_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 二章 三話 レードの反撃 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 白く、広い部屋には円卓状の机が一つ。多くある椅子はたった一つしか使用さ せていない。その一つには威厳のありそうな風貌をしている、そこそこ年をい った男が座っている。そして立ったままのもう一人は、銀色の髪を後ろに流し ている男だった。銀髪の男の胸には極秘裏部隊マテリアルを示す紋章がつけら れていた。ハイペリオンである。ハイペリオンは飽きのある椅子に座らず、正 面の男を睨みつけていた。 「……つまり、我々による助けは一切しないという事ですか」 叫ぼうとする自分を必至に抑えながらハイペリオンは声を出す。それに引き換 え目の前の男はあっさりと、その通りだ、と返答する。 「これは会議で決まった事だ。いまさら何を言っても変わる物ではない。  それに貴殿は会議の出席者でもなく、ただの一兵士だ。会議の結果を聞ける  だけありがたく思ってもらわねばな」 人を見下したような言い方をする男だが、ハイペリオンはその事自体はあまり 気にしていない。ただ、許せないのは会議で決まった事だった。それでも男の 言う通りいまさら決定が変わるわけではないが、それに納得できるわけではな い。しばらく黙っていたが、しばらくするとハイペリオンは歯を食いしばって 部屋をでた。 会議室の外では他のマテリアルのコーデリア、ラリサ、シャロンがいた。出て 来た時のハイペリオンの顔に一瞬驚いてはいたが。 「……父様」 心配そうにコーデリアがハイペリオンを見つめる。その声に我を戻したハイペ リオンはいつものような穏やかな顔に戻る。それでも少し悔しさの残る顔をし ていた。 「彼らは皆を見捨てるそうだ。我々個人の動きも一切禁止との事だ」 「そうか。残念だな。結構奴らと遊びなれてきたんだがな」 残念そうに呟くシャロン。 「折角苦労してシャロンちゃんの部屋に監視カメラ取り付けたのになー」 「お前はそんなことまでしてたのかよ……」 ラリサも残念そうに呟く。残念がっているところが他と少し違うが。 「それにしても一体何を考えているのかしら。今まで散々援助してきて、こん  なときになって何もしないなんて。これじゃあまるでただ良いように利用し  てただけみたい」 「そうだな。コーデリアのいう通り、ただ利用していただけなのかもしれない  な。装置も一通り完成しているらしい。後は実戦における効果のテスト。こ  れをやろうとしているのかもしれない。彼らにとって、結局今の他人事より  先の自分の事が大事なのだろうな……」 ハイペリオンはさびしそうに呟いた。 ---ミランドル船中--- 「おーい、ケインはいるか?」 船室のドアを勢いよく開けてカリスが叫ぶ。ケインは、鬱陶しいのが来たと思 い、無視を決めてベッドの上で静かに本を読んでいる。しかしカリスもケイン が正直に返事するとは思ってはいない。部屋を見渡してケインを見つけて歩み 寄る。 「ファシー見なかったか?」 「俺が知るはずないだろ」 あくまで本から視線をはずさないで素っ気無く応えるケイン。そしてページを 一枚めくる。 「ちょっといい忘れたことがあってな。この船無駄に広いだろ。だからお前に  探すの手伝ってもらおうと思ってな」 「だったら呼び出せば済むだけだろ」 「それがおもいっきり個人的なことだから艦内のものは使えないんだ。そうい  うわけだから頼むな。オレは三層と四層を見るから、お前は上を見てくれ」 そういうとカリスは素早く、返答を聞かずに部屋を出て行った。 本を読みがらケインは小さく溜息をつく。そして枝折を本に挟み、側に置く。 (全くなんで俺がこんな事を……) そんな事を思いつつ、探しに立ち上がるケインもなかなか律儀な性格である。 カリスも、そんなケインの頼まれたら断れない、という性格を利用しているの だが。だが、いざ探そうにも確かにこの艦、エクスカリバーは広い。 先日完成した新造巡洋艦エクスカリバーは、当然レード侵攻の海戦隊の旗艦を 勤める。