_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第二幕 二章 六話 長い戦いの果てに _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ -------------------------------前回までのあらすじ------------------------------- レード城内に入り、リバース砲を停止させる為に分かれたカリスやファシー達とは別に、 元凶であるレード国王クライクを倒すため、一人ケインは王座へ向う。 戦争はレードの負けで決まったが、クライク自身の強さはケインをはるかに超えていた。 だがクライクを倒すため、ケインは死を恐れず立ち向かい、ついにクライクを打ち倒した。 -------------------------------------------------------------------------------- 「……お前の言う…命を賭して、という言葉に……一片の偽りもなかったな」 胸にショートソードを刺したまま、玉座に座るクライク。そうでもしなければケインを正 面から見ることすらできない程の傷だった。ケインの突き刺したショートソードはかろう じてクライクの心臓を外れているようだが、それでも肺を傷つけている。流れる血は濃く、 顔からはみるみる血の気が引いていく。 「紙一重だった……」 そういうケインの左腕は力なく垂れている。腕と上腕には深い斬り傷があり、骨すら切り 裂いているようで、もはや皮一枚でつながっていると言ってもおかしくない。流れる血は クライクと同じように多い。 「まさか…受け止めるとはな……」 「お前相手に一つや二つのかすり傷で済ませようなんて思っちゃいないさ」 ショートソードが砕け、なお向かってくるゴッドブレイカーの刃を、ケインは左腕ともう 一本のショートソードで受け止めた。だが、クライクの斬撃が予想より強ければ、そして 力の受け流しの見極めが少しでも悪ければケインの体は二つに分かれていただろう。 「結局…人のために動く奴には勝てないということか……」 クライクは大きく息を吐いた。同時に咳き込み血を吐く。 「誰かのためなんて関係ない。純粋にお前の執念が俺の信念より劣ってただけだ。  俺の剣が砕けた時、お前は勝ったと勘違いした。お前ほどの男が結果を見ずにな。  お前の執念そこで消えた。その結果がこれだ。  俺が……『父親』に教わったのは、自分を守る手段と、消えぬ信念だけだ」 「………そうか」 なぜかクライクは満足そうな笑みをした。恐怖が死によって解放される喜びなのか、わず かに残る、子の成長を喜ぶ父のものなのかはケインにはもちろん、クライクも分からなか った。 「そんな体で悪いが、いくつか聞きたいことがある」 手ごたえから、クライクの状態がどの程度のものなのかが少なくとも分かった。おそらく 死ぬことは免れない。しかしそれに情けをかけるものではない事をケインは知っている。 これはクライク自身が望んだ事なのだから。 「…かまわん。それが……やくそくだったからな……」 ケインも立っているのが辛いのか、壁に背をもたれる。 「先日、マリン村を襲わせたのはお前の指図か?」 その時、一瞬クライクの顔に戸惑いが出たのをケインは見逃さなかった。 「あいつの単独指示か。ロキ・ファラウは何者だ?」 クライクは何も答えない。 「あいつは俺を知っていた。だが俺はあいつを知らない。少なくとも記憶の中にはな。  だからそれ以前、まだお前が俺の身内だった頃にあるのか?  お前は言ったよな。あの事件の後に国を出て奴にあったと。十五年前だ。  あいつは俺より少しは上に見えたが、当時はまだ十にもなっていないはずだ。  どこでお前と出会い、お前はレード国王クライクとなった?」 「………お前が知る必要は…ない」 そうクライクは言った。 「と…いいたい所だが…土産話に教えてやる」 十五年前、あの事件の後、グラジアをでたクライクは当てもなく砂漠を歩いた。