_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 十五話 ウェポン攻防戦終了 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 多彩な機械に埋め尽くされた部屋に一人の男が入ってきた。 人の声は全くしないが、人はいるようである。 ただひたすら目の前のディスプレイを見ては黙々と何かを打ち込んでいる。 男は一番大きな機械に挟まれたディスプレイの前にいる男の後ろで足を止る。 「どうだ、反応はあるか?」 「はい、一応あります。  ただマザーにアクセスできるほどの力はまだあるとは思えません」 「ふむ……」 男は中指でメガネを上げる。 「場所は?」 「ミナレインです。メソポタミア付近にいるようです」 「……そうか。まあどの道その程度じゃ使い物になるまい。  ここ数年見た限りではこれ以上待つのは時間の無駄かも知れんな」 「ですが彼女以外にアクセスできる能力のある者はいないのでは?  先代はすでに能力を失っているようですし」 「ないわけではない。だが、そこはデューノの領域。迂闊に手を出すことができん。  とはいえこのまま待つよりは早いかも知れんがな。  先日破壊者<サタン>の覚醒反応は出たらしいが、こうなった以上我々に残された時間  はほとんど無い。そこでお前にやってもらいたいことがある……」 「こんのぉ!」 ファシーの乗る薄赤いウェポン…ヴァルキリエが青いウェポンに襲い掛かる。 ヴァルキリエの振り回した細長い銀色のロッドを、上体の動きだけで楽々と避ける敵。 「お前は前にしか進めない玩具か?」 反撃できる状態でも、あえてヴァルキリエの攻撃を待ち、避ける。 「とりゃぁ!」 ヴァルキリエは何度もロッドを振り回すが、的を得ないその攻撃は駄々をこねている子供 のようだった。 「なんで…なんで当たらないのよ!」 なおも適当の振り回すロッドを軽々受け止める。 「お前、基本がなってないみたいだな。基本は大事だぞ〜。基本なくして応用なし」 そしてロッドを手にしているヴァルキリエごと投げ飛ばした。その投げもうまく着地しや すいように、そしてフェンリースのそばになるようにしていた。 「どうも素人さんらしいな。『サイレントヴァイン』を出すこともなかったか。  っかしなぁ、なんかあると思ったんだけどなぁ……」 「素人素人ってうるさいんじゃぁ!」 「うるさいのはあんたでしょうがっ!」 性懲りもなく向かっていこうとするヴァルキリエをフェンリースの震電が殴って止める。 ヘッドを殴ったが衝撃が本人まで響き、ファシーは頭を抑える。 「痛いじゃない、リース」 「殴ったんだから痛いに決まってるじゃない。当然でしょ。  で、玩具みたいに前に進むことしか考えない味方を見守るほど温厚じゃないの」 「そんな事言われても……」 「最も致命的なのが、あなたが考えもなしに突っ込むおかげで私が何も出来ないのよ!」 「あ……」 大人しくなるヴァルキリエ。 「いい? 相手は強いの。一対一じゃダメだってのは、もうわかってたでしょ。  だから二人で協力する必要があるの。わかる?」 「そりゃ、わかるけど…どうやって?」 「どうやって、じゃないでしょ。言うだけでできたら誰も苦労はしないわよ」 「じゃあどうするのよ」 「大丈夫。そんなに難しいことないから。  ただファシーと、私のウェポンとが、どういうタイプか考えて動いてみて。  それだけがわかってくれれば何とかするわ」 「………そっか。よしっ、行くよ!」 どういう答えに辿り着いたか知らないが、また突っ込んでいった。 「何が、よしっ、なんだか……。ホントにわかったのかしら」 一歩遅れて震雷も行動を開始する。 「そうだ。折角二人いるんだから二人一緒に来ないとな」 サイレントヴァインはヴァルキリエと震雷の動きに合わせて構える。 ヴァルキリエは右アームにロッドを掴んだまま距離を縮める。 何かしら考えがあって突撃していそうなファシーだが頭の中ではあまり考えてなかった。 ただ、フェンリースの邪魔になるような行動をしない、とだけだった。 「でやぁ!」 ヴァルキリエはロッドを勢いよく袈裟切りに振り下ろすが、簡単にかわされてしまう。 