部隊を三つに分け、その大将隊がこれである。先鋒隊と中堅隊がすで にレード海域に行っている。そしてこのエクスカリバーは現在向かっている最 中なのである。 目的地に着くまでは各自自由行動になっている為、個人を探すのは難しい。特 にファシーは他の乗組員と違い、ウェポン搭乗者として参加している。船室に いなかったら全体を探さなければならない。しかもエクスカリバー自体相当広 いのでその手間もまた大きい。 垂線間長:五〇〇メートル、幅:六十五メートル、高さ:六十メートル。これが エクスカリバーの大きさである。そして戦艦並の大きさで速力四十ノットとい うのが一番の持ち味でもある。全層は四つあり、第一層が救急や休憩室、第二 層、三層が船員室、第四層はウェポンドッグとなっていて、エクスカリバー単 体で十分生活ができる。特にドッグはウェポンが数十体は収納可能で、設備も ミランドルのドッグ並に載せている。 こんなわけでファシーを探そうかと思ったケインだが、二層とはいえ一人探し て歩き回るより、レードについてからでも遅くはないだろうと思った。カリス の事だし、そんなに重要な事でもないと思ったからだ。それに一般人のファシ ーが他に行って時間を潰せるようなところはそんなにない。そこにいなければ 部屋に戻って本の続きでも読めばいい。 そう思ってケインが向かったのは甲板だった。他の船室に行っても話をする人 はいない。ケインやファシーのほかにフェンリースも来ているのだが、彼女は 先鋒隊の船にいる。ということで二層にはいない。もっともファシーの性格な ら誰でも気軽に話し掛けるかもしれないが。 そして一層、今のファシーはおそらく人の集まるところは遠慮したいはず。一 人で静かになれるところといったら甲板の可能性が一番高い。 果たしてケインの想像通り、ファシーはいた。じーっと海を眺めている。ケイ ンが声をかけるまで気がつかなかったほどだ。 「どうしたの?」 「カリスの奴が探してたぞ」 「そう……」 会話終了。会話が続かない。元々ケインは気の聞いた会話のできる性格ではな い。しばらく無言が続いた。そしてその無言を破ったのはファシーだった。 「波が通っては変わらず過ぎてく。人間も変わらず過ごす事ってできないのか  な。それともそれが歴史って言うものなのかな」 「……海だって荒れるときもある。今荒れてる場所もあるだろう。今見えてる  ものが全てじゃないことは確かだ」 「………」 「冷たいかもしれないが、いつまでも引きずっているとお前も死ぬぞ」 「うん…大丈夫……」 「そうか、大丈夫か」 二人が驚いて振り返るとそこにはカリスがいつものように気の抜けた顔をして いた。 「よっ」 「よっ、じゃないだろ。下を探すには早いじゃないか」 「こんな広い所を人探しをまじめにするのもだるいからな」 カリスは持っていたタバコに火をつける。 「……お前、俺に全部探させるつもりだっただろ」 「さあな。ま、とにかくいつまでもこんな所にいるもんじゃない。下行ってコ  ーヒーでも飲もうや」 そういってカリスは下の休憩室へ歩いていった。 「……全くいつも一番遅く来て一番早く帰る奴だな」 それに習ってケインとファシーも下へ降りていった。 --エクスカリバー参番休憩室-- 一層の三分の一が休憩室となっているので、壱番から伍番まで部屋はある。遊 戯施設はないが、非常にリラックスできるのは確かである。大きなゆったりと したソファーや、大人数で囲めるテーブルなど、大会場並にそろっていた。食 事も船室ではなく休憩室で取る事になっているため、奥にある食堂では少し空 腹を感じたらすぐに食事を取る事もできる。当然有料だが。これを考案した人 物は、本当にエクスカリバーを巡洋艦として作ったのか疑わしくなるほどであ る。 ケイン達がいる参番は丁度甲板から降りたすぐにあるため、今甲板に上がる人 が少ないのでここは人は少ない。まあ元々乗っている人数が多いとはいえない のでどこの休憩室も同じだろう。むしろ休憩室が全室満員になるほうが変であ る。 ケイン達が入ったときも人はまばらで、埋まってる席を見つけるほうが大変な くらいだった。