当時は国 が密集していたとはいえ、周辺の七割をグラジアが支配していたし、自軍がどのように配 置されているかもわかっていたため、大した苦労もせず囲まれた山脈を越えた。とりあえ ずの目的地をシーギリアにしたが、サンドバギーを持たずにでてこらざるを得なかったた め、わずかな荷物だけで砂漠を歩いた。 いくら体が頑丈とはいえ、砂漠の暑さに何日も耐えれる者はいない。だがクライクはなん とか日陰を探して暑さをしのいでいた。五日後、なんとか予定通りにラグーン遺跡に着き、 床を取ろうとしたときだった、クライクとロキの出会いは……。 「今と……寸分変わらぬ姿だった…。いつから奴が…レードと関係しているかはわからん。  ……だがあいつは俺に…王の席を用意した、といった……。  まるで……全てを知っているかのようだったな………。  どうせ…行く当てもなくさまよっていたからな。何も、疑わず頷いた。  そして……本当に国王となったときは………驚きを通り越して無気味だった」 「………」 言葉が途切れ途切れになりながらも、クライクは続けた。 「俺の名と姿は…結構幅広く通っていたようでな。名を、変えはしたが…皆気がついてい  たな。まあ、当然といえば…当然だ。名前だけ変わっても、姿はそのままだったからな。  だが…この事が外に…特にグラジアに出ればまずい。…だからクライクで徹底させた。  当時…レードにいなかったのは……強い指導者だったらしい。元々目をつけていたのか、  聞きつけたのかは分からんが……俺が抜擢されたそうだ……」 「それとロキとどういう関係だ?」 クライクは一度大きく息を吐くと、体を起こした。大量の血が流れ、体も弱っているとい うのに、その姿は全く弱さをみせなかった。 「驚かず落ち着いて聞けよ。  俺が王となったとき、ロキは自分を軍事顧問として取り上げろといった」 「どういうことだ? ロキはレードの…それもそこそこの地位にいるやつじゃないのか?」 「だと思っただろう。だが俺にもそれはわからん。………ただあいつにはあいつなりの思  惑があったんだろう。そして…やつが軍事に口を出すようになって、この国は変わった。  まずは兵の徹底的な再教育。今思えば、奴はウェポンが見つかるとはじめから思ってい  たんだろう。操縦系の教育もしていた」 「なんだと?」 ウェポンが発見されたのは今から五年ほど前である。遺跡研究者(今の発掘屋の前身)の 一人が、遺跡調査中に運悪く流砂に巻き込まれ、大洞窟に落下してしまった。奇跡的にも 助かった研究者が出口を探してさまよっている時に、偶然ウェポンの装甲の一部を発見し た。そのまま運良く大洞窟を出ることのできた研究者が大掛かりな掘り起こしを企画した。 そしてその時初めてウェポンと呼ばれるようになる物質が見つかった。それが世にウェポ ンが出るきっかけだが、それより以前に独自で発掘されている可能性もあるが、発見時よ りさらに十年も前にそれがあるとはさすがに考えられない。 仮に発見が十五年前だとすれば、もっと早く状況が動いてもおかしくはない。もっともそ の時に所持しているのがレードだったらの話だが。 「お前が不思議に思うのは分からん事はない。俺も…いやあいつ以外は誰も分かっていな  かった。だが王になり、しばらくして俺はウェポンを見た。極秘裏部隊は知っているだ  ろう。あいつ等の搭乗機としてのウェポンをな」 「!?」 極秘裏部隊マテリアル……存在自体、各国に話題に上ったことはあるが、その姿が人の目 に晒さらされるようになったのはつい最近、ミランドルがミナレインへレード進行のため の話し合いに行く途中だった。ケインはそこでコーデリアというマテリアルの一人と戦い、 ファシーとフェンリースも、ミナレインでシャロンという同じくマテリアルの一人と戦っ た。個人の能力は未だ不明だが、彼らの使用するウェポンの能力は非常に高い。それが十 五年前には存在していたというのである。 「ロキ・ファラウ。奴の目的は世界の統一なんかに興味はないんだろう。もっと別の……」 「そこまでにしていただきましょうか、クライク国王」 突然部屋に声が響く。