「?」 ロッドを右に避けたシャロンは、ヴァルキリエの次の行動を待つ。 ただ、視界の中に震雷の姿は無く、ヴァルキリエの後ろに隠れているようだった。 ヴァルキリエは左アームにロッドを持ち替えて、左側からなぎ払う。 「振りが遅い」 震雷の行動に全く気にしていない、と言うかメイン武器がライフルの震雷は、今のままで は攻撃できないのを知ってるため、シャロンはキレのないロッドを、後ろに飛んでかわす。 「まてぇい!」 まてぇい、じゃないだろ、と思うが、ファシーはとりあえず離れたサイレントヴァインに 飛び掛る。 後ろの震雷に動きはない、そう感じたシャロンはロッドを受け止めようとする。 しかし、シャロンの考えと裏腹に、フェンリースはここだ、と思ってライフルを構える。 「てやぁぁぁぁ!」 ヴァルキリエの渾身の力でロッドが振り下ろされる前にファシーが叫ぶ。 「んぎゃ!」 「な、なんだぁ!?」 シャロンの目には、飛び掛ってくるヴァルキリエの速度がいきなり上がって、突撃してく るように見えた。実際ファシーは体当たりをしようとしたわけではない。力任せにロッド を振り下ろそうとしたのだが……。 ただ、後ろから強烈な衝撃が来たので体勢を崩しただけである。 それでもシャロンには不意打ちになったようでヴァルキリエはサイレントヴァインに勢い よくぶつかり、そのままもつれあいながら地面に激突する。 「あいたたた……何なのよ、もう……」 コクピットの中のファシーは首を左右に振る。 「どうでもいいが、どいてくれ……」 ふと気がつくと自分のすぐ横にサイレントヴァインがいるのに気がついた。 「なんであんたがここに!」 「ここに、じゃねぇよ。そりゃあいつに聞いてみろ……」 そういって倒れたまま震雷を指差す。 ファシーは少し考える。いろいろと考えた結果、フェンリースが原因とファシーの頭は結 論を出した。そしてファシーはシャロンのことをすっかり忘れて、立ち上がって震雷のと ころまで行く。 「一つ以上聞くけど、リース。一体何やったのよ?」 「何って別に…。ただ後ろから撃っただけよ」 「むぅ、なるほど。……でまた聞くけど、誰を撃ったの?」 「ファシー」 聞かれた事に嘘偽り無く正直に答えるフェンリース。それだけは間違っていないが……。 「………………………」 一瞬間を置いて……。 「なぁに恐ろしいことしてんのよっ!」 すごい剣幕で襲い掛かるファシー。当然といえば当然だが。 「大丈夫よ、安心して。壊れない程度に抑えてるから」 「あ、そうなの? って、どこをどうやったら安心できるのよ!」 当人のフェンリースは非常に冷静だ。 「落ち着いてファシー。焦れば相手の思うつぼよ」 「焦らせてるのは誰なのよ!」 怒ったファシーに対して、フェンリースは視線を斜め下に落としてトーンの低い声で言う。 「ああするしか、手はなかったの……」 周りから見るとすまなそうに見えるが、被害にあったファシーは全くそういう風には見え ていない。 「……見えない奥で思いっきり笑ってるでしょ」 「……バレた?」 「当たり前でしょ! 次同じことしたら真っ先に殺るわよ……」 「ちょっとした茶目っ気でしょ。本番はこれからよ」 「なに事もなさげに落ちついてんのよ!」 そろそろ飽きてきたフェンリースはファシーに対して必殺技ともいえる言葉を放つ。 「後で何かおごってあげるから」 「さぁ、話がまとまったところでもう一度いくわよ!」 ファシーが単純な頭でよかったと思うフェンリースだった。 一方シャロンはと言うと………。 「キシシシ。お前等楽しすぎ」 地面に倒れたまま笑っていた。ずっと倒れていたのはただ単にファシーとフェンリースの やり取りを見ていただけで、動けないわけではない。 「何が楽しいのよ」 「何がって全部だよ。  今までいろんな奴と会ったけどな、お前等みたいなのに会ったのは初めてだよ」 「……そりゃどうも。誉められても全然うれしくないけどね」 震雷もヴァルキリエも、ぷいっ、とそっぽを向く。 「そりゃ悪かった」 ゆっくり立ち上がるサイレントヴァイン。 「それじゃあこれからいいものを見せてやろう」 「?」 ファシーもフェンリースも、シャロンが何をするのかわからなかったが、雰囲気から感じ 取った。 