休憩室の奥側にある食堂には、すでにカリスが席を取っていて ケイン達を手招きしている。ケインとファシーは、匂いが外に漏れないように 二重にされたドアを開ける。 食堂は橙色を基調としていて、派手な飾りつけはないものの、座っていてのん びりできるようになっている。 「まだ着くまで時間はあるんだ。外で潮風受けるより、物食ってのんびりしよ  うや。どうせ全部ケインのおごりだ」 「ボケたこと言ってんじゃない」 「俺はいつでもマジだ。金も持ってないしな。ま、がんばれ財布係」 カリスは軽くケインの肩を叩く。いつもの事だがカリスが自分から金を払って 食事をしているところをケインは見た事がない。グラジアにいるときはケイン はもとより、同じくカリスの養子のクリッシュにたかっていた。クリッシュは 気前よかったが、ケインは階級柄そんなに持ち合わせがあるわけではないので 拒否しているが、毎回毎回うまく払い続けさせている。そしてミランドルに来 たら食事は勝手に出てくるし、全くカリス中心に世界が回っている感じがして ならなかった。 「ファシー、何も頼まないのか? じゃあ俺が変わりに頼んでやろう」 そういってメニューに書いてあるものを次々と口にしだした。 「それはお前が食べたいものばかりだろうが。はっきりいうが、お前に払う金  は持ってないからな」 「ほぉ、じゃあファシーに払う金ならあるんだな。さあファシー、これとこれ  とこれと……これを食べたいというんだ。何なら追加しても構わんぞ」 「あのなぁ……」 「あ〜、めんどくせぇ。全部持ってこーい」 「もう一度言うがお前に払う金はないからな」 「わーってるわーってる」 そんな会話をしているとどんどん料理が運ばれてくる。 「それにしても……食う気がなくても……目の前にあると」 カリスは、ゴクリ、と口の中のものを一気に飲み込む。 「……入るもんだな」 そして一息つくとまた食べ始める。ケインも似たようなものである。 「くどいようだが……お前が食ったものは……自分で何とかしろよ」 「お前も……案外……けちだな……」 「勝手な……ことばかり……言うな」 テーブルに並べられた食事はすごい速さで空になっていく。ケインもカリスも 次から次へと皿を取っては平らげる。いつもクールなケインだが、食事となれ ば話は別だ。原因は昔から食事はカリスと常に争奪戦で、スキあらば自分のも のも取られてしまうありさまで、カリスはこれも訓練だ、とか言っていたが、 んなわけねー、ケインはいつも思っていたものだ。今ではこれが普通になって いるのだから習慣とは怖いものである。 「だからお前は……もっと寛大な心をだな……持てと言ってるだろ」 「貴様に……寛大だと……即破産だ」 「ケチ」 「ほざけ」 「……ボケ」 「……アホ」 二人の手が同時に止まる。あたりの空気が一瞬凍りつく。 「アホとは何だ、このガキャァ!」 「黙れウスラトンカチ」 バンッ、と皿が一瞬浮き上がるくらい強くテーブルを叩いて立ち上がる二人。 「てめぇ、育てた恩も忘れたかっ!」 「ふざけるな、アレで育てたと言うつもりか!」 『ぐぬぬぬ……』 テーブルを挟んでにらみ合うケインとカリス。一瞬と待った手は再び動き出し ているところがさすがだ。 「あはははははっ」 そんな中、食事に手をつけていなかった(手が出せなかっただけかもしれない が)ファシーが二人を見て笑い出す。二人はなんだ?と言った顔をしてファシ ーを見る。当然手と口は動いている。 「ごめんごめん。ケイン達を笑ったつもりじゃなかったの。ただ二人を見てた  ら悩んでる自分がバカらしく思えちゃって」 「その言い方だと俺が何の悩みも持ってないように聞こえるが……」 「こいつにも悩みはあるんだぜ。無愛想な自分がどうやって女性を口説こうか  常になやんでるぞ」 「そりゃお前だろ。そのくせいつも断られてるしな」 「うるせぇ、ろくに女に声かけた事ないくせに知ったような口利くな」 「少なくともお前みたいに誰彼構わず声かけたりする気にならないだけだ」 その光景にファシーは戸惑いを隠せない。 「ほんっとケインも、カリスさん相手だと口がよく動くのね」 「そうだぞ。