_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 一章 十六話 久しぶりだよ、全員集合 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 今日もまた日が沈む………。 昨日は雲に覆われて日は見えなかったけど、雲の向こうでは今日と…いや日が 生まれた時から変わらない輝きを放っているんだろうな。 はっ、オレは何年生きてこの景色を見てるんだ。………ってまだ三回目かな。 (ルシェイフ様!) ん? なんだ、お前か。 (お前か、じゃないですよ。一体何をしてたんですか?) 何ってただ見てただけだ。 (何言ってんだか……) 酷い言い方。……あれ見てどう思う? (あれって夕日ですか? 赤いですねぇ) あのな……。お前はなぜ生きているか考えたことあるか? (いえ、特に考えたことないですけど) オレも実際今まで考えたことなかったけどな。考える余裕もなかったしな。 今はこう思うんだ。次の日もまたこんな夕日が見たいためにこの一日を生きて るんだってな。 (そんなもんですか?) あのなぁ、オレの純粋な心がわからないのか? (はいはい、わかりますよ。ところで言い忘れてましたけど時間ないですよ?) あ〜? 今日だったっけ? (はい。思いっきり今日です) なんでそれを早く言わないんだよ! (どんどん話を長くしていたのルシェイフ様でしょ) そういうのは話を切ってもいいんだよ! (んな無茶なことできますか!) なんだと!? (……………アホらし。先行ってますからちゃんと来てくださいよ) わかったよ。先行っててくれ。 ……あれからもう一年経つのか。元々いたオレ達が下へ来て、こう日を拝むの が面倒になってからも一年になるんだな。ヴァルキリエの奴め………。 ふぅ、過ぎたことを思っても仕方がないか………。 ……行こう、アベルとカインに会いに。 「セイガード、そろそろお前が言った海域に出るぞ。おいセイガード」 レイの後ろでにいるケインは、レイの声に反応して頭を上げる。 「悪い。少し寝てた」 「あのな………」 ケインが見ていた夢。それはただの夢であったが、なにかとても懐かしかった。 しかしたかが夢、と思い、その思いを捨てた。 「どうだ? 何か船影はないか?」 「後ろのストーカー以外にねぇよ。……と、言いたいところだが何か前にいる」 ケインは座席の後ろからセンサーを覗き込む。 センサーには確かにケイン達の乗る潜水艦の方に向かって来る物があった。 「方向と速度から見てミランドルの船の可能性が高いな。  シーギル、あの船に救難信号だしてくれ」 「正気か?」 「いたって正気だ。この時間に走る一般船なんて普通ない。  ちょっと席を替わってくれ」 そういってレイを座席から追い出して自分が座る。 ケインは前の船に向けて何かを打つ。 ---船のブリッジ--- 「あのー、前にいる潜水艦から救難信号出てますけど。ついでにこれも」 ケイン達の潜水艦からきた信号を取ったクルーは、船長と思われる人物に同時 に受け取ったメッセージを渡す。それを読んだ船長はあからさまに嫌な顔をす る。 「あの馬鹿、軍用潜水艦で何してんだか…。  言ってやれ。乗りたきゃ勝手に自力で乗れ。こっちは手助けしない、とな」 「いいんですか?」 「かまやしねぇよ。助かりたかったら自分の力で何とかするもんだ。  お、気が向いたら速度上げても構わんぞ」 「は、はぁ……」 艦長は悪戯する子供のような顔で目線を前に向けた。 ---潜水艦--- 送られてきたメッセージを見てケインは嫌な顔をした。 ほとんど予想通りだったが。 「断られたか?」 後ろからレイが覗き込む。 「相手は協力的だ。