_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 二章 一話 少しの間、休憩 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「ふ〜、疲れた疲れた。  ホントの家じゃないとはいえ、なれた部屋に戻ってくると安心するなぁ」 シャロンは肩をぐるぐるまわしながらドアの前まで来る。 シャロンが部屋の前まで来ると、ドア自動で開く。 部屋に入ったシャロンは、何度も出入りを繰り返した部屋を、目を瞑ったまま うろつき、ますはゆっくりと風呂にでも入ろうかと考えてた。 「おかえり〜。ご飯にする? それともお風呂?」 「ん〜、やっぱ風呂だな」 「ふふふ〜、そう思ってもう沸かしてあるよ〜」 「さんきゅ〜」 差し出されたタオルを無意識に受け取るシャロン。 しかしバスルームに入る前にそれに気づき、慌ててキッチンへ行く。 「ってなんでてめぇがオレの部屋にいるんだよ!」 「えぇ!? せっかく待ってたのにそれはないよぅ」 エプロンをつけて、トントンと包丁を見事なまでに操っていたラリサは大げさ に泣き崩れる。 「ふざけんな。人の部屋に勝手に入って勝手なことしてんじゃネェ」 「なんでぇ? シャロンちゃんのためにがんばって料理覚えたんだよぉ」 「それが勝手だって言ってんだ! つーか何見て覚えたんだ!」 包丁さばきは上手いが、あまり見慣れぬ材料が並んでいる。 「俗世から離れて静かになりてぇってのに、てめぇみたいなうるさい奴が近く  にいられたら困るんだよっ! さあ、出ろ!」 「なーんーでーだーよー!」 首根っこを掴んで外まで引っ張っていくシャロンに、それを必死に我慢するラ リサ。 「なんか今日のシャロンちゃん変だよぉ。  いつもはこんなに強引じゃないのにぃ。さてはなにかあったなぁ〜?」 「何もなくても追い出すから心配するな」 「いや、今日のはいつもより強引だぁ…ぞっと!」 ラリサはするどく回転して、襟を掴んでいるシャロンの手を強引に引き離す。 その時ラリサの服はちぎれるがラリサは全く気にしていない。 「シャロンちゃんがゆっくりなりたいときって、強い人にでも会ってよろこん  でる時しかないのを思い出したよ。ブジンとか言ってたっけ?」 ラリサは口に手を当てて、プププッ、といたずらっぽく笑う。 当然図星なので何も言い返せないシャロン。苛立ちだけが沸き立つ。 「なんて人ぉ?」 ラリサは目を輝かせてシャロンの顔を覗き込む。 「聞いてどうすんだよ」 「決まってるでしょ」 ラリサの雰囲気が一瞬に冷たく変化するのをシャロンは感じた。 「殺すんだよっ」 口は笑っていたが、輝かせていた目は冷酷とも言える目に変わっていた。 人を、足元を歩く蟻を踏み潰すような感じで殺せる目だった。 「…………」 「だってシャロンちゃんはラリサだけの物なんだもん。誰にも渡さないよぉ」 さすがのシャロンも背筋が凍る。 「ねっ」 そしてまたいつものラリサに戻ると、ラリサは自分からドアの前にいった。 「だから今度それに会いに行くとき一緒に連れてってね。  それまでいい子にしてるから」 ラリサは大きく手を振りながらドアの向こう側へ行った。 キッチンでは材料は不明だが、暖かい食事が作られていて、風呂も熱い湯が沸 いているにも関わらずシャロンの体温は下がっていた。 「相変わらず独占欲の激しい奴だな」 独り言をつぶやくとシャロンはバスルームへと消えていった。 ---ミランドル城内--- まったくなんで私があんな重々しいところで延々と相づちうってないといけな いのよ。しかも周りにはオヤジばっかだりだし、変な目で見るし、知らない言 葉がわんさか出てきて頭真っ白になるし。私ほとんど関係ないじゃない。 あ〜、いらいらする〜。これも全てケインがいない所為だ。 そうよ、ホントはケインが呼ばれてたんだし。あんなところですごしてたら若 くしてハゲたら、表を歩けないわ。 