_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 一章 三話 クリティカルショット _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 砂漠… 広大な荒地に、砂と岩のみが共存している、言わば結界の一つである。 昔、その場に起こった、すべての行いを隠してくれる。 幸せも、不幸も、そして生死にまでも… それゆえ人々は砂漠を、命を飲み込む黄顎<ケルベロス>と呼んでいる。 その砂漠の向こうに、いくつもの影が映る。 やがてその影は鮮明に人の目に映る。 発掘屋、ケイン・セイガード達の目に… 「ま、まさか、あの時の再現なのか!?」 後ずさりしながら、ロバンスが声を震わせながら言った。 そして……ロバンスの隣には倒れている、マラッサがいる。 マラッサは身動き一つせずに横たわっている。 体の周りを、黄色いはずの砂を真っ赤に染めて… それはすなわち、死を意味していた。 数十分前まで、誰がこの事を予測できたであろう。 砂漠に映る影以外は… ケイン達はルシェイフの前に円を作るようにして並んだ。ウェポンの処理についてだろう。 そして、並んだ直後にケインが、腕を組みながら声を出す。 「このウェポンを外に出す事は可能のようだ。しかし、そこからどうやってグラジアに運ぶ?」 「その辺は大丈夫。このウェポンはきちんと動くみたいだから」 先ほど、地下室でウェポンに関するデータを、フェンリースがいつの間にか引き出していたらしい。 ただ、動かすには多少強いエーテル力が必要らしい、とフェンリースは付け加えた… 「ロバンス達じゃ、操作する事すらできないでしょうし、私はエーテル力が弱いのよ。 つまり、必然的にケイン、あなたにやってもらうしかないでしょうね」 ケインと同じような格好をしながら言う。 すでに、どっちがリーダーかわからない状態になっている。 どうしようか悩むケインをよそに、全員の目線がケインに向いている。 「…わかった、俺がする。ただし、動作の保証はないからな」 そういうとすぐにケインは、ウェポンに近づく。 ルシェイフは直立不動の状態であったのだが、取り囲むように機材が取り付けられていた。 そのおかげで、楽に足場を見つけては、スルリスルリと登っていく。 ようやく到達して、閉まっている乗込み口を開けようとした瞬間… 「ケインの旦那、あぶねぇ!」 誰かがケインに向かって大声で叫ぶ。 状況を把握せず、反射的にウェポンから飛び降りる。 そして、そのすぐ後、今いた場所を何か黒く、巨大な物が通り過ぎた。 黒く、巨大な物は機材もろとも吹き飛ばしながら、止まらず、そのまま上に上がっていく。 誰もが一つの結論を本能的に悟った。 モンスターである、ということを… 発掘屋という職業ということもあったのだろうが… ケイン達の見た、黒く、巨大な物の正体は、少なくとも普通にいるそれとはまったく別物だった。 コウモリのような羽があるのだが、一対ではなく蝶々のように二対持っていた。 細い腕の先に、大きく、鋭い爪のついた手。 人間の物を思わせるような足。 今もなお、羽をはばたきながら獲物を狙っているように見えた。 「な、何だ、あのモンスターは!」 誰が発した言葉かわからないが、少なくとも見たことも無い未知のモンスターである。 誰が言ってもおかしくない言葉だった。 ケインは一つのことが頭に浮かんだ。 洞窟の入り口に残された血痕。 大げさに感じられた洞窟の造り。 ウェポンに乗り込もうとしたら襲い掛かってきたモンスター。 これらから出される結論はただ一つ。 「気をつけろ!このモンスターはウェポンの守護者だ。ただのモンスターと思ってるとやられるぞ!」 以前ここを発見した人は、同じようにウェポンに乗り込もうとしたが、 同じように襲われてしまったのであろう。 