乗るのも自由らしい…が手伝いなしだとさ」 「なかなか難しい注文だな」 「……シーギル、お前なら一人担いでもあの船に飛び乗ることが出来るな?」 「評価してくれるのはうれしいが、風や相対速度を考えるとかなり難しいぞ」 「何とかしろ。でなけりゃ助かる前に捕まって……アレだ」 そういって首を切るまねをするケイン。 「ま、オレはいざとなれば大丈夫だけどな」 レイはもともとレードの人間だから、その友好関係にあるラ=クルスに多少は 顔が利く。ただ潜入した目的を聞かれると困るが。 「オレとお前だけならとっとと海に飛び込んでいる。  ただこっちにはティアリスさんがいるんだ。  危険なことはなるべくしたくない」 今からやろうと思っていることも十分危険だろ、とレイは思ったが口にはしな かった。 「私ですか? 私なら気にしなくてもいいですよ」 「そんなわけにもいかない。万が一何か合ったらリースに殺されるしな」 レイはちらり、とティアリスを見る。 「……仕方がない、やってやるさ。で、何か鋭利な物ないか?」 「何に使うんだ?」 「届かなかったとき、それを突き刺して掴まれるんだが」 「……どこか壊せば使えるものが見つかるだろ。どうせこれは爆破させるんだ」 「なるほど」 ケインが言うや否やレイは内壁を強引に引き剥がし、鉄パイプを強引に引き抜 く。 「こっちはともかく、お前は大丈夫なのか?  仲間を逃すため、船と一緒に自害、とかかっこいいぞ」 「馬鹿言うな。心配しなくても何とかするさ。  それよりもう迫ってきている。通り過ぎる前に乗り込め。一回きりだぞ」 ケインは操作して潜水艦を浮上させる。 「わかった。死ぬな、とは言わん。どうせ死なんだろうしな」 「オレも死ぬ気は毛頭ない。そっちこそ抜かるなよ」 「誰に言ってんだ。行くぞ」 そういってレイはハッチを開ける。夜の風は涼しかった、と思うわけない。 水上に出て速度は落ちるとはいえ、吹き付ける風は非常に強い。 しかもその感じをも吹き飛ばす衝撃がレイを襲った。 「っておい! なんだあの船は!」 レイは慌てた様子でケインに叫ぶ。 その呼びかけに答えてケインはハッチから外を見る。 「………でかいな」 「でかいな、じゃねぇだろ!」 ケイン達の目の前にある船はとてつもなく大きかった。甲板まで50メートルは ある。この場合、船というより巨大戦艦といったほうが正しい。 「いくらなんでもあんな高いところまで昇れないぞ!」 「あれは…ミナレインの新造艦エクスカリバーじゃないか。  あんなもの持ち出してあいつは何する気なんだ、一体」 「エクスカリバー。あれが…か」 新造艦エクスカリバーはミナレインが二週間前に作ったばかりの戦艦である。 ミランドルのウェポン技術とミナレインの戦艦技術の粋を集めたもので、名目 上自己防衛のためだが、実際はレードへの侵攻を考えて三年ほど前から作られ 初めていた…はずなのだが、なぜここにそれがあるのかはケインにはわからな かった。 「まあ気にするな。急がないと通り過ぎるぞ?」 さらっと言うケインに対して、レイはそうではなかった。 「あれは一人でも難しいぞ……」 「気弱になってる場合か。それともこれと一緒に吹き飛ぶか?」 「んなわけあるか。チェキ、飛ばされないようにしっかり掴まっとけ」 風をほとんど気にせずレイは外へ出る。 「さあ、あんたも飛ばされないようにでてくるんだ」 ティアリスはレイに手を引かれながら外へ出る。 出てくるとレイはそのままティアリスを肩に担ぐ。 「飛び上がるとき、腹に強い衝撃が来る。気を抜くと内臓破裂起こすぞ」 「わかりました」 レイはハッチから中を覗き込む。 「じゃあ先に行っている。迷子になるなよ」 「生憎方向感覚はいい方でな」 レイはハッチを閉じる。もうすぐ目の前を横切ろうとしていた。 