この恨み、晴らさでおくべきか〜。と思ったら前方にケイン発見っ。 「おーい、ケイン〜」 自分の名前を呼ばれたケインは、声の主のする方を向く。 と同時に顔に硬いものが当たる。 「やあ、元気?」 「お前は人を呼び止めるときは物を投げるのか?」 顔を抑えながら転がっている顔に当たった硬いものを律儀に通路の側におく。 「バケツくらいよけなきゃ。元軍人でしょ?」 「……で、何のようだ」 少しムッとしながらケインはファシーに尋ねる。 別に『元軍人』と言われた事にムッときたわけでもなく、純粋にぶつけられた ことにムッときているだけである。 「何のようだ、じゃないでしょーが!」 一変して態度が豹変するファシー。 「あんたがいない所為で私がどんな目にあったことかっ!」 こぶしを握り締めて力説するファシー。その動きをじっと黙って見るケイン。 ファシーの口から出てくる言葉には、強い感情が込められていて、次から次へ と止まることなくケインの耳に入ってくる。 そして最後まで言いたいことを言い終えると、ケインを睨みつける。 「で、どうよ!?」 「……それは災難だったな」 その半分以上が耳に入ってすぐ出てき、何がいいたいのかはほとんどわからな かった。 「だ〜れもそんな言葉ききたくないっちゅぅんぢゃぁ!」 ファシーはどこからともなく取り出した巨大なハリセンでケインの頭を思いっ きり叩く。そしてそのままの怒りを維持しながら通路を歩いていった。 巨大なハリセンを担いで歩くその様は、足柄山の金太郎を彷彿させた。 「何がしたかったんだ、あいつは」 顔と頭の痛みは残ったが、おかげで今するべきことを思い出したため、気にせ ずその場を離れた。 ちなみにファシーの歩く側の部屋から偶然出てきた兵士や、すれ違う兵士達は、 ファシーの怒りの吐け口としてハリセン攻撃を食らって気絶して医務室に運ば れたそうな。 ---射撃室--- ケインはフェンリースを探して射撃室へと入った。 射撃室には見慣れた道具や武器が置いていて、懐かしさを思い出させた。 そしてその広い空間には、入った直後からいくつもの銃声が響き渡っている。 銃を撃っているのはフェンリースだった。ケインの目の先にあるフェンリース の銃から放たれた弾は、寸分の狂いもなく目標を貫く。次から次へと続く正確 な射撃は機械のように見えた。 「リース、ここだったか」 人の気配を感じたフェンリースは、射撃を止める。 「何か用?」 フェンリースは相変わらず無愛想に返事をする。 「あるから探してたんだよ。  しかしお前がこういうところに篭るのは久しぶりだな」 最近のフェンリースはこういうところより、研究室に篭っている事が多かった。 「用がないのなら出て行ってくれない?」 ケインはフェンリースの今の気分がどういうものかなんとなく分かっていた。 わかっているだけにケインはそれ以上何も言わず、用件だけ伝える。 「用がある、といっただろう。お前はこれを見たことないか?」 そういってケインはラ=クルスで見つけたチップをフェンリースに見せた。 フェンリースは特に気にした様子もなく、ただのICチップでしょ、と答えた。 「ただのICチップならお前に見せると思うか?  ここの連中よりお前の方が詳しそうだし、お前も興味があると思ってな」 そういってケインはチップをフェンリースに渡す。フェンリースはチップをじ っくりと見る。 「ふーん、これ、どこで手にいれたの?」 チップから目を離さずにケインに尋ねる。 「ラ=クルスだ。どうだ、興味湧いてきただろう」 「……全く、アレからラ=クルスいったと思えばこんなことしてたのね」 別に好き好んでやった事ではない。偶然だ、とケインは応えた。 「で、それがどういうものかわかるか?」 「見ただけじゃわからないわ。解析してみない事にはね。さ、行くわよ」 そういうと突然フェンリースは銃を置き、颯爽と歩き出した。 「どこにだ?」 「ここの研究室。