみるが、マスターらしい人物はいない。 ケインは自分の足元をうろちょろしている瑠璃蜥蜴を抱き上げる。 少し興奮しているようで、赤い毛は少し熱を持っていた。 「ふむ、やはり迷子か。  しかしマスター探しをするほどヒマじゃない。が、このまま放っておくわけにもいかないし」 そう悩んでいるケインは、後ろから複数の足音が耳に入る。 「こんどはなんだ?」 ケインは現在の今の立場をすっかり忘れてて、のんきに後ろを振り返る。 「いたぞー、あれだーーー!」 しかしケインが見た光景は、十数人の僧が一斉に走ってきている姿だった。 すべて下級僧のようだったが、追ってくる時の目が妙に血走っていた。 ケインはどちらかというと冷静なほうだ。何度のピンチもその冷静さで乗り越えてきた。 しかし、彼らの目はそのケインを驚かせるのに十分だった。 そしてケインは思わず相手と逆の方向に走り出してしまった。 「こら、逃げるなそこ〜〜!」 (そんな顔で追われて逃げるなという方が無理だろがっ) そのまま引き離そうかと思ったが、しばらく走ってるとケインは冷静になってきた。 (……まてよ?逃げたら余計に怪しまれるじゃないか) 僧達の口ぶりからも、ケインが侵入者だとばれているわけではない。 誰か、ではなく何かを探している途中、偶然ケインを見つけたと判断した。 速度を緩め始めたケインは、平常心を取り戻すようにした。 ケインはそのとき瑠璃蜥蜴が発熱していることに気が付いていなかった。 集団がケインに追いついたとき、一番最後尾から中級僧が疲れた顔をしてケインの前に出てくる。 「や、やっと止まったか……。ど、どうして逃げたんだ」 みんなぜいぜいと肩で大きく息をしていて。ケインのみが涼しい顔をしている。 室内業務と労働業務の違いである。 「(逃げない方が不思議だが)いえ、突然のことで、驚いてしまって。すみません」 「そうか?まあそんなことはどうでもいい。ところでお前の持ってる物はなんだ?」 そういって中級僧は赤い瑠璃蜥蜴に視線をずらす。 「先ほどいきなり姿を現したんです。持ち主がわからず、探していたところです」 「よくやった……」 ケインに近づくと、いきなり中級僧がケインの肩をたたく。 「はぁ?」 「なんだお前、あのこと知らないのか?」 「あのこと…ですか?」 「ああ、侵入者がうろついていると言う話だ。おかげで残業続きで寝てないんだ」 (なるほど、あの迫力はそのためか。  残業続きってことは俺が侵入していることはまだバレてないみたいだな。  まあ当然といえば当然だろうが) 「で、その侵入者の所有物がお前の持っている奴ということさ。それで追ったんだがなぁ」 「こいつがですか?じゃあこいつはどうなるんでしょうか」 「決まってる。処分だ。もしくは侵入者をおびき出す餌にする。さあ渡せ」 ケインは手元で僧達に向けて唸っている瑠璃蜥蜴を見る。 先ほどまでケインに向けられていたつぶらな瞳はそこにはなかった。 (…それじゃあ瑠璃蜥蜴の名前にふさわしくないだろ。仕方ない奴だ………) 「……断る」 「ん、なんだ?」 「断る。そんなことに使うんなら渡さない。こいつは俺が持ち主に戻す」 「貴様、裏切るのか!」 「裏切る?まさか……」 どうにでもなれ、という感じでケインは着ていた白ローブを脱ぎ捨てた。 僧達はみなそろって『おぉ』と歓声を上げてくれた。 「(そういう反応されても困るんだが)見ての通り、元々仲間でもなんでもないんでね。  勝手にさせてもらうさ。依存はないだろ?」 「ぬぁんだとぉ?なぁにが『依存はないだろ?』だ。カッコつけてんじゃねぇ!」 ぬがぁ、と言いながら中級僧は地団太を踏み荒らす。 「(子供かお前は…)いや、そういう意味で言ったんじゃないんだが。  じゃあまあそういうことで……」 「こら、どこへ行く!」 「言っただろ。好きにするって」 そういってその場を立ち去ろうとするが、下級僧がケインの周りを取り囲んだ。 武器類は所持しているようには見えないが、万が一ということもある。 その囲いの外から中級僧が一歩前に出る。 「侵入者が二人だったとは知らなかった。しかしお前も馬鹿だな。  大人しくそいつを渡しておけば正体ばれることもなかっただろうに」 「そうだな。