クライクの目線の先をケインは目で追った。 するとその先には話題の相手…ロキ・ファラウがたたずんでいた。さすがのケインも動揺 を隠せない。クライクの話を聞いていたとはいえ、扉の開く音も人の気配もなかった。そ れなのに何食わぬ顔でその場にいるロキ。 いつの間に、と思うより先に、ケインはロキを睨みつけた。 「お前か! マリン村を襲撃したのは!」 ロキは一瞬まったくケインの言っている意味がわからないような顔をしたが、ああそうだ、 とうなずいた。 「マリン村というのですか。あのウープの逃亡者達のいたところは。  あれはただしかるべき処置をしただけですよ」 「何がしかるべきだ! 虐殺がしかるべき処置だというのか!」 「私としては不本意でしたけどね。ですが当然の処置でしたよ。彼らは逃亡者なんです。  聖地を逃げ出し、自分たちだけの安住の地を求めた…ね。所有物のくせにね」 「所有物?」 「そう。彼らの体は全て王に必要な、大事な所有物なんですよ。それをわからないのです  から物として存在価値などない。使えなくなった道具は破棄。これは特別なことではな  いと思いますが」 ギリッとケインの歯軋りの音がなる。右手につかんだショートソードの柄がひどく締め付 けられる。 「ふざけるな! 一方的な支配で……命を奪うことが許されるか!」 左腕のことを気にせず、ケインは姿勢を低くし、ロキに襲い掛かる。だが、ケインの刃が ロキの体をすり抜ける。その瞬間ロキに姿がおぼろに消え、クライクの目の前に現れる。 「なっ……!」 驚くケインをよそにクライクを見るロキ。ロキから見てもクライクが助からない傷だとい うことがわかる。それでも王のため、抜こうとしたのか、ショートソードに手をかけた。 「がぁぁあぁあぁぁぁ!!!」 クライクの苦痛の声が室内を響く。こともあろうか、ロキはクライクの胸に突き刺さった ショートソードを奥深くまで突き刺した。その光景にケインは声を出す暇もなかった。 「ロ、ロキ…き、貴様ぁっ!」 締め付けるほどのクライクの殺気にひるむことなく、冷たい表情でクライクを見下ろすロ キ。その口端不気味につりあがっていた。 「初めからこのつもりだったのかっ!」 「やれやれ……」 ロキはクライクの言葉を気にせず、至極めんどくさそうに、床に落ちたゴッドブレイカー を軽々と拾い上げる。そして高く振り上げ……。 「あなたの役目は終わりました。今日のこの日までご苦労様でした。こうなることは彼が  覚醒したときからの定めでした。ですから安らかに…………眠るんだな」 振り下ろした……。 肩から胴へあっさりと断ち切られたクライクの体からは、あふれるほどの血が噴出した。 その返り血を浴びることを何にも思っていないのか、そのままたたずむロキ。 そして完全に生き絶えたクライクを一瞬見下ろした後、返り血で真っ赤になったロキは再 びケインの方を向いた。 「お待たせしました。邪魔者は消しましたので、じっくりと話をしましょうか」 変わらぬ笑みをケインに向けるロキ。そんなロキをケインは睨みつけた。 「貴様! 自分が何をやったかわかってるのか! 自国の王を殺すなどと!  貴様は一体何者だ!」 「あら? 先日もそうでしたが、本当に何も覚えてないのですね。  それでは教えてあげますよ。  ケイン・セイガード。いや、ルシェイフ・ユーディス。あなたは私達の王なんですよ」 「なっ!?」 クライクの時に続き、またも絶句するケイン。 「なんだそれは。最近の流行か?」 非常に困った顔をするケイン。確かに突然王といわれれば誰でも戸惑う。 「俺はケイン・セイガードだ。少なくともクライクの息子だった。それとも捨て子だった  とでもいうのか?」 「本当に何も覚えてないんですね。まあ仕方ないことですが。」 「クライクにもそういって垂らしこんだのか?」 「まさか。彼は私が目的を達成するために呼んだただの隠れ蓑ですよ。本当に探したかっ  たのはあなたです」 「何のためにだ?」 「今も言いましたけど、あなたは私たちドゥーノの王なんですよ。