「行くぞ、腹に力を込めてろ」 「OKです」 「はぁっ!」 ティアリスの返事と同時にレイは全力で飛び上がる。ティアリスは腹に強い衝 撃を感じ、それと同時に浮き上がるのを感じた。今までいた潜水艦はもう目の 前にはなかった。 「なんつーか全然距離が足りねぇ!」 勢いが完全にとまると、レイは持っていた鉄パイプを思いっきり船の舷側に突 き刺す。どうやら感触から内部に損傷を与えてはいないようだった。 「振り落とされないようにしっかり掴まってろよ」 突き刺した鉄パイプを軸に、レイは大車輪のように回転し始める。程好く速度 が付くと、手を離しさらに上昇する。しかしそれでもだんだんと下へ流れる景 色がゆっくりとなる。まだ甲板に数メートルはあった。 「やっばい。届かない」 レイは手を伸ばすも、数メートルある甲板にはさすがに手が届くはずもない。 それでも何もせず落ちるわけにも行かず、気合を入れて舷側に張り付く。 「ぐぬぬぬ……」 運良く貼り付けたものの、必死に舷側に張り付いていても、風で飛ばされそう になるのを我慢するので精一杯だった。この状態で這い上がるなんてことはで きそうにもなかった。むしろしがみついているのだけでも賞賛に値する。風が 強い夜中に、二人と一匹は木にしがみついているコアラのようにしがみついて いる。当人たちにとってはそんなほほえましい状態でもないが。 「チェキ、ティアリス、すまん。もう耐えられそうにない……」 ずるずると落ちていくレイ達。次の瞬間、努力空しくレイの手が舷側からはな れてしまう。もう一度離れてしまったら後は風で引き離されるだけである。 望みむなしく海中へと落ちていく二人と一匹。彼らの人生やいかに! とナレーションが入ってきそうなときだった。レイは細いものが目の前にある のに気がついた。いつの間に、と思うまえに、藁にもすがりたかったレイは迷 わず、それが何なのかわからないままそれを掴んだ。どうやらそれは藁よりも 丈夫だったらしく、落下はせずに宙にぶら下がるだけで済んだ。とりあえず海 に落ちずに済んでほっとしている二人と一匹の耳に、大丈夫ですか〜〜?、と いう声が上のほうから聞こえてきた。声のする方を見ると何人かの姿が見えた。 どうやら腕に巻きついているのは海に落ちた人を救助するときに使われるよう な丈夫な紐のようで、それが自分たちの命を救ったというのは、その時になっ て初めてわかった。 ---エクスカリバー内--- 「本当にどうもありがとうございました」 ティアリスは深々と頭を下げた。 「いえいえ、気にしなくてもいいですよ」 ロープを下ろした人たちに何度も礼をするティアリス。 「そんなに頭下げられてもちょっと困るかも。艦長にも言われましたし」 「あ、私としたことが艦長さんのことを忘れてしまうなんて……。  あの、どなたが艦長さんですか?」 「さぁ、どこだろ。さっき釣りに行くとか言ってたから外かな?」 「もう帰ってきたぞ」 振り向くとそこには釣竿を持った中年の男が立っていた。 「早かったですね。五分もしないで何か釣れましたか?」 「釣れた事は釣れたが、がっかりするくらい雑魚だったよ。まさか海にこんな のがいるとは思ってもみないような雑魚中の雑魚がな。へぼさが天然記念物並 だったからつれて来た。腹の足しになればいいがそれも無駄だろうなぁ」 「悪かったな。雑魚中の雑魚で」 男の後ろにいたのは海水でずぶぬれになったケインだった。不機嫌な顔をして いるがそれは気のせいではないだろう。 「ケインさん、無事だったんですね」 「どこぞの暇で餌も針もつけないで釣りをやっているオヤジのおかげでな……」 「餌つきのほうがよかったか?」 「そんなものはこっちから願い下げだ」 とりあえず体がぬれたままだとまずいので、ケインの服を着替えることで一息 つくことにした。 