「プロの技ってのをな!」 「ファシー、来るわよ!」 「わかってる!」 ヴァルキリエと震雷も迫り来るサイレントヴァインにそなえて構える。 ブワッっとサイレントヴァインの足元から噴煙が巻き起こる。 その瞬間、ヴァルキリエも震雷もメインモニタからサイレントヴァインの姿を見失う。 実際姿が消えたわけではなかった。ただ、停止状態からの急激な速度の変化に二人の目が 追いついていかなったのである。 それもだが今までとは比べ物にならないスピードになっていたからである。 サイレントヴァインは、そのスピードに反応の遅れたヴァルキリエの懐に入り込み、止ま らずスピードに乗って一気に押し出すと、ヴァルキリエは派手に吹き飛んだ。 「っ!」 震雷は動きの止まったサイレントヴァインに右アーム内蔵ガトリングの照準を合わせよう としたが、照準が合う前にまたも姿が消える。 センサーが表示したのは自分の真後ろだった。 「!?」 その場から飛びのくのより早く、機体の背後から全身へ抜けるような衝撃がフェンリース をを襲う。先ほどのファシーと同様、その衝撃に対応できず、震雷は前へ倒れこむ。衝撃 のため一瞬コントロールを失うが、すぐさま取り戻してその場を飛びのく。そしてどうに か体勢を整え、サイレントヴァインの姿を確認する。 遅れてヴァルキリエもサイレントヴァインを挟むように立ち上がり、位置を取る。 「こんな感じでどだ?」 二体に挟まれているが全くそれを気にしていないシャロン。 「な、何よ。今までと全然違うじゃない!」 「いや、全力で行くって言っただろ」 「言ったのは『プロの技』で、全力出すなんて言ってないじゃない! 訴えてやる〜!」 ファシーの逆ギレ。 「んな無茶苦茶な……」 気を張ってたシャロンもさすがに脱力せざるを得なかった。どうあれ相手の気力を失わせ たのはよかったが、フェンリースも脱力したのは言うまでもない。 「んなこと言われてもなぁ……。じゃあどうすりゃ」 いいんだ?と言おうとしたが、サイレントヴァインのセンサーにヴァルキリエ、震雷とは 違う、十数体の機体の反応を感知した。 「いたぞ、あそこだ……撃て!」 同様に感知した震雷が振り向くと、そこには胸の中央にミナレインの紋章が描かれた機体 が機銃をサイレントヴァインに向け、隊列を成して並んでいた。 「あれは……ミナレインのウェポン部隊?!」 機銃から放たれた銃弾が砂煙を巻き上げながらサイレントヴァインを包み込む。しばらく して先頭のウェポンが停止の合図を出す。 「やったか?」 部隊長らしき機体が砂煙の中のサイレントヴァインの様子をうかがう。いくら屈強のウェ ポンとはいえあれだけの銃弾を受けてまともに済むはずがないと信じていた。しかし砂煙 の中から出てきたのは傷一つすらついていない、撃つ直前と変わらない姿で立っているサ イレントヴァインの姿だった。 「そんなバカな……」 「バカはてめぇだヨっ」 サイレントヴァインはヴァルキリエ、震雷を無視してウェポン部隊の方に向き、自分の何 倍もの数の軍団に向かっていく。 「怯むな、撃て!」 再び多数の機銃がサイレントヴァインに向けられる。しかしサイレントヴァインは全く避 けず、銃弾を受け止めながら進んでいく。 「遊びの邪魔した罪、高くつくぜ、バカヤロウ!」 それから後はサイレントヴァインの一人舞台だった。ウェポン部隊とサイレントヴァイン では実力の差がありすぎた。隊列を組んでいるのがあだとなり、まともに触れることもま まならず、何も出来ずに無残に破壊されるミナレインのウェポン。 ヴァルキリエ、震雷は助勢にすら行けないどころか、動くことすらできなかった。今まで とは動き、気配の違うサイレントヴァインに恐怖したからである。騒ぎに騒いだサイレン トヴァインの動きが止まったのは全てのウェポンが残骸の山になったときだった。 「…………」 ウェポンの残骸の上に不気味に立つサイレントヴァインは静かに振り返る。 動きはゆっくりだが、さっきまでとは違って体全体から殺気が溢れ出していた。 ガシャ、と足元の残骸を踏み潰して一歩進む。それにつられて震雷も一歩下がる。 サイレントヴァインが前に出て、そのままそっくり震雷は後ろに下がる。 