ちょっと貸してもらうのよ」 嘘だ、とケインは思った。 フェンリースの事だから借りるというより奪うに違いないと。 ---ミランドル研究室--- 「というわけでちょっと借りるわよ」 案の定座っていた研究員を追い出して自分のものとするリース。 勝手気ままといえば悪い言い方だが、いい言い方をすると自分の欲望に正直な のである。 どっちにしろあまりいい言い方ではないかもしれない。 席を借りた…もとい奪ったフェンリースは早速チップを解析し始める。 ケインには何をしているのかよくわからないが、じっと画面を見ていた。 「こっちです、室長!」 とまあそういうことを突然やってきてしているものだから、こういうことが起 こっても不思議ではなかったりする。 「全くうちの研究室を勝手に使うなんてどんな顔してるか見ものだわ」 室長、と呼ばれた金髪の女性は半分困惑、半分期待していた。 そしてついにフェンリースの後ろに立つ。 「ちょっとあなた、勝手な事をしてもらったら困るんだけど」 その声を聞いたフェンリースは鬱陶しそうに振り向く。 『あ!』 室長とフェンリース、両方が同時に声を上げる。 室長を連れてきた研究員とケインは首をかしげる。 「なんでリースがこんなところにいるのよ!」 「それはこっちの台詞よ。いつの間にここに席を置いてるのよ!」 この二人の言葉を初め、研究室は嵐と化した。 「そんな事はあなたには関係ないでしょう。  リースこそこんなところで油売ってて何してるのやら。  あぁ、とうとうグラジアを追い出されたのね」 ふふん、と鼻で笑う室長。 「お生憎様、あなたと違って私は自分から出てきたのよ。  あなたこそ居場所なくなったから色仕掛けで取り入ったんでしょうけどね」 同様に鼻で笑うフェンリース。 「あなたにはできない芸当で申し訳ないわねぇ」 さらに高く鼻で笑う室長。 「ま、そんなことしてると、私と違ってあなたならもう数年立てばお払い箱ね」 それをさらに上回って鼻で笑うフェンリース。 冷静になってみると、ただの罵り合いなだけな、周りがあきれ返る会話だった。 このままだと時間だけが無駄に過ぎると思ったケインは仕方なく仲介に入る。 「リース、お前の知り合いか?」 「知り合い? こんな性悪女と知り合いに見えるのかしら?」 フェンリースはじろっ、とケインを睨みつける。 「冗談じゃないわ!  こんな女と知り合いなんていったら、他の知り合いの方々に失礼よ」 一方室長も腕を組んでそっぽを向く。 初対面でこういう会話できる人はあまりいそうにないと思うケインだった。 「まあ知り合いとかどうとかは置いとくとして……」 ケインは室長の方を向く。 「室長、勝手な事をしてすまなかった。  いまさらこんな事を言える立場ではないが、研究室のどれかの機材を貸して  ほしいのだが」 熱くなっている二人の間に、冷静なケインが入ってきたことで、二人の間もと りあえず熱は収まる。 「ま、まあそこまで言うなら。リース、この男に感謝する事ね」 「ふっ、はじめからそういってれば騒ぎも大きくならなかったのに」 どっちが騒ぎを大きくしたのかは不明だが、フェンリースも騒ぎの張本人でも あるとケインは思ったが、収まった騒ぎがまた大きくなりそうなので黙っていた。 「で、リース。一体何してるの?」 室長はディスプレイを覗き込む。 「ケインが面白いもの持ってきたからそれを調べてるのよ」 「面白いもの?」 「これよ」 フェンリースは解析をやめて、チップを室長に手渡す。 さっきまで騒ぎ立ててた二人だが、一転して軽く話し出すのを見て、やはり知 り合いだと再確認したケインだった。 喧嘩するほど仲がいいというのはまさにこの事だと思う。 フェンリースから受け取ったチップを見る室長。 室長もフェンリースと同様にそれを見てにやりと笑った。 「どこで手に入れたの?  うちで作ってるものでもないし、グラジア、ミナレインのものでもなさそう」 「それだけわかってればわかるでしょ」 『ラ=クルス』 またも二人の声がそろう。 