運良く逃げることができたが、今度は外に出る前に力尽きたと予測できる。 数年前、ここで人の死体があったという話を、ケインは思い出した。 (なぜ忘れてたんだ?) モンスターはケインめがけて急降下してくる。 巨大な体と、爪を持つモンスターである。 直撃はそのまま死を意味する。 逃げるようにその場から走り去るケイン。 「かなり大事なものらしいな、このウェポンは…」 逃げるケインの目にフェンリースからの手招きが見えた。 隙を見て、ケインはフェンリースに近付いて行った。 「ケイン、あのモンスターはあなたをターゲットにしてるように見えるわ。 悪いんだけど、そのまま囮になってもらえない? その間に何とかして急所を探して、一気にやるから」 「わかった。だが、一撃で仕留めろ。でないと今度はおまえたちが狙われるからな」 そういうとケインは、巻き込まないようにするため、急いでフェンリースの側から離れた。 「リース、とりあえずケインのために、足止めくらいしておいた方がいいんじゃ?」 ファイナンがフェンリースに近づきながら言う。 「ダメよ。ケインからの命令だから、急所を見つけるまでじっとしてなさいって」 いつも携帯しているセンサーを見ながら、返答する。 その返答をよそにロバンスが銃をモンスターに向ける。 当然、フェンリースの改良済みの巨大な銃である。小型大砲のようだが。 「やめなさい、ロバンス!ケインの命令に逆らう気!?」 「そんなこと関係ない!俺はあの人が傷つくのを見たくないだけだ!あの人が傷つくくらいなら 俺が変わりに傷を作る!これ以上あの人に傷を負わせるものか!」 確かに、逃げている間にもケインは少しずつ傷を受けていた。 コーモリを上回るスピードを持ち、攻撃範囲の広い大きな爪である。 直撃はしてないものの、完全にかわしきってもいない。 わずかな傷でも、ケインの体力をじわじわと奪っている。 (リース、まだか!?) 「くたばれ、モンスター!!」 (!?) ロバンスの放った銃弾はモンスターの頭を打ち抜く。 そして、続けて何発も頭を狙って銃を撃つ。 そのうち銃弾のストックがなくなったのであろうか、カチカチと音を立てるだけになる。 それと同時に、モンスターが力尽きるように崩れ落ちる。 その後数秒間、こだまするいくつもの銃声のみが、空間を支配していた。 モンスターはピクリとも動かなくなっていた。 その後、歓声の声があがった。 「やったなロバンス。よくあのスピードについていけたなぁ。やるといっても難しかっただろ」 「見掛け倒しだったようね」 「…ロバンス」 ロバンスに近づいてくるケイン。 「……(殴られるかな?)」 そして、ロバンスの前に来た時、予想してたとおり、ケインに殴られてしまった。 「ケイン!」 「ケインさん!」 「うるさい、黙っていろ!」 ぴたりと抗議の声が止む。 初めて出す、ケインの大声であった。 「なぜ命令を破った。リースに言っておいたのを聞いていたのか?それともお前の判断か? ……答えろ、ロバンス。」 「俺個人の判断だ。別に誰の所為でもない」 床に倒れたまま、即座に答えるロバンス。 「……そうか。じゃあ、帰ってから命令違反ということで報告させてもらう。それでいいな」 「ご自由にどうぞ…」 「………それじゃあ、早く上に上がるぞ。準備をしろ」 そういってケインはウェポンに近づいていった。 (もし銃が効かなかったらどうするつもりだったんだ、ロバンス………) 床に倒れているロバンスに、フェンリースが近づいていく。 そして小声で話し出した。 「どうして本当の事を話さないの?話せば良いじゃないの」 「なんでもないさ…」 「なんでもないって……あなた言ってたでしょ?ケインのために、とか」 「特に意味なんて無いさ。ただのカッコつけさ。さあ、それより早いとこ上に行こうぜ」 そういうとロバンスは立ち上がり、ケインの後についていった。 