お前ももっと社交的にだな……」 「カリス、お前の場合は社交的じゃなくてただの色ボケだ」 二人のやり取りを見て、ようやく今までの笑顔に戻る。そしてテーブルを見回 すと両手を合わせて再度物色し始める。 「まあなんにせよ折角ケインのおごりだからね。精一杯いただくとしますか」 「おう、そうしろ。どんどん食え」 「カリス、それはお前が言う台詞じゃないぞ」 「ま、気にするな」 「言っとくがお前の食った分は払わないからな」 こんな事を言いつづけながらエクスカリバーはレード海域へと進んでいった。 当然というか結局ケインは全員分のお金を払わされたのであった。 ---レード侵攻陸部隊--- 「右の一、そのまま右から迂回だ。右の三、右の一を援護しつつ後退しろ」 グラジアとレードのウェポン同士が混戦を繰り広げている後方、ジープから男 が自軍であるグラジア軍に指示を出す。その指示のおかげか、レード軍を少し ずつ後退させている。その男の名はコフィン。 コフィンは今回このレード侵攻の陸部隊の総指揮を勤めるグラジアの指揮官で ある。背中まで伸びる烈火のような紅い髪を首元で縛り、目が隠れるほどに前 髪を垂らしていて、頭部は鼻と口くらいしか見えない。それでも隠れた目は自 分の兵だけでなく、相手の兵の隅まできちんと写している。 これまで幾度となくやってきた戦いに何度も指揮を務め、勝利を導いてきたエ リートだ。その指揮たるや、鮮やかな采配で上手く戦いを進め、グラジア随一 との呼び声も高い。そして三十とは思えない若々しい顔が奥様方に人気らしい。 そんなコフィンに終始怪訝な顔が消える事はない。 (今までは国を守るという事で参加してきたが……。  今回のこの作戦…全く理解できない。上は一体何を考えているんだ) 今回、コフィンは上から強引な指示で総指揮に着かされた。いつもは会議で指 名され、それを引き受けてきたが、このレード侵攻に対しては会議は一切行わ れた様子もなく、急遽指示を受けた。こんな事は初めてあることで戸惑いを覚 えたが、理由を聞いてもその答えは帰ってくる事はなかった。作戦まで時間が なかったという事で不安ながらも引き受けたが、その不安は拭いきれていない。 「大尉、どうなされました?」 自分の隣にいる男に声をかけられ、思考を中断される。 「あ、あぁすまない。左のニ遅れているぞ。左の三と合流急げ。中のニ、深追  いせず現場から動くな」 まるで自分の手足のようにスムーズに動く兵達。皆コフィンを信頼している証 だ。それだけにいまの中途半端な状態を戒めるコフィン。 「このままでよろしいのですか? 攻め入っても大丈夫かと思いますが」 「君は関係のない民衆まで手を出すつもりか? にくい事にこの場所から城に  は城下にある町を突き進まねばならないんだぞ。このまま推し進めば城下が  戦の場になる事は必至だと思うが」 「今は戦争中です。民衆に罪はなくとも、それはレードという国の民である事  が不幸であったと思うしか……。それに、何か不安な気がしてたまらないの  です。今の機を逃せば大変な事になるような気が……」 「戦争とはいえ、無差別に殺していい訳ではないぞ」 このコフィンの隣にいる男は、自分が指揮しているときには大抵補佐に回って いる。その思考は多少血の気が多いが、的外れな事を言うような男ではない。 言葉の前半部分は許せないところもあるが、後半の言ってる事は納得できる。 レードの動きは何かがおかしい。こちらを追い返そうとしているわけではなく、 むしろ中途半端に攻めてくる。押せば引き、引けば押す。その押しも一定以上 こない。まるで何かを待っているような動きだ。しかし今のレードを助ける国 も団体があるはずがない。時間と兵を無駄に使ってるだけに見える。 「確かにな。ただ、だからといって進むわけには行かない。もう少し様子をみ  ても遅くはないだろう。これでは不服かな?」 「いえ、そういうわけでは。……こんな嫌な感じの戦は初めてです」 「私もだ………」 二人は目前に広がる光景をじっと見詰めていた。 ---レード侵攻海部隊 旗艦エクスカリバー--- 「おーい、状況はどうだ」 「依然これといって変化はありません。