「リース、これ私に貸してくれない?  少なくともあなたよりは早く解析できると思うけど」 自慢げに室長は言った。それからまたののしりあいに発展するのかと思ったが、 リースはそれをあっさり承諾した。 「いいわよ。その代わり終わったら結果、教えなさいよ」 「わかってるわよ、んじゃね。  あ、それと使いたいものあったら適当に使ってもいいから。  うちのスタッフが使ってない機材に限るけど」 そういって室長は奥へと戻っていった。 嵐が過ぎ去ったかのように部屋は再び静かになった。 静かになったが回りの研究員はフェンリースを避けて立っている。 「さ、ここにもう用はないわ。でましょ」 そういってスタスタと部屋を出て行くフェンリース。 部屋を出る際、研究員に、勝手なことして悪かったわね、といった。その返答 も聞かずに。 ---廊下--- 「ところでリース」 「なに?」 「さっきの室長、知っているのか?」 ケインがそう聞くと、フェンリースは信じられない、といった顔をした。 「知らないの?」 「知ってたら聞くか」 フェンリースは少し考えたが、いきなり一人で勝手に納得する。 「あ、でも知らなくて当然かもしれないわね。  だとしても名前は知ってると思うわよ。リディア=シュナイデンという名前  はね」 「リディア=シュナイデン? あの変人と言われてた教授か?」 「そ。ちょっと前にグラジア追い出されたけど、まさかここにいるとは思わな  かったわ。まあそこまで変人って訳でもないし、ソフト面ではトップクラス  なんだけど…ね」 妙に煮え切らない言葉が気になったが、聞かないで置く事にした。 「ところでケイン、あなたこんなところで何してるの?」 「ん? 言ってる意味がわからんが」 「聞いてないの? ケインとファシーも会議に出席しろっていう話」 「聞いてないぞ」 「じゃあファシーだけ行ったのね。そりゃ悲しい事ね」 なるほど、とケインは思った。 あの時妙に怒っていたのはそういうことだった、という事を。 「まあ、後からカリスから聞けば大丈夫だろう。  ファシーもそのうち落ち着くさ」 いまさら謝っても遅いし、ファシーよりカリスに聞いたほうがわかりやすいと 思ったケインはそのままにしておく事にした。 「そうね。落ち着くまでにどれだけの人が怪我するか興味があるけど、震雷の  修理を思い出したから」 ケインはミナレインから戻ってきた震雷を思い出した。ケインの見た震雷はか なり破損していて、残骸といってもおかしくないものだった。今まで震雷があ んな姿になったのをケインは見たことがなかった。 「それにしてもよくあれだけ壊されたもんだな」 「そうねぇ、まだまだ私も未熟ということね。……それじゃ」 そういってフェンリースは涼しい顔してウェポン格納庫へと消えていった。 (未熟…か。そういえば俺もやられたな) ケインはコーデリアとの戦闘を思い出した。勢いよく出撃した割に、あっさり と返り討ちにあった苦い記憶。 (まてよ? 俺はあれからどうなったんだ?) コーデリアにやられたところまでは覚えている。そして次、目が覚めたときは ラ=クルスだった。その間、コーデリアはどうしたのかがわからない。フェン リース達が無事にミナレインにつけたと言うことはコーデリアは引き上げたと いう事になる。 (なぜだ………) ケインにはその理由が全くわからなかった。ただ、覚えてない事を必死になっ て考えても時間の無駄なので、そのことについては後で考える事にした。 「ようケイン、なに狭い廊下をぼーっと歩いてんだ?」 ケインが振り返ると、暇そうに歩いているカリスがいた。 ポケットに手を突っ込んだままだらしのない格好をして。だらしがない格好を しているのは今に始まった事ではないが。 「こんなところでぼーっとできる身分か、お前は?」 やれやれ、といった感じの表情をカリスはした。 