憎きウープを滅ぼすた  めに、今一度あなたに立ち上がってほしいのです」 「ドゥーノ? ウープ? いつの時代の国だ。少なくとも俺の生きている間にそんな国はない」 現在存在する国は、グラジア、ミナレイン、レード、ラ=クルス、ミランドルの五カ国で ある。ケインの言う通り、セミクラを初め、現在滅ぼされた、もしくは吸収された国を過 去にさかのぼってもそのような名前は存在しない。 「それはそうです。『この地に写る物が全てではないのです。』  だからあなたは私と一緒にきて頂く必要があるんですよ」 「断る。俺の大切な仲間を奪った奴についていくつもりはない。  それにお前の言う王とは人違いだ。他を当たれ」 「そうですか。残念です。まあこれ以降もまたお呼びに来ますので考えていてください」 「何度来ても同じだ。ついていくつもりはない」 「まあいいです。今回は引き下がります。あとこの男は私が連れて行きます。安心して下  さい。きちんと手厚く葬ってあげますよ」 そういってロキはすでに絶命しているクライクを苦もなく抱えあげた。クライクの体重は 100Kgにはなるはずだが、それを軽軽しくもつロキに、ケインは驚嘆した。 「あ、そうそう。ファシーという子がいましたよね。あの子もあなたと同じような子です。  まったく立場は違いますけどね。それではまたいつか……」 「な!? お、おい待て!」 ケインの静止も聞かず、ロキは虚空に消えていった。静かになった部屋に一人たたずむケ イン。その顔は困惑でいっぱいだった。 「ファシーも同じ? 俺は…俺は本当はに俺なのか……?」 --- レード最下層コントロールルーム --- 「全くよくこんなことができたわね」 「まあな。脳ある鷹は爪隠すとかいうだろ。そんなもんだ」 椅子に座って背伸びをしているカリスに、フェンリースは驚嘆する。 「一体どこでそんなやり方覚えたのよ」 「まあ気にするな。とりあえずリバース砲は停止して、エクスカリバーの主砲も飛んでこ  なかったし、どうやら外の騒ぎも一段楽したことだし一件落着でいいんじゃないか?」 「そりゃそうだけど……」 顔色のさえないフェンリース。努力の甲斐あってリバース砲は停止した。しかしフェンリ  ースにはその停止の仕方が疑問に思っていた。 「リース、今はどうやって止めたかは問題にする必要はない。やらねばならない事はやっ  た。今はそれでいいだろう」 後からレヴァルスがフェンリースをなだめる。納得のいかないフェンリースだったが、 確かにここは引き上げた方がいいため、しぶしぶ納得する。 「まあ気にするな。いずれ教えてやるよ。知りたいことなんでもな」 「うん……」 このカリスの言う『知りたいこと』というのが、後々フェンリースを必要以上に驚愕させ るとは全く思わなかった。 「それにしてもケインの奴はどうなってるかな。返り討ちになってなけりゃいいがな」 あはは、と楽しそうに笑うカリス。 「さーて…お前らは裏に来てるエクスカリバーに乗ってひとまずミランドルに帰れ」 「え、ケインは?」 「まあ無事だろうがそこらでへばってるだろうから俺がつれて帰るさ」 「で、でも…」 「今は帰れ。どうせこの先忙しくなる。レードの復興やその他調書とかの事後処理が山済  みだ。当然お前らも作戦に、特に大事なのをクリアしたんだ。それなりの仕事もしなけ  りゃならん。今は休めるときだ。これを逃すと一年は休めはしないぜ」 驚かすようにファシー達を見つめるカリス。それに納得したのかわからないが、おとなし く立ち上がるフェンリース。そして、改めてシステムをシャットダウンし、コントロール ルームを出た。 ---最上階へ続くエレベータの前--- 「それじゃあ俺はあのバカを迎えに行く。ゆっくり散歩でもしながら帰るといい。  リースもファシーも今回はよくやったな。お疲れさん。それじゃあな」 扉が閉まり、エレベータは上へとあがっていった。 エレベータがあがっていきく階層表示をしばらく見つめているファシーとフェンリース。 そんな彼女らをレヴァルスは軽く肩をたたき歩くように促し、二人は歩き出した。 一人エレベータの中で一人暗い顔をしたカリスがいる。