もう少し優しさってのがお前達にあったらばれなかったかもしれないな」 「何が優しさだ。勝手に人の家に入ってきておいてそんなものあるか」 「だからって命を奪うってのはやり過ぎだろ」 「……お前のように人の屋敷に勝手に入ってくるような奴にはわからんことだ。  構わん。やってしまえぃ」 「アイアイサー」 下級僧達がケインとの距離と少しずつ縮めてくる。 ちなみに中級僧は一人枠の外でその光景を黙ってみている。 「お前はただ見ているだけか?」 「両手が使えないくせに生意気な奴だ。そいつを黙らせろ!」 瑠璃蜥蜴を抱えて両手がふさがっているケインに一斉に飛び掛る。 カウントダウン。 反撃三秒前、二、一……ガツン!(エコー付き) 下級僧がそろいにそろって倒れている中心に何事もなかったかのように 瑠璃蜥蜴を抱きかかえたケインの姿が中級僧の目に映った。 「ふぅ、お前らみたいなのじゃ何人いても相手じゃない。もう少し体を鍛えるんだな」 「な、なんだ、その強さは……」 今度はケインが中級僧にじわじわと近づいていく。 「く、来るな。来ると人を呼ぶぞ!」 中級僧は懐から何かを取り出す。アンテナを伸ばすと、それを高く掲げた。 「それは参ったな。まだばれるには早いんだが……」 「こ、来なくても人を呼ぶがば。これで、お前も終わりだきゃ」 極度に緊張しているのだろうか、語尾がかなりおかしくなっている。 「キュィィ」 ふと抱えている瑠璃蜥蜴が声をあげた。 「……見つけた」 突然天井から中級僧の後ろに白い影が降り立った。 あたりまえだが、中級僧は全くその影に気がついておらず、 相変わらず何を言っているのかさっぱりだった。 白い影はよく見ると影ではなく、体を覆うように包まっているマントだった。 服装からしてレードの僧服ではなく、逆に自分と同じ立場のものだとケインはなんとなくわかった。 フードの下から見えた視線は目の前の中級僧ではなくケインの方を向いていた。 そしてゆっくりとケインの方に向かって歩き出した。 そこでやっと中級僧が気が付き振り向いたが、振り下ろした右腕に吹き飛ばされて そのまま気を失ったらしく、動かなくなる。 それを特に気にした様子もなくケインに近づいてくる。 「何か、用か?」 ケインとその白マントはもう手が届く距離にまで近づいていた。 複数の人間が倒れているという不思議な状態の中、少し沈黙が続いた。 その沈黙を破ったのは、白いマントの男だった。 「大人しくその瑠璃蜥蜴を渡してもらおうか」 「…………?」 「聞こえなかったのか?お前が手に持っているものを渡せといっているんだ」 「……それはこいつらと同じ輩ってことか?」 「お前に説明する必要はない。渡すのか渡さないのかはっきりしろ」 「悪いが誰彼構わず渡すほど馬鹿じゃないんでね。はっきりした理由を言え」 「………渡す気はない、ということか。なら仕方がない………………」 ふっ、と白いマンとが揺れた、と同時にケインの目の前を白いマントが襲ってくる。 ケインは後ろに飛んで距離をあける。 白マントの下の姿は、瑠璃蜥蜴と同じ赤い髪を持ち、 人間より長い耳を持ったがっしりとした体つきをしていた。 構えからやる気がにじみ出ていた。 「やるのか?あまり大きな騒ぎはご免なんだが……」 「問答無用!」 男は長くあけた距離を物ともせずにケインに飛び掛ってきた。 「ちぃ!」 ケインは男の体当たりを右腕一本で何とかガードする。 「大人しくしてろよっ!」 そういってケインは抱えていた瑠璃蜥蜴を壁際に放り、また距離をとる。 「俺の当たりを腕一つで耐えるか。そこそこはやるみたいだがどうしてもあいつがいるんだ」 「だからきちんとした理由を言えって言ってるだろう」 「悪いが余計なことは言いたくない性格なんでな!」 また一気に間合いを詰めてくるのをケインは腰に隠してあったナイフを威嚇で投げつける。 男はそれを掴むと間髪いれずに投げ返す。 ケインは帰ってきたナイフをかわすと同時に、回し蹴りを繰り出す。 男は受け止めず跳ね上がり、天井を地面代わりにしてケインに襲い掛かる。 紙一重でそれをよけるが、男の動きは止まらず左右の連撃が繰り出される。 ほぼケインの防戦一方だった。 「キュキュィ!」 そのとき瑠璃蜥蜴が慌てた様子で二人の足元に近づいてきた。 