「どういうことだ?」 「会議をサボったお前にはわからんだろうなぁ」 「サボった?」 ケインは一瞬と惑ったが、ついさっきフェンリースに聞いたことを思い出した。 「ああ、そのことか」 「ファシーの奴、終始すごかったぞ。もう終わる頃には目が座ってたぞ」 腕を組んで、思い出しながらうなずくカリス。 「ああ、おかげでバケツを投げつけられ、散々わめき散らされたよ」 「キッシッシッシ。まあ後で謝っとくんだな」 その情景を思い浮かべたカリスは腹を抱えて笑う。 そこまで笑うことでもないだろ、といいたかったが、言い訳っぽいのでケイン は言うのをやめた。 「ああ、そうする。それで内容はどういうことだったんだ?」 「おっと、それを言いに来たのを忘れてた。開始は明後日0300だってよ」 明後日0300…それはレード侵攻開始の日を表していた。ケインも近日中に開始 されると思っていたが、ここまですぐだとは思っていなかった。 「明後日か……」 「不満か?」 「別に。やる事はほとんど終わったんだ。いつ開始されてもおかしくはないさ」 「その割には浮かない顔だな。浮かない顔なのはいつもだけどな」 顔を覗き込むように見るカリスに、ケインは顔をそむける。 「ほっとけ。……なあカリス、本当にやるのか?」 「何をいまさら」 「そりゃ今までレードのやってきた事は知っている。  おそらく一番危険なのはグラジアよりレードの方だという事はわかる。  だからって一つの国を他国と協力してまで潰さなけりゃいけない事なのかわ  からなくてな……」 「まあ確かに今回のは兵士に限らず、国民も不満をもっている。  そのほとんどがレードの国民がかわいそうだ、とかそういった奴だ。  まあ当然だ。規模が大きくなればなるほど死ぬのは一般人だからな。  それにあそこほど国民と軍部の考えが一致していないところもないからな」 レードは国王が全てを決め、行動を起こす事ができる。国民はただの労働力と しか扱っていないのが特徴的である。 グラジアやミランドルも国王に発言権が強いのは同じだが、それと対立させる 形で、民議会という国民が推薦した、国民で構成された物がある。国王、もし くは国王の権限を預けられた者の出した案が民議会で通ればそれを実行するよ うな形になっている。当然例外もあるが、ほぼこういった形で決められる。 ただ、レードには民議会に当たるものがなく、あっても労働組合的なものしか なく、度々国王側と組合側でいざこざが起こっている。 「だからこそ行動を今まで抑え、慎重に事を運んできたんだろう?  安心しろ。世間が思ってるようなことはしないさ。  こっちは三国に対して向こうはレード一国だ。単純に物量作戦でカタがつく。  ただ日数がかかってレード国民に重圧がかかるかも知れんが、そればっかり  は我慢してもらうしかないけどな」 「なるほど。グラジアは陸、ミランドルミナレインは海からということか。  しかしレードが篭城したらどうする気だ?  そのまま陸と海、両方から攻めるのか?」 「いや、攻めるのは海からだ。背面から直接王宮に潜入することになってる。  そうそう、それとその海の部隊にはお前も来るんだぞ」 「俺はミランドルの方なのか」 正直ホッとしたケインだった。犯罪者ということでグラジアをでたので、グラ ジアの兵として動く事に自分はともかく、周りがどう思うか気になったからだ。 「おいおい、お前、どの面下げてグラジア戻る気だ?」 「……そうだな」 それにグラジアにはロバンス達の家族、知り合いがいる。 今のケインにはその人達に会う気になれなかった。 「まあそうしんみりする事ないさ。戦争もすぐ終わる。  あの事はそれからじっくり考えればいいさ」 「ああ」 「この話も終わりだ。全くお前も出てればこんな面倒な話し繰り返す事もなか  ったんだがな。ま、始まるまでの二日間、のんびりしとけ」 「ああ」 話が終わるとカリスは鼻歌混じりで廊下をふらふら歩いていった。 