それが続くかと思ったフェンリースの目の前にヴァルキリエの姿があった。 別に前に進んでいたわけではない。震雷が後ろに下がったからヴァルキリエが前に出たよ うに見えただけだった。 動けないほど恐怖しているのかとフェンリースは思った。だが………。 「へい、かもん!」 大声を上げて地面を思いっきり踏み込み、持っているロッドをサイレントヴァインにビシ ッと向けたヴァルキリエの姿があった。 「ファ、ファシー!?」 「結構わがままな性格してるねぇ。邪魔されたからってそう怒ること無いじゃない。  ……ふっ、まだまだ子供ね」 どこからともなく、やれやれだゼ……、と聞こえてきそうだった。 「なにわけのわからないこといってんの……?」 「子供は子供らしくパフェでも食べてなさいって〜の!」 モニタに映っているサイレントヴァインに向けて舌を出すファシー。 「いいかげんにしなさい!」 震雷は持っていたライフルでヴァルキリエを黙らせる。 「と、とにかくかも〜ん。かかってきなさい」 ガシャンガシャンと不気味に足を進めるサイレントヴァイン。 「いい度胸だな。今度は本気だ。死んでも恨むなよ」 「まだやりたいことが沢山あるから死ぬ気なんてないもんね。  とりあえず一発くらいぶちかましとかなきゃ気がすまない!」 かかって来い、とかいいつつ自分から全速でサイレントヴァインに突進していく。黙って たたずむサイレントヴァインにロッドを振り下ろすが、ロッドが打ったのは足元の残骸だ った。 「(多分)右…ねっ!」 間髪いれず右へ振り回す。サイレントヴァインはそれを受け止め、足を払う。倒れたとこ ろを踏みつけられそうになるが、なんとか地面を転がって避ける。そして素早く立ち上が りながら後ろに飛ぶ。 「あまいあまい!」 ヴァルキリエに遅れることなくサイレントヴァインもついて飛ぶ。ヴァルキリエは素早く ロッドを横薙ぎにする。それに対してサイレントヴァインはそれを掴み、手元に手繰り寄 せようとする。……が、ヴァルキリエは間一髪ロッドを持っていた手を放した。 二体は、ほとんど距離のない、しかも自分の武器を取られた状態で着地する。 「返して欲しいか?」 「返してくれても一割はあげないけどね」 「これの一割なんていらないっての!」 そういって奪ったロッドを振りかぶり、勢いよく振り下ろしにかかる。ヴァルキリエは受 け止めようとして両アームをクロスさせる。しかしそれ振り下ろされる前にメインカメラ に映ったサイレントヴァインがなにか青白い尾を引きながら姿を消した。 「どこ!?」 ファシーは消えたサイレントヴァイン探す。向いた方向には大きな爆煙が立ちあがってお り、その中から倒れているサイレントヴァインの姿を見つけた。 「???」 一体何が起こったか全く理解できないファシー。多分倒れているシャロンも、意識があれ ばそう思っているに違いない。 サイレントヴァインと逆の方向にいる震雷は、ショルダーの物を後ろに倒すと、ライフル を持ち直し、ファシーに言った。 「あんたも少しは学習しなさいよ。子供じゃないんだから。  まあおかげで試作品の実践テストができたからいいけどね」 「し、試作品??」 まだどうなったかよくわからないファシー。 「そう。命中精度が非常に悪いからどうしようかと思ったけど、とりあえずは成功ね。  やっぱり何事もやってみないとわからないものね」 坦々と言うフェンリースだが、やっぱりまだ理解していないファシー。 「まだわからないの? あなたとアレが殴り合ってる途中に私が攻撃しただけよ」 アレ、とはもちろんサイレントヴァインのことだ。 「そう、なんだ……。おぉ、なるほどっ!」 やっと事を理解したファシー。 「それならそうと言ってくれたらいいのに」 「言わなかったのは悪かったけど、言うと避けられると思ったから」 「まあ結果があれだからいいけどね……」 この時になってファシーはやっと気がついた。 「命中精度が悪いっていったけど、それって私にも当たる可能性があったってこと?」 「全くその通りよ」 全く迷った様子もなく、あっさり言うフェンリース。むしろそれがなにか?といわんばか りである。 「…………」 いまさらだが、リースといっしょに行動するのは危険かも、と思うファシーだった。 