_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 十四話 初顔合わせ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「ここにシーギルの者がいないのは仕方がないとして、それでは依存はないな?」 何の工夫もされていない、寂しい部屋の中央に一つ、円のテーブルが置かれている。 そのテーブルには数人の、少し年のいった男たちがそれぞれ向かい合うように座っていた。 その中で一番年を取っているような老人が、その場にいる人を見渡しながら言葉を放つ。 座っている人たちは聞かれた問いに頷くという答えを老人に返した。 「うむ、それではレードに反旗を翻すことに決める。  それにしてもお主のおかげでうまくまとまった。例を言う」 老人は自分の横に立っている、仮面で顔を隠している、多分男に声をかける。 「気にすることはない。……これで私の仕事は終わったようだ。後は検討を祈る」 その短い言葉を言うと、男は他に何も言わずに部屋を後にした。 「長老……」 一人の男性が老人に向かって声をかける。 「あの者、信用してもいいのですか?どう考えても怪しい気がしますが……」 「うむ…。協力してくれると言うのだ。この際は利用できるものは利用しよう」 長老と呼ばれた老人は席を立つと、部屋の唯一の飾りである紋章を見つめる。 「我々がレードの下につくようになって早五年。奴らの元でいろいろ我慢してきたこともある。  他の国がレードに何かしようとしているこのときを逃すわけにわいかん」 「わかっています……(わかっていますが、どうもあの男は危険な感じがします)」 ---ラ=クルス地下三階--- 「下の方に来て正解……だったか?」 ラ=クルス最下層と思われる地下三階に降りてきたレイはあたりを見回す。 上の二階とは違って僧達が追ってくる気配が全くない。 横に六人くらいが簡単に並べるくらい広い通路は、上の階と変わらない広さだが さっきまで大勢に追われていたため、普通より広く感じる。 「もしかして、ここに誘い込まれたのかもしれないな」 二人の話し声と足音以外に音は存在していない。 「とにかくこの階どこかにドッグがあるはずだ。まあ適当に歩けば何とかなるだろ」 そう言いながらレイは頭の上にチェキを載せたまま歩く。 「ほんとに誰もいないみたいだな」 レイは一応あたりに気を配りながら歩いていく。 その間意味もなく壁を殴ってみたり、 頭の上のチェキが顔に降りてきたりして騒々しく進んでいく。 しかし、その騒がしいレイたちの後ろを浮かぬ顔でついて来るケイン。 「どうしたセイガード」 その雰囲気に気がついたレイは振り返ってケインに声をかける。 「地下だからって沈まなくてもいいだぜ」 「……それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」 「まあ気にするな。それよりどうした。さっきから変だぞ」 ケインはその場に足を止める。 「おかしくないか?」 「あん?」 「なにか今までの階と違和感がある気がしないか?」 「そうか?」 レイは集中してあたりを感じる。 チェキがレイにあわせているところが笑いを誘うがケインにはそれどころではない。 「静かな以外、別に変わったようには感じないぞ」 「…………(確かにシーギルの言うとおりだ。だがなんだ、この感じは)」 ケインは今まで感じたことのない気配……。 いや、昔どこかで感じたことのあるような、そんな気配を感じる。 ただ、ケイン自身は全くそういう気配を感じたことはない。 (俺は知らないはずのに、知っている……) どう考えてもおかしいのに、ケインはそれを否定することが出来なかった。 「どうした?」 ずっと立ったままのケインにレイが声をかける。 「…いや、なんでもない。先を急ごう」 「進んだりとまったり忙しい奴だな」 ケインとレイは再び歩き出す。 (なにをしているのですか?) ケインは自分を呼ぶ声がしたような気がして、再度立ち止まる。 「?…シーギル、なんか言ったか?」 