カリスはあの事については全く聞かなかった。昔からそうだった。何かあって も下手に慰めたり、叱咤したりせず、全く話に関係ない一言だけ言って去る。 ケインにはそれがありがたかった。 カリスが去って、ケインも特にすることなく廊下を歩く事にした。途中すれ違 う兵士達は、二日後のことがまったく気にならないのか、特に緊張した感じな く兵士同士で戯れていた。 (戦争があるとわかってればそれなりに緊張するもんだが……) 気にはなったがこれも国柄なのだろう、ということで納得するケイン。ただ歩 いているのも暇になったし、やる事といってもあるはずがないので、部屋に戻 ろうかと考えていた。しかし、ここ最近、こういうことを考えると、決まって 何かが起こることを思い出した。 「あ、ケインいいところに」 やっぱり……そう思ったケインは声を無視して逆に歩く。声の主は振り向かな くてもわかる。 「さっきぶつけたのは謝るからさ〜、逃げないでよ〜」 ケインは一瞬立ち止まったが、その止まった瞬間後頭部に激しくものがぶつか る感覚を覚えた。 「お前は人を呼び止める時には必ず何か投げつけなければ気がすまないのか?」 少し切れ気味みに振り返って、物をぶつけた本人、ファシーに向かって言う。 「乙女の常識」 ファシーは顔色一つ変えず、あっさりと間髪いれず言葉を返した。 「一言で済ますなよ……」 こういうことを平気でやってくるのは世界広しといえどファシーくらいのもの だろう、とケインは思った。フェンリースも似たようなものだが何かをぶつけ られた覚えはない。 「で、何のようだ」 多少ムッとしつつ、言いたくないが一応聞く律儀なケイン。 「暇でしょ? ちょっと付き合ってほしいんだけど」 「暇じゃない。今から部屋に戻ろうとしてただけだ」 当然暇だから部屋に戻ろうと考えていたわけだが、ろくな事ではないと思った ケインはそれを断ろうとした。 「やっぱ暇じゃない。他の人たち忙しそうだったしケインならいい相手になる  っていわれたしさ」 「……何をする気だ?」 「特訓」 ファシーの口から出た台詞に少し驚くケイン。 「特訓? 何の特訓するんだ?」 「私、強くなりたいの。強い相手を満足させられるくらいに」 ファシーの目は真剣だった。冗談で言ってるわけではないようだった。 「というか約束しちゃったのよね」 「ミナレインであった奴か?」 「そ。私もリースもこてんぱんにのされたの知ってるでしょ。そのときに、次  は俺と渡り合えるくらい強くなれ、と言われちゃって。  それに応えようかと思ってんの」 「………」 「で、ケインにそれを手伝ってもらおうかな、と思ってるんだけど……」 確かにファシーは真剣で、努力しようとしているのはわかるが、あまり気が進 まなかった。。 「勝つために強くなる、というのはあまりいいことじゃないな。  まあファシーが強くなりたいというのなら相手してもいい」 少し考えたが、とりあえず自分が頼られているので、それを無碍に断るのも悪 いと思い、それを引き受けるケイン 「さすがケイン。頼まれたら断れない性格っての本当らしいね」 「……誰に聞いた、そんなこと」 「カリスさんとリース。二人とも同じことを言ったよ」 「カリスとリースにも聞いたのか?」 「うん。そしたらそういわれた」 おそらく二人とも面倒だからその押し付けとしてケインを推薦したに違いない、 そうケインは思った。そしてそれは確かに事実だった。 ただ一旦言ってしまった事をいまさらやめる事も出来ず、ケインはしぶしぶ協 力することにした。 ファシーの特訓に付き合ってわかったが、ファシーの実力はなかなかのものだ った。すごく強い、というわけではないが平均をはるかに超えてる。グラジア で兵士としてでも十分やっていけるくらいの能力はあった。ウェポンの操作に 慣れれば一対一で負ける事はほとんどないと思うくらいだった。 それもそのはず、ファシーの父親はそこそこ有名な棒術士だったからだ。