「さてと。アレ、どう思う?」 そういって震雷は倒れているサイレントヴァインを指差す。搭乗者であるシャロンが気絶 したのか、全く動く様子を見せず、ヴァルキリエのロッドがそばに落ちている。取りに行 くといきなり襲い掛かられそうな気もする。族に言う『死んだふり』かもしれない。 「近づいていいという保証はないわね。まああの威力ならありえるかもしれないけど」 フェンリースはあの武器に絶対の自信を持っているようである。それもそのはず、彼女の 持っている物は、道具を含め、元々彼女の改造、もしくは自作物である。その中でも自信 作だと思うものを実践投入しているからである。グラジアではその腕を買われたのだが。 「でも、これで動かれたらどうしようかしら」 正直ファシーのウェポン操作能力もそんなに高くないし、絶対の自信をもつ武器でもダメ では打つ手はない。 それならもう一発撃てばいい、とファシーが言いそうだが、そうもいかない。 今の震雷の試作品、電磁粒子砲は普通は施設の電力を使うが、それをいろいろ改良してウ ェポンの電力を使用できるように改造している。当然使用する電力は相当なものでフルエ ネルギーの状態でも一発撃てば最低七割は消費する。 これまででエネルギーを使ってきた事もあり震雷の残エネルギーは底をつきかけていた。 これで襲われたらひとたまりもない。そのことはさすがにいくら敵が沈黙していそうだと 思っても、確たる確信がない状態でそういうことはさすがに口にできなかったが。 何よりネガティブな考えというものは大抵そうなってしまいそうだからだ。 「でもさ、いつまでもこうしてても仕方がないんじゃないの?」 ファシーの言うとおりである。いつ立ち上がるかもわからないものを待っていても何の進 展もない。 「ここは一つ、私が確かめてくる」 そういってファシーはヴァルキリエをサイレントヴァインの方に歩き出させようとする。 「ちょっと待って、ファシー」 それをフェンリースが呼び止める。 「何?」 「無駄かもしれないけど、こんなことをしてみる」 そういって震雷の足元にあるなんかの破片を掴み取る。 「どうするの?」 「こうするの」 そういって震雷は倒れているサイレントヴァインに向けてそれを投げつけた。 破片はゴン、と音を立ててサイレントヴァインに当たる。 「そんなので反応するわけないじゃない」 全くリースもヘンな冗談がスキね〜、といいながら肩を叩く。 「痛いぞ……」 『…………………………』 「あっと、いけね」 ちょっと失敗したという感じでサイレントヴァインはゆっくり起き上がる。 「アレ、一体何考えてんだろ……」 ファシーののんきさと違ってフェンリースの心の内は穏やかではなかった。フルエネルギ ーでの威力ほどではないとはいえ、小規模の施設なら余裕で吹き飛ばせるくらいである。 相手の機体に損傷が見られないところで先に気がつくべきだった。 「どうもはじめの感じたのがそいつだと思ったけど、お前の方だったとはな。  まあこれだけされて気が付かないオレもおかしいけどな」 そいつ、と言うのがヴァルキリエで、お前、と言うのが震雷である。 震雷はライフルを構えようとするがうまく動けない。 「でも、いい加減飽きてきた。もうどっちがどうでもいいや。  これ以上ここにいても得るものは何もないしな。  ……がその前に今までのお返しさせてもらっとこうかな」 突然海が騒ぎ出し、サイレントヴァインの右ナックルが青白く光り始める。 まるで海のエネルギーがサイレントヴァインのナックルに収縮しているようだった。 「吹き飛びやがれ!」 サイレントヴァインから放たれた青白いエネルギーの塊が、地面をけずり取りながら、迷 うことなく真っ直ぐ震雷に向かって放たれる。 「リース!」 エネルギーの塊はヴァルキリエの横を通り過ぎ、動きの鈍い震雷に直撃する。そして爆煙 と剥がれた震雷の装甲を撒き散らしながら大きく後ろに弾き飛ばされる。 まさに打った瞬間ホームランとわかる打球、のように震雷は飛びに飛んで海の中へと沈ん でいった。 「早く追いかけないと危ないぜ。  あれだけ装甲が剥げちゃいくら耐水加工してあってもコクピットに水が入り込むかもな」 「!!」 