後ろから声をかけられ、同じく足を止めるレイ。 「はぁ?お前こそ何言ってんだ?」 「そう、だよな…」 不思議に思いながらケインはまたゆっくりと歩き出すが レイの横をゆっくりと通り過ぎると、また立ち止まる。 「なんだお前。随分と変な奴だな」 「………呼んでいる」 「?」 ボソッとそういうと、ケインは突然走り出す。 「どこへ行く!」 レイの問いに全く答えず、一目散に通路を駆け抜ける。 見失わないようにレイもケインを追いかける。 だが、ケインの走るスピードはレイのよりもかなり早かった。 「なんて速さだ! ホントにあいつ人間か?  チェキ、あいつを見失わないように追え!」 「キュィ!」 頭の上にいたチェキはレイの頭から飛びのくと、これもまた速い速度でレイから離れていく。 走っても追い付かないことがわかっているレイは、走るのをやめてゆっくりと歩き始める。 ケインとチェキがいなくなってまた静まり返る鉄の通路。 「始めてあったときからよくわからん奴だったが、ここまでとはさすがに思わなかったな」 すでに追いかけようなんて少しも思っていないレイ。 間もなくすると、前方からチェキが走ってレイのところに戻ってくる。 「おう、あいつはいたか」 チェキはうんうん、と首を縦に振ってきた通路をまた戻っていく。 レイはそのチェキの後ろについていく。 ぴこぴこと謎な足音と、レイの静かな足音が通路に響く。 (いつ聞いても不思議な足音だ…あの音は一体どこから出てんだ……) レイの視線はチェキの足元に釘付け。 その視線の中、チェキの足は通路を左に変えた。 レイもそれにならって左に曲がると、目の前に扉が目に入った。 その扉の片隅には、ケインが壁にもたれかかって立っていた。 「走って気が済んだか?」 「……悪かったな」 「別にどうでもいいけどな。…ところでこの先は?」 「ドッグ、らしい。といっても素直に喜べない。中から人の気配がする」 ケインの言うとおり、中から一つの気配がある。 しかしレイはそんなことを気にしていないようで、扉に手をかける。 「こんなので時間かけるほど暇じゃないだろ。どうせ行くしかねぇし」 「……そうだな」 そしてレイは扉を押し開く………。 ---その少しまえ--- ラ=クルス正教塔の裏側、格納庫から出た船が一時停泊する港。 数隻の船がその港に停泊していた。 深夜で日付が変わろうとしている時間であるため、エンジンが起動しているものはない。 それでも積荷の調整などのちょっとした作業をしているようで 未だ港の灯火は消えてはいなかった。 その数隻の一つの船が停泊している手前。 「皆、なら〜べ!」 「うぃっさぁ!」 停泊している船の中の一隻の前で、船の搬入員達が整列をしている。 自分達の指定された船の搬入が終わり、解散するところなのだろう。 「かくかくしかじかというわけで、今日はこれで解散だよもん!」 「了承!」 搬入員達は深く船に向かって一礼をすると 各々が仲のいい友人達と会話をしながらその場を解散していった。 その船の手前についていた明かりは、 ほかに人がいないのを搬入員の一人が確認した後、スイッチを切った。 辺りは真っ暗になり、大きな船の姿は闇に消える。 他の船はまだ続いているようだが、そこだけは悲しいほど静かになっていた。 「どこの職場でも下の人たちは真面目なんですねぇ」 コンテナとコンテナの間の、光の当たらない場所から外の様子をうかがう姿が一つ。 手前の船の明かりが消え、暗闇の範囲が広くなるとその姿は間から姿を表す。 誰もいないのを確認すると、背を壁にもたれて座る。 「一応知ってる型だから操縦とかできるかもしれないけど……。  どのタイミングでやったらケインさんが楽になるのかしら」 コンテナの間から姿を現したのは、フェンリースの母親のティアリスだった。 両足を伸ばし、空を見上げてくつろいでいるその姿は 実年齢よりかなり若く見え、とてもかわいらしかった。 (リース、今ごろ何しているかしら。もうずっと声しか聞いてないし。  あの人も、ずっと連絡すらよこさないで……) ティアリスは空を見上げながら深くため息をつく。 