「……私にも知らないことがあるみたいね。……ちょっと悔しいかな?」 そういいながら、メガネを上げていた。 「よし、いいぞ。そろそろ上に上げてくれ」 ラグーンの遺跡から発見した黒いウェポン、ルシェイフのコクピットから ケインが上下レバーのある場所にいるフェンリースに言った。 その声は気のせいか、多少苛立ちを含んでいた。 「私もきちんと後から行くから、おいてったらだめよ」 そういいながら、フェンリースは、下に下がっていたレバーを持ち上げる。 すると、ガクンと音を立て、ルシェイフの下にあった鉄板が持ち上げられる。 ロバンス達はわずかに残った隙間に乗っている。 浮かび上がった鉄板の下で、さまざまな機械が置いてある地下室があらわになる。 よくわからない造りをしているものね、そう思ったフェンリースだった。 そして、上に上がっていくのを確認してから、フェンリースは洞窟の入り口に向かって歩いて行った。 その途中、ファイナンがロバンスに言い寄った。 「そういえば、お前が一番リーダーと長くいるみたいだが、知り合ったのはいつだ?」 「……」 「言いたく…ないか。なら別に良いさ」 「…五年前さ。あの人はまだ十五だったけどな。その年で、すでにこの地位にいたんだ」 ロバンスはルシェイフの足に背をつけて、ゆっくり言い始めた。 顔は下を向けていたが… 「当時、俺はミランドルの兵士だった。同じく発掘屋だった。 ある日、上からの命令で、ある場所の発掘をしに行った。結構大きな遺跡だった。 そして一つのウェポンを発見した。…といってもほとんど残骸に近かったけどな。 でも、部品だけでも持ち帰るのは…当然のことだよな。 それをもって俺たちは外に出た。 そしたらどうだ。そこには待ち伏せていたかのようにいたんだ。グラジアの奴等がな。 …俺たちとグラジアがやりあったら、負けるのは当然だ。 その場はもう地獄だった。奴等は容赦なくウェポン搭載の銃を乱射。 一人、また一人その銃弾に倒れていった。 その中で生き残ったのは俺だけだった。まあ、奴等は生きてるとは思わなかったんだろうな。 リーダーの指示で、何も無かったかのようにさっさと部品を持ち帰ったんだ。 まあ、生きているとは言うものの、俺もはっきり言って無事じゃなかった。 そのまま放置されていたら、一日もたたずに死んでたろうな。 倒れている俺の前にそのリーダーが現れた。もうわかるだろうが、ケイン・セイガードだった。 『自分だけ生きる勇気がお前にあるか?』 そう言われたよ。初めは意味がわからなかった。 『死んでいった仲間と共に死ぬか?』 俺は迷わず生きることを選んだ。ここにいるがその証拠だ。 俺は当時ミランドルの軍人だった、そういったな。 それでもあの人は俺を助けてくれた。なぜ助けてくれたか、後で聞いたよ。 『誰であっても生きる権利はある。お前だって生きたい、そう願っただろう』 あの人にとっての国は、自分の寝る場所であって、敵味方の区別はない。 そのとき俺は決めたんだよ。 この時代に、この国で誰彼もなく命を大事にするこの人に、俺は一生ついていく。 この人は死んじゃいけない人だ。この人を必要とする時がいつかくる。 俺の命を救ってくれた、この人のために俺の命がある。 そう、俺は決めたんだ。まあ、もう一度死んだのと同じだしな。 ……この事はあの人には言ってない。あえて言うことも無いからな」 乗っている足場を動かすエンジンの音だけの静寂に包まれていた。 この話はケインの耳にも届いていた。 相変わらず、帽子を深くかぶっている。 (お前だって十分お人よしだ…。俺はただこれ以上未練を残して死ぬ人間を見たくなかっただけだ。 昔のようにな。…………昔?いつの話だったんだ?) 居心地がよかったのか、気にせずそのままケインは数分の眠りについた。 その後の銃声がするまでは……