「ところでケイン。この人はお前の知り合いか?」 ティアリスの方を向いて男はケインに言う。 「カリスも初めてか。聞いて驚けよ。  この人はリースの母親のティアリスさんだ」 「あいつに母親がいたのか!」 カリスは丁寧に聞いて驚いた。別にふざけているわけではなく、本気で驚いて いるのだが、母親を目の前にしてすごいことを言う、釣竿を持った餌も針もつ けないで釣りをしていた中年オヤジ、カリス。なぜカリスがこの船に乗ってい るのかはケインも知らないが。 「リースは橋の下に捨てられてのを拾ってきたから、正確には母親ではないん  ですよ」 カリスの言葉を全く気にしている様子もなく、さらにひどいことを平然と笑顔 で言っているティアリス。 「……ほら、そっくりだろ」 「……だな」 カリスも彼女の台詞で納得したようだった。 「どうも、挨拶が送れて申し訳ありません。一応リースの母親をしているティ アリスです。この度は命を救っていただいて感謝のしようもありません」 一応、とつける辺りがティアリスらしい。 「まあ気にしなくてもいいさ。そっちこそよく速度の緩めない戦艦に登ってき  たもんだ」 昇ってきたのはほとんどがレイのおかげなのだが、当のレイは艦内に逃げ出し たチェキを追ってこの場にはいない。 「ところでケイン。確か二人と一匹が来るとか言ってたが残りはどうした?」 「あ、一人はその一匹を探して艦内をうろついてると思います」 「………なかなか個性的な奴らを連れてきたな、ケイン」 「オレにいうなよ……」 「さよけ。さて、詳しいことは後にして先にやることすませるか」 先にやること。それをカリスから聞いて、ケインとティアリスは驚いた。現在 ラ=クルスはレードと唯一友好関係にある国である。レード侵攻時に各国はほ ぼ全ての戦力を投じる。そのとき無防備となったところをラ=クルスから襲わ れるのを恐れたために打っておく手だった。ラ=クルスは宗教国として存在し ているが、ミナレインと違って武力行使も十分使ってくる可能性がある。それ を防ぐために今回こうして出向いているというわけなのである。 ちなみにエクスカリバーで来たのはただ単に一度使ってみたかったからという 理由でらしい。 ---ラ=クルス--- 「そちらの言い分もわかりました。その提案、受け入れましょう」 「早い決断、まことに痛み入る」 という具合に、拍子抜けするほどあっさりとラ=クルスはミランドルの提案を 飲んでくれた。今レードが置かれている状態を考えると当然だが、あっさりし すぎなくらいだとケインは感じた。 ミランドル岐路の途中、ケインはたずねずにはいられなかった。 「奴ら、二言返事で飲んだな。飲むにしても決断が早すぎじゃないか?」 「どうしてそう思う?」 「別に。提案を飲まない、と思ったわけじゃない。しないほうがおかしい。  だが、こんなにあっさり承諾するくらいなら、なぜもっと早くレードと手を 切らなかったのかが気になってな。今現在、誰が見てもレードと手を結んでい るのはまずいとわかっているはずだが」 「事情があったんじゃないのか?  それでもレードと関わっていないといけなかった事情がな」 事情、その言葉からケインの脳裏に、以前手に入れたあのチップのことがすぐ 思い浮かんだ。 (……まさか、あのチップがレードにも行ってるとしたら) 「どうした? いつも以上に暗い顔をして」 「暗い顔は余計だ。それよりカリス、戻ったら言いたいことがある」 「苦情か?」 「苦情なら山ほどあるが、お前に苦情言っても無意味だろ。重要なことだ」 「ふ〜ん。その顔からすると大事なことみたいだな」 「だから重要なことといっただろうが! 人の話聞いてないのかお前は!」 「あ〜、はいはい。