両目は伏せて何かをじっと待って いるような感じているような、そんな雰囲気だった。 カリスが目を開ける。階層表示ランプは最上階をさしていた。チンッ、と到着を知らせる 音が鳴り、ドアが開く。そして誰もいない通路を一人歩いた。 物音一つしない本当に静かだった。しいて言えば歩く自分の靴音だけ。それからもケイン とクライクとの戦いが終わっているのがわかった。どちらが勝っているかはカリスにはわ からない。ケインはクライクがいなくなったときから今までを手がけてきた。その能力は 何人にも劣っていないと自負している。だがクライク自身をその眼に見てきている。クラ イクの能力がどれほどのものかを一番身近に見てきたのは自分自身だった。 「ん? この匂いは……」 そう考えていると、ふと鼻に血の匂いが巻きついてきた。それがケインのものかクライク のものかはわからない。ただ、完全に決着がついたことだけはわかった。 カリスは目の前の扉をじっと見た。中に人の気配がする。その気配も弱弱しく感じた。 カリスはゆっくりと扉を開けた。 静かな部屋でまず初めに目が行ったのは玉座にできた血の泉だった。まだ血は固まってお らず、血は玉座の下まで流れている。しかしカリスはその姿に違和感を覚えた。その出血 の元となっている物がなかったからだ。 クライクの体はロキがどこかへ連れて行ったのだから、いないのは当然だが。 「何しに来た……」 だがその違和感を深く感じる前に声がかかった。扉を閉じるとその裏から左腕を抑え、顔 色の悪いケインの姿があった。ケインの体の下にはクライクと同様に多量の血があった。 「生きてるか?」 カリスは瀕死の重症の人間にかけるとは思えないほど冷淡に言った。 「とりあえずはな……」 「腕でもやられたか?」 カリスは抑えているケインの左腕を見る。流れている血の量にしては出血がすでに止まっ ているようにも見える。 「あぁ。あいつは…ブルックスは強かった……」 「そうか……。感動の対面…にはならなかったみたいだな」 「なるかよ……」 カリスはケインに歩み寄る。 「腕、見せて見ろ」 傷の応急処置をしようとしたが、ケインはそれを拒む。カリスはしょうがない奴だ、と言 いながら強引に腕を取った。ケインは一瞬苦痛の表情を浮かべたが、またいつもの冷静な 表情に戻った。 深く傷ついている、そう思ったカリスだったが実際傷をみて驚嘆した。おそらく出血の原 因であろうその傷は、ほとんどふさがりかけていた。 「お、お前……」 さらに思った。流れている血液の量は少なく見ても三リットルは越えている。これだけの 量の血液を流してしまえば、必要な血液が足りず、ショック死してもおかしくはない。に もかかわらずケインの顔色は悪いとはいえ、それほどの危機的状況には見えなかった。 「不思議だろ。まさかこんな感じなるとは思いもしなかったさ……」 (まさかこいつ……) 先ほどケインがかたくなに左腕を隠そうとしたのは、この異様な光景を見せたくなかった からかもしれない。 「ロキ…。奴が来たのか?」 「ああ。クライクにとどめを差し、よくわからんことを言ってどこかいきやがった」 「よくわからんこと?」 「ああ。マリン村の住人は殺されて当然だとか、ウープ、ドゥーノとかな」 「……」 「あと俺の本当の名前や、王とか言ってたな……。笑い話にもならないな」 カリスは何も言わなかった。いや、何も言えるはずがなかった。 「そして……見ただろ、俺の腕。腕がちぎれるほどの傷だったんだぜ。それが……」 「もういい、しゃべるな」 「………カリス。俺は……一体だれなんだ?」 「……しゃべるなと言っているだろう。……ケイン。お前はお前だ。別の誰かなんかじゃ ない。あいつの言ったことは忘れろ……」 ケインはそのまま口を開くことはなかった。カリスはケインを抱えあげ、玉座のクライク を一瞥し、そのまま部屋を後にした。 そして、そのままケインを停泊中のエクスカリバーに運び、長いようで短いレード侵攻は 幕を閉じた。 この日を境に、ケインはほぼ誰とも合わなくなり、一人でいる時間が多くなった………。