「さて、もう少しがんばるとしますか」 そういってティアリスは腰を上げる。 だが、腰を上げると同時にティアリスはまた細い建物の間の中にすばやく入る。 入った瞬間ティアリスが座っていたところを一筋の光が通り過ぎた。 その光はどこを照らすと決まっているわけでもなく、ふらふらと移動する。 しばらくすると二人の足音と声が聞こえ始める。 一人は片手にライトを持ち、雑談しながら歩いていた。 「見回りっても誰もいやしないよなぁ」 深夜の見回り警備らしい。 「おい、お前知らないのか?侵入者がいるって話」 (あれ、ケインさん。もう行動を起こしているんですね。  ………早すぎじゃないですか?) ちなみにケインが内部に入ってまだ半刻しか経っていない。 「じゃあこんなところで歩いている場合じゃないだろ」 「それがまた変なんだよ。外回りは参加しなくてもいいんだってさ。  そのくせに絶対に上に逃すな。地下三階へ連れて来い。  挙句の果てには、絶対に地下三階には誰も連れてくるなって話だぜ」 (地下?二階までなら知ってるけど三階は初めて聞くわね……。  それとその三階に連れて来いって言ってたことも気になるわ) 警備員はティアリスに気がつくことなく目の前を通り過ぎ、そのまま遠ざかっていった。 そしてまたひょっこりと隙間から姿を現す。 「う〜ん、ちょっと予定外な方向に向かってるかも。  とにかくこっちもあわせて動きを変えないと……」 そう言葉を漏らすと別の方向へと歩き出した。 ---正教塔地下三階--- ケインとレイの頬に冷たい汗が流れ落ちる。 何も存在しないかのような静けさの中、 二人は前に進むことも、後ろの下がることも出来なかった。 目の前の大きな部屋にたたずむただ一人の男を目の前にして……。 「やあ、待ってたよ」 金色の髪のした、固めのスーツを着た男は、メガネの位置を戻しながらそういった。 場所がこんなところでなければ、エリート社員で気にもしないくらいだった。 ただ子供らしさの残った言葉と目つきの鋭さを覗いては。 「ここには私とあなた達以外に誰もいない。楽にしてもかまわないよ」 気の鋭さを残しながら、男は笑顔で言う。 「こっちに…まだここにいたんだな、お前……」 レイが一歩ほど前に出て、目の前の男をにらみつける。 「人を待っていたんだよ。  まあ、そっちも似たようなものでしょ、模倣者<エピゴノス>レイ・シーギル君」 変わらぬ笑顔で男は言葉を返す。 「知り合いか?」 「知り合いも何も……」 「私を忘れたの?ケイン・セイガードさん」 レイの言葉を遮り、男は寂しそうな笑顔でケインに視線を送る。 別に名前を他人に知られているということは初めてではない。 ただ男の口ぶりは、お互いがお互いを知っているような、そんな感じだった。 「悪いが俺はお前は知らないんだが…」 「ふぅ……」 男はやれやれといった感じで深くため息をつく。 そしてまた始めのような笑顔に戻る。 「まあ予想はしてたけど……じゃあ自己紹介でもしようか。  ……私はロキ。レード外交士官長、及び軍事参謀のロキ・ファラウといいます。  趣味特技は秘密。以後お見知りおきを」 男、ロキは深々と頭を下げた。 「貴様が…貴様がロキか!」 ケインの声が、三人しかいない広いスペースに響き渡る。 「そうです。別に大きな声を出さなくても…」 「ならあの時、遺跡に奇襲をかけるように指示したのも貴様か!」 七日前、周辺での戦闘が一切禁止されている遺跡にウェポン部隊を差し向けたレード。 そのとき長年付き合った仲間とも突然の別れとなったのだが、 ロキが軍事参謀ということはロキがそう命令したことになる。 ケインのその殺気立った気にレイは少しひるんだが、 ロキは全く感じていないように笑顔を絶やさなかった。 むしろ喜んでいるかに見えた。 「ああ、『そんなこと』。  こっちにも事情があってね。『仕方がない』ということで」 ははは、と気楽に笑うロキ。 「きさまぁ!」 「やめろ、ケイン!」 ケインがロキに飛び掛ろうとしたのを、レイが後ろから止める。 「放せ!こいつだけは、こいつだけはっ!」 「落ち着け。冷静さがウリなんだろ、お前は!  