砲台の動きも皆無です」 ブリッジのモニタには一時間たっても向きすら変えない砲台が映っていた。し かし終始その向きはこちらにあわせていたため、油断はできない。まあ射程外 に停泊しているので大丈夫ではあるが。 「全く……落ち着いてるんだか、あきらめてるんだかわからんやつらだ」 ところ変わって海部隊。旗艦であるエクスカリバーの艦長、モリヤマは疲れた ような溜息をつく。 モリヤマもコフィンと同じく、ミランドルにこの人あり、といわれるくらいの 人物である。紫色をした角刈りで目つきは鋭く、声もまた大きい。背は同年代 と比べて小さい部類に入る。そして四十を過ぎた男であるが、その勢いはまさ に十代の若者にも勝る。その性格と体型で人気は高い。豪快だが小さいという 見事なギャップがファンの心を掴んで離さないそうだ。 「一体いつまでこんな事をしてりゃいいんだ。ここは一発全軍進撃でどうよ」 「そんなわけには行きませんよ。あくまで平和的に終わらせたいらしいですし」 「おいおい、戦争に平和もなにもあるわけないだろ〜。そんな事もわからんほ  どガキじゃないだろうに。あ〜退屈。折角新造艦に乗ったのにやることない  なんて俺は嫌だぁ!」 ブリッジの中でばたばたと暴れるモリヤマ。そういう自分も十分子供ぽいと思 うが。 「子供じゃないんだから我侭言わないでくださいよ、おやっさん」 「おやっさん言うなー!」 そしてこんなモリヤマについた愛称がおやっさん。本人は嫌がってるらしいが、 実にしっくりと来る呼び名である。 「ったく……。他の艦はどうだ?」 「異常なしです。向こうもここと同じく暇してるんじゃないですか?」 「一号艦なんてうちらより長くいるからほんと暇ですよね」 「おう、そういや一号艦は補佐が女なんだってなぁ。あーなんで俺の補佐は見  飽きた野郎どもばかりなんだー」 「あたりまえでしょ。おやっさんに女は似合わないですって」 確かにモリヤマが女性と歩いている姿を想像すると、どうも変な感じがする。 「チェルシー、俺に喧嘩売ってんのかー!」 こんな他愛もない事でモリヤマがクルーに襲い掛かろうとしたときだった。エ クスカリバーの前方で突然水面がはじけ、艦が揺れた。 「な、何だ!?」 今まで黙っていた砲台が一気に火を噴き始める。砲弾は届いていないが止まる ことなく打ちつづけている。 「レ、レードの砲撃が始まりました。射程を気にせず撃ってきてるので、ここ  まで届きませんけど」 「おやっさん、城に変なのが現れました」 「変なの?」 「はい、ズームします」 ブリッジのモニタには、城の頂上から現れた機械が写される。 「………な、なんだありゃ」 モリヤマが驚くのも無理はない。何が出てきたかと思ったら、巨大なアンテナ だったからだ。ただエクスカリバー側からみるとそう見えるかもしれないが、 グラジア軍のいる陸部隊からはそれがなんなのかはっきりと見えた。標準を自 分たちに向けた砲台だということが。コフィンはモリヤマへ急いで連絡を連絡 を取る。 「何だと、アレが砲台だって? こっちからはアンテナにしか見えないぞ」 『事実だ。とにかくこっちでは詳しく調べれない。それにあれがでてきてから  奴ら妙に張り切りだした』 コフィンの目の前では、レードを取り囲む城壁内から新たな戦力が現れていた。 戦力差はいまだあるものの、獅子奮迅の勢いでグラジア軍を攻めてくる。さっ きまでの押せば引きが嘘のように押してきていた。 「てことは今まではあのための時間稼ぎだったって事かよ。わかった。あの対  処はこっちでやる。そっちはそっちだけの鎮圧に集中してくれ」 『わかった。よろしく頼む』 モニタからコフィンの姿が消える。 「という事だ。急いでアレがどんなものか調べろ。しかしよっぽど近づいてほ  しくないんだろうな」 全く届かない砲弾を気にせず、撃ち続けるレード。砲台は少しも間を取らずに 撃っている。沈める事を目的としているわけではなく、寄ってほしくないよう だ。あんな撃ち方をしていれば熱で砲台の形が変わる可能性があるが、裏を返 せばあの出現した砲台の射撃が始まればこの状況を覆せる可能性がある、とい う事だろう。 「おやっさん、強力なエーテルを感知。なおもエーテル濃度上昇中!」 