今で は鍛冶屋になっているが、ファシーに技は受け継がれているのだろう。おそら く今まで相手がいなかったため、技が上達しなかったのだろうが、幸か不幸か 軍と知り合ったがために飛躍的に成長するかも知れなかった。 そしてそのままファシーとケインの特訓は夜まで続いた。 ---首都マクレガーの屋外休憩所--- 夕食も終わり、涼みにファシーとケインは外に出る。 「今日は疲れたねぇ」 「アレだけ動けば誰だって疲れる」 「……ケインってさ、そういう言い方しか出来ないの?」 言ってる意味がよくわからなかった。 「もうちょっと愛嬌ある言い方できない」 「今の言葉にどうすれば愛嬌ある言い方ができるんだ?」 「え? えっと………そ、そう、お前はよくがんばったな、とか」 「……それは自分を誉めてるだけだろ」 「自分をまず誉めなきゃ」 そういう問題ではない。 「でもケインっていつも関心なさそうな言葉つかうよね」 「そうか? 自分ではごく普通と思うが」 「やっぱケインって変わってる。いわゆる変人ね」 「そこまでいわれる筋合いはない」 「あははは、半分冗談よ」 ということは半分本気だったわけである。 ファシーは柵越しに遠くを見つめてつぶやく。 「それにしても軍人って嫌な人ばかりかと思ったけどずいぶん違うのね」 不意に漏らしたファシーの言葉に驚くケイン。 「嫌な軍人に会ったことあるのか?」 「……話に聞いてただけ。威張ってて強面で軍人じゃない人を見下してるって」 ある意味それは当たっている。グラジアの軍人はまさにその通りだった。国民 が無事でいられるのは自分たちがいるからだ、と思っているからだ。 確かにその通りではあるが非軍人にとってはあまりいい感じではない。 「ここの連中は別だ。レードもグラジアもそんなもんだ。  俺自身が一番驚いている」 「そういえばケインって何で軍人になったの?」 突然聞かれて、少し考える。 「別に。気がついてたらなってただけだ」 ケイン自身、なぜ軍人になったかを忘れていた。 「ふーん。親の人とか何も言わなかった?」 「………親はいない」 「え?」 「物心ついたときから親はいない。気がついたらカリスと一緒にいた」 「……悪い事、聞いちゃったかな?」 「別に。いない者のことを聞かれてもなんとも思わない」 「ケインがそんな性格なのはその所為なのかな?」 「俺はまだ子供のときから軍人になっていたからな。余計な敵を作らないよう  にしてただけだ。それに俺が何か言う前にカリスが言うからな。俺のいう言  葉がなくなっていっただけだ」 腕を組んでふむー、と考え出すファシー。そして一つの結論を導き出す。 「やっぱり育ての親が悪いのよ。そうよ、そうに違いない」 ファシーは拳を強く握り締め、力説する。そしてファシーはコホン、と一回咳 払いをすると、ケインの方を向く。 「だから今度から私が母親になってあげるわよ。さあママと呼んで」 「断る」 「即答しないでよ!」 「即答もしたくなる」 「それとも何? 巨乳のほうがいいの!? やっぱりケインは変態だわ!」 「誰もそんなこと一言も言ってないだろ!」 「いや、目が語ってた! これはスキャンダルだわ。  報道フロア、こちらリポーターファシーです。ケインは巨乳好き!」 「いいかげんにしろー!」 こんなどうでもいいような会話をしているファシーとケインを温かく見守って いる姿があった。 「なかなかいいムードだったわね。なんか変な方向になってるけど」 残念そうに見守るフェンリース。 「結構期待してたんだがなぁ。ケインもまだまだという事か」 なぜか勝ち誇ったように、ふっふっふといってるカリス。 「カリス、育ての親が悪いって言われたね。その通りだけど」 容赦なくカリスを追い立てるクレイ。 「眠いの我慢して来てるんだからもっと盛り上がってもらわないと」 目をこすりながら必死に二人を見てるミーク。 