奴と何があったかはわからんが、熱くなると相手の思うつぼだ」 「…くっ」 気持ちの煮え切らないまま、脱力するケイン。 それでもケインはロキに恨みのこもった視線を送る。 やはりロキはそれにまったく動じていなかった。 「レイ君のいうとおり落ち着いてくださいよ。うらみつらみはまたの機会で。  今回はあなたに会う、ただそれだけのためにここに来ただけです」 暇人だな、とレイはあきれた顔でいった。 「レイ君。こっちはやることはやったのは知ってるでしょ?  ………あとはそっちだけですよ」 ケインに向かってそう言い放つ。 「さて、私はともかくあなた達ものんびりできる状況じゃないでしょ。  あっちに三人くらいが乗れる船を用意してるよ。  外の方も呼んだほうがいいんじゃない?」 そういってロキは振り返って奥の方を指差す。 その先には確かに何かあるようだった。 「そりゃご丁寧に…。まあここまでしたお前だ。騙しているとは思わないけどな」 「いやだなぁ。そんなことはしませんよ。私はね」 ロキはレイから視線をケインに戻す。 「…特にケインさん、あなたには死んで欲しくありませんから」 笑顔と打って変わって、スゥ、っと目を細めて言うロキ。 「…ケイン・セイガード、いくぞ」 怒りを残したままケインはロキの横を通り過ぎる。 (っ!?あの懐かしさ。こいつから感じる……) 一瞬足を止めたケインだったが、すぐにまた歩き出す。 (いや、そんなことは関係ない。こいつだけはこの手で……) ぐっ、と手に力の入るケインだった。 二人は奥にあった小さな潜水艇に乗り込むと、レイが操縦席に座る。 エンジンはかかっていないが、燃料は満タンで特に壊れている計器はなかった。 「なに考えてるかさっぱりだな、あいつは」 「できるか?」 「そりゃな。レードのものはほぼどこかからの輸入品だ。  この型はやったことがある」 レイは目の前にある計器や機械をいろいろ触る。 しばらくするとエンジンが起動する音が艇内に響き渡る。 「よし、ここから脱出するぞ」 ガクンと揺れると潜水艇が前に進みだすのがわかった。 「シーギル、ところでこれはどこに出るんだ?」 「知らん」 「そうか。…じゃあここを出たら一旦浮上してくれないか?」 「そういえばロキは外の奴とか言ってたな。連れがいるのか?」 「ああ、どこにいるかわからないが、多分近くにいるような気がするんだ」 「わかった」 ---ラ=クルス 正教塔外--- 正教塔の、ケインが侵入した方向の全く逆の何もない場所。 港とも離れていて、全く人が通るようなところではない。 あまつさえ明かりさえなく周りは黒に侵食されているようだった。 月も薄い雲に覆われて、その輝きが遮られている。 そんな寂しいところにティアリスはいた。 海からの風が流れ込んできて、昼間とは違う夏の夜風がティアリスを通り過ぎる。 「いい風……」 のんびりと地面に腰掛けているティアリスは十分と風を感じていた。 「……この付近だけな〜んにもなし。  そういう理由だけでここと場所を決めたけど大丈夫かしら」 実は判断を誤ってしまったのではないかとティアリスは思っていた。 確かに何もなさそうなところが怪しいというのは確かに間違ってはいない。 本当に間違っていなかったのだから誰も考えることは一緒なのかも……。 しばらくすると海面があわただしく波打ちし始め、その後、一隻の小型の潜水艇が姿を現す。 その潜水艇は、ハッチが開いて人影が現れる。 「おいシーギル。ここはどこだ?」 「だから知らないんだって」 「それじゃあ探すのも一苦労だな……」 ティアリスは二つの人影の会話にただ耳を澄ますだけだった。 というよりいきなりのことでびっくりしているだけだが。 「セイガード、あまり時間を使いすぎるなよ」 (セイガード?) 「ロキの奴はああいったが、それとは関係なくラ=クルスの軍部が動く可能性がある」 (ロキ?) 「俺はいいがミランドルのお前が見つかるとどうなるかわかるだろう」 (ミランドル? ってもしかして……) ティアリスはまだ調子の戻らない頭で一つの答えを出した。 いうまでもなく人影はケインとレイである。 