「エーテル感知だと? まさか……」 「リバース砲!?」 一号艦にいるフェンリースはブリッジのモニタを見て驚いた。 「リバース砲? なんだそりゃ。嬢ちゃん知ってるのか?」 驚いているフェンリースを見て不思議な顔をする艦長。その不思議な顔に不思 議な顔で返すフェンリース。不思議不思議のブリッジ。 「あんた、ミランドルの人なのに知らないの?  リバース砲……本当はエーテル還元なんとかというかなり長い名前なんだけ  ど…大気中にあるエーテルや、空気とか水とかを元の形であるエーテルにも  どして、それをエネルギーとして噴射するものよ。三日前ミランドルで開発  に取り掛かったって言ってたけど……。問題はレードが完成させてたって事  よ」 「ま、いい気はせんな。グラジアにはともかくレードに先越されたんだ」 「それもだけどレードの技術がミナレインやグラジアより上回ってるとは思え  ないの」 以前までレードはそのほとんどのウェポンをミランドルから輸入していた。レ ードの周りにはミランドルやグラジアと違って鉱山がない。あるのは延々と続 く砂漠と遺跡くらいのものだ。その遺跡から発掘されるウェポンはけして多く ない。そして近年はほとんど掘り尽くされている。ある程度の技術はミランド ルからのウェポンでわかるが、それ以上は長い時をかける必要があった。 「じゃあ他の何かの援助があったという事か?」 「わからない。そんなのは今ではないと思うけど、もしかしたらラ=クルスの  可能性もあるわ……。ま、それより今はアレを何とかする方が先決ね。射程  はそんなに長くはないけど今闘ってるグラジア軍を殲滅させるくらいの威力  はあるはず。エクスカリバーのモリヤマに連絡とって」 「わかりました。しかし艦長、立場取られましたね」 「そうだな………」 悲しそうな艦長を他所にエクスカリバーと連絡がつく。ちなみにこの艦長達と この艦はファシー達がミナレインに行った時のものだったりする。 「一号艦艦長補佐フェンリースです。突如現れた機械をご覧になりましたか?」 『あぁ、リバース砲だな。奴らあんなもの完成させてとはな』 「とにかく早く止めないとグラジア軍が壊滅します。そこでレード城内、コン  トロールルームへの進入を許可してください」 一号艦ブリッジがざわめきだす。 「おい、正気か? いくら相手が無駄打ちしてるとはいえ、あの中を突破する  のはムリだ」 「だからってこのまま見ているだけじゃだめでしょ。それにこのままだとこっ ちもリバース砲の餌食よ」 『許可はできない。あの中に飛び込むのは自殺行為だ。あの砲弾の雨をかわし  てもぐりこめる機動力と技術のある奴がいないんだ。いざとなったらエクス  カリバーの主砲をぶちかます』 エクスカリバーの主砲、これ一つで小さな村なら一撃で壊滅どころか、地面ご とえぐり取れるくらいの威力がある。 「馬鹿言わないで。その主砲の威力じゃ町に被害が出るでしょ!」 『この際仕方がない。それくらいは目を瞑ってもらうしかない』 「モリヤマのアホたれ! 話にならないわ。ちょっとカリス呼んで、カリス・  サクリファイスがその艦にいるでしょ?」 『初めからいるぞ』 声はすれども姿は見えず。と思ったらカリスがモニタに映る。どうやら通信が 始まる前からいたようである。 『リース、気持ちはわかるがあの雨のような砲撃みろ。まさかあれだけの準備  をしてたのは明らかにこっちのミスだ。あんな無茶するとは思わなかった。  小型で推進力のある船は連れてきてない。最もお前なら何とかできるか?』 カリスとフェンリースのやり取りの最中、一号艦のクルーが声をかけてきた。 「艦長、こちらの艦に接近している小型船を確認。どうやらこちらに通信願い  出てるみたいなんですが」 「何だこんなときに」 突然の来訪者に騒ぎ出すブリッジだが、フェンリースには一つだけ心当たりが 合った。もしその通りだった場合、今の状況を変えられる……。 「まさか……。その通信つなげてもらえる?」 「は?」 「いいから繋げて!」 「は、はいっ」 ビビりながらも入ってきた通信願いを許可する。するとモニタに男の顔が映る。 