ファシーはモニタに映っているサイレントヴァインをキッとにらみつける。 「どうした? 行かないのか?」 「……かない」 「ん?」 「行かない!」 「薄情な奴だなぁ。仲間を見捨てるなんて」 ヴァルキリエはダンッと大地に足を踏みしめ、手にしたロッドをサイレントヴァインに向 けて構える。 「リースは…リースは私なんかよりずっと強いんだから! 自分で戻ってくる。  私がやることはリースが戻ってくるまでに絶対あなたを倒すこと!」 「………お前にそれができるか? 全くオレに手も足も出なかったお前が」 今までと違い、強い気迫を見せるファシーにシャロンは喜んだ。 「できるできないじゃなくて、やる!」 「(これだ、この感覚。全く俺たちと違う力だ。これを待ってたんだよ。   なんだよ、こいつ『ホンモノ』じゃねぇか。もっと正確な情報よこせってんだ)」 シャロンが始めてファシーを見たときから気になっていた。しかしすぐにその感覚は無く なってしまい、気のせいかと思った。 それもたった今確信に変わる。こいつが『ここに来たもう一つの目的の人物』だというこ とに。 ………よーするにシャロンは調子がいいだけなのである。 「そこまで言うならやってみりゃいい。お前の気が済むまでな!」 「いわれるまでも無いっての!!」 ヴァルキリエは低い体勢でサイレントヴァインに向かっていった。 ---同日夕方--- 「ところで一つ聞いていい、ファシー?」 「ん?」 ファシーは目の前に置かれているジャボンパフェを口に含んだまま目の前に座っているフ ェンリースを見る。 「なに?」 「なに、じゃないわよ。あんた一体何したのよ? いい加減教えなさいよ。  あのシャロンっていうのが楽しそうに帰っていったけど、何があったか」 あの後、海に落ちた震雷がクレイ達の協力もあって何とか陸に上がったときには、サイレ ントヴァインがヴァルキリエを押さえ込んでいるところだった。 何かを言いあっていたようだったが、その時震雷のそのほとんどが破損していて聞き取る ことができなかった。 ただ絶好な体勢にもかかわらず、なぜかサイレントヴァインは何もせず、レードの海軍は 引き返していった。 「ん〜、いろいろあったわけよ。まあいいんじゃない?  おかげでまた当主さんがあってくれるって言うんだからさ」 そう、レードがミナレインから出て行った後、ファシーもフェンリースも自分達の乗って きた船に戻ると、ファシー、フェンリース、ミーク、クレイ、レイに会いたいといってき たのである。 始めはメソポタミアに呼ぶことになっていたのだが、ファシーがついでに何か食べにあの 喫茶店に行きたいといったのでそうなったようである。もちろんフェンリースのおごりで。 とはいえミークはこの場にはいなく、どこぞのお金持ちの家にお呼ばれになったらしい。 「ね、シフォンもそう思うよね〜」 ファシーの隣には、コクコクと首を縦に振る、ファシーと同じくジャボンパフェを食べて るシフォンがいた。ミナレインの使いの神官が来るのと同時に町の外に突然黄色いアニマ ル型ウェポンが姿をあらわした。始めは新たな敵かと思い、攻撃を仕掛けようとしたらハ ッチが開きシフォンの姿があったというわけである。 どうやらファシー達がシフォンと分かれた後、隠されていたウェポンをどうやったのかし らないが、シフォンが動かしてきたようである。 「でもシフォンをここにつれて来てよかったの?  少なくともミナレインとなんか関わりがあるみたいだけど……」 フェンリースは今回呼ばれたのは間違いなくここに来た目的、レードに攻め入る前の協力 に関することだと思っている。 事はどうであれミランドルがミナレインを護ったということに変わりはなく、『護』を基 本思想とするミナレインにとっては、いくら戦争の協力を願いに来たとしても無下にはで きない。レードの撃退というのはそれについて最も効果的だったはずである。 ただ、シフォンがファシー達、すなわちミランドル側にいるということはプラスにならな くてもマイナスにはなり得るのでないか、と危惧している。 「一緒に来たいって言うんだからいいじゃない。  