聞いてるぞ〜」 「………」 こんな不毛な言い合いはごめんだ、とばかりにケインは何も言わなくなった。 「ふぅ、てこずらせやがって……」 場にそぐわない声でやってきたのは、チェキを抱えて汗だくになったレイだっ た。 「シーギルお前、今まで探し回ってたのか?」 「悪かったな。こいつは見かけによらずタフでな」 「こいつが残りの一人と一匹か?」 「ああ、偶然出会った」 「……自己紹介とかしたほうがいいか?」 「別にいいが、カリス以外にはしないことをお勧めする」 「どういうことだ?」 「オレはレイ・シーギル。レード首都防衛、エピゴノスの一員だ。  訳あって同乗させてもらっている」 「ほぅ、なかなか正直な奴じゃないか」 正直すぎると思うのだが。 「まあこの馬鹿が連れてきた奴だ。悪い奴じゃないだろう」 信用されているのか、けなされているのか微妙な感じだった。 「で、どこまで乗っておく気だ?  このままだとこの船はミランドルまで行くぞ。どうする?」 「途中で止まっても仕方がない。ミランドルについたら後は歩いて帰るさ」 「………全く度胸が座ってんのか、馬鹿なのかわからん奴だ。  まあいい。ついたら車一台やるよ。それで帰るといい」 「悪いな」 「別に悪かねぇよ。ゆっくりエクスカリバーを堪能していってくれ」 「そうさせてもらう」 そういってレイは部屋を出て行った。 「お前は変わった奴らを引き付けるフェロモンでも出してるのか?」 小笑い気味に言うカリス。 「お前も引き付けられて一人だろう」 それに引き換え、ムスっとした顔で答えるケイン。 「そう怒るな。別に深い意味があっていったわけじゃない」 それはそれで気になる言い方である。 「とにかくお前も早く部屋に戻れ。帰ったらリースやファシーにめちゃくちゃ  言われるんだ。少しでも体、休めとけ」 「……そうさせてもらう」 あの二人なら本当にやりかねないと思ったケインは部屋を出て行った。 一人部屋に残ったカリス。その顔は先ほどと違って真剣だった。 (エピゴノスが単独でラ=クルスに潜入か。思い切った事を………) ちなみにグレンダムはあっさり引き返していった。 確たる証拠もなく船を調べることができなかったためである。 その間もレイはチェキを追いかけていたに違いないが。 ---翌日早朝ミランドル--- 朝、まだ日が昇ったばかりの時間に、ドアをたたく音が部屋の中を駆け巡った。 まだ十分に睡眠が取れていないファシーには、その音は雷よりもうるさかった。 「いったいだれよぅ。まぁだこんなじかんじゃないの………」 棚の上にある時計はまだ朝五時を指していた。 「ファシーさん、起きてよ。ビック…じゃないからスモールニュース、かな?  とにかくドア開けて〜」 どうやらドアをたたいているのはミークのようだ。 「ぁぃぁぃ……」 ファシーはめんどくさそうに、ベッドから降りると、目を瞑ったままドアまで 来て開ける。 「おはよっ」 元気よく、笑顔で出迎えるミーク。 「……」 それに引き換え立ったまま寝ているように見えるファシー。 「おはょぅ……」 もう言葉の最後が聞こえていない。 「また夜更かししたの?  もう少ししっかりしないとシフォンが間違ったこと覚えるよ?」 ミークの傍らにはちょこん、とシフォンもいた。シフォンは突っ立ってるファ シーの服をちょこちょこと引っ張っているが、本人は全く気がついていない。 「とにかくケインが帰ってきたんだって。迎えに行くよ〜」 「………」 思考五秒間停止中。そして結論。 「……誰だっけ、ケインって」 寝起きはなかなか頭が働かないというが、これは働かなすぎというものである。 「誰、と言われても……」 「………あぁ、ケインね。思い出した」 ひどい言われようである。 「で、ケインがどうしたのぉ?」 「帰ってきたんだよ。