そしてその顔は予想通りの顔であってホッとするフェンリース。 「レヴァルス!」 『よう、リース』 「来てくれたのね」 『来たくはなかったが、こいつらに泣きつかれたから来ただけだ』 『ちわっすリースさん』 モニタにぞろぞろとクルーが割り込んでくる。 「ありがとあんた達」 彼は、以前ミナレインに行く前に偶然であったレヴァルス・カインシーカーで ある。昔はかなり名を知られていた海賊なのだが、ある時期から全く姿を見せ なくなったが、偶然ミランドルでフェンリースが見つけた。 ミナレインから戻ってきて、侵攻一日前に声をかけた。レヴァルスがどんな生 活をしていたかは知らないが、彼の実力はミランドルにとって大きな助力にな ると思ってのことだ。ただそのときはあっさり断られた。しかし今ここにいる という事は手を貸してくれるつもりなのだろう。 「さてレヴァルス、ここまで来たという事は、当然手伝いに来たんでしょ。早  速だけど手を貸して貰うわよ」 『こいつらに泣きつかれると気が滅入るからな。今回だけは手伝ってやる』 「十分よ。……さて、話は聞いてたでしょ。潜入許可、出してもらえるわよね?  今なら私たちで何とかできるわよ、カリス」 『おいおい、相手が誰なのかわからないのに許可は出せないぞ。こっちにも回  線繋げ。………っておまえはレヴァルス・カインシーカー!?」 昔海賊、しかも名の知れたレヴァルスだ。当然モリヤマは知っていた。直接争 ったことはないが、噂くらいは聞いた事がある。 「何でお前が……いや今は何も聞かない事にするか。協力感謝する。ところで  フェンリース、戦力はどうする?』 「そうね、そこにいるカリスとケイン・セイガード、ファスレーン・サシリー  ズの三人、あとレヴァルスのところから五人くらいだすわ」 『それだけでいいのか? こっちからも出さなくて大丈夫か?」 「悪いけど当てにできないわ。足手まといよ」 『あっさりという奴だなぁ。わかった、その三人はそっちにおくる。後はそっ  ちでやる事を決めてくれ。ただし! リバース砲発射前になると戻って来て  る来てない関係なくぶっ放すからな。覚悟しとけよ』 「わかったわ」 ---レヴァルス船のブリッジ--- 数分後、やってきた小型船のブリッジにケイン、カリス、ファシーが到着する。 ブリッジには最低限の人数しかいなかった。この船は捨てる覚悟だから他のク ルーにはケイン達とすれ違いに一号艦に向かった。ケインとファシーは自分が なぜよばれたかはよくわかってない様子だ。 「聞いての通りレード内部に突入するわ」 ケインとファシーはそろって驚く。そんな事を一切聞かされずにここまで来た からだ。それを知ってか知らずか、そのままフェンリースは話を続ける。ちな みにケイン達が知らずに来ている事はわかってたりする。 「城の真下には、搬入口があるからそこから内部に入れるはずよ。その代わり  敵の目は集中する事になるから注意してね。それと、リバース砲発射された  場合とエクスカリバーの主砲が来るからそれまでに何とかして止めるのよ。  質問は?」 「帰りはどうするんだ?」 「はっきり言って帰りはないわ。リバース砲発射させるような事があったら自  分たちはエクスカリバーの主砲で死ぬって事ね。死にたくなければがんばる  事ね。それにリバース砲を止めるだけじゃない。ついでに国王の首も頂きに  いくの。もう許可取ってるわ。つまり、リバース砲止めて頭を砕いて生存か、  リバース砲撃たれてエクスカリバーの主砲にやられて死ぬか、のどちらかよ」 淡々と話すフェンリースにあきれた顔をするカリス。 「人事みたいに言うなよ。ま、レードには過ぎた物だ。これ以上被害拡大する  前に止める事は大事だな。ケイン、ファシー準備はいいか?」 「急に呼び出しておいて準備も何もあるか。まあ元々手持ち無しで来たからそ  んなもの必要ないけどな」 「私も同じく。できればもっと早く言ってほしかったわよ」 「よーし、緊張してないな。んじゃ奴らにゲンコツの一つでもいれに行くか」 「OK。じゃあレヴァルス、頼んだわよ」 「わかった。砲弾の網をくぐるため揺れる。しっかりつかまってろよ」 こうしてレードの内部突入作戦が始まる。