シフォンも知らない人たちより知ってる私たちといたほうが安心できるだろうしね」 当のシフォンは一心不乱にジャボンパフェを食べていて聞いてない。 ちなみにジャボンパフェのジャボンとはミナレイン近辺で取れる小さな赤い実で、特産と いうほどではないが限定物であることに変わりはない。間違ってもジャンボパフェではな い。ジャンボにした場合の名前は、ジャンボジャボンパフェである。ジャンボにすると料 金は1.5倍、量は2.0倍になる。 「にしても驚きよね。シフォンがあんなもの持ってるなんて」 「あれが言われてたプロトタイプウェポンなの?」 フェンリースはクレイに言葉を投げかける。 「そうなのかな。実際は僕もあんな型は見たこと無いけどね」 元々ウェポンは二足歩行可能全体系対応搭乗兵器をいう…はずなのだがシフォンが載って きたウェポンは四足歩行のアニマル型である。こんな型は存在していないはずなので便宜 上クレイがアニマル型と言っているにすぎないが。ちなみにウェポンが二足なのはあらゆ る場面で利用がしやすいからだ(全体系対応)。 「呼ばれてなかったら私が直接調べようかと思ったのに……まあ時間はあるからいいけど」 フェンリースにとって政治的なことより研究実験の方がよほど大事らしい。 「あ、来たみたいよ」 ファシーはドアの外に二人の姿を見つけた。カランカランと音を立てながらドアが開く。 「こっちこっち〜」 ファシーはその人物に手を振る。 「お、そこにおったか」 その中の一人のタンバを先頭にしてファシー達の方に近づいてきた。フィリアは小さく会 釈をする。相変わらず白いローブを着ているが、今度はお付きの兵士の姿は無い。 「久しぶりじゃの」 「三日も経ってないじゃない」 「小さいこと気にするな。それよりそっちの子は? 前は見んかったが」 まさか先ほどやってきた四足ウェポンの搭乗者だとは思わないだろう。 「先日はどうも……」 今度はシフォンに向けて小さく会釈をする。シフォンは食べていたジャボンパフェを食べ るのをやめ、唸りながらフィリアをにらみつける。それをファシーが手で止める。何のこ とだか一切わからないタンバは首を傾げるだけだった。 「よくわからんが……。で、急に呼び出して悪かったのぅ。  うちの頭がどうしても会いたいと言って聞かんじゃ」 うちの頭、というとどこかの族な感じがするが、それを気にするのはだれもいなかった。 フィリアがタンバの前にスッとでてくる。 「この度はまことにありがとうございました。  まさかあのようなことが今起こるとは思わず、対応が遅れ、その為あなた方に手を貸し  ていただくようになりました」 「そういうどこかの政治家みたいな事は言わなくてもいいわよ。要点を言ってくれない?」 「ファシー、何怒ってるの?」 どうやらファシーはフィリアがシフォンにしたことを根に持っているようで、妙に威圧的 な態度をとる。 「あの時の事は申し訳ありません。ただこちらにも理由がありましたので……」 「理由があってもゆる……」 「ファシー!」 「何よ!」 「それは要点から外れた話でしょ。先にそっちの話を聞こうじゃない」 「………」 言いたいことをグッと飲み込むファシー。事情を全く知らないタンバとレイ。特にレイは どうしていいやらおろおろするばかりである。自分はなぜ呼ばれたかもわかってないが。 「この子、ちょっと感情的になりやすみたいでね。子供ですから気にしないで」 ファシーはサイレントヴァインに子供はパフェ食べてろ、と自分がいった事を思い出した。 「いえ……。早急で申し訳ありませんが用件に入らせていただきます」 用件というのはほぼ予想していたとおりのことだった。ただミナレインも多少の兵を戦力 に回すといわれたのは以外だったが。予想より一日ほど長い滞在になったが、無事に任務 は終わらせることはできた。と思っている者はほとんどいなかったが……。 日が沈む少し前、ミナレインの船はファシー達を乗せて戻っていった。オプションとして シフォンとシフォンの四足ウェポン、そしてレイも一緒である。ただ別オプションでタン バとハレまでついて来るようになったが。当然帰りの船の中はパーティ化していたのは言 うまでもない。 ミランドルに帰ればもう止まることはない、と言うことを忘れて………。