ティアリスは潜水艇を降りた人影に歩み寄った。 相手もティアリスに気がついたようで少し距離をとる。潜水艇の人影も姿を現した。 間違っていたことを思って足が止まったが、自分を信じて声を出す。 「も、もしかしてケインさんですか?」 人影はティアリスの声に反応する。 「その声は…ティアリスさんか?」 人影がケインだったことで胸を撫で下ろすティアリス。 「はい。無事だったんですね」 「一応はな」 「おい」 ケインとティアリスの間にもう一つの人影が割って入る。 「セイガード、こっちにいるのがお前が探してた奴か?」 「ああ」 「じゃあ話は後にしろ。このままここにいるのはまずい」 「グレンダムですね?」 ティアリスはまだ見ぬ人影に言う。レイもそれに頷く。 「私設警備隊か。そういえばそういうのもここにはあったな」 私設警備隊グレンダム…ラ=クルスの正教塔とは別の警備隊で 主に外回りの警備を主体に行動している。 警備を私設に任せているところはこことミランドルの二つだけである。 他の三国にも私設はあるが、共同でやっているわけではない。 グレンダムは正教塔の信頼も厚く、特に隊長のフリーガンは上層部に一目置かれている。 特に最近は夜間に行動を起こす不信人物を捕まえるために躍起になっているらしい。 「そういうわけだ。今ならまだくる可能性が低い。  もし来られたら逃げられないからな」 「わかった。じゃあティアリスさん」 「はい」 岸に寄せてある潜水艇にレイ、ティアリス、ケインの順に入る。 二人が乗り込むのを確認すると、レイは潜水艇を動かす。 「ところでケインさん」 「シーギルのことか。まあいろいろあってな。一時的な物だから気にしなくてもいい」 ゴンッ、と音がしたので前を向くとレイが操縦桿に頭をぶつけていた。 「あのな、それは少し酷いと思わんか?」 「そうですよ。せめて頭の上のかわいい子を紹介してください」 ゴンッ、とまた操縦桿に頭をぶつける。 「冗談です」 (そういえばティアリスさんはこういう人だったな……) 「まあ別に説明しなくてもいい。で、こいつはチェキだ。  おい、どうでもいいから頭をどけ」 「キュイ」 チェキはレイの頭から飛びのくと、ティアリスの膝元に飛び降りる。 猫なんだか犬なんだかさっぱりである。 「あれ、この子……」 ひざの上にいるチェキの顔をみてティアリスが頭をひねる。 「この子は瑠璃蜥蜴ですよね。それにしては瞳の色が違うような……」 「よく気がついたな。こいつ、ちょっと変わってるんだ」 じぃ〜っとチェキの目をみるティアリス。 「……この瞳は」 ティアリスが何かに気がついてそれを声に出そうとする前だった。 レイがソナーに反応があったことを二人に伝えた。 「海面付近に五つの反応を感知した。考えるまでもないな。グレンダムだ」 「やり過ごせるか?」 「無理に決まってるだろ。こんな小型じゃろくなモノもないしな」 「限界まで沈んでみるというのはどうですか?」 「それも無理。グレンダムの船には潜水艇が内部に積んであるだ」 ケイン達の乗る潜水艇の中は以外にも今までと変わらない雰囲気だった。 それでも艦内は緊張の空気に包まれる。 「グラジアの領海に入るまでどのくらいかかる?」 ラ=クルスに一番近いケイン達のよりどころはグラジアである。 距離だけを見るとミナレインの方が近いのだが、現在の進行方向と逆なので グレンダムの間を抜けていかないとダメなため、それは実質不可能である。 それでもグラジアの領海は遠すぎる。 「……シーギル。北東に全速で向かってくれ」 少し静まった艦内で始めに声を出したのはケインだった。 「北東? グラジアは真東だぞ?」 「大丈夫だ、俺に考えがある」 レイは振り向いた先にいるケインを見つめ、そしてまた正面を向く。 「………わかった。進路を北東に取る。これでいいんだな?」 「ああ。気にするな。お前をレードに何事もなく送ってやるさ」 カンではなく、多少確信がケインにはあった。 それはケイン以外、だれも思いつきもしない考えなのだが。 レイとティアリスはただケインを信じることしか出来なかった。 続く………。