だばだば動いて、二人を止めようとしているようだったが 完全に火のついた二人には全く耳に入っていないようだった。 「危ないから壁際に大人しくしているんだ」 「余所見をするのは余裕のつもりか!?」 「余計なお世話だ!」 瑠璃蜥蜴の静止も聞かず戦いつづける二人。 ケインも相手が相手なため、まったくほかを気にする余裕もなかった。 「キュゥ………」 瑠璃蜥蜴は落胆した様子ちょっと後ろに下がった。 そろそろクライマックスを迎えようとしていた二人はその行動に全く気がついていなかった。 「これで終わりだっ!」 「ふざけるな!」 二人の強者がぶつかり合う瞬間だった。 「がーーおーーーー」 @瑠璃蜥蜴追記……ごく稀に火を吹くので注意が必要。 ケインと男、お互い拳を振り上げ、ちょっぴり焦げた状態で固まっていた。 キリキリキリと男は首だけを瑠璃蜥蜴に向けた。 「チェキ……。あれほど火を吹くなと……」 「チェキ?」 「ああ、こいつの名前だ」 「……まさかお前がこいつのマスターか?」 「それ以外に何に見えるってんだ」 「流れからしてこいつに付きまとっている奴にしか思えん」 「初めに言っただろ?……言ってない?」 ケインとチェキ、お互いが同時にうなずく。 「そうか……」 少しだけ頬を赤くするとごまかすためケインに背を向ける。 そして男は足元にいる瑠璃蜥蜴、チェキを抱え込んだ。 「悪かったな。こいつを大事にしてくれてたことは礼を言う」 「気にすることじゃない。ただいきなり襲い掛かってくるのは勘弁してくれ」 「ふん……」 男はチェキを抱えてそのまま歩き出した。 「……ちょっと待ってくれ」 「なんだ?」 「……いや、なんでもない。止めて悪かったな」 「……………」 (らしくない。どこの誰ともわからない奴に協力を要請しようとするなんてな。  さて、思わぬところで時間を食ったか。しかもこんなに目立ってしまうのは誤算だ) ケインは倒れている僧達に眼をやる。とりあえず目を覚ます気配はなさそうである。 (まずは上より下を見たほうがいいか……) 「おいお前」 ふと突然すでに去っていったと思われた男から声がかかる。 男は振り向いてもいないが、その場から一歩も動いていないようだった。 「なんだ?」 「見たところここの奴じゃないな。見てのとおり俺もそうだ。  そこで一つ提案なんだが、一時同盟しようぜ」 「なんだ、いきなり」 「これからは一人より複数で行動したほうがいいと思うぞ」 「これから?」 「ああ、これは大層に総動員らしい」 それはどういう意味だ、そうケインが言おうとした瞬間廊下が赤く点滅する。 「なんだ!?」 「早い話が不法侵入者排除だろ。まあ、これだけやれば当然か」 「まあな。……しかし総動員か。  どうする、いくら運動不足の塊といえど相当手間取るだろう」 「相手しなけりゃいいだけの話だ」 「どうやって?」 「……地下三階のドッグ。あそこなら逃げ出す手段があるはずだ」 「確信は?」 「あるわけないだろ。わかりきったこと聞くな」 「…………」 「さて、のんびり会話しても仕方がない。さっさと行くぞ」 「わかった。ほかに手がないことだしな」 (ティアリスさんを呼びに行く時間はない。  が、派手に動けば必ず感づいてくれるはずだ) 「おっと、その前に名前を聞いてなかったな。  俺はレイ・シーギル。所属出身はわけあって言うことが出来ない  こいつはわかってるだろうが、チェキだ」 「俺は、俺はケイン・セイガードだ」 その頃、ケイン達の目的場所、地下ドッグ。 何かを待っているように一人の男がたたずんでいた。 男以外に誰もいなく、不気味な静かさが辺りを包んでいる。 その静かな空間に男の懐から軽快音が鳴り響く。 「ロキ様。連中は地下ドッグに向かっているようです。  何者かは未だ調査中です。どういたしましょうか?」 するとロキの口元が上がる。 (やっと来ましたか。今か今か出会うのが待ち遠しいですよ) 「……ロキ様?」 「構いません。ここへ、地下ドッグへ連れてきてください」 「よろしいのですか?」 「ええ。くれぐれも捕らえるなどとはしないように」 「…わかりました」 (ここの連中にそんなことできるはずがないがな。  さて、あの方がいらっしゃるまで少し準備しておきましょうか……)