「あの、皆さんこういう事はあまりしないほうが………」 とかいいつつ、しっかり見てるレイ。 温かいというか、ただの覗き集団だった。 「カリス、あなたがあんな育て方したから変な方向に話が向いたじゃないの」 今のこの展開に納得がいかないフェンリース。 「俺の所為かよ。アレはケイン自身の性格だっつーの」 フェンリースの言葉に必死になって反論するカリス。 「でも子供は親の背中見て育つっていうけど全然似てないよねぇ」 「この場合反面教師だと思うよ」 やっぱりカリスを追い立てているクレイ。 「あ、いえてる。て事はやっぱり今のケインがいるのはカリスさんの所為かも」 ミークもとうとう、ケインの性格はカリスの所為だ、同盟に加盟した。 「お前らよってたかって俺の所為にするな」 それでも必死に抗うカリスは今の世界状況に似ていた。 「あ、あの、皆さん……」 そのとき何かに気がついたレイだが、誰も聞いていなかった。 「だいたいケインはだなぁ」 「俺がどうかしたか?」 「お前はだなぁ、昔っか…ら?」 覗き集団一行が振り向くと、そこにはケインとファシーが見下していた。 「お前ら、何してんだ?」「みんな、何してるの?」 「い、いや、レイが外の空気吸いたいとかいったからな、案内とかをだな」 「ほう。それで、レイはどこにいるんだ?」 「お?」 カリス達はあたりを見回したが、その場にはすでにレイはいなかった。 真っ先にケイン達に気がついたレイは一足先に戻っていたようだ。 「レイめ、自分だけ逃げたな!」 「それはいいとして、お前ら、何してるか説明してもらおうか?」 『あ、あはははは……』 残った四人は空笑いをする以外になかった。 「いってぇなぁ。いいじゃねぇか覗くくらい。減るもんじゃないだろ」 ケインに一発ずつ殴られた四人。 「誰だ、覗こうなんて思った奴は。  まあ覗いてたとしてもお前らの期待通りにはなってないだろうがな」 「リースだ」 わが身かわいさに即答するカリス。ケインに睨まれたフェンリースは正直に応 える。 「悪く思わないで。ちょっと新しく開発したレンズを使ってたら偶然見つけて  ね。ここぞと思って皆を呼んだのよ」 「呼ぶなよ。……というかリース。お前元々覗き用に作っただろ」 「え? いや〜、そんな無粋なことする分けないじゃない」 全くその通りだった。普段はボケてるくせにこういうときだけ鋭いケイン。 「とにかくお前らも暇じゃないだろう」 「甘いな。こんな事があった場合、忙しくても見に来るぞ」 「カリス、もう一発殴られたいか?」 「遠慮しとく」 そんなほのぼの?した中、一人の兵士が慌ててクレイの前まで来る。その慌て ぶりを見てクレイは、世の中そんなに慌てる事なんてないんだよ、といった。 「カリス様、大変です。レードによってマリン村が襲撃されました!」 「なんだって!?」 言った台詞に責任を持っていないクレイ。驚かない方がおかしいが。 ちなみにマリン村はミスリルの原産地で、ファシーの故郷でもある。 「どういうことだ! レードの動きにアレだけ注意しろと言っただろ!」 カリスが兵士に詰め寄る。 「で、ですが配置されていた辺境部隊は全滅してます。  ただ、マリン村への襲撃をしたのは別の部隊だと思われます」 「まさかマテリアルか。わかった。クレイ、行くぞ!」 「おい、カリス、ファシーの姿がない!」 確かに今いたはずのファシーの姿がそこにはなかった。 「なんだと? ……そうかマリン村はファシーの実家だ」 「ウェポン格納庫、バギーのチェック。  ヴァルキリエ搭乗者はマクレガーから出したらいけない!」 「わかりました!」 颯爽と走り去る兵士。 「まさかマテリアルがわざわざ出てくるとは思わなかった」 「カリス、そんなことは今はどうでもいい。マリン村に向かうぞ」 「わかってる!」 ケイン、カリス、クレイはその場を駆け離れた。ミークも慌てて屋内へと戻っ た。 人のいなくなった屋外休憩所はすでに人の温かさもなく、ただ夏の夜風が通り 過ぎるだけだった。