カリスさんと一緒に」 「……カリスさんと一緒ぉ? ……二人ってそういう関係だったの?」 「だめだこりゃ。強引に連れて行こ………。  ミナレインについたときは一番早起きだったのに……」 ミークとシフォンは気合入れてファシーを引っ張っていった。 ---ミランドル北海岸--- 「やっとついた〜〜」 ファシーから手を離して腰をつくミーク。予定よりずいぶん遅くなったが、ケ イン達の乗る船はまだ来ていないようだった。 「何やってるの?」 「何やってるの、じゃないよ。呼んでも起きないから引っ張ってきたんだよ」 「それはまあお疲れさん」 「ところでまだ着てないの?」 座ったままミークはクレイに聞く。 「1時間前に連絡きてるからもう少ししたら来ると思うだけど。  まあ気長に待とうよ」 そしてさらに1時間、気長に待った。おかげで船はきた。 ちなみにその間にファシーは目が覚めた。だけど今度はシフォンとミークが寝 てた。今度はミークがファシーに起こされた。しかも起こされるときに台詞が 『お寝坊さんね』とか言われたので非常にむかついたミークだった。 一番初めに出てきたのはケインだった。そのケインは一番会いたくない人物と 対面する。言うまでもないがファシーとフェンリースである。 「久しぶり、ケイン。生きてたのね」(フェンリース) 「ありゃ、ケイン死んでたんじゃなかったの?」(ファシー) 「お前らは俺に死んでほしかったのか?」 何か言われると思っていたが、そこまで露骨に言われるとは思っていなかった。 「冗談よ、冗談」 二人そろって同じ台詞を同時に口にする。 「まあ、そんなことはどうでもいい。リース、お前に土産をやろう」 「お土産?」 「ああ、取って置きの土産だ」 本来ならこのまま気が沈む思いになるところだが、ケインには切り札があった。 それがこのお土産である。 「やほー、リース。元気だった?」 明るくさわやかに元気よく出てきたのは紛れもなくティアリスだった。 「か、母様!?」 予想だにしない人物の登場にフェンリースは戸惑いを隠せなかった。 「その通り、母様ですよ」 「ちょ、ちょっとケイン。よりによってなんて物を持ってきたのよ!」 「こんなものとは酷い言葉ねぇ」 「お前が喜ぶだろうと思ってせっかくついてきてもらったんだがなぁ」 ケインのささやかな反撃。表情は変わらないが心の中では、してやったり、と いう思い出いっぱいである。 「そうですよ。  ケインさんはリースを想って私に言うから来たのにその言い方は……」 「そうだ。リースのためにわざわざ忙しい中を来てもらったんだ。  もっとうれしそうな顔をしろよ?」 <フェンリースのケイン憎悪度が5上がった> こんな感情がフェンリースの中を駆け巡る。 「ちょっとケインこっちきて」 リースは少し離れたところでケインを呼ぶ。 (ケイン、一体どういうことよ) (そう睨むな。こっちも色々事情があってな。同行という形になっただけだ。  まあリースに会いたい、と言われたのも確かだ) (全く……。金輪際こんな悪趣味なことやめてよね) 「悪趣味で悪かったわね〜」 遠くで小声で会話しているというのに会話の内容がばれてるらしい。 「耳、いいんだな」 「補聴器がつけてあるのよ」 フェンリースはそっぽをむいて言葉を吐く。 「リース、覚えてなさいよ〜」 顔は笑っているが、本心はそうではないらしい。 その感覚がにじみ出ているのがわかる。 「というわけで数日の間お世話になりますが、  リース共々よろしくお願いしますね」 これは数日の間、リースにとって重苦しく、ケインにとってはリースに振り回 されなくても済む、ということを示していた。ただ、これからの数日が全ての 人にとって大変な時期であるのを自覚しているのはほんの少しだけだった。